元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編) 作:神羅の霊廟
鎮守府の港にハイリア、レイス、そして二人が率いる艦娘達が勢揃いして牙也の帰還を今か今かと待っていた。海上ではグラーフやアークロイヤル達空母が索敵機を飛ばして周辺の警戒及び牙也の捜索を行っている。
朝早くからバタバタしていた鎮守府もすっかり落ち着きを取り戻していた。しかし牙也の帰りを待つハイリア達の表情は曇りがちだった。
「遅いわね……何かトラブルでもあったのかしら」
「どうしますか、ハイリア大佐。一艦隊編成して迎えに行かせましょうか?」
「いえ、もう少し待ってみましょう。牙也の事だから滅多な事は無いと思うけど……」
現在時刻は1530。朝早くからジャーヴィス達近海警備部隊の救援に出てから既に7時間以上経過していた。ビスマルク達救援部隊は1100までには全員無事に帰還し、ジャーヴィス達は帰還し次第即刻ドックに直行させた。すぐに牙也も帰ってくるだろうと踏んでいたが、いつまで経っても彼は帰還せず、心配になったハイリアは空母の艦娘達を総動員して捜索に当たらせたのである。
また空母以外の艦種の艦娘も牙也を心配してかハイリアの元に集まり、捜索隊の編成をハイリアに進言したが、彼女はあえて返事を保留した。艦娘達の疲労の事もあるし、何より牙也には自分達より遥かに実力がある事を考慮してあえて捜索隊を出さずにいた。しかしあまりにも帰りが遅く、ハイリアはそろそろ捜索隊を編成すべきかと考え始めていた。
「ん……?見つけた!アドミラール、牙也を発見したぞ!」
グラーフがそう叫ぶと、全員がグラーフに目を向けてくる。
「本当に!?彼の様子はどう!?」
「ふむ……索敵機の妖精いわく、見た感じ怪我等はしていないようだ。だが幾分疲労が見えるという。誰か迎えに行った方が良さそうだ」
「それだけ聞ければ充分よ!ビスマルク、当然行けるわよね!」
「任せなさい!グラーフ、場所は分かる!?」
「大丈夫だ、今索敵機を牙也のちょうど真上辺りで旋回させている。距離的にはそこまで遠くないぞ」
「分かったわ、グラーフ含めて誰か三人ほど付いて来なさい!」
ビスマルクの号令と共に、グラーフ、プリンツ、ゴトランドの三人が彼女に続き、牙也を迎えに行く。彼女らを見送り、ハイリアはホッと一息。
「良かった、牙也が無事で。ジャーヴィス達も中破・大破こそあれど皆無事に帰還出来たし、万々歳ね」
「レ級が出たと聞いた時は肝を冷やしましたが……彼がいてくれて良かったです。彼がいなければ、今頃被害は更に拡大していたでしょうね」
レイスも安堵のため息を漏らす。ふとハイリアは「それにしても……」と漏らす。
「凄い強さね、牙也は。あのレ級をものともせず撃破するなんて」
「ジャーヴィスから報告を聞いた時はまさかと思いましたよ。敵に回していたらと思うと……ゾッとしますね」
「そうね。彼が帰ってきたら盛大にお礼しなきゃいけないわ」
そのまま待つ事幾ばくか。
「アドミラル、どうやら帰ってきたぞ」
アークロイヤルが指差した先に、ビスマルク達四人と彼女らに囲まれて談笑しながら歩いてくる牙也の姿があった。牙也は港に勢揃いするハイリア達に気づくと親指を立てて応える。
「ただいま帰りましたよ……っと」
「お帰りなさい。随分時間が掛かったのね」
「あぁ。その事も含めて色々報告がある。大丈夫か?」
「問題ないわ。寧ろ貴方こそ大丈夫かと聞きたいわよ」
「その質問をするくらいなら、さっさと報告させてくれよ。ところで俺が助けた駆逐達は?」
牙也が聞くと、ハイリアは親指をグッと立てて得意げな表情。
「戻ってきてすぐドック直行よ。中破・大破こそあるけれど、皆命に別状はないわ」
「そうか……そいつは良かった。んじゃ、順繰りに報告するとしようか」
牙也は今までに何が起きていたのかを事細かに話した。牙也を追い掛けてきた個体とは別個体のレ級との戦闘、最上、次いで一連の出来事の黒幕たる存在『ソロモン』との邂逅、そして戦闘。牙也の話を聞いていた者達からは様々な反応が出た。
