元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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 第七話、牙也sideです。




対話

 手錠で拘束されたまま執務室に連れて来られた牙也は、来客用のソファに座らされた。その隣にはアークロイヤルが、後ろにはプリンツ・オイゲンが控えており、向かい側にはハイリアとレイスが腰掛けている。

 

 「さて、話してもらおうかしら。貴方が知っている事全て」

 

 全員が所定の位置についたところで、ハイリアが身を乗り出して牙也に話し掛ける。その表情は、これから始まるであろう牙也の話を一言一句聞き逃すまいという姿勢が見てとれた。

 

 「あぁ。だがその前に……」

 

 すると牙也は何を思ったのかクラックを開いて、中から『ブドウ龍砲』と『オリジン』を取り出した。突然の事に全員が身構える中、牙也はハイリアの背後にある棚目掛けて一発撃った。弾丸はハイリアとレイスの間をすり抜けるように飛んでいき、棚に置かれていたブタの貯金箱を砕いた。

 

 「あー!?私のお気に入りの貯金箱がぁぁぁぁ!?」

 「貴様!これは何の真似だ!?」

 

 アークロイヤルが牙也に掴み掛かるが、牙也はそれを払いのけ、棚に近寄り、撃ち抜いた貯金箱をゴソゴソ漁る。そしてその中から、何やらボタン電池のようなものを見つけ出した。

 

 「……やっぱり盗聴機か。ふざけやがって」

 「!?」

 

 牙也は発見した盗聴機を忌々しそうな表情をしながら指で握り潰し、他にないかと辺りを見回す。盗聴機が発見された事に、ハイリア達は驚いた表情を見せた。

 

 「……こりゃまだあるな。なぁあんたら、この部屋全部ひっくり返してみろ。まだ盗聴機が仕掛けてある筈だ」

 「何!?まだあるのか!?」

 「念のためだ。こんなんが見つかった以上、気軽に俺の事を話す訳にはいかなくなったぜ」

 

 自分が粉々に砕いた盗聴機の破片を踏みつけながら、牙也は執務室をあら捜しし始めた。

 

 「ちょ、ちょっと貴方!勝手に荒らさないでよ!」

 「うるせぇ!こんな盗聴機まみれの部屋で、オチオチ会話なんざしたくねぇんだよ、こっちは……ほら、あったぜ」

 

 牙也が次に目をつけたのは、窓際に置かれていた複数のプランターだった。全て掘り返してみると、やはり土まみれになった盗聴機が二つ隠されていた。それをレイスに投げ渡し、牙也はあら捜しを再開する。

 

 「あとはそこの水槽とか、そこの額縁とか、あの食器棚に置かれた皿の裏とか。まだある筈だぜ」

 

 牙也に指摘された箇所を試しにレイスが調べると、そこから出るわ出るわ大量の盗聴機。これにはハイリアもアークロイヤルもプリンツ・オイゲンも唖然とし、一緒になって盗聴機探しが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 「まさかこんなに盗聴機が仕掛けられてたとはね、うちの執務室にさ」

 

 こうして執務室全体をひっくり返してあら捜しする事三十分。手に持った袋の中にいっぱいに詰め込まれた盗聴機を机に置きながら、ハイリアはそう言ってソファに倒れ込むように座り込んだ。

 

 「しかしこれだけの盗聴機を、一体誰がいつ仕掛けたのだろうか?基本的に鎮守府は警備面を何処よりも厳しくしているから、簡単に侵入出来る筈はないのだが……」

 「何言ってんだ。侵入手段ならいくらでもあるだろ、ここに出入りしてる業者とか職員に化けるとかさ。簡単な事だろ?」

 「それはないと思いますよ?」

 

 アークロイヤルの疑問に牙也が淡々と答えるが、プリンツがそれを否定した。

 

 「何故だ?」

 「ここは最新の顔認証システムを導入してるんです。変装しても、システムに引っ掛かって一発アウトになるのがオチですよ?」

 「プリンツの言う通りよ。実際にここの職員に変装して侵入しようとして、システムにバレて捕まった奴が過去に何人もいたからね。どう、凄いでしょ?」

 

 ハイリアがプリンツの意見に付け加えるように言葉を繋ぎ、エッヘンと胸を張る。

 

 (……凄いのはあんたじゃなくてシステムだろうに)

 

 心の中でそんなツッコミを入れながら、牙也はまた別の可能性を挙げた。

 

 「なら……鎮守府内や鎮守府に出入り出来る奴の中に、裏切り者がいるとしたらどうだ?」

 

 牙也のその意見に、全員の目が鋭くなった。

 

 「……ここの職員や業者に接触して、スパイに仕立て上げた、という事ですか?」

 「あぁ。もしくは最初からスパイとして誰かが潜り込んでいたか、だ。それだけ優秀なシステムに誰も引っ掛からないなら、そりゃもう内部犯以外あり得ねぇだろ。日本の忍びの術に身虫の術ってのがあるが、それの応用だな」

