元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編) 作:神羅の霊廟
第十九話、牙也side
「皆、大丈夫!?」
ハイリア達が埠頭に到着した時、ちょうど哨戒部隊が帰還して上陸する所で、ハイリアを見るや否や駆け寄ってきた。
「私達は大丈夫です。スクワーロ(鮫)みたいなのが私達を助けてくれて、皆無傷で帰ってこれました」
「そう、良かったわ。マエストラーレ、それに他の皆も怪我なく戻ってきてくれて安心したわ」
一番先頭で駆け寄ってきた駆逐艦『マエストラーレ』を撫でながらハイリアは安堵の息を洩らす。と、ハイリアの後ろからデュノアが進み出てきて訊ねた。
「帰ってきて早々にすまないが、いくつか質問させてほしい」
「デュ、デュノア中将!?」
デュノアに気づき慌てて敬礼するも、デュノアは手でそれを制す。「今はそれどころではない」という意だろうか。そうしてデュノアは哨戒部隊の一人であったジャーヴィスに目を向ける。
「ジャーヴィス、君達が出会した艦娘達は、確かに私の鎮守府の艦娘だったのかね?」
「は、はい!間違いなくデュノア中将の鎮守府のオールドレディ(ウォースパイトの事)を旗艦にした水上打撃艦隊でした。随伴艦も中将の鎮守府の娘達で間違いありません」
「そうか…恐らく私の鎮守府を制圧した武装集団に命じられて、私を捕えに来たのだろう」
デュノアの言葉にザワつく艦娘達。
「彼女達は話し合いが出来る状況だったか?操られていたりとかはなかったか?」
「操られている風ではなかったです。何て言うんでしょう…仕方なく従ってる感じでした」
「少なくとも本心ではないし、はたまた傀儡にされている訳でもない、と」
デュノアは少し考えてから言った。
「とにかく彼女達と話がしたい。連れてくる事は可能か?」
「中将自ら話し合いにですか!?突然攻撃してきたんですよ、危険です!」
「だが、彼女達にも何か事情があった故に攻撃せざるを得なかったのだろうか…私にはそう思えてならないのだ。どうか一つ頼めないか?」
デュノアはそう言って頭を下げる。自分達の上司であるデュノアがこうやって自分達に頭を下げる姿に、マエストラーレ達は困惑するばかり。ハイリア達もどう返せば良いかと悩んでいると、
「デュノア中将。その必要はなさそうです」
不意にグラーフが進み出てきてそう言った。皆の目がグラーフに向く。
「必要がない、とは?」
「彼女達の帰投後索敵機を飛ばしたのですが…どうやら彼女達を追い掛けてこちらに来ているようです」
「私の配下に撹乱を命じていたのですが、逆に砲雷撃を受けて追い払われたとの事。その後向こうも索敵機を使って彼女達を追い掛けてきたようですな」
「ではもう近くまで?」
「近くというか…」
グラーフが申し訳なさそうに海を指差す。全員がつられて指差した方向を見ると、海上をスケートの如く進む六人の艦娘の姿が遠目に見えた。先頭を進むのは、玉座型の艤装に腰を下ろしセミロングの金髪が目を引く、いかにも高貴な印象の艦娘。
「ウォースパイト!」
先頭を進む艦娘を見て、デュノアがその名前を呼ぶ。埠頭に立ち自身を呼ぶデュノアに気づいたのか、その艦娘ーーウォースパイトは一旦艦隊をその場に停止させた上で艤装から立ち上がり、スカートの端を持って優雅にお辞儀。その後ゆっくりと埠頭へ近づいてきた。念のためビスマルク達が埠頭から海上に降りてデュノア達を護衛する。
「アドミラル、ご無事で何よりです…鎮守府一同、皆貴方の事を心配しておりました」
「心配かけてすまない…私はこの通り無事だ。君達も無事で良かった」
ウォースパイトとデュノアが話し合う間も、互いに緊張感が走っている。
「して、ここには何用で来たのかな?まぁ…大方予想は出来ているが」
デュノアがそうストレートに聞くと、ウォースパイト達は気まずそうに顔を伏せる。「やはり…」とデュノアの口から声が漏れる。
「鎮守府を制圧した武装集団から、私を捕えて来いと命令されたか。それも、鎮守府にいる他の艦娘達を人質に取って」
更にデュノアが聞くと、ウォースパイトは「…はい」とか細い声で答えた。ウォースパイトと共に来た艦娘達も気まずそうに顔を伏せる。それを聞きデュノアは顎に手を当てて考え込む。
