元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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 第十三話、牙也side




強襲

 深夜の鎮守府。

 

 「……異常なしね。次はこっちを見に行こうかしら」

 

 真っ暗な艦娘寮の廊下を懐中電灯一本で歩くのは、ハイリアである。しかしいつものように艦娘寮を回るハイリアの表情は、いつもよりも鋭かった。

 

 『今回の件も考えると、奴等は暗殺者の一人でも差し向けてくる可能性がある。用心するに越した事はないぜ?』

 

 あの後今後の対応を牙也と話し合っていた際に牙也からそう注意されていたハイリアは、いつもの夜間巡回の人数を増やして警戒に当たっていた。懐中電灯の明かりのみの廊下には、カツカツカツ……という小さな足音が響くだけである。

 

 と、腰のインカムから受信音が聞こえた。

 

 「こちらハイリア、誰?」

 『レイスです。食堂等一階東側は異常ありません。これから西側を見に行きます』

 「分かったわ。誰か会ったりとかはした?」

 『グレカーレが水分補給の為食堂にいたくらいですね。さっき部屋に戻っていったので、他に誰もいないのを確認してから鍵を掛けておきました。他は特には……』

 「了解、引き続き警戒を続けて」

 

 インカムを切り、ハイリアは再び警備を再開する。廊下の隅々まで目を光らせ、怪しい物等が無いか探る。と、廊下の向こうからコツ……コツ……と小さく足音が聞こえてきた。

 

 「誰?」

 

 ハイリアがその方向へ懐中電灯を向けると、色白の肌の人影が見えた。その人影は懐中電灯の光に顔を背け腕でガードしている。

 

 「ア、Admiral……?ゆー、です」

 「あら、ごめんね。眩しくなかった?」

 

 人影の正体は、寝間着に着替えたU-511だった。ハイリアは懐中電灯を下ろして彼女に近寄り、優しく頭を撫でてあげた。

 

 「大丈夫、です……Admiralは、巡回?」

 「そうよ。ゆーはどうしたの、もう就寝時間は過ぎてるわよ?」

 「その……喉、乾いて……」

 「そう、分かったわ。私も一緒に食堂行くから、ササッと水分補給を済ませましょ」

 「え?でも、巡回は……」

 「大丈夫よ、行ってすぐ帰ってくるだけ。現状を踏まえると、ゆー達を危険な目には遭わせられないわ……さ、行きましょ」

 「……Danke」

 

 

 

 

 

 

 U-511を連れて食堂にやって来たハイリア。出入り口の前まで来ると、確かに食堂は真っ暗で誰もいない風であった。

 

 「ちょっと待ってね、今鍵を開けるから」

 

 ハイリアは腰に提げた鍵束を手に取り、食堂の鍵を開けようとしたが、何故か鍵を鍵穴に入れたところで手を止めた。

 

 「Admiral?」

 

 ゆーが不思議そうに尋ねると、ハイリアは左手で「待って」の仕草を見せた上で食堂の扉に手をかけた。と、レイスが閉めた筈の扉が何故かゆっくりと開いた。

 

 「Admiral……」

 「ゆー、ちょっとここで待ってて。決してここを動かないでね」

 

 ハイリアは警棒を左手にもち、まず顔と懐中電灯を隙間に通して中を見渡す。しかし誰かがいる気配はない。そこで音を立てないようにゆっくりと隙間から食堂の中へ入った。そして改めて懐中電灯で辺りを照らす。と、台所の方から何やらゴソゴソと物を漁る音が聞こえてきた。

 

 「誰かいるの?」

 

 ハイリアが声を掛けると、台所の奥から金髪リーゼントで筋骨隆々な大男がヌッと現れた。

 

 「貴方誰なの?ここは鎮守府、関係者以外は立ち入り禁止よ。出ていかないなら、貴方をここで捕らえるわ」

 

 ハイリアは警棒を構えてそう警告する。が、男は聞こえていないのかボーッとしており、表情も読めない。それが奇妙で、ハイリアは更に警戒を強めた。と、後方からガタガタと音がした。何事かとハイリアがチラッと後方に目を向けると、食堂の扉が勢いよく開いた。

 

 「ア、Admiral……助けて……!」

 「ゆー!?」

 

 入ってきたのは、茶髪の大男に拘束されたU-511だった。華奢な両腕をガッチリ押さえ付けられ、身動きが取れない状態だ。

 

 「あんた達何者なの!?今すぐその娘を離しなさい!」

 「そう言われて離すとでも?俺達は上に命じられてここで働く者達を消しに来た。悪いが見つかった以上、お前達を生かしておくつもりはない」

 

