元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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 第四話 箒sideになります。




着任決定なのです

 「……」

 「……」

 

 五十鈴は不機嫌そうに、響は少し心配そうな表情で目の前のソファに座る男ーー亜道義治を見る。亜道は拳銃を持ったままイライラした表情で座っている。また彼と五十鈴達の周りには、複数人の男がアサルトライフルを持って待機している。亜道達が乗り込んできてから、既に数時間が経過していた。

 

 「遅い……!まだ戻らんのか、あの女は!?」

 「仕方ないでしょ、遠出してるんだから。すぐには帰って来ないわ」

 「貴様になど聞いておらんわ!まったくあの女め、儂に恥をかかせおって……!」

 

 亜道はイライラを隠す事なく、自らに恥をかかせた女ーー箒が来るのを待つ。その周りには、亜道の部下であろう数人の男がアサルトライフルを持って五十鈴達を囲うように待機している。と、

 

 「……帰ってきたみたいだよ」

 

 響のその一言に亜道が執務室の窓から身を乗り出すと、港に阿武隈達遠征部隊と箒の姿を見つけた。

 

 「おい、そこの白髪の女ァ!」

 

 亜道が大声で箒に向けてそう叫ぶと、箒は忌々しそうな表情で執務室の窓に目を向けてきた。

 

 「……ちっ、また奴か。性懲りもなく……何の用だ?」

 「喧しい!儂は貴様に用があるのだ、さっさと上がってこい!」

 

 亜道の言動に怒りを露にしながら、箒は両足に力を込め、大きく跳躍した。そして執務室の窓枠に着地しそのまま中へ入る(ちなみにこの鎮守府の執務室は三階にある)。そこでふと外を見ると、阿武隈達がアングリ口を開けて呆然としていた。

 

 「お前達、ボケッとしてないで艤装や資材を降ろしてきたらどうだ?」

 

 箒に大声でそう言われ、阿武隈達は慌てて資材を倉庫に運び込んでいく。それを見送り、箒は亜道に目を向けた。

 

 「さて、今度は仲間を連れて来たか」

 「そうだ!前回は儂一人だったからこてんぱんにやられたが、複数人なら貴様も抵抗は出来まい!」

 

 亜道は得意げに胸を反らす。一方箒はと言うと、「やれやれ」といった表情で亜道を見ていた。

 

 「……お前は実力の差という物がまだ分からんのか?」

 「分かっておらんのは貴様の方だ!この光景を見よ!貴様は一人、しかし儂には仲間がおる!勝敗は歴然としておるわ!」

 

 再び得意げに胸を反らす亜道だが、箒の顔には少しも焦りはない。それどころか暢気に欠伸すらできる程の余裕っぷりであった。それが亜道の怒りを加速させた。

 

 「……貴様は命知らずの馬鹿なのか?この状況を見て欠伸などと……諦めて自棄になったか?」

 「いや……やはり貴様は実力の差も分からん無能なのだと思うと、な」

 「……ほぅ?これでもその減らず口が叩けるか!?」

 

 そう叫んで亜道は周りの男達に合図を送る。すると男達は五十鈴達を押し退けて前に進み出て、箒にアサルトライフルの銃口を一斉に向けた。

 

 「箒さん!」

 「お前達は引っ込んでおれ!女、大人しく儂に屈服せよ。そうすれば許してやらんでもないぞ?」

 「断る。貴様のような犬畜生にも劣る輩に下げる頭はない」

 「そうか。ならば今ここで死ね!」

 

 亜道が手を高々と上げると、周りの男達の持つアサルトライフルが火を噴いた。箒に向けて多量の銃弾がばら蒔かれる。

 

 「箒さん!」

 「ちょっとあんた達、止めなさいよ!」

 

 二人が止めようとするが、数人の男に突き飛ばされそのまま制圧された。その間にもアサルトライフルからは銃弾が止めどなく放たれていく。やがて弾切れを起こすまでアサルトライフルが撃ち尽くされ、男達はライフルを下ろす。箒が立っていた窓は穴だらけになり、ガラスも粉々であちこち煙が立ち込める。

 

 「ふん、儂に逆らった報いよ!おい、さっさとこやつの体を何処かへ捨てに行け!」

 

 亜道に命令され、男達は煙の中へ入っていく。と、突然男の一人が天井まで吹き飛ばされた。天井と床を交互にバウンドし、最後は床に叩き付けられて気絶する。

 

 「な、なんだ!?」

 

 亜道が驚いて煙の方を見ると、煙の中から次々と男達が吹き飛ばされてきた。壁に叩き付けられたり、天井に頭からめり込んだり、窓ガラスを突き破ってそのまま落ちていったりして、男達はそのほとんどが戦闘不能になった。亜道と五十鈴達、それに彼女達を制圧した男達が呆然としていると、

 

 「だから言っただろう……実力の差に気づけと」

 

 服の汚れを払いながら箒が煙の中から出てきた。銃で撃たれた筈の体は全くの無傷で、その左手に気絶した男の首根っこを掴んでいる。それを投げ捨て、箒はズカズカと五十鈴達を抑える男達に向かっていく。

