元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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 第九話、牙也sideになります。




ちょっとした小話

 「おーい、起きなさーい」

 

 独房の中で気持ちよく寝ていた牙也は、聞いた事のある声によって夢の世界から引き戻された。寝ぼけ眼で声のした方を見ると、独房の外にはハイリアともう一人、プラチナブロンド髪の艦娘が立っていた。ハイリアの両手にはお盆があり、何やら美味しそうな匂いがする。

 

 「食事を持ってきたわ。お腹空いたでしょ?」

 「ありがたい……ちょうど腹が減り始めたところだ」

 

 牙也は大あくびをしながら檻に近づく。そして檻に作られた専用の通し穴ごしにお盆を受け取った。お盆に乗っていたのは、ご飯に味噌汁、魚の照り焼きにお浸し。そのままそのお盆を床に置き、「いただきます」と小さく呟いてから食べ始める。

 

 「料理本やネットの見よう見まねだけど、和食を作ってみたわ。口に合うかしら?」

 「んー……旨い旨い。見よう見まねとは思えん出来映えだなぁ」

 「それはどうも」

 

 牙也はその後も黙々と料理を食べ進めていく。すると急に箸を止めてハイリアを見、更に隣に控える艦娘に目を向けた。

 

 「で?お隣の艦娘は何か用でもあるのか?さっきからこっちをジーッと見てるが」

 

 鋭い目付きでその艦娘を見る牙也。艦娘は一瞬ビクッと表情を強張らせたが、すぐに冷静な表情を見せた。

 

 「彼女はビスマルクと共に貴方に助けられた艦娘よ。貴方にお礼が言いたいんですって。ほら、リシュリュー」

 

 ブロンド髪の艦娘ーーリシュリューはハイリアに背中をポンと押されながら前に進み出る。

 

 「……Richelieu級戦艦一番艦『Richelieu』よ。感謝するわ、私達を助けてくれて」

 「あぁ、気にすんな。たまたま通りかかっただけだしな……それより体調は大丈夫なのか?」

 「ご覧の通り、ピンピンしてるわよ。戦艦の体力を嘗めないでもらいたいわ」

 「そりゃ良かった。あの後なんか不具合でも起きてんじゃねぇかと考えてたが、杞憂だったか」

 

 そう言って牙也は食事を再開する。その間ハイリアはリシュリューとコソコソ小声で話していた。

 

 「それよりamiral、本当なの?私達が気を失ってる間にまた別の騒ぎが起きてたそうじゃない……アークロイヤルから聞いたわ、変な機械人形が襲ってきたんですって?」

 「えぇ、本当よ。彼が対応してくれたから事なきを得たけど……そいつらのせいで、今後の活動が苦しくなるのは確定ね」

 「まったくもう……せっかくのリシュリュー達の晴れ舞台が台無しよ!絶対に許さないんだから……!」

 

 二人のそんな会話を、牙也は自身の聴力を飛躍的に上げて聞いていた。普通の人からすれば他愛のない会話だか、牙也にしてみればどんな会話も多少なりとも意味のある会話なのだ。こういう普段の会話から、利益になる情報や思わぬ事実が出てきたりする事もある。

 先ほど鎮守府の情報を引っ張り出して暗記した上でエジョムに指示を出していたように、牙也は何より情報を大事にしている。敵味方関わらずとにかく多くの情報が手元にあれば、それだけ打つ手段や使う方法が増える。未知の敵と戦う際も、牙也はとにかく少しでも多くの情報を集めるようにしている。それは全て、確実な勝利の為だ。

 

 「ご馳走さん。お盆返すぜ」

 

 そうこうしている間に牙也は出された食事を平らげ、料理の無くなった椀を乗せたお盆をハイリアに返却して。

 

 「はいどうも」

 「そう言えば、ビスマルクやリシュリュー以外の艦娘はまだ目覚めてないのか?」

 「いえ、もう何人かがさっき目を覚ましたわ。体調は問題なさそうだけど、しばらく様子見ってとこね」

 「まぁ妥当だろうな。あんな事があったばかりじゃなぁ……」

 

 「やれやれ」といった表情を見せる牙也に、ハイリアもまた困ったような笑みを見せて頷く。

 

 「ところでamiral?さっきからの話は全部機密に相当する筈よね……彼に話して大丈夫なのかしら?」

 「今さらよ。彼も今回の件に片足突っ込んじゃってるし……隠したところですぐバレるわ。どうせこっそりここを抜け出して情報収集するんでしょ」

 

 ハイリアは首を横に振って答える。その様子見に牙也は思わずクスクスと笑ってしまった。気づいたハイリアはムッとした表情になり、牙也に詰め寄る。

 

 「あら、私何か間違ってたかしら?」

 「いや失礼……会って一日と経ってないのによく分かったなと思い、な」

 「人を見る眼は肥えてるのよ、私。根っからそういう性格でしょ、貴方は」

 

