元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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 第十二話、牙也side




情報収集は大事

 食堂に向かうまでの短い間、牙也とグラーフは様々な事を語り合った。艦娘や深海棲艦に関する研究の事や世界各地の情勢、それに牙也自身の事も。

 

 「存在し得ないものがこの世界に暴れ出ている、か……お前もそうなのか?」

 「まぁな。俺がこの世界に喚ばれたのも、それが原因だろう」

 

 秘匿すべき情報を上手く隠しながら、牙也は自身の話をする。話す必要のない情報ばかりなのでまぁ心配する必要はないだろうが、念のためである。

 

 「一体奴等の目的は何なのだろうか……依然として知れん」

 「情報が少なすぎるからな。何か収穫でもあれば万々歳なんだが……」

 

 と、グラーフのポケットからスマホと思われる振動音が聞こえだした。

 

 「私だ。あぁAdmiralか、何かあったのか?……そうか、分かった。今彼と共にいる、一緒に連れて行く」

 「何か進展でも?」

 「お前が先程助けた職員が目を覚ましたそうだ。事情を聞くからお前を連れて来てほしいとな」

 「分かった、じゃあ行くか」

 

 という事で、二人は昼食を後回しにして医務室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 「Admiral、連れて来たぞ」

 「ありがとう、グラーフ。牙也も来てくれてありがとう」

 

 医務室に着くと、早速ハイリアが出迎えた。二人を中に招き入れ、患者用ベッドの一つへと誘導する。そのベッドには先程牙也が助けた男の職員が寝かせられ、点滴を受けていた。見たところ顔色は良く、多少痩せてはいるが容態は安定しているようだ。

 

 「牙也、紹介するわ。彼は『トマス・シャーロット』。ここの元職員よ」

 

 ハイリアの紹介を受けて、トマスという男は寝た状態から少し首を動かして礼をした。

 

 「無理に体を動かさなくて良いわ。トマス、寝たままでいいから、彼の質問に答えてあげて」

 「……わ、かりました」

 

 トマスが震える声で返す。まだヘルヘイムの植物の影響が残っているのだろう。

 

 「今からいくつか質問する。答えられる範囲で良いから答えてほしい」

 「……はい」

 「じゃあ始めるぞ。ますお前さんは、いつ頃からここでスパイとして活動し始めた?」

 「……だいたい、半年前になります。ビスマルク達『欧州連合艦隊』が結成された頃、です」

 「お前さんがスパイ活動を始めた時点で、他にスパイはいたのか?」

 「はい……既に二、三人活動していると、聞いています」

 

 半年前に既に二、三人……かなり長い期間スパイ活動が行われていたと見て良いだろう。

 

 「……なぜスパイ活動を了承した?」

 「……理由は様々です。お金の為、友達の為、権力の為……私の場合は、家族を人質に取られたからです」

 「人質か。たしかあんたの家族は妻と子供二人だったな。あと犬一匹」

 「な……何故、それを……」

 「優秀な部下がいるもんでな」

 

 牙也が目を向けた先、医務室のドアの所には、いつの間に入ってきていたのかエフィンムがいた。

 

 「エフィンム、頼んでた件は?」

 「ギリギリ間に合いました。取り敢えずこちらに連れて来ましたが、いかがなさいますか?」

 「連れて来たって、誰を?」

 

 ハイリアがそう聞いた時、ドアが強く開いて女性と二人の子供が飛び込んできた。

 

 「あなた!」

 「お父さん!」

 「お、お前たち……!無事だったのか……良かった……!」

 

 女性と子供はトマスに駆け寄り、互いの無事を喜んだ。

 

 「この方達は、トマスのご家族?」

 「はい。近くに監禁されておりましたので、助け出して参りました」

 「あぁ……ありがとうございます!良かった、家族と無事に会えて……!」

 

 トマスは涙眼でエフィンムにお礼を言い、家族で抱き合って再会を大いに喜んだ。その後家族は別室で待機してもらう事になり、グラーフが家族を一旦医務室から連れ出した。

 

 「エフィンム、彼の家族を拐った奴については?」

 「それが、どうやら人間に化けられる怪物のようで。それも、仮面ライダーの敵たる存在でした。今回出くわしたのは、オルフェノクと呼ばれる部類の怪物です」

 「オルフェノクか。たしか555の物語で出てくる怪物だな」

 「はい。ただ私に人質を奪われると、奴等は即座に建物ごと自爆致しました。恐らく奴等は下っ端の使い捨てなのでしょうな」

 

 エフィンムの話を聞くに、少なくともトマス達によるスパイ活動が始まる以前……遅くても半年前くらいから、先程のオルフェノクのようなライダーの敵が入り込み始めたと見て良いだろう。となれば、既にかなりの数がこの世界に根付いていると考えなければならない。

