元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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 第一話、こちらは牙也視点より。



牙也ノ章 純黒を照らす純白
新たな出会い


 「ほいさ」

 

 バシャリ、という水飛沫と共に、海上に開かれたクラックから青年が現れた。漆黒の袴に紫の軽装の鎧に身を包むこの青年こそ、かの『篠ノ之牙也』である。

 

 「さて、どんな世界なのか楽しみだな、なぁ箒ーー箒?」

 

 言いながら振り向くも、牙也の周りには誰一人としていない。さっきまで開いていたクラックも、既に閉じてしまっていた。

 

 「あれぇ?おっかしいな、一緒にクラックに入った筈なのに……もしかして分断されたか?」

 

 少し考えて、牙也はその結論に達した。そして牙也は少し神経を集中させる。が、すぐに集中を切った。

 

 「駄目だ、念話が通じやしない。箒は別世界に飛ばされたか、それともこの世界のだいぶ距離のある場所に降りたか、だな」

 

 牙也は機嫌悪く頭を掻く。普段から共に行動する相棒であり、なおかつ大事な妻でもある箒がいない事に、牙也はやや不安を覚えた。

 

 「悩んでても仕方ない、とにかく陸地を目指すか。陸地の場所さえ分かれば、その後の動きも考えやすい」

 

 牙也はそう決めて海に右手をつけ、波紋を起こす。と、その波紋は通常とは比べ物にならないくらいの速度で広がっていった。そして牙也は再び神経を集中させる。

 

 「……ん?僅かだが、何か反応が返ってきた。これは、人か?海上に人……もしかして『あれ』か?」

 

 思い当たる可能性を見出だした牙也は、急ぎその反応があった方向へ向け海面を走り出した。

 

 

 

 

 

 

 かつては専用の装備が無ければ走れなかった海上を、まるでそこが陸地であるかのように走る牙也。そうして走る事数分、牙也の視界に何かが見えてきた。

 

 「!やっぱり『艦娘』だ。て事はここはあいつのーーいや、そうとは限らないか」

 

 牙也の前には、艦娘と思われる女性達が見えていた。見ると、巨大な尻尾型の艤装をつけ、体をフード付きコートが覆う何かと戦っているようだ。戦っているのは二人。一人は戦艦と思われる巨大な艤装、もう一人は板のような物がついた艤装を身に付けていた。空母だろうか。

 

 「俺も見た事ない艦娘と深海棲艦だな……ん?」

 

 見ると深海棲艦と戦う二人の艦娘の後方には、また別の艦娘が四人いた。背丈と艤装から察するに、駆逐艦と思われるのが二人、軽巡洋艦と思われるのが一人、空母と思われるのが一人だ。見ると駆逐艦と軽巡洋艦は大破しているのか艤装も服もボロボロだ。しかも駆逐艦の二人は気を失っているのか、空母の艦娘に抱きかかえられている状態だ。

 

 「ちっ、艦娘の方が劣勢か。これは加勢しないとな」

 

 牙也は彼女達が戦っている場所まで一気に走り寄り、

 

 「そおいっ!」

 

 そして深海棲艦を力一杯殴り飛ばした。深海棲艦は「ブゲッ!?」と変な声をあげて海面を派手に転がっていく。がしかしなんとか態勢を立て直して海面に着地した。

 

 「……随分楽しそうじゃないか。次は俺が相手だ」

 

 牙也は背中に背負った薙刀『紫炎』を抜くと、その切っ先を深海棲艦に向けて構えた。

 

 「オ前、誰ダ?……マァナンデモ良イヤ、楽シメレバネ!」

 

 その深海棲艦は狂喜して牙也に向かってきた。しかし牙也の表情に恐れはない。

 

 「……フッ!」

 

 襲い掛かってきた深海棲艦の顔面を鷲掴みにすると、海面に叩きつけた。そしてその頭を思い切り踏みつける。

 

 「ボゲラッ!?」

 

 また変な声をあげて悶絶する深海棲艦を鷲掴みして引き起こすと、

 