「ふむ…しかし弱ったな。君達の話とハイリア君達の話を含めると、私が大人しく捕らわれていったとしても、他の艦娘達が無事に戻ってくる保証は無いと見える。寧ろ私も君達も、更には人質となった娘達も始末される可能性の方が高いな。かと言って君達を手土産無しに帰らせる訳にもいかない…」
「そんな…では私達はどうしたら…!」
「とにかく君達は一旦上陸しなさい。まだ他にも聞きたい事が山とある」
デュノアにそう促され、ウォースパイト達は艤装を簡易型に収縮させてから埠頭に上がろうとする。と、突如彼女達の後方からザバッと何かが飛び出してきた。
「な、何だこれは!?」
デュノア達の見る先に現れたのは、白い球体という形の見た目と中央に主張する一つ目、明らかに機械であろう二対の腕という不気味な見た目のそれは数にして十体。海中から飛び出すや否や、ウォースパイト達やデュノア目掛けて襲い掛かってきた。驚きのあまり動けず目を瞑るデュノア。しかしいつまで経っても何も起きない。恐る恐る目を開けると、
「…ご無事ですか?全て片付きましたよ」
エフィンムが剣を抜いて立っていた。その奥に転がるのは、先程の機械達の残骸であろう物。十体いた機械は、あの一瞬でエフィンムによってほぼ残らず駆逐されていた。
「あ、あぁ…すまない、助かった。だがこれは一体…?」
「分かりませぬ。が、彼女達ーーウォースパイトと言いましたかな?デュノア殿だけでなく彼女達にも攻撃したあたり、どうやらあの機械は彼女達の見張りを担当しており、目的に背く行動をすれば襲ってくるようにプログラミングされておりますな」
エフィンムは残骸を拾い上げながら説明する。
「そうなのか…待てよ、という事は今までの会話全てが…!」
「行動含め全て敵に筒抜けだったようですな。こうなれば最早形振り構っていられませぬ…多少強引な手法を取らねばデュノア殿の鎮守府の艦娘の皆様が危ない」
エフィンムはホイッスルを取り出すと「暫し耳を塞いでおいて頂きたい」と周りに言い聞かせる。そして皆が言われるがままに耳を塞ぐと、思い切りホイッスルを吹いた。甲高い音が埠頭に響き渡ったと同時に、鎮守府周囲や海中から次々とインベスが溢れ出てきた。そしてエフィンムを囲うように集結し、皆一様に頭を垂れる。その異様な光景にデュノア達も艦娘達もドン引きし、エフィンムから距離を置く。
「…あなた達にはこれより例の鎮守府に向かい、武装した人間達相手に存分に暴れて頂きたい。そしてその鎮守府に囚えられている艦娘達を尽く救出し、ここへ連れて来て頂きます。そしてもし可能ならば、その武装集団を率いる人間も捕えて連れて来て頂きたい。緊急事態故にこの際手段は問いません…が、艦娘達に悪影響を及ぼさぬ範囲に限ります」
エフィンムがオーバーロード語で大雑把に説明すると、インベス達は一斉に敬礼した。
「情報は逐一あなた達へ直接送りますので、到着し次第行動を開始するよう。時間がありませんので、リミットは一時間以内とします。さぁ、行きなさい!」
エフィンムの命が下されると共に、インベス達は一斉に散らばっていった。ふと周りを見渡すと全員にドン引きされているのに気づき、エフィンムは慌てて頭を下げる。
「少し不快な光景でしたな、気を悪くさせてしまい申し訳ありません」
「あ、いえ、それは良いんだけど…本当に大丈夫なの?明らかに命令が分かってる風には見えなかったけど…」
心配そうに聞いてくるハイリアに対し、エフィンムは「ご心配なく」と言って続けた。
「確かにインベスには思考能力は皆無です。が、そこは私や神王様の力によって補っております。ですから少なくとも簡単な命令であれば、インベス達は普通に熟してくれるのですよ」
笑いながら説明するエフィンム。改めて牙也やエフィンムの心強さと人外故の並外れた能力に感心し、同時に恐ろしさすら覚えた。
「さて、私はこれらの解析をする事にします。ハイリア様達は如何なさいますか?」
大量の機械の残骸を背負いながらエフィンムに聞かれ、我に返った三人は顔を見合わせる。
「…取り敢えず、ウォースパイト達から情報を聞き出す事からだな。それを踏まえて今後の対応を協議するとしよう。ウォースパイト達はついて来てくれ。他の皆は引き続き哨戒を任せてーー」
デュノアがそこまで指示を出した時、
『提督、聴こえますか!?こちら第三哨戒班旗艦のシェフィールド!』
