元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編) 作:神羅の霊廟
金色と黒、そして赤に彩られた重厚な装甲。膝丈まであるマント。金色に輝く一振りの剣。そして、バックルの正面部で一際目を引く本の形をした物。その剣士は牙也や最上と同じように海面に立ち、悠然として聳えていた。牙也は大剣を構えて警戒の姿勢を崩さず、レ級も鮫のごとき歯をギラつかせて艤装の砲を向ける。
「……何故ここに来た。出番はまだ先だろう」
最上が現れた剣士に向かってそう聞く。すると剣士は最上の言う事が理解出来ないのか首を傾げた。
「出番?何を馬鹿な事を。どうやら勘違いしているようだな、お前は」
「勘違いだと?」
「そうだ。私の出番がまだなのではない……お前の出番が終わるのだ」
そう言うと剣士は懐から一冊の本を取り出してページを開いた。するとその本から何やら黒い靄が溢れだし、最上を包み込み始めた。
「これは……!貴様、何をするつもりだ!」
「お前はもう用済みだ。その程度の敵に苦戦するような者など必要ない。大人しく本の世界へ還るが良い」
「貴様ァ……!あれだけ手伝ってやったというのに!私との約定を違えるつもりか!?」
「約定?知らんな、そんな物は。寧ろ叶えてくれるとでも思っていたのか?だとしたらお前は随分おめでたい頭をしているな」
「くっ……!詰めが甘かったか、あの時と同じように……なんと不甲斐ない……!だが!」
最上は最後の足掻きとばかりにスチームガンでその剣士を撃った。しかし放たれた弾は、剣士によって埃を払うかのようにあっさり落とされた。
「無駄だ。お前は私が本から呼び出した存在。私に攻撃する事は出来ん」
「おのれ……!おのれぇぇぇぇぇぇぇ!!」
最上は最後まて抵抗を続けたが、遂に全身を靄に呑まれてしまった。最上を呑み込んだ靄は、そのまま剣士が持つ本へと戻っていき、靄が全て本に戻ると剣士はその本を閉じて懐にしまった。
「さて……これで心置きなくお前達と話ができるな」
剣士は金色の剣をガス状にして一旦収納すると、牙也達に目を向けた。
「改めて……ようこそ、『私の』世界へ。歓迎するよ、異界の戦士。そして異端なる深海棲艦」
両手を広げて挨拶する剣士に、牙也とレ級は更に目を鋭くする。剣士は「はて……」と何か考えていたが、やがてハッとして手をパンと叩いた。
「おっと失礼、自己紹介がまだだったな。名乗らずにいるは剣士の誇りに反するものだ……私は『ソロモン』。この世界の頂点たる者だ」
「『ソロモン』……?お前、ハイリアの鎮守府に差し向けられた刺客の親玉か!」
「親玉とは人聞きの悪い……せめてトップと呼びたまえ、異界の戦士よ」
高笑いしながらソロモンは牙也にそう語りかける。その話しぶりに対し苛つきを覚えながらも、それを必死に抑えながら牙也は問う。
「何故俺が異界から来たと分かる?」
「ん、違うのか?そんな筈はないだろう。何せ君をここに呼んだのは他でもない、私なのだからな」
「何……?」
どういう事か。牙也、箒、そしてエジョムの三人は、ヘルヘイムの森に開いた異界同士を繋ぐクラックに導かれてこの世界へとやって来た。その過程に何者かが干渉するなど、たとえ神であったとしても出来る訳がない。だのにここに呼んだのが自分とは、一体何の冗談か。
「お前……俺の何を知っている?」
「知っているとも、全てではないがな。お前が綴った物語を少し読んでみただけの事だ」
「物語を読む?どういう事だ?」
牙也が聞くと、ソロモンの背後が揺らめいたかと思うと、そこに数多の本が揃えられた複数の本棚が現れた。ソロモンはその中にあるちょうど一冊分の隙間に先程の本を戻し、新たに別の本を本棚から抜いて開いた。
「これは『記憶の本棚』。私の趣味は、この本棚に並んだ数多の物語を観賞する事……お前の事は、今私が持つこの本で知った」