 「そおいっ!」

 「ビャアアアアアアア!?」

 

 牙也は掴んだそれを後方へ思い切り放り投げた。深海棲艦は奇怪な断末魔をあげてはるか彼方へ飛んでいく。それを見やり、牙也は「ふう」と息をはいて紫炎を背中に背負い直す。そして蚊帳の外状態だった二人の艦娘に近寄った。見ると二人の艦娘はどちらも顔や髪が日本人のそれではなかった。別の国の艦娘のようだ。

 

 「あー……Are you all right?……で良いのかな……?」

 「えっと……No problem。ところで貴方は誰?」

 

 空母と思われる艦娘にそう聞かれ、牙也は少し考えた。英語は通じるから、恐らくアメリカの艦娘だろうと考えはしたが、実は牙也は英語が苦手なのだ。どう表現したものか、と思案していたのだ。

 

 「んー……異形……あー、Variant、かな?」

 

 牙也はたどたどしい英語でそう答えるしかなかった。

 

 「Variant?……デモ、あれの仲間って訳じゃないわよね……?」

 「さっき盛大に放り投げたし……違うと思うわよ?」

 (危ねぇ、加勢してなかったら同類認定されてたのか)

 

 思わぬ事に冷や汗を流す牙也。

 

 「あー……まぁとにかくThanks、助かったわ。あぁ、MeはIowa Class戦艦一番艦の『Iowa』ヨ、よろしく」

 「Essex Class航空母艦五番艦『Intrepid』よ、よろしくね」

 「……牙也だ、篠ノ之牙也。よろしく。ところであっちは大丈夫なのか?」

 

 牙也はそう言って三人から少し離れた所にいる駆逐艦達を指差す。

 

 「いけない!早く鎮守府に連れて帰らなきゃいけないんだったわ!ピッド、鎮守府に連絡を入れて!」

 「OK!」

 

 二人は鎮守府に戻る為急いでそれぞれやるべき事を行動に移す。牙也もまた駆逐艦達を心配してか、四人の状態を確認に近寄っていく。と、軽巡洋艦と思われる艦娘がボロボロの艤装を構えてきた。どうやら敵と思われたようだ。

 

 「Hey、アトランタ!その人はEnemyじゃないわ!Me達を助けてくれたのよ!」

 「ふーん、この人が……へぇ……」

 

 アトランタと呼ばれたその艦娘は、牙也をジロジロと観察する。隣にいた空母の艦娘も、つられて牙也を観察していた。

 

 「ホーネット、どう思う?」

 「うーん……なんか胡散臭いけど、アイオワ達を助けてくれたのは事実みたいだし……信じても良いんじゃないかしら」

 (胡散臭いて……いやそうかもしれないけど)

 

 箒が聴いたら容赦なく袋叩きにしそうな言葉に頭を抱えながらも、牙也はこの二人がひとまず無事である事を確認した。

 

 「悪かったな、胡散臭くて。それよりちょっと見させてもらうぞ、そこの二人を」

 

 牙也はそう言って、ホーネットと呼ばれた空母が抱きかかえている駆逐艦達に軽く触れた。

 

 「何をするつもり?」

 「悪いようにはしない、まぁ見てろ」

 

 ホーネットが怪しむのを受け流し、牙也は触れた状態から印を結んだ。と、その二人が淡い光に包まれていく。数秒の輝きの後、牙也が触れるのを止めると、二人の傷は多少だが塞がっていた。

 

 「気休め程度の治癒法だ。後はドックでしっかり休ませれば大丈夫だろ。お前等にもこの法かけておくか」

 「いらないよ、この程度なら……」

 「アホ。分かってんだぞ、左足庇ってんの」

 「う……」

 

 牙也に指摘され、アトランタは口ごもる。「やれやれ」と呆れながらも牙也は先程の治癒法をアトランタとホーネットにかけてあげた。二人の傷も、ある程度塞がっていく。

 

 「……Thank you」

 「You're welcome」

 「それにしても、本当にYouは何者なの?」

 「言ったろ、異形ーーVariantだって。さて、後は援軍を待つばかりか」

 「Hey、皆!鎮守府と連絡が取れたわ、後少しで到着するって!」

 