「連合艦隊を組んでいても苦労したあのレ級を一捻りって……彼一人で私達何人分の戦力になるのかしら……」
「あの人確かに強いけど……何か裏でヤバい事してるんじゃないのかなぁ……?見返りに私達に関係を求めるとか……考えてるんじゃないよね……?」
「ソロモン……私達の戦いに水を差しただけに留まらず、挙げ句の果てにはこの世界を我が物に、ですって……!?ふざけているの!?」
途中何やら誤解を生みかねない発言が混じっていたが、牙也は敢えてスルーする。ハイリアとレイスは報告を聞き顔を見合わせた。
「まさかこんな早い段階で敵のトップが出張ってくるなんて。牙也が勝てたのは幸いだったけど……次回はそうは行かないかもしれないわね」
「ソロモンもこれで諦める筈がありません。きっと更に戦力を整えて私達を徹底的に潰しに掛かるでしょうね……どんな手段を使ってでも」
「それなら早く先手を打たなくちゃいけないわ。早急に本部に連絡をーー」
「それはお止めになった方が宜しゅうございます」
ハイリアの影が歪み、そこからエフィンムがゆらりと顔を出した。周囲の艦娘達が慌てて戦闘態勢に入るが、牙也が「俺の腹心だ。手出し無用」と言って右手でそれを制し、既にエフィンムを知るハイリア達も彼女達を宥める。
「ご苦労、エフィンム。それで『本部への連絡は止めておくべき』とはどういう事だ?」
「我が主の命で本部の職員に扮して潜入しておりました。その際私と同じように職員に扮して本部に出入りするソロモン配下とおぼしき輩を発見致しましたので、秘密裏に捕まえて尋問し、いくつか情報を得ました。こちらそれをまとめた資料でございます」
エフィンムは山となった資料を牙也達に手渡す。三人は受け取った資料を黙読し、その内容に驚愕の表情を見せる。
「やられましたね……既に手遅れと言っても過言ではない状況でしたか」
「そんな……!奴等は既に、本部のほとんどを掌握していたの……!?私達の与り知らぬ所で、黙々と……!」
レイスは資料の内容に頭を抱え、ハイリアもまた資料を持つ手に無意識に力が入り資料を握り潰していた。そこに書かれていたのは、ソロモンに協力しているとされる本部の将官達の名前だった。名前の挙がっている将官はそのほとんどが大将や中将で、本部の運営に多大な貢献をしている者ばかりだった。
「ちっ、既に奴に先手を打たれていたのか……エフィンム、ここ以外で同じように怪物の被害を受けた鎮守府はあったか?」
「はい、かなりの数の鎮守府がソロモン配下の怪物達に襲撃され壊滅しています。ですが裏でソロモンに協力している将官達が他の将官に悟られぬよう深海棲艦の奇襲が原因と偽って報告し、更に自らの配下の将官を襲撃された鎮守府に置いて内部から掌握。それを繰り返し、奴はいずれ本部どころか国ーー果ては世界すら掌握せんとしております」
「既にソロモンの手中に堕ちたと思われる鎮守府の数は分かるか?」
「正確な数字は分かりませんが……目算ではこの国に設置された鎮守府のおよそ三分の二ーーいえ、それどころではありませんな。この国どころかヨーロッパ各国に置かれたほとんどの鎮守府は既に堕ちているかと……」
エフィンムの報告にハイリアとレイスは愕然とし、牙也も頭をかきむしる。艦娘達からもざわめきが聞こえ出す。
「ハイリア、以前から鎮守府の壊滅の報告は上がってたのか?」
「ええ。このヨーロッパは世界中を見ても特に深海棲艦の数が多く激戦になりやすい場所。だから鎮守府一つ壊滅なんて事もなくはなかったわ。けど半年前くらいからそれが顕著になってて、不思議に思ってたんだけど……まさかソロモンの仕業だったなんて……!」
ハイリアは悔しそうに唇を噛む。
「俺がここに来る以前から、既に末期状態だったって事か……くそっ!」
「落ち着いて下さい、我が主。劣勢の時こそ冷静になれ……そう言ったのは我が主でしょう?」
「……あぁ、そうだったな。ハイリア、レイス、リストの中に名前が載ってない提督で、お前達が一番信頼を置けるのはいるか?」