 

 「このっ!」

 

 男の一人が殴りかかってくるが、箒はそのパンチを華麗に避け、その首筋に当て身をして気絶させた。その次に襲ってきた男にはカウンターで上段蹴りを叩き込み、その次の男はパンチを受け止め裏拳で意識を刈り取った。そのまま五十鈴達に近寄り、その体を起こしてあげた。

 

 「怪我はないか?」

 「え、えぇ。大丈夫だけど……貴女強過ぎでしょ」

 「」コクコク

 

 五十鈴は心中を正直に話すが、箒は「そうか?」と首を傾げるばかり。その周りには箒に叩きのめされた男達が転がっている。

 

 「あ……あ……馬鹿な……!?儂自慢の最強ボディーガードだぞ……!?元格闘家や軍人もいたのだぞ……!?それが、全滅……!?」

 

 一方ボディーガード全員を全滅させられた亜道は思いもしなかった結果に呆然とするばかり。

 

 「さて……後は貴様だけか」

 「ひっ!?」

 

 五十鈴と響の無事を確認した箒は、残った亜道に目を向ける。目をつけられビビる亜道に、箒はズカズカと歩み寄り、どこから取り出したのか刀を抜いて亜道に向けた。

 

 「さて、貴様に選択肢を与えてやる。ここでくたばるか、尻尾巻いて逃げるか……選べ」

 「ひ、ひぃ……!」

 「ストップ,ストーップ‼️」

 

 とそこへ、甲高い声を響かせて何かが箒を止めに入った。

 

 「?誰だ?」

 「アーヨカッタ,ギリギリマニアッタヨ」

 

 目を凝らして見ると、それは箒が一番最初にであったあの作業服の妖精であった。手には何やら封筒のようなものを二つ持っている。

 

 「ひっ!?ふ、封筒が、浮いて……!?」

 「おぉ、最初に会った妖精か。何故止める?」

 「ココハオンビンニスマセナイトダメ‼️アタラシイテイトクサンヲ,コンナコトデテバナシタクナイモン!」

 「私情が入ってないか?」

 「キノセイキノセイ。ソレヨリモ,ハイコレ!」

 

 妖精Aはそう言って持っていた封筒を一つは箒に、もう一つは何が起きているのか理解できていない亜道に渡した。いきなり封筒が自身に飛んできた事にビビったのか、亜道はまた「ひっ!?」と小声で叫ぶ。

 

 (奴は妖精が見えていないのか?妖精が見える故に提督になったと聞いたが)

 

 亜道の反応に疑問を持ちつつ、箒は封筒を開封して中の書類に目を通した。それには、箒を少佐としてこの宿毛湾泊地の提督に任命する旨の文章と、元帥のサインがあった。

 

 「正式な任命状か。というかここ(宿毛湾泊地)から大本営までかなりの距離があっただろう、いくらなんでも速すぎないか?」

 「エット……ソコハヨウセイドクジノギジュツッテコトデナットクシテ?」

 「はぁ……で?そっちの封筒はなんだ?」

 

 箒は亜道に渡された封筒を指差しながら聞く。

 

 「アァ,アッチハソコノオジサンノツギノイキサキダヨ。タシカクレチンジュフニイドウダッタハズ……」

 「なるほど。おい、さっさと正気に戻って封筒の中身を確認せんか」

 「ぴいっ!?」

 

 もはやトラウマなのか、箒の剣幕にビビった亜道は慌てて封筒を開けて中の書類を読む。

 

 「わ、儂が呉鎮守府へ……?日付は、明後日……?」

 「以前から決まってた事だよ、貴方は書類を一つも読んでなかったから知らなかったみたいだけど」

 「そ、そうか……儂の仕事ぶりが評価されたか……!ハハハ、これで儂も出世ルートに乗れるという事だ……!」

 「……駄目だ、聞いてないね」

 「そうね、都合の良い事しか頭に入ってこないみたいだわ」

 

 五十鈴と響は呆れた表情で亜道を見ている。

 

 「よし、そうと決まれば早速準備をせねばな!こらお前達、さっさと起きんか!引っ越しの準備だぞ!」

 

 亜道は気絶していたボディーガード達を叩き起こし、箒達には目もくれず意気揚々と去っていった。

 

 「……駄目だな、あれは」

 「でしょうね」

 「だろうね」

 「騒ぐだけ騒いで詫びの一つもなしか。心底腹立たしいな」

 「オイダセタカラヨシ!」

 

 「ちょっとぉ!?何ですか今の銃声は!?」

 「のんびり酒も飲めやしないよぉ。執務室で砲雷撃戦でもあったのかい?」

 

 するとそこへ阿武隈が騒ぎを聞き付けて執務室に飛び込んできた。更に彼女を追ってもう一人、ワインレッドのブラウスと狩衣風の上着、それに緋色のズボン袴の女性が瓢箪を持って執務室に飛び込んできた。

 