 そこへ鎮守府に連絡を入れていたイントレピッドが駆けてきた。安全を確保出来そうなのか、その表情は安堵が見てとれる。

 

 「そいつは良かった、後は合流するだけdーー危ねぇっ!!」

 「ひゃっ!?」

 

 突如牙也は左手から蔦を伸ばして駆けてきたイントレピッドを引き寄せた。そして彼女を守るように抱き締め、自らはその体で盾となる。と、さっきまでイントレピッドがいた場所が大爆発を起こした。大きな爆風が牙也達を襲う。アイオワは自身の艤装で、駆逐艦達はアトランタとホーネットが盾となって爆風に耐えきった。

 

 「アハハ……逃ガサナイヨォ……ソコノ人間……!」

 

 その声に牙也達が爆風の起こった方向を見ると、さっき牙也が放り投げたあの深海棲艦が尻尾の艤装を向けて立っていた。

 

 「What!?あのレ級、もう戻ってきたの!?」

 「ちっ!アイオワ、イントレピッド!あの四人連れて急いでここを離れろ!奴は俺が引き受ける!」

 「それは構わないけど……You一人で大丈夫?」

 「あいつの狙いは今、お前等から俺に変わってる。俺が相手しておけば、お前等が逃げる事も容易いだろ。心配すんな、ここでくたばる気は毛頭ないからな」

 「OK、分かったわ……ピッド、早くしなさい!」

 「……」ポー

 「早く戻ってこい!」ビシッ

 「Ouch!」

 

 牙也の腕の中でトリップ状態だったイントレピッドは、牙也のデコピンで我に返った。

 

 「ほへ?えっと、私……」

 「駄目だ、聞いてなかったよこいつ……アイオワ、パス!」

 「Thank You!皆、急いでここを離れるわよ!Meについて来て!」

 

 牙也はイントレピッドを蔦を使ってアイオワに引き渡した。彼女を受け取り、アイオワが先頭となって六人はその場を撤退していく。それを見送り、牙也はアイオワが『レ級』と言っていた深海棲艦を見据える。

 

 「アハハ!アタシヲ放リ投ゲルナンテ、凄イネェ!デモ、オ前ジャアタシニハ勝テナイヨ!」

 

 レ級は魚雷を投げ、砲を撃ちまくりながら牙也に突進してきた。更に艦載機を飛ばし、牙也を完全に包囲した。そしてレ級の合図で艦載機が一斉に魚雷や爆弾を落として攻撃してきた。砲弾や魚雷、爆弾が次々と牙也目掛けて着弾する。あまりの攻撃の激しさに、その場は濃い爆風で覆い尽くされた。そして全ての砲弾や魚雷、爆弾が着弾したところで、レ級は一気に距離を詰めて爆風の晴れぬ中、牙也に襲い掛かった。

 

 

 

 

 「ほざけ。勝てないのはお前だ……」

 

 

 

 

 レ級が飛び掛かった爆風の中に既に牙也はおらず、レ級の突撃は不発となった。そして声がしたと思うと、

 

 「アレ?」

 

 レ級の尻尾の艤装が本体と分断され、海面にバシャリと音を立てて落ちる。切り落とされた部分からは、真っ黒い血がボタボタと流れ出てきた。何が起こったのか分からぬまま、レ級は海面に倒れ伏した。倒れる瞬間、レ級は自身の後方に目をやる。そこには、二本の撃剣を握った無傷状態の牙也の姿があった。牙也は撃剣に付いた血を払い、それをクラック内にしまう。

 

 「……お前が俺と対等になる事は、ない。尻尾巻いて、さっさと逃げる事だな」

 

 牙也はそう言うと、レ級に止めを刺す事なくアイオワ達を追い掛けていった。

 

 

 

 

 

 

 「……」

 

 海面に倒れたまま、レ級は考えていた。

 

 (……強カッタ、アイツ)

 