牙也にそう聞かれ、二人はリストをもう一度読み返す。が、やがて二人は力無く首を横に振った。
「いないわ。元々私やレイス中佐は本部の中でも鼻摘み者だったから、私達と仲良くしようなんて酔狂な人はいなかったわ」
「今の本部は艦娘の運用について素人が多すぎるのです。艦娘など代えが効く、また建造すれば良いなどと言う安直な思考の人達ばかりで、私達は以前からその運用法の危険を指摘していたのですが……」
「聞く耳持たず、か」
「はい。逆にそれを咎められ、また以前行われた防衛戦で軍規違反したという根も葉もない理由でここに二人揃って左遷されました」
「ビスマルク達ここにいる艦娘もほぼ同じ理由ね」
牙也は頭を抱える。周辺に共同戦線を張れる鎮守府はなく、本部は気付かぬ間にソロモンにほぼ掌握され、人員も圧倒的に足りない。最悪な状況だ。
「まさしく孤軍奮闘、か」
「いかがなさいますか?ソロモンに加担している者達を消せ、とおっしゃられるのならばすぐにでもーー」
「いや、それは無しだ。この問題が解決した後の事を考えると、その一手は一番やってはいけない悪手になる」
「と言うと?」
「アホ。これだけの人数全員消してみろ、全部解決した後の対深海棲艦の対応はどうすんだ」
「あ……」
資料を叩きながらぼやく牙也の言葉に、ようやくエフィンムも自身の発言のミスに気づいた。確かにソロモンに加担した者達を秘密裏に消してしまえば、ソロモンに対しては多少強気に出られるだろう。
しかしソロモンの問題が解決しても、まだ深海棲艦との戦いが残っている。しかもソロモンに加担しているのは対深海棲艦において最も重要な海軍本部の幹部達だ。もし彼らを消せば、対深海棲艦での人員が足りず、更なる窮地に陥るのは目に見えている。
「……出過ぎた発言でした。申し訳ありません」
「もっと冷静になれ、エフィンム。今俺達が為すべきは、『今をどうするか』を『解決した後の事も含めて』考える事だ」
「む。なかなか難題ですな」
牙也の言う通り、今この鎮守府は冷静な判断を迫られていた。もしソロモンの対処に集中しようものなら、その隙を突いて深海棲艦が出張って来るだろうし、かといって深海棲艦に目を向ければたちまちソロモンの餌食となる。どうすれば良いのか、選択一つで生き残るか滅びるかが決まる。迂闊な判断は決して許されるものではない。
「でもどうするのよ。深海棲艦に降るのは論外だし、かといって本部はソロモンの傀儡状態なのよ、八方塞がりじゃないの!」
「それなんだよなぁ、他の鎮守府の協力者が一人もいないのは厳しい。本部の面子をとうにかソロモンから引き剥がす事が出来れば対応のしようはあるんだが……」
牙也は頭を抱えるしかない。と、建物の方から二人ほど艦娘が走ってきた。その二人は赤を基調とし胸部が白の制服をお揃いで着こなしており、片方はピンクのロングヘアー、もう片方はピンクの短髪。恐らく姉妹なのだろう。
「あらアブルッツィ、ガリバルディ。どうかしたの?」
「大変だぜ、提督!今本部からオルディエン中将が来たんだ!」
「本部より伝令を帯びて来た、との事です。すぐに応接室へお越し下さい」
「げ、よりによってあの金髪デブかぁ……分かったわ、二人は先に行っておもてなししといて」
それぞれアブルッツィ、ガリバルディと呼ばれた二人は揃って「了解」と言うと来た道を戻っていく。それを見送りながら、ハイリアは「はぁ~~」と長いため息をついた。
「憂鬱だわ……なんとなく理由が分かるだけにね」
「十中八九大佐が考えている通りでしょうね。さて、どう切り抜けるべきか」
「取り敢えず話を聞くだけ聞いてみましょう。対応はその内容によるわ。そういう訳だから牙也、また後でね」
ハイリアはレイスと共に応接室へ向かう。牙也はそれを横目にエフィンムに目配せすると、エフィンムは牙也の影に潜って消えた。
「何か命じたの?」
それを見ていたのか、ビスマルクが近寄ってきた。
「ああ。二人の影に隠れて盗み聞きしてこいってな」
