元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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 第二話、箒sideです。




今すべき事は

 「……なんだと?」

 

 箒からの質問に、亜道は目を鋭くした。

 

 「貴様……ワシ等提督の事を奴等化け物と同列に扱うというのか!?」

 「化け物を使役できるのは所詮化け物だけだ。力も持たぬただの一般人が化け物を支配・使役する事など不可能だろうに。貴様が言うように艦娘が化け物ならば、必然的に化け物を使役できる貴様ら提督もまた化け物という事になるぞ?」

 「ワシ等提督は人間だ、化け物ではないわ!力も持たぬただの人間だぞ!」

 「力ならあるだろう、艦娘を思うままに使役できる、という力がな。まぁ所詮後付けの力だが」

 「屁理屈を……!」

 「あぁ、屁理屈だな。だが事実だ」

 

 箒は更に踏み込んで言う。

 

 「お前は一つ勘違いをしている。お前は先程『自分達が艦娘を使ってやってる』と言ったな?訂正してやろう、『自分達は艦娘にこき使われている』とな」

 「なんだそれは……!?ワシ等があの化け物共より劣っていると言いたいのか!?」

 「劣っているではないか。深海棲艦を倒すだけの力もなく、艦娘達の力を借りなければどうにもならない程の雑魚だ。しかもその艦娘にも力で勝てないのだぞ?劣っていると言われて当然だろう」

 「貴様……!海軍と海軍に仕える提督全員を侮辱しているのか!?」

 「侮辱?何を馬鹿な。貴様のような勘違いをしている馬鹿がいるから、海軍も提督も馬鹿にされるのだ」

 「グググ……貴様ぁ!!」

 

 亜道は遂に我慢ならなくなったのか、執務机から拳銃を出して箒に向けた。

 

 「今の言葉を訂正しろ!そして土下座して謝罪しろ!」

 「まったく……口では勝てないと分かれば、次はそれか。つくづく愚か者だな、貴様は」

 「愚か者は貴様の方だ!海軍と提督を堂々と

馬鹿にしおって……!逆らったらどうなるか、思い知らせてやる!」

 

 箒は呆れた表情を見せたまま、亜道が何をしようとしているのか観察し始めた。

 

 「動くなよ!動けば貴様はこの拳銃で死ぬ事になる!死にたくなければ無駄な抵抗は止める事だな!」

 「……それだけか?」

 「ふん、随分と余裕だな……その余裕がいつまでもつかな?」

 

 亜道は意味深な含み笑いを見せる。

 

 「何が言いたい?」

 「ふん、分からぬならば教えてやろう。貴様に出した紅茶にはな、痺れ薬を混ぜていたのよ!いずれすぐに貴様の体は痺れて動けなくなる!その時こそ、貴様は後悔する時よ!ワーッハッハッハッハ!」

 

 亜道は勝ち誇った笑い声をあげる。が、箒の表情に絶望や恐怖はない。それにイラついたのか、亜道は拳銃を向けたまま箒に近寄る。

 

 「……貴様、随分と余裕綽々な表情だな。死ぬのが怖くないのか?」

 「怖いとも。誰だって死ぬ事に恐怖くらいはするものだ」

 「ならば何故そのように余裕を見せられるのだ?」

 「教えてやろうか?」

 

 そう言うと、箒は亜道の拳銃を持った腕を掴むと、そのまま自身が座っていたソファに引き倒し、亜道にのし掛かった。更に拳銃を奪い取って亜道の頭に押し付けた。

 

 「ば、馬鹿な……!貴様、痺れ薬入りの紅茶を飲んで、何故普通に動ける……!?」

 「あの程度の痺れ薬など私に効くものか、馬鹿め。それに痺れ薬の存在など最初から気づいていたわ」

 「な……!?」

 「貴様が私を見る目は、はっきり言って下品極まりなかった。故に、何か不都合が起こった時の為に手を打つだろうと予想していたが……ここまで雑な策とはな」

 

