元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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 第十話、牙也sideになります。




グレカーレ

 「ちょっとぉ!?」

 

 バターン!!という大きな音で、牙也は強引に叩き起こされた。まだ重たい瞼を開けると、今牙也が入っている独房の外に、分厚いファイルを持ったハイリアがいた。全力疾走して来たのか、ゼーハーゼーハーと肩で息をしている。

 

 「んぁ?あんだよ、こんな朝っぱらから……」

 「なんだよ、じゃないでしょ!?何よこの完璧過ぎる調査結果は!?」

 

 ハイリアがファイルをバンバン叩きながら牙也を問い詰める。このファイルは昨日、牙也がエフィンムに命じて調査をさせ、その日の内に牙也とゴトランドを経由してハイリアに渡された物で、この鎮守府の人員の身元調査の結果が収められている。

 

 「ああ、それか。俺の忠実な部下が昨日の内にここの人員全部洗い直してくれてな、その結果がそれだ」

 「もー、私達の仕事取らないでよぉ!これじゃ私達全然役立たずじゃないの!」

 「良いだろ、仕事が減って助かるだろ?」

 「助からないわよ!寧ろ余計な仕事が増えたわ!」

 「ありゃ?」

 

 手助けした筈なのに、何故か怒られている牙也。

 

 「あれ受け取ってから、うちの人員全員から事情聴取しようとしたんだけど、何人かに逃げられたのよ!しかもファイル内で貴方が予め目を付けてた人が全員よ!」

 「あらら……やっぱり虫が入り込んでたのか。やれやれ、これでまた振り出しに戻ったか」

 

 両手を上げて「やれやれ」というポーズをする牙也。執務室に盗聴機が仕掛けられていた事も考慮すると、恐らくどこかのタイミングで察知されてしまったのだろう。

 

 「もー、全部最初からやり直しよぉ……あーもーまた上司に叱られる……」

 「頑張れ」

 「他人事だと思ってぇ!?」

 「いや、実際叱られる事に関しては他人事だし」

 

 あっさりと返す牙也。本来なら部外者である牙也もまた叱られる筈なのだが……。

 

 「んぎぎ……まぁ良いわ、それよりもほら、早く独房から出なさいよ」

 「なんでだよ?」

 「今回の件、これからは貴方にも手伝ってもらうからね。部屋はこっちで用意したから、今日からそっちに移ってもらうわ……独房じゃ色々と不便だしね」

 

 そう言ってハイリアは独房の鍵を開けて牙也に出るよう促す。頭をボリボリ掻きながら牙也はのっそりと独房を出て、ハイリアの案内で自身が生活する部屋にやって来た。案内された部屋は鎮守府二階にある角部屋で、二~三人は余裕で床に寝られる広さはあった。

 

 「本来はお客さんが泊まる部屋なんだけど、今は使ってないから好きに使って良いわよ。ただし備品とか壊さないようにね」

 「了解」

 「はいこれ、この部屋の鍵。オートロックになってるから、出歩く時は常に携帯しててね。それじゃ必要になったらまた呼ぶから」

 

 ハイリアは部屋の鍵を牙也に投げ渡すとさっさと出ていった。彼女が出ていったのを見て、牙也はすぐに部屋の鍵を掛ける。そしてクラックを開くと、そこから『撃剣ラヴァアーク』を取り出して砥石で刃を磨ぎ始めた。シャコシャコと小刻みな音が部屋に響く。

 

 (シャドームーン……最上魁星……カッシーン……何れも仮面ライダーの敵として現れた存在だ。それが何故ライダーがいないこの世界に……?それにこの鎮守府に入り込んでいた虫共……そいつらが今回の件に関連していると考えると……こりゃ厄介なもんが裏側に隠れてそうだな)

 

 刃を磨ぎながら、牙也はこれまでの出来事を振り返る。ここは艦娘と深海棲艦が存在する世界。ならばそれに関係しない存在は基本的にあってはならない。もしこの世界がその『存在する筈のない存在』で溢れ返りでもしたら……この世界は簡単に滅んでしまうかもしれない。一刻も早く、この非常事態を納めなければならない。

 

 (その為には、元凶を見つけ出して叩くしかない……が、その元凶が誰なのか、また何を目的としているのか……疑問はまだ尽きないな)

 

 考え事をしながらひたすら刃を磨ぐ牙也。すると、

 

 「メェ~」

 

 聞き覚えのある鳴き声が聞こえた。刃を磨ぐのを止めて周りを見回すと、部屋のベッドの上に見覚えのあるモコモコがいた。

 

 「ゴトシープ?」

 「メェ」

 

 そのモコモコーーゴトシープはベッドから降りると牙也に近寄り、おもむろに高く飛び上がって彼の頭に乗っかってきた。そのまま頭の上で体を捻って向きを変え、自身の顔が牙也と同じ正面を向くように調整する。調整が終わるとフンスフンスとどや顔をした。端から見ると「テテーン」なんて効果音が聞こえてきそうな光景だ。