「貴方サラッととんでもない事言うわね……それにしてもこんな大変な時に本部から伝令だなんて、絶対面倒な案件でしょ」
「だろうな。さて……」
牙也はそこまで言って応接室があるであろう方向に目を向ける。その頭脳は、これから先激しくなるであろう戦いを見据え目まぐるしく動き始めた。
「お待たせしました」
「遅い!この私を待たせるとは良いご身分だな!」
ハイリアとレイスが応接室に入室した時、来客用ソファにドッカリ座る男がティーカップを乱暴に置きながら声を荒げた。リーゼントに近い金髪にそばかす、醜く突き出た腹に短足。『ブ男』という言葉がこれ程までに似合う男はそうそういないだろう。
先におもてなししていたアブルッツィとガリバルディは壁際に待機している。表情はいつも通りだったが、醸し出す雰囲気は明らかな嫌悪感を見せていた。
「失礼致しました。それで本日はどのような御用でこんな辺鄙な鎮守府にお越しになられたのですか、オルディエン中将?」
ハイリアは臆する事もなく目の前の男ーー『ゼキア・オルディエン』に尋ねる。
「全く……その嫌味な性格はなんとかならんものか。まぁそれもあと数日、と言ったところか」
「何の事でしょうか?」
レイスが尋ねると、オルディエンは懐から封筒を二つ取り出して二人に差し出した。二人が「拝見します」と言ってその封筒を開封して中を確認すると、
「……転属、ですか」
「しかも本部勤務……事実上の提督解任みたいなものね」
中には本部への転属を命じた文書が入っていた。アブルッツィ姉妹は驚いた表情でハイリアを見る。
「期限は明後日。それまでに荷物纏めと艦娘との別れの挨拶を済ませておく事だな。クックック」
オルディエンはそう言うと満足そうに笑った。
「ちなみにお聞きしますが……ここの後任についてはもう決定しているのですか?」
「私だ。私が後任としてここに着任する事が決定している」
それを聞いたハイリア達は露骨に嫌な表情を見せる。今目の前にいるオルディエン中将は、戦果こそ高いものの、その実態は練度の低い駆逐艦や軽巡洋艦等を盾にして敵を殲滅する所謂『捨て艦戦法』で得た戦果であり、多大な戦果の裏には数多くの艦娘の犠牲があった。
逆にハイリアやレイスは艦娘一人一人を念入りに育てて練度を高め、全員が生きて帰ってくる事を善しとし、中破・大破が出れば即撤退。とにかく戦果より艦娘の命を優先する方法を取っていた。
それぞれ別々の方法で戦果を上げているが故、ハイリアとオルディエンは普段から折り合いは悪く、本部ですれ違えば事有る毎に口喧嘩を繰り広げていた二人。そしてハイリアと同じ考えを持ち艦隊を運営するレイスもまたオルディエンには良い印象を持っておらず、自ら距離を置いていた。
「はぁ……艦娘達の説得が大変だわ」
「なに、貴様が気にする事はない。どうせ私の命令を嫌でも聞かねばならんだろうからな。はっはっは」
オルディエンは窓際に立つアブルッツィ姉妹に目を向ける。その目線に姉妹の顔は青くなる。
「……さて、私は帰るとしようか。あまり私の鎮守府を開けっ放しには出来ないのでな」
「門までお送りします」
「いらん。それよりさっさと荷物をまとめておけ」
ハイリアに冷たく言い放ち、オルディエンはドカドカと出ていった。彼が出ていきしばし。ハイリアとレイスは肩の力を抜いてソファにもたれ掛かる。
「あー……疲れたわ」
「お疲れ様です。何か淹れますか?」
「紅茶お願い。砂糖はいらないわ」
「私にも同じものをお願いします」
「姉貴、あたしも手伝うぜ」
アブルッツィ姉妹は急ぎ厨房へ入っていく。それを尻目に、ハイリアは近くの鉢植えに顔を向けた。
「……牙也達にも伝えといてね。そこにいるんでしょ?」
そう声を掛けると、鉢植えの影が一瞬ユラリと揺れたかと思うと、黒い球のようなものが影から分裂して窓の隙間から出ていった。それを見送り、ハイリアはため息をつきながら天井を見上げる。
(……残念ながら、私ではもうどうにもならないわね。牙也……貴方の戦略に頼るしか方法は無い。お願い、あの娘達を守るのに力を貸して!)