 茶髪の大男がそう言うと、大男の全身が灰色の怪物の姿に一瞬で変化した。その姿は象を彷彿とさせる灰色の怪物で、無骨な大腕でU-511の腕を更に強く掴んだ。

 

 「くっ……!」

 「おい、お前いつまでその姿でいる気だ?もう人間でいる必要はねぇだろ」

 「……」

 

 茶髪の大男がそう告げると、金髪の大男は小さく頷くとその姿を牛を彷彿とさせる灰色の怪物に変えた。岩にも見える巨大な拳を構え、ファイティングポーズを取る。

 

 「……こいつら消したら、ここの艦娘達で、楽しむ……か?」

 「良いねぇそれ。抵抗出来ない程度に痛め付けて思い切り楽しんでから消すのも面白いなぁ」

 「外道ね、あんた達……!」

 「誉め言葉だな。じゃ消えな」

 「お前等がな」

 

 と、突如食堂に声が響く。すると牛の怪物の背後にクラックが開いて、そこから牙也が飛び出してきた。牙也はそのまま牛の怪物を蹴り飛ばしてその場に着地し、牛の怪物は食堂の机や椅子を巻き込んでスッ転げてしまった。

 

 「な、なんだてめぇ!俺達の邪魔するつもりか!?」

 「邪魔するって言ったらどうする?俺達も消すか?」

 「当然だ!俺達の任務を妨害する奴は、皆消しちまうぜ!」

 「あぁそうかよ……エフィンム!」

 

 牙也が象の怪物の後ろへ声を掛けると、象の怪物の影からエフィンムがヌルリと飛び出してきて怪物の後頭部に思い切り裏拳を叩き込んだ。裏拳によって態勢が崩れた事によりU-511の拘束も緩み、彼女は急いでハイリアに駆け寄った。

 

 「Admiral……!」

 「ゆー……!良かった、怪我はない!?」

 「だ、大丈夫、です……」

 

 二人が無事を喜んでいる間に、牙也とエフィンムは二体の怪物を食堂の外へと叩き出し、自らもそれを追い掛けて外へ飛び出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 波止場まで怪物を追い払った牙也とエフィンムは、それぞれの得物ーー牙也は薙刀、エフィンムは片手剣であるーーを抜いて戦闘態勢に入る。

 

 「野郎……!俺達の邪魔をするな!」

 「任務、邪魔する奴……消す。それが、役目!」

 

 二体の怪物は巨腕を振るって襲い掛かってきたが、牙也もエフィンムも得物でそれを受け流しカウンターで斬撃を加える。そして怪物達が態勢を整える暇すら与えず、得物を振るって怪物を斬り裂いていく。

 

 「グ、ググ……グルァァァァァ!!」

 

 と、牛の怪物が腕をブンブン振るいながら突進してきた。完全に何も見えていないのか、無我夢中で二人へ突進してくる。しかし二人に焦りの色は無く、得物を構え直す。

 

 「過ぎた蛮勇は身を滅ぼす……その身にしっかり覚えさせな」

 

 そして突進をスレスレで回避すると、すれ違い様にほぼ同時に牙也とエフィンムの斬撃が牛の怪物に叩き込まれた。牛の怪物は暫し硬直していたが、やがて全身が青白い炎に包まれて灰化消滅した。

 

 「呆気ないですな。こうも手応えがないと、折角鍛えて頂いた剣の腕が鈍ってしまいます」

 「違いないな。さて……」

 

 牙也がもう一体の象の怪物に目を向けると、怪物は慌ててその場から逃げ出そうとしているところだった。しかしその両足を牙也達が出現させた蔦によって拘束され転ばされてしまう。そのまま両手も拘束して空中に磔にし、牙也は薙刀を構えたまま象の怪物に歩み寄る。

 

 「それじゃ教えてもらおうか。知ってる事、洗いざらい全部」

 「へっ、馬鹿か!この俺がそう簡単に秘密をベラベラ喋ると思ってんのか!?」

 

 縛られた状態で尚も意気がる怪物に、牙也はケラケラと笑って見せた。

 

 「何がおかしいんだよ?」

 「別にぃ?どーせ口を割らねぇのは分かってたしな、予想通りの反応で良かったよ」

 「へっ、じゃあどうするつもりだ?拷問でもするのか?それとも俺を味方に引き込もうとでも?やってみろよ、どう足掻こうと、俺は口を割らねぇぜ!」

 

 尚も意気がる怪物に、牙也はため息一つ。そして怪物との距離を更に縮めた。

 

 「……じゃあやってみようか」

 「へ?」

 

 と、唐突に牙也は象の怪物の頭を鷲掴みにし、そして怪物と目を合わせるように顔を固定させる。すると、

 

 「あ……あぁ……アアアアアアアアアアアアアアア!?」

 