ソロモンは手に持った本を表紙が牙也に向くように見せつけてきた。その本の表紙には『零 戦国異聞録』と書かれている。
「俺の、本……?」
「そうだ。これにはお前がどのような道を歩んで来たか、どんな力を手にし、そして行使したかーーその全てが記されている。まだ読み臭しだがな」
そう言うとソロモンは本を閉じて元のように本棚に戻した。本が戻されると、同時に本棚も消える。
「どんな世界にも、必ず物語はある。何処の誰とも知れぬ輩が紡いだ物語が存在する。私は知りたいのだ。そんな物語を。そして、その根底にある『意志』を」
「その為に、他の世界を我が物にするのか?」
牙也の問いに、ソロモンは黙って頷く。
「……私がいつ、何処で、どのような経緯で生まれたのかは分からぬ。が、生まれた以上何か意味がーー目的がある筈だと思っていた。しかしどれ程の年月が経とうと、私が生まれた意味も目的も、分からずじまいだった。そんな時に出会ったのが、この『記憶の本棚』だ」
「この本棚の本を手に取り読んだ時、私の魂は今までに無い程に高揚した。そこにあったのは、私の知らぬ戦士達の記憶。私の知らぬ動物達の記憶。私の知らぬ植物や鉱物の記憶。高揚した。興奮した。そして確信した。私は、この本棚と出会う為に生まれたのだと。だが……」
そこで言葉を切り、力強く拳を握り締める。
「……長年この本棚に並ぶ本を読んでいる内に、私はある一つの疑問を持った。何故『私の』本がないのか。何故『私の』物語がないのかと。物語は数多ある。なれどそれは『他人の』物語だ。私のーー私『だけ』の物語が何故存在し得ぬのか。私は考えた」
「そして気づいた。私には、『意志』がない。何かを為そうとする『意志』が欠落しているのだと。思えば私が生まれてからの年月は、今思い返せば常人からすれば異常とも言えるものだった」
「誰に命令された訳でもなく、ただ流されるがままに食事をし、遊び、眠り、ただ悪戯に時を過ごす。誰かと出会い、話し、別れ、そしてまた出会う。そんな毎日だった。それが私だった」
「私は求めた。己を突き動かせるだけの、ありったけの『意志』を。私が生きる為の『目的』を。そしてーー私の全てを記す、『私だけの物語』を!」
両手を大きく広げ、狂った笑い声を上げながら語るソロモン。しかしその笑みはすぐに消えた。
「しかし、手に入る事はなかった。『意志』も、『目的』も、『物語』も。私は嘆いた。何故私には、『意志』がないのか。何故私は『目的』を得られぬのか。何故私は『物語』を書けぬのか、とな」
「ならば、己の手でどうにかすれば良い。『意志』が無ければ己で作れば良い。『目的』が無ければ身近なものから探せば良い。『物語』が無ければ己が書けば良い。そう決意した。そして追い求めた。何十年、何百年、何千年と」
「そして今ーーその物語は一旦の終幕を迎える。この世界が我が物になるのと同時にな」
凍り付く程に冷たい視線を牙也達に向けながら、ソロモンは語る。
「が、ここに来て我が物語に思わぬ登場人物が現れた。それがお前だ」
「私の書く物語に茶々を入れるばかりか、私の物語を否定し、更には私をも上回ろうとしている。強敵だ」
「が……まぁ総じて物語にはよくある事だ。全てが順調に進んでいたその時になって、いきなり大きな壁にぶち当たるーーまさに今。この時、この瞬間こそ、間違いなく私に立ち塞がる壁ではないか。これほど嬉しい事はない」
「私の物語は……着々と書き進められている。それを実感出来たのだからな」
ソロモンはそう言うと、金色の剣を召還して構えた。仮面で見えないが、恐らくその下にある表情はまさに剣士のそれなのだろうか。
「……抜け、強き者よ。小細工抜きの勝負と洒落込もうではないか」