 ハイリアの得意げな態度と口調に、牙也は思わず両手を上げて降参の意を示す。

 

 「お見事。よく見てるな」

 「伊達に提督やってないわよ、私」

 「その肥えた眼、スパイを見破るのに有効活用出来ていればなぁ」

 「ちょ、それは言わないお約束でしょ!」

 

 痛い所を突かれてムキになるハイリアと、ゲラゲラ笑う牙也。つい最近知り合ったばかりであるにも関わらず、長年の友のようなやり取りをする二人に、リシュリューも思わずクスクス笑いだした。

 

 「ちょ、リシュリューまで笑う事ないでしょ!?」

 「ごめんなさい、面白くてつい……」

 「もう!」

 「www」

 「貴方は爆笑し過ぎ!」

 

 思わずその場に和やかな雰囲気が流れる。と、誰かが階段を降りてくる足音が聞こえた。

 

 「admiral、ここにいたのか」

 「探したわよ~」

 

 現れたのは二人の艦娘。一人は純白ベースの軍服を着、淡い金髪ツインテールと武人を思わせる鋭い目付きが特徴の艦娘。もう一人は紺色のコートと青系ベースのスカートを着、紺色の髪と柔和な瞳が特徴の艦娘。後者は何故か頭に灰色の毛に黒い地肌の羊が乗っかっている。

 

 「あら、グラーフにゴトランド。どうかしたの?」

 「どうかしたのじゃない。admiralは何処に行ったと駆逐艦達やUボートが騒いでいる、早く戻ってあげてくれないか」

 「彼の見張りはゴト達がやっておくわ。リシュリュー、貴女ももう休んだら?一応病人みたいなものなんだし」

 「……そうね、そうするわ」

 「あーもー、また遊び相手にされるのね……分かった、すぐ戻るわよ。牙也、また明日以降貴方にも手伝ってもらうからね。今日はしっかり休むのよ」

 

 ハイリアとリシュリューはそう言って独房を去っていった。残った二人の内、グラーフと呼ばれた純白軍服の艦娘は独房の前に用意された椅子に足を組んで座り牙也を観察し始め、ゴトランドと呼ばれた紺色コートの艦娘は頭に乗せた羊を相手している。その様子に牙也は吹き出しそうな笑いを堪えていた。

 

 「……貴様、何がおかしい」

 

 気づいたのかグラーフが鋭い目付きを牙也に向ける。

 

 「あ、悪い悪い……頭に羊乗っけてるのが笑えてな……プフ」

 「あら、この子が気になるの?触ってみる?」

 

 ゴトランドは頭に乗せた羊をそっと床に下ろす。すると羊は檻の隙間を器用に潜り抜けて中に入り、牙也の側まで寄ってきた。そして牙也を見て「メェ~」と一鳴きすると、床に胡座をかいて座っていた牙也の両足の隙間にすっぽりと収まった。その様子に、今度はゴトランドが「プフッ」と吹き出す。

 

 「あらあら、ゴトシープったらそこが気に入っちゃったみたいね」

 「ゴトシープってのか、この羊。にしてもモッコモコだな~」

 「でしょ?ここの駆逐艦の娘達に人気なのよ、凄いでしょ?」

 

 ゴトランドは得意げな笑みを見せる。牙也はゴトシープのモッコモコな毛を堪能しており、ゴトシープも居心地が良いのかまた「メェ~」と一鳴き。なんとも妙な光景である。一方のグラーフはと言うと、

 

 「…ッッ!くく…ッ!」

 

 顔を反らして必死になって笑いを堪えていた。今の光景がそんなにツボったのだろうか。

 

 「おいこら何笑ってんだよ。しょうもない理由で笑ってんなら、この羊顔面に投げつけんぞ」

 「メェ!?」

 「ちょっと、止めて頂戴!投げるならせめてこっちのゴトシープ人形を!」

 「人形なら良いのかよ……おいちょっと待て、その人形どっから出した?」

 「え?それは勿論むn」

 「OK、それ以上は言うな」

 「……ッッ!!プフッ……!」

 

 グラーフはまだ笑いを堪えている。するとそれにイラッときたのか、牙也が檻の隙間から左手を伸ばしてゴトランドが持っていたゴトシープ人形を奪い取ると、必死に笑いを堪えているグラーフの頭目掛けて投げつけた。人形は豪速球で飛んでグラーフの側頭部に直撃し、足を組んで座っていたグラーフは椅子から転げ落ちてしまった。

 

 「メェ!メェ~!」

 「んぁ?何だよ、自分の仲間を投げるなって?大丈夫だって、ありゃただの人形なんだから」

 「メェ!メェ!」

 「それでも投げるなと?分かったよ、次回からは気を付けるからさ」

 「メェ~」

 