 突然象の怪物が発狂しだした。自らの手足を拘束する蔦を引きちぎらんばかりに暴れまわり、何とか目を合わせまいとするが、何故か目は強制的に牙也の目を見てしまう。そんな状態の怪物の事などどうでも良いかのように、牙也はそのまま象の怪物を目を合わせ続け、エフィンムもまたそれを止めるでもなくただ無表情でその様子を眺めていた。

 

 「wagjngtj@npg@mj@tbgwpd3tax/g!?」

 

 やがて怪物の声も呂律が回らなくなり、最早言葉を発する事すら儘ならなくなっても、なお牙也は怪物の頭を掴みその目を合わせている。彼の目は、目映い程に金色に光っていた。すると、

 

 「ちょっと、何の騒ぎなのよこれは!?」

 

 怪物の叫び声に起こされてしまったのか、ビスマルクを始めとした艦娘達が艤装を装着して駆け付けて来た。そして蔦に拘束され発狂しながら暴れている怪物と、その頭を鷲掴みにしている牙也を見て更に警戒を強める。

 

 そしてそのまま五分経過しーー

 

 「ァ……ァ……アァ……」

 

 ようやく牙也が頭から手を離し目線も怪物から外した。そして蔦の拘束を解くと、怪物は声にならない声をあげながらその場に倒れ伏した。

 

 「そいつに何をしたの?」

 「……ちょっと頭の中を覗かせてもらった。意地でも話さないと思ったんでな、最終手段だ」

 「頭の中を覗くって……大丈夫なの、あいつ」

 「いんや。半ば強制的に記憶を引っ張り出したからな、ありゃもう廃人同然ーーいや、そもそも人ですらないか」

 

 そう言って牙也が目を向けると、象の怪物もまたあっという間に灰化消滅してしまった。その光景に艦娘達の表情は驚愕に変わった。

 

 「なんで……!?」

 「あれが言ってた『オルフェノク』って奴だ。奴等にとって死=灰化消滅なんだよ」

 

 そう言うと牙也は近くに転がっていた竹箒でその場に堆く積もった灰を全て海に掃き捨てた。

 

 「取り敢えず詳しい事は明日話す。お前等も今日のところはもう寝ろ」

 

 そう言って全員を無理やり帰らせ、牙也は一息つく。エフィンムが然り気無くお茶を差し出してきたのでそれを一口飲む。そして牙也は思い出したかのようにエフィンムに何か耳打ちすると、エフィンムは「畏まりました」と頷き影に潜って消えた。それを見送り、その目を外海に向ける。

 

 「……本格的に不味くなってきたな。急いで対策を練らねぇと……いずれ取り返しが付かなくなる」

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 

 大会議室にハイリア、レイス、そして二人が率いる艦娘達(近海警備中の艦娘を除く)を集め、牙也は昨日の夜に何が起こったのかを事細かに説明する。夜間の襲撃、オルフェノク、そしてオルフェノクの目的。一通りを説明すると、皆一様に信じられないといった表情をしていた。

 

 「何が何だか意味が分からないけど……Admiralとゆーが実際にそいつらに襲われた事を考えると、もう全部信じるしかないわね……」

 「いよいよここも危なくなってきた、という事か……牙也、そのオルフェノクとやらは私達だけでも対処出来るのか?」

 「どうだろうな、試した事ないから分からん……が、攻撃が効かないという事はないだろうと見てる」

 

 頭を掻きながら牙也は言う。と、アークロイヤルが挙手して尋ねた。

 

 「最初牙也と会った際に現れたあの……『カッシーン』だったか?あれは私達の攻撃が通っていた。そのオルフェノクとやらはあれとは別の存在なのか?」

 「そうだな。俺も又聞きした話なんだが、カッシーンはそもそも機械人形の類いらしい。だからぶっ壊してしまえばそれで問題はないんだと。が、オルフェノクは違う。奴等はカッシーン以上に危険だ……恐らく今後も不定期に奴等はここを襲撃するだろうな」

 

 にわかに艦娘達はざわつき出し、その表情は焦りに変わる。深海棲艦以上の更なる脅威が目前まで迫ってきているのだから、焦るのも無理はないだろう。

 

 「ハイリア大佐、今回の件を一度上層部に報告してみては如何でしょうか?このまま手をこまねいている訳にはいかないでしょう、ただでさえ現在進行中の大規模作戦に影響を及ぼしていますし……」

 「えぇ、それも考えたのだけれど……果たして上層部は動いてくれるかしら、そこが問題なのよ」

 「と、言いますと?」

 「以前牙也が言ってたじゃない、『上にも奴等が侵入してる可能性がある』って」

 

 ハイリアの言葉にまた艦娘達がざわつき出す。レイスもまたそれを思い出してハッという表情になった。

 