威風堂々とした姿勢で牙也を見やるソロモン。対して牙也もまた大剣を抜いて戦闘態勢に入る。そして互いに一歩ずつ前進し、二人は真正面から向かい合い、睨み合う。
「フッ!」
「ハッ!」
そして二人同時に得物による攻撃を繰り出した。牙也は大剣を片手で持って振り下ろし、ソロモンは黄金の剣を逆手に持って振り上げた。刃と刃がぶつかり合う音が海上に響く。力はほぼ互角でどちらも押し負ける様子はない。
と、先に牙也が動いた。大剣を持った腕に力を込めてソロモンを押し込み、力強く大剣を振るってソロモンを弾き飛ばす。ソロモンが空中で態勢を整えて海面に着地した所へ、牙也は間髪入れず攻め入る。低空の跳躍から大剣を上段に構え、振り下ろす。ソロモンは金色の剣を順手に持ち変えてそれを受け止めた。そのまま剣を振り抜いて弾き、今度はソロモンから攻め入る。『神速』とも表現できる程の速さの突きと斬撃で止めどなく攻め入り、反撃の隙を与えない。牙也もまた大剣で襲い掛かってくる突きと斬撃を受け止め続ける。
「やるな」
「そっちこそ」
軽口を叩き合いながら得物の打ち合いを続ける二人。と、ソロモンが一旦距離を取った。そしてバックルに差した本を閉じると、バックルのボタンを二回押した。それにより本は別のページが開かれる。
《Solomon Strash!》
その音声と共に、金色の剣は巨大な剣のオーラを纏い、禍々しいエネルギーが集約していく。
《ソイヤッ!ゼロオーレ!》
対して牙也もドライバーの小刀でロックシードを二回切り、大剣にオーラを纏わせる。
「むんっ!」
「おおおっ!」
そしてほぼ同時に二人は横凪ぎに剣を振るった。エネルギーの刃が衝突し衝撃波を生む。しかし威力は拮抗し互いに健在。ならばと二人は再び横凪ぎに剣を振るった。しかしまた拮抗。そして二人は止めと言わんばかりに突き攻撃を繰り出した。互いの刃が衝突し、今度は大爆発が起こる。
「どわっ!」
「むおっ!」
三度威力の拮抗により双方共に弾かれ、二人は大きく飛ばされながらも何とか態勢を立て直して海面に着地した。牙也は大剣を構え直す。しかしソロモンは逆に剣を降ろし考え事を始めた。
「正面から叩いて倒れる相手ではない、か。かといってしょうもない小細工や搦め手も効きそうにはない……ううむ」
ブツブツ呟きながら思考の沼に嵌まっていくソロモン。見るからに大きな隙を作っているが、何故か牙也は攻め込もうとしない。ただ大剣を構えてソロモンの様子を伺っている。その様子にソロモンは「チッ」と舌打ちした。
「乗って来んか。やはり小細工は効かんと見てよしーー」
そこまで言葉を発したところで、ソロモンが咄嗟に防御態勢を取る。と、上空からエンジン音がしたと思うと、ソロモン目掛けて大量の爆弾が落ちてきた。爆弾はソロモンやソロモンの周囲に落ち爆発する。上空を見上げると、そこには禍々しい見た目の艦載機が複数飛び回り、ソロモンに向けて爆弾を落としていた。
「アハハ!アタシヲホッタラカシナンテ良イ度胸シテンネェ!次ハアタシガ相手ダ!」
飛んでいた艦載機は、レ級から発艦したものだった。尻尾型の艤装の口の部分から次々と飛び出し、ソロモンへ向けて飛んでいく。当のレ級も艦載機を発艦させつつ、猛スピードでソロモンに接近し殴り掛かる。ソロモンはそれを左手で軽々受け止める。が、次の瞬間ソロモンは大きく吹き飛ばされた。間髪入れずレ級の尻尾が体当たりの如く正面から突っ込んできたからだ。再び態勢を立て直して海面に着地するソロモンに、更に艦載機の爆撃が襲い来る。
「嘗めるな!」
《Solomon Strash!》
ソロモンはまた本を閉じてバックルのボタンを二回押す。今度はソロモンが持つ剣の形をしたエネルギーが複数個周囲に現れた。剣を振るい、エネルギーを艦載機目掛けて飛ばす。剣のエネルギーと艦載機は正面から衝突し、次々と爆発四散していく。
「アハハ、良イネ良イネ!オ前モアタシノ遊ビ相手ニナッテクレルノカ!?」