 そう言ってゴトシープを宥める牙也。ゴトシープは気が済んだのか、また檻の隙間を通って「フンスッ」とした表情でゴトランドの元へと戻った。ゴトランドはクスクス笑いながらゴトシープを持ち上げて頭の上に乗せた。あそこがゴトシープの定位置なのだろう。

 

 「貴様ぁ!私の側頭部に人形当てておいて謝罪の一つも無しか!?」

 「お前が陰でクスクス笑わなけりゃ投げなかったよ。ったく、不愉快だぜ」

 

 グラーフが復活して牙也に噛み付くが、牙也はそれをいなすような対応でグラーフを牽制する。その後も噛み付き続けるグラーフだが、牙也は「はいはい」とか「あーそう」とか無関心を貫いており蛙の面に水。最終的にグラーフが完全に折れてしまい、椅子に座り直して不貞腐れてしまった。

 

 「あらあら、グラーフったら拗ねちゃったわ。せっかく仲良くなれるチャンスだったのに……」

 「フン……こんな奴と仲良くなろうと誰が思うか」

 「もう……ごめんなさいね。グラーフはいつもはこんな感じじゃないんだけど……」

 「気にすんな。俺だってお前達と仲良くなる為にここに来た訳じゃない……単に目的があってここに来ただけだ」

 「目的?」

 

 ゴトランドが首を傾げたその時、彼女の足元の影がユラリと揺れ、そこから何かがヌッと現れた。

 

 「神王様。調査が済みましたのでご報告に」

 「うにゃっ!?」

 「な、何者だ貴様は!?」

 

 いきなり背後から現れた何かに、ゴトランドは驚いて後退りし、グラーフも慌てて立ち上がって腰から拳銃を抜いて構えた。

 

 「馬鹿かエフィンム。出る所間違ってんぞ」

 「おや?これは失礼致しました」

 

 現れた何かーーエフィンムは再び影に潜り、今度は牙也の背後から現れた。

 

 「お待たせ致しました、こちらが頼まれていた調査結果になります」

 

 そう言ってエフィンムは左手に抱えた大量の書類を挟んだファイルを牙也に手渡した。牙也はそれを受け取り、十秒程でその中身全てを瞬読した。

 

 「ご苦労様……と言いたいんだが、早すぎやしないか?」

 「調査対象が全員個人情報の管理が杜撰だったもので、予想していたよりも数十倍早く調査を進められました。あまりにも進み過ぎて、敵の罠を疑いましたが……調査の限りではそんな事はなかったようです」

 「ふーん……まぁ良い。とにかくご苦労だった、エフィンム」

 「はっ。それと王妃様の捜索の件なのですが……」

 

 そう言うとエフィンムは牙也に何か耳打ちをした。牙也はエフィンムの話を聞いて少し考えていたが、何を思い付いたのか今度は牙也がエフィンムに何か耳打ちをした。それを聞いたエフィンムは「畏まりました」と言うとまた影に潜り込むようにしてその場から姿を消した。

 

 「そうか……また面倒な事になったな」

 「い、今のは何なの?」

 「あぁ、エフィンムか?俺の配下だ」

 「あ、あんな真っ黒い化け物が?」

 「いや、深海棲艦も真っ黒い化け物だろ。今更じゃね?」

 「何が!?」

 「さて、やる事は済んだ……俺は一眠りさせてもらう。あ、このファイルを彼女に渡しといてくれや」

 

 牙也はエフィンムから受け取ったファイルをゴトランドに半ば押し付けるように渡すと、そのまま床に転がり寝てしまった。

 

 「え、ちょっと……あーもう!」

 

 反論する暇すらなくファイルを押し付けられたゴトランドは牙也を起こそうとするが、牙也は既に爆睡しており反応なし。これにはゴトランドも諦めて椅子に座り込むしかなかった。

 

 「グラーフ、どうするの?」

 「どうもなるまい。ゴトランドはそのファイルをadmiralに渡してこい、私がこいつを見ておく」

 「……分かったわ、お願いね。ゴトシープはどうするの?」

 

 ゴトランドが聞くと、ゴトシープは彼女の頭から降りて再び檻の隙間から独房内に入ると、牙也に寄り添って一緒に眠ってしまった。

 

 「あらら、ゴトシープまで……まぁ良いか」

 

 苦笑いを浮かべながら、ゴトランドは押し付けられたファイルを持って執務室へと向かっていった。残ったグラーフは椅子に座ったまま、檻の隙間から牙也の様子を観察し始めた。

 

 「……仲間を助けてくれた事は感謝している。が……私はまだ貴様を信用していない。貴様と言い先程の化け物と言い……一体何が目的なのか、私達の仲間と成りうるのか……私がこの目で見極めてやろう」

 

 鋭い目付きのままグラーフは牙也を観察する。様々な事件が起こったこの日の夜は、いつもとは少し違う形で更けていくのであった。

 

 

 

 

 

 


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