通信が入ってきた。西部方面の哨戒を担当していたシェフィールドからだ。いつも冷静な彼女だというのに、今の声は上擦り焦りが垣間見える。
「こちらハイリア、聴こえてるわよ。どうしたの?」
『一大事です!深海棲艦の大侵攻です!』
その報告に周囲の空気が凍り付く。
「規模は!?」
『遠巻きから確認したので詳細はまだ…ですが、鬼級や姫級の深海棲艦が複数確認出来ました!』
「なんですって!?もう、こんな時になんて事…!」
歯噛みするハイリアの元へ、絶望を更に加速させる更なる報告が舞い込む。
『Mon Amiral!こちら第二哨戒班旗艦コマンダン・テスト!北西より深海棲艦の大軍を確認致しました!至急ご指示をお願いします!』
「嘘でしょ!?北西からも!?」
『こちら第四哨戒班旗艦ガリバルディ!南西方面に深海棲艦の大軍を確認だ!指示をくれ!』
相次いで哨戒班から報告される深海棲艦の侵攻。ハイリア達の表情は青くなっていた。
「馬鹿な、何故今になって…あまりにもタイミングが良過ぎるぞ!」
「まさか敵のトップ、ソロモンがここを徹底的に潰す為に深海棲艦達を誑かしたのでは…」
「かもしれないわね、中将の仰る通りあまりにもタイミングが良過ぎるもの。中将、どうしますか?」
ハイリアに意見を求められたデュノアの判断は早かった。
「各哨戒班に命ず!各哨戒班は速やかに撤退せよ!迎えの艦隊をそれぞれに寄越すから、合流し次第反転攻勢に入れ!」
『了解!』
通信を終えるとデュノアはその場の全員に向けて命令を送る。
「皆さん聴きましたね?ハイリア君とレイス君は各艦隊を編成し、至急哨戒班へ合流させなさい!私は一先ず彼女達から情報を入手、その後彼女達にも出撃してもらう!各員行動開始!」
デュノアの命令と同時にバタバタしだす埠頭。艦娘達は慌てて艤装を準備し出撃準備を行い、ハイリア達がテキパキと部隊編成していく。ふとデュノアが目線をエフィンムに向けると、あの機械の残骸をクラックに押し込んでいる所だったので一応声を掛けてみる。
「つかぬ事を聞くが…何故君はこの鎮守府へやって来たのかな?そして君の言う神王様というのは一体…?」
「何故、か…そう言えばデュノア殿は私や神王様の事について説明しておりませんでしたな。この際ですからお話しておきましょう」
エフィンムは以前牙也がハイリア達に説明した内容をそのままデュノアに語った。そのあまりにも常識から外れた内容が語られる毎に、デュノアの表情は何とも言えないものになる。全て話し終えると、デュノアは渋い表情で唸る。
「うーん、どこからツッコめば良いやら…まぁとにかく、例の武装集団のトップが君達と同じ別世界の存在である、という事は理解したよ」
「それだけご理解頂けたら結構です。あまり踏み込み過ぎるのは禁忌ゆえ…」
説明しながらエフィンムは残骸を全てクラックに押し込み、クラックを閉じる。そして改めてデュノアに向き直った。
「さて、まずはかの深海棲艦共を一通り片付ける事から始めましょう。デュノア殿はそちらの艦娘の皆様から情報を集めなされませ。こちらはこちらで上手くやりますので」
恭しくお辞儀し、エフィンムは腰に下げた剣を抜く。そして懐から複雑な見た目をした錠前を取り出した。その正面には睡蓮の花が描かれている。
「それは?」
「神王様がお作りになった海上移動用の乗り物です。流石に私は艦娘の皆様のように海上を歩いたり走ったりは出来ませんので…出来ても短時間程度ですが」
そう言ってエフィンムは錠前を解錠した。すると錠前は変形・巨大化し、バイクとホバークラフトが合わさったような見た目のマシンとなり海上に着地した。
「『スイレンスプラッシャー』と言います。私はこれで各地に散らばる艦娘の皆様を援護致します」
「なんとも便利な物を…いや、羨ましがっている場合ではないな。彼女達は君に任せる。どうか、艦娘の皆を…よろしく頼む」
「お任せ下さい」
エフィンムは左手に剣を持ったままスイレンスプラッシャーのエンジンを掛け、右手でハンドルを掴む。そしてアクセルを全開にして発進したかと思うと、あっという間にその姿は水平線の彼方へ消えていった。
「…頼んだぞ」
デュノアはそう小さく呟くと、ウォースパイト達を引き連れて工廠へ入っていった。