 

 「危ねぇなぁ、刃物扱ってんだから止めろよ……てかお前どっから入ってきた?」

 「メェ?メェ」

 

 牙也にそう聞かれたゴトシープは両前足を窓に向けて答えを示した。見るとゴトシープが足を向けた方の窓だけ少しだけ開いていた。牙也は部屋に入ってから一度も窓に触れていないので、恐らく最初から開いていたのだろう。

 

 「なるほど、窓からね……いや待て、ここ二階だよな?どんなジャンプ力してんだこの羊……」

 「?」

 

 ゴトシープの予想外な身体能力に牙也は思わず苦笑いし、頭の上のゴトシープは何の事かと首を傾げる。

 

 「……はぁ、もう止めだ止め。こいつのせいでいらん雑念が入る」

 

 牙也は引っ張り出していた物を全てクラックに放り込むと、ゴトシープを頭に乗せたまま立ち上がった。

 

 「ちょっとその辺散歩するか。お前も来るか?」

 「メェ!」

 

 ゴトシープの元気な返事にクスリと笑いつつ、牙也は鍵をポケットに入れて部屋を出た。

 

 

 

 

 

 ハイリアが運営する鎮守府は、牙也目線で見た限りでは中規模な鎮守府のようで、施設もそれなりに充実していた。かなりの人数が入れる広さの団欒用ルームや食堂、艦娘一人一人に割り当てられた自室。勿論工廠や資材倉庫等無くてはならない施設も充分な広さがあり、意外な所ではシアタールームや図書室なんてのもあった。

 

 「こりゃ随分と充実してるな。まぁ命賭けて戦ってる艦娘達にゃ、これぐらいやっても罰は当たらんだろ」

 

 鎮守府をあちこち歩き回りながら、牙也は鎮守府の待遇の良さに感心する。

 そして牙也がもう一つ驚いていたのは、この鎮守府が随分と国際色豊かな鎮守府であるという事だ。ドイツのビスマルクやグラーフ、フランスのリシュリュー、スウェーデンのゴトランド。ヨーロッパ各国の艦娘が集まっている。そして置かれている家具や雑貨等も国際色豊かだ。これだけ沢山の国々の物が置かれていながら、いずれも建物の内装と素晴らしくマッチしている。内部の人間のセンスの良さに感心するばかりだ。因みに牙也はその辺りは壊滅的で、袴以外の普段着は全て箒が買ってコーディネートしたものばかりである。

 がそれよりも牙也には、さっきから気になる事があった。

 

 「……プッ!」

 「クスクス……」

 

 さっきからすれ違う鎮守府の職員や艦娘が、自分を見るなり吹き出したり笑いを堪えているのだ。一応部外者なので、怪しまれて声を掛けられたり職質されたりするなら分かるが、これは一体どういう事だろうか。

 

 「ねぇ、ちょっとそこのお兄さん」

 

 すると後ろから誰かが声を掛けてきた。が、振り向いても誰もいない。

 

 「ちょっと、下よ下!」

 

 そう言われて目線を下げると、そこには緩やかなウェーブのかかったプラチナブロンドの髪で、白地に赤と緑のラインが入ったワンピースを着た駆逐艦とおぼしき艦娘がいた。

 

 「……ここの艦娘か?」

 「そうよ。あたしはMaestrale級駆逐艦、次女の『グレカーレ』!お兄さんは誰なの?見ない人だけど」

 「俺か?ここの提督の知り合いみたいなもんだよ、怪しい者じゃない」

 「あっそ。で……なんで頭に羊?」

 

 グレカーレに指摘されて自分の頭上に目を向ける牙也。その頭上ではゴトシープがグレカーレをジーっと見つめていた。

 

 「なーんだ、よく見たらゴトランドさんが連れてるゴトシープじゃない!良いなー!」

 「そんなに珍しいのか?」

 「別に珍しい訳じゃないけど……たまにゴトランドさんが触らせてくれるんだけどさぁ、その子全っ然あたしになついてくれないのよ!良いなぁ、お兄さんはなつかれて」

 

 グレカーレが羨ましそうに牙也と牙也の頭上のゴトシープを見ている。ゴトシープは機嫌が悪いのか、プイッとそっぽを向いていた。

 

 「……一つ聞くが、お前ゴトシープ触る時どんな風にしてる?」

 「え?普通に体をワシャワシャーってやってるけど?」

 「それだけか?」

 「それだけ」

 「どのくらい?」

 「えーっと……三時間くらい!」

 「なついてくれない原因絶対それだろ」

 

 牙也の指摘にグレカーレが「えっ、嘘!?」みたいな表情で牙也を見る。

 

 「やり過ぎなんだよ、スキンシップ。長過ぎて鬱陶しく思われてるんだろ、こいつに」

 「え~!?」

 「なぁゴトシープ。グレカーレのスキンシップ、長過ぎって思うか?」

 