 「そんな訳ないでしょ、隼鷹。て言うかあんたもう晩酌してるの!?」

 「硬い事言うなよぉ、五十鈴ぅ。小皺が増えるぞ?」

 「誰のせいよ!?」

 「五十鈴さん、ドウドウ。隼鷹さん、ほかの三人はどうしたんだい?」

 「瑞鳳は艦載機の整備、龍田は文月を寝かしつけてるよ。この後暇なのあたし一人だし、晩酌したって良いじゃん」

 

 隼鷹と呼ばれた女性はヘラヘラ笑いながら瓢箪の酒を呷る。

 

 「という訳で、あたしが止めたんですけどこの有り様で……」

 「はぁ……まったく。新しい提督が来るっていうのに、呑気なものね」

 「新しい提督?提督が代わるんですか?」

 「そりゃ良いねぇ!あたしあいつ大嫌いだったんだよぉ!で?その新しい提督ってのはどこよ?」

 「あんたの目の前よ」

 「え?」

 

 五十鈴に指摘され、隼鷹は目の前にいた女性ーー箒を見た。箒はムスッとした表情で隼鷹をジロジロ見る。その表情を見た隼鷹の顔は一気に青ざめ、酒による酔いもまた急速に冷めていく。

 

 「えっと……新しい提督さん?」

 「あぁ」

 「新しい艦娘じゃなくて?」

 「違う」

 「……なんでキレてんの?」

 「お前が原因だバカタレ!!」

 

 堪忍袋の尾が切れたのか、箒は隼鷹の顔面を右手で鷲掴みにすると、指に力を込めて圧迫した。

 

 「あばばばばばばば!?」

 「うわぁ……あのアイアンクロー凄い痛そう……」

 「まぁ100%隼鷹さんが悪いし、ほっといて良いんじゃないかな」

 「えっと……御愁傷様です」

 「ちょっと見てないで助けてーーあばばばばばばば!?」

 

 そのまま約10分ほど、隼鷹はアイアンクローを受け続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「で?私はこれから何をすれば良い?」

 

 10分後。アイアンクローによって気絶した隼鷹を投げ捨て、箒は五十鈴にそう聞いた。

 

 「今日は特にないわ。全員との顔合わせは明日に回しましょう」

 「今日は色々あったしね、皆疲れてるだろうし」

 「分かった。ならば取り敢えず夕飯にするか、皆何が食べたい?」

 「夕飯?」

 「何だい、それ?」

 「え?」

 「え?」

 「え?」

 「え?」

 

 箒の問いに首を傾げる三人。少し考え、箒は自身と彼女達に認識の齟齬がある事を理解した。

 

 「ふむ……ならば質問を変えよう。お前達は食事はするのか?」

 「食事……聞いた事はあるわね。人間とかの動物は食事しないと生きていけないって」

 「でも私達は艦娘だよ?本当に必要かなぁ?」

 「しかし酒は嗜むのだろう?そこで潰れてる奴のように」

 

 箒は未だ気絶中の隼鷹を指差して聞く。

 

 「まぁそうだけど……味のしない安酒だよ?」

 「隼鷹さんは気に入って呑んでますけど、あたし的にはブッブーです」

 「そうか。まぁ物は試しだ、食事をしてみると良い」

 「でもーー」グキュルルル

 

 途端の静寂。

 

 「……穴があったら入りたいわ///」

 「まぁまぁ五十鈴さーー」グキュルルル

 

 再びの静寂。

 

 「……流石にこれは恥ずかしいな///」

 「二人揃って元気な腹の音だな。待ってろ、簡単な料理でも出してやる」

 『言わないで!!///』

 「あ、あはは……」

 

 恥ずかしさのあまりソファの後ろに隠れてしまった二人に苦笑しつつ、箒は執務室備え付けの小さなキッチンに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして待つ事15分。

 

 「できたぞ。取り敢えずお粥とうどんだ、付け合わせはお粥が梅干し、うどんはネギだ」

 

 いきなり派手な料理は腹がびっくりすると見、箒はお粥とうどんを調理してきた。それらを机に置き、お箸を脇に置く。

 

 「さぁ、どちらか選ぶと良い」

 「私はお粥にしようかしら」

 「それなら私はうどんかな」

 「あたしもうどんにします」

 「では私はお粥で、隼鷹はーー早く起きろ!」ベシッ

 「ほべっ!?」

 

 隼鷹を叩き起こし、箒は三人に座るよう促す。

 

 「それではいただきまーー」

 

 食事の挨拶をしようとしたその時、執務室のドアが砲撃のような衝撃で吹き飛び、お粥とうどんを置いていた机が衝撃につられてひっくり返った。お粥やうどんを入れたお椀が盛大にひっくり返り、辺りにお椀の破片と共に散らばる。

 

 「あらぁ~?貴女、今何をしようとしてたのかしら~?」

 

 破壊されたドアを跨いで入ってきたのは、紫かがった黒髪が特徴で、背中に箱のような形の艤装を背負い、手には薙刀を持った艦娘だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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