 「蓑虫?」

 「身虫違いだ。組織の内部にいる人間ーー特に高い地位の奴をスパイに仕立てて内部から滅ぼそうって寸法だな」

 

 プリンツのボケに冷静なツッコミを入れ、牙也はソファに座り直し大きく伸びをする。よく見るといつの間にか手錠は外れていた。

 

 「な!?君、いつの間に手錠を!?」

 「手錠ごときで俺は拘束出来んよ。ちょちょいとピッキングすればすぐさ……取り敢えず盗聴機は他の安全な所に持ってっとけ」

 「そうね。オイゲン、これ全部工廠に持っていって、妖精さん達に解析してもらって」

 「分かりました!」

 

 プリンツは盗聴機(全部牙也が破壊し残骸と化した)を入れた袋を受け取ると、急いで工廠へ駆けていった。それを見送り、ハイリアは改めて牙也に向き直る。

 

 「さて、今度こそ貴方の知っている事全て話してもらうわよ」

 「あぁ」

 

 牙也は全てを語った。あの時連合艦隊に何が起こったのか、先程現れた敵が何なのか。知っている限りの事をハイリア達に語った。話を聞いていたハイリア達は、あまりにも荒唐無稽で馬鹿げた内容に信じられないという表情を常に見せていた。

 

 「……じゃあ何?ビスマルク達に起きた事も、さっきの敵も、全部他の世界から来た人や事象が原因だって言うの!?」

 「あぁ。あれらは全部、『本来ならこの世界に存在してはいけない』んだ。俺は今まで沢山の世界を見て回ってきたが、何処の世界も『存在する』と『存在しない』がはっきりしているんだ。例えばこの世界なら、艦娘と深海棲艦は『存在する』部類、さっき出てきた敵はいずれも『存在しない』部類だ。たまに例外もあるがな……俺みたいに」

 

 黙々と説明を続ける牙也。最後だけはハイリア達にも聞こえない程の小声で言葉を紡ぎ、話を終わらせた。

 

 「そんな無茶苦茶な……はっきり言って信じられませんが、先程のあれを見た後ではね……」

 「私達は深海棲艦以外の敵とも戦わねばならんと言うのか……」

 

 レイスは頭を抱えて俯いており、アークロイヤルもため息をつくしかできなかった。

 

 「……一つ聞くわ。仮に貴方の言った事が事実として、一つの世界に別の世界から人や事象を持ってくるなんて事が本当に出来るの?それこそ神様でなきゃ無理な気がするけど」

 「別に神様でなきゃ無理って訳でもないぞ?神に近しい力さえあれば、誰でも出来るからな」

 「はぁ!?そんなのあるわけないでしょ!?」

 「あるんだよ、別世界にはそういう力が。あんたらが知らない、知る由もないってだけだ」

 

 ハイリアはもう開いた口が塞がらない。当然だろう、自分達の理解の範疇には収まらないレベルなのだから。

 

 「さて、俺は全て話した。今度はそちらが話す番だぜ」

 「た、大変ですぅ!」

 

 その時、工廠に向かった筈のプリンツが大慌てで執務室に飛び込んできた。

 

 「オイゲン、どうしたの?」

 「こ、工廠が……工廠が、大変なことになってます!沢山の蔦に覆われてて……!」

 

 それを聞いた牙也は、体を弾かれたかのように立ち上がった。そしてプリンツを押し退けて執務室を飛び出した。

 

 「あ、ちょっと!」

 「何があったのかは分かりませんが、とにかく彼を追い掛けましょう!」

 

 ハイリア達も慌てて牙也を追い掛けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 大急ぎで牙也が工廠に滑り込んだ時、工廠は全体が言葉にならないほどに悲惨な状況となっていた。工廠の鉄筋造りの壁は蔦で完全に覆われ、鉄の扉から僅かに見える中も大量の蔦が占拠している有り様。しかも未だに内部から蔦がわさわさと暴れ出てきている。

 

 「こりゃぁ……マズイな。早急に治めねぇと」

 

 急ぎ牙也が工廠内へと飛び込むと、開発エリアも建造炉も全て蔦に覆われてしまっており、もう滅茶苦茶であった。

 

 「こんだけ蔦が溢れるって事は、どっかにデカイクラックがある筈だな……何処だ?」

 

 未だに蔦が蠢く工廠内を縫うように進んでいく牙也。すると一際蔦が多く溢れ出てきている部屋を目の前に見つけた。

 

 「あそこか。さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

 

 蔦を刺激させないよう慎重にその部屋に入る。その部屋は見渡す限り沢山の艦娘の艤装が置かれており、その形は様々であった。駆逐艦用らしき小型の艤装から戦艦用であろう大型の艤装まで、色々だ。その中に、何故か他の艤装よりも沢山蔦に覆われている艤装があった。大きさからして、戦艦の物だろうか。

 

 「ん~……?なんで『艤装の中から』蔦が出てきてるんだ……?」

 