 箒は呆れながら亜道の首根っこを掴み、執務室のドアに叩きつけた。そして拳銃を亜道に向けた。亜道に向けたその目は侮蔑と怒りに満ちていた。

 

 「今度は私の番だ……今すぐここから消え失せろ。さもなくば、貴様は永遠の眠りにつく事になる」

 「ひ……!」

 「三秒待ってやる。失せろ。はっきり言って貴様は目障りだ……今すぐ消えろ!!」

 「ひ……ひいいいいいいい!!」

 

 亜道は泣きわめきながら執務室を飛び出していった。箒にビビって漏らしてしまったのか、床はびちゃびちゃに濡れていた。

 

 「愚か者め」

 

 箒はそう言い捨てて拳銃を元の場所に戻し、改めてソファに座り直す。そして「はぁ……」とため息をこぼした。

 

 「やってしまった……つい出来心とは言え、ここの提督を追い出してしまった……私の馬鹿!」

 

 よくある『よく考えず行動してから後悔する』パターンである。箒は心中「どうしたものか……」と頭を抱えた。

 

 「……取り敢えず掃除か」

 

 心を落ち着かせる為、箒は取り敢えず掃除をする事にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして掃除する事十分、執務室はすっかり綺麗になった。

 

 「勢い余って部屋全部掃除してしまったな……まぁ元々汚かったから良いか」

 

 ソファで一息ついていると、ふと執務室の机に箒の目がいった。そこには大量の妖精達が机の上から箒を観察していた。

 

 「……どうかしたのか?」

 

 箒が妖精達に問い掛けると、妖精達はふよふよと箒の近くまで寄ってきた。そして彼女の目の前に整列した。ざっと五十人はいるだろうか。

 

 「アナタガアタラシイテイトクサン?」

 

 その中から作業服を着た妖精が進み出て箒に聞いてきた。

 

 「いや、そういう訳ではないが……」

 「デモボクタチノコトガミエテルンダヨネ?」

 「まあな。こうやって話も出来るし」

 「ジャアアタラシイテイトクサンデマチガイナイネ!ミンナ,コノヒトガアタラシイテイトクサンダヨ!」

 『(ノ≧∀≦)ノ』ワーイ

 (えぇ……)

 

 唐突に提督認定され困惑する箒。が、妖精達はそんな事露知らず、喜びの舞をしている。

 

 「テナワケデナニカメイレイシテ!」

 「う……」

 

 妖精達から好奇と期待の目線を向けられ、箒は困惑を更に深めていく。

 

 (命令と言われてもな、具体的に何を命じれば良いのかさっぱり……だがこの目線に耐えるのは……)ウーン

 

 少し考えて、箒は「よし」と決心して言った。

 

 「……取り敢えず、鎮守府を全体的に掃除してくれないか?ここもそうだったが、だいぶ汚く感じたからな。それと、誰か五十鈴か響あたりをここに呼んで来てほしい」

 「リョウカーイ!サァミンナ,シゴトダシゴトダ!」

 『オー!』

 

 妖精達は箒の命令を受けて次々と執務室を飛び出していく。と、先程の妖精が立ち止まって言った。

 

 「ホウシュウハナニカアマイモノデオネガイネ!」

 

 そう箒に言うと、妖精Aも出ていった。妖精達がいなくなり、箒はまたため息をこぼした。

 

 「私は単に牙也を探しに行きたかったのだが……どうしてこうなった……?」

 

 完全に自分のせいである。

 

 「はぁ……取り敢えず甘い物、か。チョコレートとかで大丈夫だろうか?」

 

 何処かに買いに行こうかと箒が立ち上がると、頭上からクラックが開く音がした。顔をあげると、天井に小さめのクラックが開き、そこから何かが投下された。箒がキャッチすると、落ちてきたそれは板チョコと金平糖だった。

 

 「随分とまぁ都合良く……ありがたく使わせてもらうがな」

 

 箒はそれらを机に置いておき、誰かが執務室に来るのを大人しく待つ事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 待つ事数分ーー