ケタケタ笑い声を上げながらレ級は再びソロモンに殴り掛かっていく。ソロモンはそれを回避しつつ上空の艦載機に対処していくが、レ級はひたすらに拳打のラッシュを繰り返してくるし、艦載機はレ級が近くにいるのも構わず爆撃を続けてきた。
「無茶苦茶な攻撃をしてくるか……鬱陶しい!」
《Solomon Zone!》
バックルに差した本を閉じ、バックルのボタンを今度は三回押す。すると本は今までとは違うページが開かれ、三人の周囲が異様な空間に変わった。三人が立つ場所が、ページの開かれた本の上にあるかのごとく変化し、やがて足元に広がる本のページが捲られると、三人が立つ場所の周囲は何もない荒野に変わった。
「なんだこの能力!?」
「海ガ陸地二!?」
見た事もない能力に牙也もレ級も狼狽する。ソロモンは空中に浮かび、金色の剣を振るう。と、その後方から複数個の隕石が降ってきた。牙也は斬撃、レ級は砲撃で雨の如く降り注ぐ隕石を片っ端から破壊していく。
しかし隕石は絶えず次々と落ちてくる。回避を織り交ぜつつ対処を続ける二人だったが、レ級の方は既に余裕がない状態だ。何せ敵の能力によって不慣れな陸上での戦いに急にシフトさせられたのだから、気持ちは分からんでもない。
「アーモウ!海ジャナイカラ動キ辛イ!モウコレ脱イジャエ!」
レ級は履いていた靴を脱ぎ捨て裸足になった。そして大地を蹴り、降り注ぐ隕石を避けつつ、着実にソロモンとの距離を詰めていく。時にソロモン狙って砲撃するが、ソロモンが隕石を盾にして防いでいく。
「深海棲艦からしたら不利なフィールドだってのによくやるなぁ、レ級の奴。うし、サポートに回るか」
一方牙也もまた刀を振るって隕石を破壊。何度か隕石を破壊したところで、ふと気づいた。自分へ隕石が落ちてこなくなり、代わりにレ級目掛けて落ちてばかりいる事に。ソロモンがレ級に狙いを定めたと読んだ牙也は、ソロモンに気取られぬよう静かに移動を開始した。
「アハハ!沈メ、墜チロォ!」
「チッ、ものともせず立ち向かってくるか……!深海棲艦とはどうしてこうも野蛮な輩が多いのか……!」
レ級は空中に浮かぶソロモンのほぼ真下まで辿り着き、そこから砲撃を続ける。艦載機は使わず、あえて主砲・副砲による攻撃のみ。艦載機を飛ばしても良いのだが、隕石が降り注ぐ今の状況では逆に邪魔になるだけだし、そもそも隕石が空を埋め尽くしているせいで発艦すら出来ない。なのでとにかく砲撃をするしかレ級に手段は無かった。
「面倒だ……ここで終わらせてやる!」
ソロモンが天高く剣を掲げると、ソロモンよりも更に上空に今までより遥かに巨大な隕石が現れた。
「デカッ!?」
「これで終いよ……消え去れ!」
剣が振るわれ、その隕石はレ級目掛けて落下を始める。それをなんとか破壊せんと、レ級はありったけの主砲と副砲を隕石に撃ち込む。
「ウオオオオオ!壊レロ、壊レロ、壊レロォォォォォォッ!!」
「無駄な事を……貴様の砲撃では、このデカさの隕石は壊せはせん。諦めろ」
ソロモンはそう諭すが、レ級は尚も砲撃を撃ち込み続ける。しかし砲撃はせいぜい隕石の表面をちょっとだけ崩す程度しかなく、壊れる風ではない。
「ウオオオオオ!諦メルモンカァァァァ!」
「終わりだ……消えろ!!」
レ級の必死の抵抗も空しく、遂に隕石はレ級の立つ地面に落下し、レ級を押し潰した。落下の衝撃で周囲に衝撃波が走り、大きな地震も起こる。それを見つめながら、ソロモンは一言。
「他愛ない……やはりこの程度だったか」
「他愛ないのはお前だって同じだろ?」
「!?」
突如聞こえた声にソロモンが振り返ると、いつの間に昇ってきたのか、牙也が両手に二本の零旗(ゼロ・フラッグ)を振りかぶってそこにいた。
「遅い!」