 今まで自分を相手に単騎で戦える者などいなかった。いたとすればせいぜい、深海棲艦の姫級や鬼級くらいだった。自分相手に勝てる奴など存在しないーー今までは、そう思っていた。しかしその考えは、たった一人の人間によって容易く打ち砕かれた。しかも少しのダメージも与えられぬまま敗北したばかりか、情けでもかけられたのか止めを刺される事もなくその場に放置された。

 

 (……悔シイ)

 

 レ級は思った。悔しい、悲しい、あんな奴に負けた自分が腹立たしい。そして同時に思った。

 

 (……アタシハ、アイツニ勝チタイ)

 

 レ級は痛みを堪えて立ち上がり、近くに落ちていた自身の尻尾の艤装を拾い上げる。

 

 (……一旦戻ッテ、修理カ)

 

 レ級はそう決めて、ズブズブと海へと沈んでいく。その瞳からは、漆黒の瘴気のようなものが溢れだし、その顔は狂気に支配されたように残酷な笑みが零れていた。

 

 (待ッテテネ……アタシノーー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 「出迎えThank you、サウスダコタ」

 

 一方先に撤退したアイオワ達は、鎮守府からの援軍と合流に成功していた。アイオワは援軍の旗艦である戦艦『サウスダコタ』と話している。

 

 「You're Welcome。それよりレ級が出たんだって?Admiral、珍しくだいぶ焦ってたぜ」

 「Yes。Operationが無事終わったから油断してたわ」

 「……あの人、大丈夫かしら……?」

 

 他の艦娘達が合流を喜ぶ中、イントレピッドだけは自分達が逃げてきた方角を向いて心配そうにしていた。

 

 「Hey、ピッド。どうしたの?」

 「Oh、サラ……あの人が無事かなって、思っちゃったのよ」

 「?」

 「ピッド、あの人って誰よ?誰かに会ったの?」

 「Yes。レ級と交戦してたMe達を助けてくれたのよ。今その人がレ級を引き付けてくれてるんだけど……」

 「おいおい、そりゃ無謀って物だろ。いくら強い艦娘でも、レ級相手に単騎ってのは……」

 「No、サウスダコタ。あの人は艦娘じゃない。あの人は自分の事をVariantと言っていたわ」

 「ヴァ、Variant!?」

 「……どういう事よ?」

 「会ってみれば分かるわよ、コロラド。会えればの話なんだけどーー」

 「あ、いたいた!おーいアイオワ、イントレピッド!大丈夫か?」

 

 とそこへ、牙也が海面を駆けてきた。信じられない光景に、サウスダコタ達は目が点になる。

 

 「Oh、キバヤ!良かった、無事だったのね!」

 「まあな。そっちも援軍と合流出来たようで何よりだ」

 「怪我は!?怪我してない!?どこか痛い所はない!?」

 「落ち着きなさい、ピッド。Thank youキバヤ、貴方のお陰で皆無事に帰る事ができるわ、本当にThank you very much」

 「礼を言われる事じゃねぇよ。で、こちらが援軍の艦娘か?」

 「Yes。左からサウスダコタ、サラトガ、コロラド、ガンビア・ベイよ。皆、こちらキバヤ・シノノノ。Me達を助けてくれたのはこの人よ」

 

 予想だにもしなかった事実や光景に、サウスダコタ達は困惑してばかり。

 

 「あー、積もる話もあるでしょうけど、取り敢えず鎮守府に戻りましょ?彼から話を聞くのはそれからよ」

 「オ、OK……」

 

 釈然としない表情をしながら、サウスダコタは先導して鎮守府へと舵を取る。他の艦娘達も同じように彼女について行き始めた。

 

 「さ、行きましょ。キバヤ、貴方には沢山お礼がしたいワ!」

 「別にお礼が欲しくて助けた訳じゃないんだがな……まぁついて行くか」

 

 牙也もまたイントレピッドに手を引かれながら後を追い掛けるのだった。

 

 

 

 

 




 牙也sideはこんな感じでした。

 艦これに限らず登場キャラの多い作品は口調や性格をうまく表現するのが難しい……頑張ります。


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