 

 「こりゃあ予想よりも深刻だな……下手したら海軍本部にすら入り込んでるぞ」

 「て事はまさか、今回のビスマルク達の件も裏でそいつらが糸を引いてたって事?」

 「まだ可能性の域だが、大いにあるな。エフィンム、また一つ仕事を頼みたい」

 「海軍本部への潜入任務ですな。神王様直々の命とあらば、喜んで承ります」

 「頼むぞ、それと箒の件も同時進行で頼む。仕事ばかり押し付けて申し訳ないが、俺が動けない今はお前だけが頼りだ。任せるぞ」

 

 エフィンムは「はっ」と頷くと背後にクラックを開き、その中に飛び込んでそのまま消えた。取り敢えず海軍内部の事はエフィンムに任せておけば大丈夫だろう……敵が何か仕掛けてこなければ、の話だが。

 

 「……引き続き質問をする。今回の件の黒幕について、何か知っている事はあるか?何でもいい」

 

 トマスは少し考えた後で話し始めた。

 

 「……二週間前くらいですかな、私にスパイの仕事を持ち掛けてきた者が仕えるトップに会う機会がありまして、一度だけですが会いました」

 「トップに?」

 「はい。顔は仮面やフードで隠れて分からなかったのですが、声色から察するに、二十代~三十代の男かと……」

 

 なるほど、なかなか濃い情報を拾ってきたようだ……牙也はトマスの話を聞きながら手応えを感じていた。

 

 「それと……トップは自分の事を、『ソロモン』と名乗っていました」

 「ソロモン?」

 「ソロモンと言えば、『旧約聖書』に登場する古代イスラエルの賢王の名ね。随分と大層な名前を……」

 「あと、小さくて分厚い本のような物を持っていたと記憶しています」

 「小さくて分厚い本?こんな感じのか?」

 

 牙也は懐から『零 戦国異聞録』と書かれた本のような物を出してトマスに見せた。トマスはそれをしばらく見ていたが、少しして首を横に振った。

 

 「似てはいますが、これよりももっと分厚かったです……色も赤に近かったような……」

 「そうか。今回の件、黒幕はそいつで間違いないな……なあ、そのソロモンって奴と何処で会ったかは覚えてるか?」

 「いえ……トップのいる場所へ行く際に目隠しをされていたので、場所まではどうにも」

 「あ~、そうだよな……簡単に場所バレなんてさせないよなぁ。また振り出しか」

 

 頭をボリボリ掻きながら牙也は悔しそうな表情を見せる。と、トマスが急にゴホゴホと咳き込み出した。よく見るとちょっとだけだが血が見えた。これ以上は無理させられないようだ。

 

 「もう良いかしら?あまり無理させてあげられないわ」

 「あぁ、充分だ。また聞きに来るとは思うがな」

 

 牙也は「お大事に」とトマスに一声掛けると医務室を出た。念のためトマスに自身の回復力をこっそり分け与えた上で。

 

 「終わったのか」

 

 医務室を出ると、ドアの横にグラーフが寄り掛かっていた。先程までの話を壁越しに聞いていたのだろう。

 

 「立ち聞きは感心しねぇぞ、グラーフ。一応機密だからな」

 「分かっている、箝口しておくとも。それよりも……」

 

 グラーフがちょいちょいと牙也に手招きする。頭上に?マークを出しながらもグラーフについていくと、牙也は艦娘達の寮まで連れて来られた。その三階にある一室ーー部屋のドアに『グラーフ・ツェッペリン』と書かれているので、グラーフの部屋だろうーーに着くと、グラーフは周囲を見回して誰もいない事を確認し始めた。そして「入ってくれ」と牙也を部屋に招き入れた。牙也が部屋に入ると、部屋は化粧台や数体の人形等の可愛らしい物が置かれたまさしく『女性』とも言えるような部屋で、きっちり整理整頓と掃除がされていた。

 

 「適当な椅子に座って待っていてくれ」

 

 グラーフはそう言って簡易キッチンに入っていく。牙也が近くにあった椅子に座って待っていると、キッチンからコポコポと音がする。

 

 「さぁ、飲んでくれ。私の自信作だ」

 

 更に待つと、グラーフはお盆にカップを二人分乗せて持ってきた。途端に部屋中にふわりと漂う香ばしさと湯気。中身はコーヒーだろう。彼女から差し出されたコーヒーを牙也は少しだけ飲む。

 

 「……旨い。コーヒーはあの苦味とか渋みが苦手だったんだが……これなら飲めるな」

 「そうか、分かるか。水出しコーヒーだからな、苦味とか渋みがそこまで無いんだ。それをポットごと湯煎した物がこれだ」

 「へえ、水出し……コーヒーは湯で出すもんだとばかり思ってたぜ」

 「私の辿り着いた最高のコーヒーだ。これ以上の物は無いだろうな」

 