ソロモンが防御しようとしたが、それより早く零旗がソロモンに叩き込まれた。怯んだソロモンに牙也は更に零旗の乱舞攻撃で追い討ちを掛ける。横凪ぎ、突き、上段斬り、下段斬り。反撃どころか防御の隙さえ与えず、牙也はソロモンを追い詰める。
《ゼロスパーキング!》
「いい加減観念しやがれ!」
ドライバーの小刀でロックシードを三回切り、牙也は零旗の突きをソロモンに撃ち込んだ。ソロモンが隕石の如く落ちていくのを目掛け、今度は零旗を投げ付ける。同じように隕石の如く落ちていく零旗はソロモンに突き刺さり、そのまま地面に激突して大爆発を起こした。爆風に吹き飛ばされ、ソロモンは荒野に転がされる。牙也は優雅に荒野に降りてきた。
「ぐ、ふ……油断した……だが、あの深海棲艦だけは仕留めてーー」
「まさか、俺が何の対策もしてないとでも?」
ソロモンの絶え絶えな言葉を遮り、牙也はあの巨大隕石が落ちた方向を指差す。ソロモンが顔を上げてその方向を見ると、隕石は完全には地面に落ちておらず、何かによって受け止められていた。
「巨大な、腕……?」
隕石を受け止めたのは、巨人の如く太い緑色の腕だった。目を凝らして見ると、それは蔦が幾重にも絡まって作られた腕だ。それが十数本伸びて隕石を受け止めていた。更によく見ると、蔦の腕に隠れて見え辛いが、誰かが蔦の腕と共に隕石を受け止めていた。
「レ級、大丈夫!?生キテル!?」
黒の長髪にネグリジェ風ワンピースの女性と、彼女とコードのようなもので繋がれた異形の如き見た目の艤装。
「セ、戦艦棲姫!?」
戦艦棲姫である。彼女のか細い両腕と、彼女と真逆な艤装の太い両腕が蔦の腕と共に隕石を受け止めていたのだ。と言っても、隕石自体は蔦の腕が受け止めており、戦艦棲姫と彼女の艤装は支えている程度なのでそれほど負担はない。
「いつの間に……」
「ケケケ、詰めが甘いな。けどまさかレ級の仲間が来るとは俺も読めなかったな」
してやったり、の表情で牙也が笑う。するとさっきまで荒野だったのが、本のページが捲られるようなエフェクトと共に元の海上に戻った。
「お、能力が切れて元に戻ったな。さて、どうする?まだ続けるか?」
「くっ……」
腕を組みながら牙也がソロモンに問う。仮面に隠れて見えないがソロモンは悔しそうにしていた。
「……やむを得ん、今回は私の負けだ。だが忘れるな……どれだけ貴様等が抗おうと、最後に勝つのは……私だ」
捨て台詞を残し、ソロモンはマントをはためかせた。するとソロモンは金色の粒子となって消えた。牙也は「フン」と鼻を鳴らし、ドライバーからロックシードを外して変身解除した。
「緒戦はギリギリで取った……さて、これからだな」
ボソリと呟く。と、波の音と共に戦艦棲姫が牙也に近寄ってきた。艤装の両腕にはレ級が抱えられている。
「……レ級ヲ助ケテクレテ、アリガトウ。貴方ネ、レ級ガ気二入ッタト話シテタ男ハ」
「まあな……で、どうする?次の相手はお前か?」
牙也が聞くと、戦艦棲姫は首を横に振った。
「実力差ガ分カラナイ程馬鹿デハナイワ。私ハレ級ヲ連レテ引キ上ゲル。コノ娘モ疲レテ寝チャッタシネ」
レ級の頭を優しく撫でながら、戦艦棲姫は鋭い目で牙也を注視する。牙也は腰に手を当て一言、
「……別に追ったりはしねぇよ。こっちも消耗してるんだ、わざわざそっちの得意なフィールドに突っ込んで行く気は更々ねぇ」
「ソウ。ナラ失礼サセテモラウワ」
そう言うと戦艦棲姫は踵を返して歩き出した。その体と艤装はゆっくりと海中に沈んでいく。と、体全体が海中に沈む前にふと戦艦棲姫が振り向いた。
「……マタ会イマショウ。強キ人」
それを最後に、戦艦棲姫は海中に消えた。海上には牙也だけが残り、聞こえる音も波の音くらい。
「周辺に敵影なし……帰るか」
敵がいないのを確認し、牙也もまた帰路につく。
最初の難は退けた。しかしまだ暫く難は続くだろうーー心中で牙也は今後の事を思案しつつ、鎮守府へと歩を進めるのだった。