「……というのが応接室での会話の内容になります」
港に場所を戻し、エフィンムは鉢植えの影に隠れて盗み聞きした内容を牙也達に細かく説明した。艦娘達の反応は分かりやすく動揺していた。
「嘘……提督達が、本部へ異動……?」
「事実上のクビって事じゃない!馬鹿げてるわ!」
「どうして……?提督は私達と一緒に国の為、民の為に必死に戦ってきたのに……!こんなのあんまりだよ!」
非情なる本部の決定に艦娘達の表情は憤りや困惑に満ちていた。牙也もエフィンムの報告に憤り、拳を強く握り締めた。掌からはポタポタと血が垂れる。
「牙也、何とか出来ないの?このままじゃ私達皆破滅なのよ、何か策は無いの!?」
ビスマルクが牙也に詰め寄る。他の艦娘もまた全員の目が牙也に集中する。牙也は詰め寄ってくるビスマルクを一旦制止し、思考をフル回転させる。ハイリア達がこの鎮守府にいられるのは明後日までと僅かしかない。それまでにこの最悪な状況を打破しなければならない。
「……今日含めて三日か。それまでにソロモンを倒すしか方法はないな。奴が倒れれば、本部はソロモンの傘下から切り離されて力を失う。後はそれを盾にして奴等を問い詰めて異動を撤回させる」
「それなら……!」
「だが問題がある。これは俺の長年の勘だが……恐らく奴等は待ってくれない」
「奴等って……ソロモンの事?」
「いや、本部の事だ」
ビスマルク達は牙也が何を言いたいのか瞬時には理解出来なかった。牙也は続ける。
「恐らくソロモンも本部の奴等に命じてここを潰しに掛かってくるだろうな。配下に置いた艦娘達をけしかけて、ここを潰しに来る。で、後は全部深海棲艦に罪を擦り付けておしまいーーってとこだろ」
「実力行使でアドミラルを排除しに来るって事!?」
「可能性は充分にある。本部にとってハイリア達はトップの運営に真っ向から逆らう目の上の瘤だ。邪魔になれば何かと最もな理由をつけて排除する……ハイリアやレイス、それにお前達がここに飛ばされたのもまさにそれだろ?」
ハイリア達は本部の運営方法に疑問を持ち、それを何とか食い止めようとして左遷(実質的な追放とも言える)された。ならばその時と同じように本部はハイリア達を追い出しに掛かる筈だ。それも最も最悪な手段で。牙也の数百年の研鑽と勘がそう告げていた。
「……させないわ。ここは私達にとって帰るべき家であり、居場所。そしてアドミラルは私達にとって親同然であり、誰よりも大事な人。誰にも奪わせはしないわ!そうでしょ、貴女達!」
ビスマルクの言葉に、回りの艦娘達は「おぉぉぉぉぉ!!」と声を上げる。皆の心はもう一つになっている。牙也は確信した。
「こうなったらとことん戦ってやるわ!私達の執念を、本部の椅子に座る醜い蛙共に見せつけてやるのよ!グラーフ達空母は急いで艤装の整備、及び艦載機を揃えられるだけ揃えてちょうだい!点検も念入りに行って、少しの異常も無い状態にしておきなさい!」
「任せておけ!」
「他の娘も艤装の整備を大至急行いなさい!特に駆逐艦!今日から近海警備の人員も増やして、いつでも迎撃出来る態勢にしておかなくてはならないわ。今回の戦いは貴女達がとても重要になってくるという事をよく覚えておきなさい!」
ビスマルクの号令の下、艦娘達はビスマルクを先頭に急いで工廠へと走り出す。港には牙也とエフィンムだけが残された。
「素晴らしい統率力ですな」
「ハイリア達の指導と運営の賜物だろ。ハイリアはこれまで艦娘達の命を第一に考えて鎮守府を運営し、戦果を上げてきた。その結果がこれだ」
牙也は工廠へ駆けていく艦娘達を指差して言う。エジョムも納得の表情だ。
「して我が主。我々はどう致しましょうか?」
「あぁ、お前はハイリア達に張り付いて影から護衛するんだ。恐らく奴等が暗殺者の一人や二人差し向けてくるだろうしな」
「畏まりました」
エフィンムは敬礼すると、牙也の影に潜って消えた。牙也は自分以外誰もいなくなった港を見渡し、次いで外海に目を向ける。
「……確かにあいつらの団結力なら、この鎮守府を守り抜く事は出来るだろう。だが……まだ足りない。もう一押しが必要だ」
そう呟き、牙也は外海へ走り出す。海面に着地しても勢いは止まらず、そのまま外海へ駆けていく。
決戦は、目前に迫っていた。