 不思議に思いながらも、牙也はゆっくりとその艤装に近づいていく。すると頭上から小さくか細くだが声が聞こえてきた。天井を見上げると、頭上に張り巡らされた蔦に、沢山の小人のような何かが絡め取られており、なんとか脱出しようと必死にもがいていた。その数実に数十体。

 

 「工廠の妖精さんか?待ってろ、すぐ助けてやるからな!」

 

 牙也は妖精達にそう声をかけ、目の前の艤装に近づいていく。そして艤装から伸びていた蔦を掻き分け、艤装の内部を覗いてみると、艤装の中心に何やら掌より少し大きめの本のような物があった。蔦はその本から伸びているようだ。牙也はその本に手を伸ばし、艤装の中から引っ張り出した。すると艤装も含めて工廠全体を覆っていた蔦はみるみると消えていき、やがて工廠は元の状態を取り戻した。蔦に捕らわれていた妖精達が、重力によってボテボテと牙也の頭上に落ちてくる。牙也はその妖精達を次々と優しくキャッチすると、近くの机に降ろしてあげた。

 

 「アリガトウナノデス!」

 「タスカリマシタ!」

 「アナタハイノチノオンジンデス!」

 

 助けた妖精達が、口々に牙也にお礼を言う。牙也も「どういたしまして」と手をフリフリ振る。とそこへハイリア達がバタバタと工廠に飛び込んできた。

 

 「ちょっとオイゲン、蔦なんてどこにもないじゃないの」

 「あ、あれ?さっきまで工廠全体が蔦だらけだったのに……」

 「あぁ、蔦なら消したぞ。どうやら保管してた艤装にこんな危険物入れた馬鹿がいるみたいだ」

 

 持っていた本をハイリア達に見せながら牙也が言う。

 

 「これが艤装の中に突っ込んであってな。取り出したら蔦が全部消えたよ」

 「それが原因……もしかしてそれも貴方が言ってた『存在しない』物?」

 「多分な。それと妖精達も蔦に捕らわれてたから助けといたぜ」

 

 牙也は机の上でおおはしゃぎしてる妖精達を指で示しながら言った。妖精は皆手を取り合って喜んだり、ハイタッチして楽しんだりしていた。

 

 「それは良かった……ちょっと待って下さい。君もしかして、妖精が見えているのですか!?」

 

 思わぬ事実にレイスが驚きながら問い掛けてきた。

 

 「ん?あぁ、見えてるぜ。てか見えてなきゃ妖精達助けられなかっただろ」

 「確かに……しかし今のご時世に妖精が見える者が現れるとはな」

 「んー?妖精が見えるのがそんなに珍しい事なのか?艦娘が存在する世界なんだ、妖精が見える奴はそれなりにはいる筈だろ」

 「珍しい……というよりも、見える人材が少なくなっているんだ、ここ最近はな」

 

 アークロイヤルが説明する。

 

 「以前は貴様の言う通り、妖精が見える者はそれなりにはいた。勿論ヨーロッパ各国の海軍はそう言った人材を次々発掘して提督として教育し、各地に着任させていたんだ。が……数年前の深海棲艦による大規模侵攻の際にその提督のほとんどが戦死してしまったのを境に、その数はみるみる減少していったのだ」

 「あれは酷かったらしいわね。私は当時まだ提督じゃなかったから詳しくは知らないけど、随分お粗末な作戦だったみたいね」

 「中破大破も構わずガンガン艦娘を突撃させるだけの、上っ面だけの作戦だったと聞きます。お陰で提督の数も艦娘の数も随分減少したようですね。艦娘に関しては今は持ち直していますが」

 「ほへ~……そんな大変な時期があったんですか」

 「オイゲンは二年前に建造されたから、あの戦いを知らないのも無理ないわね……ま、その結果が今の私達なのよ。未だにあの戦いの余波がきてて大変なのよ……」

 

 牙也はハイリア達の説明を黙って聞いていた。とそこへ、先程捕らわれていた妖精とは別の妖精が工廠に入ってきてハイリアに何か耳打ちした。

 

 「あら良かったわ、ビスマルク達が目を覚ましたのね」

 「ビスマルク姉さまが!?」

 

 途端にプリンツの顔に喜びが戻る。ハイリア達の顔にも安堵が出てきた。

 

 「さて、ビスマルク達を労ってこなくちゃね。オイゲン、アーク、貴女達も来るでしょ?」

 「もっちろんです!」

 「あぁ」

 「レイス中佐、彼は独房に入ってもらって。無駄だとは思うけど、一応不法侵入者だから」

 「分かりました。さ、もう一回手錠させてもらいますよ」

 

 ハイリアはプリンツとアークロイヤルを伴って工廠を先に出ていき、後からレイスと再び手錠された牙也が出ていく。独房に運ばれる間、牙也はあの艤装から取り出した本をじっと見つめていた。

 

 (……また、面倒な敵が出張ってくる予感がするな)

 

 その本の表紙にはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 『零 戦国異聞録』

 

 

 

 

 

 

 

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