 牙也がゴトシープにそう聞くと、ゴトシープは大きく何度も頷いた。これは普段から相当頭にきているのだろう。グレカーレはショックなのか呆然としている。

 

 「という事だ。スキンシップの時間短くしろ、せめて一時間だ」

 「うぅ……分かった」

 「そんな悄気るなよ、原因分かって良かったじゃねぇか。そこさえ気を付ければこれからはちゃんとなついてくれるさ」

 

 ショボンとしたグレカーレに牙也はそう言って優しく頭を撫でてやる。

 

 「うん……ごめんね、ゴトシープ。これからは気を付けるから、あたしを許してくれる?」

 「メェ~」

 「良いの?やったぁ!」

 

 許してもらって嬉しそうに跳び跳ねるグレカーレ。するとおもむろに牙也に近寄ってきて、

 

 「Grazie、お兄さん♪」

 

 牙也の頬に軽くチュッとキスをした。一瞬思考がフリーズした牙也だったが、すぐに持ち直してグレカーレを見た。グレカーレは「えへへ」と可愛らしい笑みを浮かべている。箒がこれを見ていたら烈火の如く怒りそうだが、一先ず牙也はそれを考えない事にした。

 

 「あ、そうだ。ねぇお兄さん、これからあたしとパフェ食べに行かない?」

 「パフェを?んー、まぁ今特にやる事もないしなぁ……分かった、付き合うかね」

 「やったぁ!あ、パフェはお兄さんの奢りだからね!」

 「(……だと思ったよ)へーへー」

 

 こうして牙也はグレカーレに連れられて食堂に向かった。勿論ゴトシープを頭に乗せたままで。

 

 

 

 

 

 

 二人と一匹が食堂に着いた時、既に時刻は0930を回っており、食堂に人はほぼ皆無だった。いるとすれば、遅い朝食を食べているビスマルクと、一緒の席に座ってコーヒーを飲んでいるハイリアくらいだ。

 

 「おー、ハイリア提督にビスマルクか」

 「Ciao、テートク!」

 「あら、グレじゃない……っと、牙也も一緒なのね」

 「散歩してたらそこでたまたま出くわしてな。それで一緒にパフェ食べようって話になったんだ」

 「ふん、このビスマルクを気安く呼ぶなんて、貴方も随分とまぁ偉そうーーブフッ……!アハハハハハハ!!」

 

 朝食のソーセージに齧り付きながら尊大な態度で話すビスマルクだったが、牙也を見るなり大爆笑しだした。

 

 「あ、頭にゴトシープ乗っけて……!フフフ……!ちょ、ちょっと似合い過ぎ……アハハハハハハ!!」

 「会って早々に失礼だなこいつ……あ、すんませーん!パフェ二つお願いしまーす!俺は莓のやつを!」

 「あたしはメロンで!」

 

 その場から厨房に向けて注文した二人は、ハイリア達の隣の席に座った。

 

 「あ、そうだ。牙也、さっき言ってた鎮守府から逃げた職員なんだけどね、一人だけだけど捕まえられたわ。後で詳しく話を聞こうとしてるんだけど、貴方も立ち会う?」

 「おー、そりゃ良いや。是非とも頼むわ」

 

 一人だけとは言え、今回の件に何かしらの関与が疑われる人間を捕まえられたのは追い風だ。これは是非とも情報を仕入れたい。そう考えた牙也はハイリアの提案を二つ返事で受けた。

 

 (これで少しは進展してくれると良いんだが……)

 

 「ねぇテートク!あたしもついて行って良い!?」

 「駄目よ、グレ。これは大事なお仕事なんだから」

 「えー!?じゃあなんでお兄さんは良いの!?」

 「牙也はこの件に深く関わってるからよ。分かったらパフェ食べて皆と遊んでらっしゃい」

 「はぁ~い……」

 

 不服そうな返事をグレカーレがしたところに、ちょうど二人分のパフェが運ばれてきた。気を取り直してグレカーレはメロンパフェを食べ始め、牙也も次いで莓パフェを食べ始める。お腹が空いていたところに果物とクリームの甘さが心地よい。空腹の勢いに押され、牙也はパフェを次々と口に運んでいく。

 

 「提督、いる!?」

 

 するとそこへゴトランドが駆け込んできた。何か一大事でもあったのか、だいぶ焦っている。

 

 「あらゴト。どうしたの?」

 「大変なの!捕まえた職員の様子がおかしいのよ!早く来て!」

 「なんですって!?分かった、すぐ行くわ!牙也もお願い!」

 「はいよ。グレカーレ、勘定ここに置いとくぜ」

 

 牙也は残りのパフェを掻き込むと、テーブルに二人分のパフェの勘定を置いて、先に飛び出していったハイリア達を追い掛けていった。やっぱり頭にゴトシープを乗せたままで。

 

 「ブフフ……頭にゴトシープ……ブハッ!」

 

 ビスマルクは未だにツボっているのか、笑いが止まっていない。そんな彼女に、グレカーレは呆れた表情を向けながらパフェを食べ続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

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