 ハッハッハと笑いながら自身も一杯飲み、一息つくグラーフ。

 

 「で、話とは?」

 

 互いにコーヒーを半分ほど飲み終えたところで、牙也が話を切り出す。態々部屋まで招き入れたという事は、あまり人には聞かれたくない事なのだろう。

 

 「あぁ……お前が先程あの職員に見せていた本のような物。あれを私にも見せてくれないか?」

 「これか?」

 

 牙也は例の本のような物をグラーフに見せた。グラーフはそれを手に取るとまじまじと見つめ、表裏を見たり本の表紙を開いてみたりと色々調べていたが、やがてそれを牙也に返すと「ふぅ」とため息一つ。

 

 「……やはり似ているな。あの本と」

 

 一言そう呟くと、グラーフはポケットからスマホを出して何処かに電話を掛け始めた。

 

 「グラーフだ。忙しい所すまないが今から私の部屋に来れるか?……そうか、ならばすぐ来てくれ。あぁそれと、あれを持ってくるのを忘れないようにな」

 

 電話の主と何かを話し終えると、グラーフはスマホをポケットにしまい、例の本のような物を牙也に返した。

 

 「もう良いのか?」

 「あぁ。後は彼女が話してくれるだろう」

 

 残りのコーヒーを飲みながらグラーフはそう言って電話の主を待つ。そして5分後、ドアをノックする音が聞こえた。

 

 「入ってくれ」

 

 グラーフがドアに向かってそう声を掛けると、部屋に入ってきたのは銀髪でブラウス風の白と灰色の制服を着た艦娘。制服は胸元及び腕から脇にかけてに健康的な肌が見えている。

 

 「よく来てくれたな、カブール。適当な所に座ってくれ」

 

 カブールと呼ばれた艦娘は小さく頷くと、グラーフの隣に椅子を持ってきて座った。

 

 「牙也、紹介しよう。彼女は最近ここの鎮守府に着任したイタリアの弩級戦艦『Conte di Cavour』だ」

 「儂がカブールよ。よろしく頼むわ」

 「篠ノ之牙也だ、よろしく……女性で一人称が儂とは、稀有だな」

 「まあまずないだろうな。それでカブール、言っていた物は持ってきたか?」

 「勿論。これで良い?」

 

 カブールは何故か胸元をゴソゴソ漁ると、胸の谷間から何やら四角くて真っ白い何かを取り出して机の上に置いた。それは見た目こそ牙也の持つそれと同じような物だったが、表紙は真っ白で何も書かれていない。牙也が手に取って中を見てみたが、中も白紙状態だった。

 

 「これは?」

 「儂がこの世界に顕現した際に何故か持っていてね。ゴミかと思って一度捨てたんだけど、翌日には戻ってきていたのよ。何度捨てても戻ってくるから、気味が悪くて今まで厳重に保管していた物なの」

 「牙也が見せてくれたそれに酷似していたのでな、何かヒントになるかと思っていたが……どうだ?」

 

 牙也は真っ白な本のような物をまじまじと見つめていたが、やがて首を振ってそれを机に置いた。

 

 「すまんがこれだけじゃな……俺もこれが何なのかまだ分かってない、これは俺も初めて見る物だ」

 「そうか……何か力になれると思っていたが、駄目か」

 「そう悄気るなよ、グラーフ。ところでカブール、これの事をグラーフ以外の誰かに話したりしたか?」

 「グラーフ以外で?そうね……アブルッツィ・ガリバルディ姉妹が知っているくらいか。あの二人は儂が顕現した当初儂の世話係だったから。少なくとも他には話していないわ」

 

 つまり現状カブールの持つ真っ白な本の事を知っているのは、カブール本人を含めて五人という事になる。

 

 「そうか……カブール、しばらくこれを俺が預かってて良いか?」

 「構わないわよ。儂が持ってても意味のない物だし」

 

 牙也は二冊の本のような物を小箱に入れ、しっかり施錠した。

 

 「こいつは俺の部屋で管理する。必要なら取りに来てくれ」

 「わかったわ」

 「じゃあ俺は部屋に戻る。グラーフ、コーヒーご馳走さま」

 

 牙也は小箱を持って部屋の窓から飛び降り出ていった。牙也が出ていった後、カブールがグラーフに耳打ちした。

 

 「……本当に大丈夫なの、グラーフ?あいつに任せて」

 「少なくとも私達よりは大丈夫だろうな。それに、奴にも奴なりの考えがあるのだろう」

 

 グラーフはコーヒーを飲み干しながらそう言って、牙也の分と共にカップを片付け始める。カブールも出されていたコーヒーを飲み干して片付けを手伝うのだった。

 

 

 

 

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