 「そうか、もし上層部の中にあの怪物達を率いる者が紛れ込んでいたとしたら……報告は全て握り潰される可能性がありますね」

 「えぇ。それに今回の怪物騒ぎはここでしか起こっていないわ。上層部としても、たかだか一鎮守府の問題だけで大規模作戦を中止する訳にはいかないでしょうし……まぁやってはみるけどね」

 「むむむ……となると、やはり我々だけでこの問題を対処せねばなりませんな」

 「えぇ。牙也、申し訳ないのだけれど私達に力を貸してくれないかしら?」

 

 ハイリアの問い掛けに牙也も首を縦に振って答えた。

 

 「ここまで来たら乗りかかった船だ、俺も手を貸す。流石にこれは俺も見過ごせないんでな」

 「ありがとう、恩に着るわ」

 

 牙也とハイリアは握手して互いの協力を確認し合った。と、会議室の通信機がけたたましく鳴り響いた。一番近くにいたレイスが急いで通信を始める。

 

 「はい……おや、ジャーヴィスか。近海の様子はどうかな……え、なんだって?もう一度言ってくれないかい……な、なんだって!?それは本当なのかい!?」

 

 レイスが思わず上げた大声に、牙也もハイリアも艦娘達も何があったのかと釘付けになる。そしてレイスは「ふむ……ふむ……分かった、すぐに!」と言うと通信機を切り全員に向き直った。

 

 「レイス中佐、何かあったの?」

 「ハイリア大佐、まずい事になりました……ジャーヴィス達近海警備部隊が、あの戦艦レ級に出会してしまったようです」

 「何ですって!?それでジャーヴィス達は!?」

 「今は近くの小島に避難しているとの事ですが、レ級の攻撃で中破大破した娘が半数以上で、身動きが取れない状況らしいです」

 「くっ、こんな時に……!ビスマルク、リシュリュー、オイゲン、ゴトランド、ネルソン、シェフィールド!貴女達は救援艦隊としてすぐに出撃しなさい!旗艦はビスマルクが務めて!」

 「分かったわ!このビスマルクに任せなさい!」

 「アーク、君も空母機動部隊を連れて向かいなさい!編成はヴィクトリアス、グラーフ、コマンダン・テスト、レーベ、マックスだ!」

 「了解!」

 

 ハイリアとレイスの素早い指示を受け、ビスマルク達が急いで会議室を飛び出していく。にわかに会議室が騒がしくなる中、牙也もまた動き出そうとしていた。

 

 「ハイリア、レイス。俺もあいつらに同行する、良いな?」

 「どうして?」

 「その近海警備部隊を襲ったっていうレ級だが……俺の勘が正しければ、そいつの目的は俺だ」

 「貴方が目的?どういう事ですか?」

 「ここに来る以前に、俺は二度レ級を相手しいずれも勝利してる。恐らく奴は、リベンジの為に俺を探しているのかもしれない」

 

 二人は驚いて牙也を見た。レ級と言えば、数ある深海棲艦の中でも一、二を争う程の実力を持ち、あの鬼級・姫級と呼ばれる指揮官クラスの深海棲艦に匹敵するとされる敵だ。戦艦クラスを優に越える威力の砲撃に並みの空母以上の艦載機を操り、更には雷巡レベルの魚雷も使う。化け物なんて言葉が似合う敵を二度も相手し、あまつさえ勝利しているという牙也に、二人は心強さと共に恐ろしさを覚えた。

 

 「……分かったわ、行ってちょうだい」

 「ハイリア大佐!?本気ですか!?」

 「今回の目標はあくまでもジャーヴィス達の救援よ。心苦しいけど……牙也が行ってくれないと全滅の危険さえあるわ。牙也にレ級を引き付けてもらって、その間にジャーヴィス達を救助し撤退……はっきり言って、それしか善策は浮かばないわ」

 「そういう事だ、俺は先行してレ級を出来る限り引き付けておく。救助はビス子達に任せるぜ」

 

 そう言うと牙也は会議室の窓から跳躍し、そのまま海面を駆けていく。あっという間にその姿は見えなくなった。

 

 「……レイス中佐、ビスマルク達に牙也が先行した事を伝えに行って。それと、ジャーヴィス達の救助が最優先事項だとも伝えてちょうだい。他の娘達も艤装を準備していつでも出撃できる状態にして」

 「分かりました」

 

 レイスと残っていた艦娘達も急いで会議室を飛び出していく。一人になった会議室の窓から、ハイリアは外海を見据える。

 

 「……頼んだわよ、牙也」

 

 無力な自身を呪いつつも、ハイリアは牙也に希望を託し、そして出撃していった艦娘達の無事を祈った。

 

 

 

 

 

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