 

 「箒さん、響だよ。入って良いかい?」コンコン

 「来たか。入って良いぞ」

 

 執務室にやって来たのは響の方だった。

 

 「五十鈴はドックか?」

 「うん。代わりに私が来たんだけど……それで、何かご用かな?」

 「あー、実はな……」

 

 箒はこの短い時間で何が起こったのかを響に話した。

 

 「なるほど、それでさっき司令官が泣きわめきながら鎮守府を逃げ出してたんだ……」

 「本当はこんなつもりではなかったのだがな。が、やってしまった物はどうにもならん……それでどうしたものかとな」

 「妖精さん達から聞いたよ、新しい司令官としてここに着任するんだって?」

 「そうと決めた訳ではないのだが……」

 「でももう決まっちゃってるみたいだよ?さっき妖精さん達が申請書を大本営に提出しに行ってたし」

 「仕事が早過ぎないか!?というかそんな事して大丈夫なのか!?」

 「問題ないよ。だってあの司令官は近い内にここから別の鎮守府に移る事が決まってたみたいなんだ」

 「なんでそんな機密を知ってるんだ……」

 「秘書艦してたからね」

 

 響は執務机の書類の束から一枚の書類を引っ張り出して箒に見せた。それは亜道の異動に関する内容を記した書類だった。

 

 「それに大本営は、貴女みたいな妖精の見える人を長らく探し続けてるんだ。多分ここから逃げ出しても、威信を賭けて探し続けると思うよ」

 「どういう事だ?」

 

 箒が聞くと、響の表情は暗くなった。

 

 「……最近、各地に着任させる司令官の質の低下が問題視されていてね。今着任している司令官のほぼ全員は、妖精が見えない軍人ばかりなんだ。後は妖精の見える一部の軍人と、同じように妖精が見えるだけの一般人なのさ。ちなみにあの司令官は一般から提督になったボンボンだよ」

 「堂々とボンボン呼ばわりするか……というかそれ、色々と不味くないか?」

 「不味いなんてもんじゃないよ。私達艦娘は妖精との繋がりーーコミュニケーションが不可欠。勿論司令官もね。けど、妖精が見えないとコミュニケーションが取れないから、任務や戦闘に少なからず影響が現れるんだよ」

 「軍のいろはを知るが妖精と話せぬ軍人と、軍のいろはを知らぬが妖精と話せる一般人が提督として深海棲艦に立ち向かう……この世界、本当に大丈夫なのか?」

 「深海棲艦との戦いが始まってもう十年以上になるけど、はっきり言ってしまえば……全然大丈夫じゃない」

 

 響の表情は曇っていた。

 

 「提督の数を補う為に、大本営が妖精の見える一般人を提督としての教育課程をすっ飛ばして次々各地に着任させたものだから、何処も深海棲艦とまともに戦える状況じゃなくて、各地の戦線は崩壊寸前なんだ。ショートランド近辺、トラック諸島等、主要な泊地は既に壊滅してしまって、このままじゃ本土も危ういよ」

 「げ……」

 「しかも、大本営でも内輪揉めが起きてて……」

 「内輪揉め?」

 「簡単に言えば、戦力の分散だよ」

 

 響の表情は更に曇る。

 

 「今日本にある四大鎮守府ーー横須賀・舞鶴・呉・佐世保。ここに着任してる歴戦の艦娘達を各地に分散させて、戦線維持に務めようって案が元帥から出てるんだけど……四大鎮守府全部がそれに反対しててね」

 「何故だ?歴戦と言うのだから相応の実力はあるのだろう?戦線維持が目的なら、何の問題もないと思うが」

 「『彼女達はこの日本本土を守る最終兵器。易々と前線に出す訳にはいかない』ってさ。他の鎮守府のほとんどもそれに反対してて、思うように進んでないのが実情だよ」

 「……国の存亡に関わる時に、戦力の出し渋りとは。何を考えているのか……」

 「しかも更に厄介なのが、四大鎮守府の艦娘達もその案に反対してるんだよ」

 「艦娘もか!?」

 

 思っても見なかった事に、箒は思わず声を張り上げてしまった。

 

 「同じような理由を付けて、自分達から進んで前線に出撃しようとしないんだ……お陰で前線で戦ってるのは、私達みたいな新人ばかり。それで士気が、戦果が上がると思うかい、箒さん?」

 「上がるものか!まったく、奴等はどこまで盲目なのだ……!これでは滅びを待つのと同義ではないか……!」バンッ

 

 箒は怒りのあまり机に拳を打ち付けた。響もまた悲しそうな表情を見せる。するとその時、けたたましくサイレンが鳴り響いた。

 

 『緊急放送、緊急放送!鎮守府近海に深海棲艦の群れが接近!戦闘可能な艦娘はすぐに出撃せよ!繰り返す、戦闘可能な艦娘はすぐに艤装を付けて出撃せよ!』

 

 「なんだって!?戦力が少なくなってるこんな時に……!」

 「響、今戦える艦娘はどれだけいる?」

 「それが……私と五十鈴さんだけだ」

 「二人だけなのか!?さっきドックに運んだ四人はともかく、他にはいないのか!?」

 「後の皆は長期遠征に行ってるか、修理や出向と言った目的でここを離れてる。今から帰投しても、確実に間に合わないよ」

 「他の鎮守府からの援軍は!?」

 「……期待できない。近くの鎮守府も艦娘がカツカツ状態で、とても援軍を出せる余裕はないんだ」

 「そうか……」

 

 箒はため息をはくと、クラックを開いて中から双剣『ライムラッシュ』を取り出した。

 

 「……私が出る。響は五十鈴と共にここの守備を頼む」

 「一人で行くのかい!?無茶だ、私もーー」

 「お前達は帰投したばかりで体調は万全ではない。そんな状態で戦っても、足手まといになるだけだ」

 「足手まといって……」

 「心配するな。私は必ず生きて戻る、約束だ」

 

 箒はそう言って響の頭を帽子の上から軽く撫でてあげると、執務室の窓から飛び降りてそのまま海へと走り出す。そして堤防から海面に着地すると、沖合いへと駆けていった。響はそれを心配そうに見送る。

 

 「響、敵が攻めてきたわ!私達も出撃をーー響?」

 

 そこへ五十鈴が駆け込んできた。五十鈴は響の様子がおかしい事にすぐ気づいたが、響は「分かってる」と言うと艤装装着の為五十鈴と共に工廠に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 「えっ!?箒さんが一人で!?」

 

 工廠に着いてすぐ艤装を装着した五十鈴は、響から事情を聞いて酷く驚いた。

 

 「箒さんから私達にここを守るよう言われたけど……心配だから私も箒さんの後を追いかけようと思うんだ。どうかな?」

 「うーん……でも鎮守府を守る人が五十鈴以外にいなくなるんじゃあねぇ……」

 「あ……そうか、そうだったよ」

 

 響は箒の言った事の真意をようやく理解した。

 

 「信じて待つのが良、かしら……心配だけどね」

 「そう、だね。心配だけど」

 

 二人はいの一番に駆けていった箒の無事を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鎮守府から十数キロの沖合い。箒は双剣を構えて佇んでいた。その目線の先には、100を優に越える数の深海棲艦が見え始めていた。

 

 「……来たか」

 

 箒は双剣を構え直し、数多の敵を見据える。と、先頭を進んでいた敵駆逐艦が砲撃を仕掛けてきた。それを皮切りに、他の深海棲艦も次々と砲撃・雷撃を仕掛けてきた。

 

 「さぁ……殲滅の時間だ」

 

 箒はオッドアイを蒼と薄緑にそれぞれ光らせ、深海棲艦の群れに突撃した。

 

 

 

 

 

 その時、確かに海は突風と共に震撼したーー。

 

 

 




 いかがでしょうか?

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