「距離等から考えれば、ここからまずは第二哨戒班に合流し、その後反時計回りに戦線維持をするのが妥当ですかな」
哨戒班へ合流に向かう道中、エフィンムはスイレンスプラッシャーを自動運転に切り替えてから周辺の海図を開いていた。途中はぐれの深海棲艦が沸いて出てきたが、すれ違い様に斬り捨てられたりスイレンスプラッシャーに轢かれたり、エフィンムにはさして苦にならない程度だった。
「報告から察するに、かなり強力な深海棲艦が複数体出てきているのでしょうな。我が君がお戻りになるまでは、何としてもここを守り通さなくてはなりませぬ」
そう心に決めエフィンムはスイレンスプラッシャーを走らせる。と、頭上を見覚えのある艦載機が通った。
「あれは…確かゴトランド様がお使いの艦載機。近いですな」
頭上を飛んだのは、偵察機『S9 Osprey』。紅茶の国で造られ、スウェーデン海軍でも採用された偵察機。それがエフィンムの頭上を旋回している。運転を一旦止め辺りを見回すと、十時の方角にこちらへ手を振る艦娘達の姿が見えた。エフィンムはそちらへ向かう。
「エフィンムさん!救援に来てくれたのね!」
ゴトランドが進み出てきてエフィンムの合流を喜ぶ。
「皆様ご無事で何よりでございました。もうすぐ部隊が合流しますので、急ぎお下がり下さい。私は他の哨戒班の救援に向かわなくては」
「そっか。気を付けてね」
「肝に命じて。ところで皆様が見つけた深海棲艦の大軍は今どちらに?」
エフィンムが聞くと、ゴトランドの後ろから艦娘が一人進み出てきた。青・白・赤のメッシュ入り金髪の上から赤いポンポン付水平帽を被った艦娘『コマンダン・テスト』はスカートの端をつまんで優雅に一礼してから話し始めた。
「それが…妙なのです。あちらからも私達の姿は確認出来た筈なのですが、私達を追ってこないのです」
「追ってこない?こちらの存在を把握しているにも関わらずですか?」
「ええ。さっきから偵察機飛ばしてるんだけど、私達が発見してから今までずっとその場を動いてないのよ。こちらの偵察機を完全無視してる。まるで何か命令を待ってるみたいに…」
報告を聞きエフィンムは考え込む。普通なら敵を発見し次第撃滅戦に入るのが当たり前。大軍の中に鬼級や姫級がいるのならば尚更だ。しかし深海棲艦達はそれを行っていない、それどころか見向きもしない。これはどういう事か。
「我々の降伏を狙っている?それとも同士討ちからの漁夫の利か…?」
考える内に、エフィンムは二つの仮説を立てた。一つは無血開城ーーつまり降伏をさせようとしているのではないか、という仮説だ。まず自分達に圧倒的戦力差を見せつけ、それに臆した者達の降伏を(表面上は)暖かく迎え入れる。そうして敵戦力を少しずつ削ぎ落とし、やがて全面降伏へ向かわせる。よくある自軍の戦力を減らさずに勝利を掴む手段だ。
この手段は様々な形で活用されており、例えばかの羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)は織田家に仕えていた頃、とある城を兵糧攻めしていた際に、敵兵達の前で美味そうな飯を食べる等して敵の戦意を削ぎ、更にそれを見た敵兵達の降伏を快く受け入れた。そしてそのまま落城へ導いたという逸話がある。
自軍の威勢や圧倒的実力を見せたり、敵の弱点を突いてまともに戦えなくしたり等、降伏へ導く手段はいくらでもある。今回はそれが深海棲艦達を使った手段である、というだけだが。
そしてもう一つ、漁夫の利を狙う手段だ。深海棲艦達を唆して自分達の鎮守府を攻めさせる。そしてこちらがある程度疲弊した時に現れてこちらを叩き潰す。ついでに厄介な深海棲艦もまとめて叩き潰す。至って単純明快な侵略手段だ。
ソロモンの今までの行動を鑑みればこちらが当てはまりそうだが、果たして深海棲艦がそれを大人しく聴くような奴等なのたろうか、そこが疑問点ではある。
「…とにかく皆様はこれから来る部隊に合流を。索敵も引き続き行って下され」
そう言い残しエフィンムはスイレンスプラッシャーを走らせた。
その後、西部担当のシェフィールド率いる哨戒班、そして南西方面担当のガリバルディ率いる哨戒班とも合流。双方の無事を確認し後方へ下がらせた。ガリバルディ達が下がっていった後、エフィンムは再び海図を開いて戦況の確認を行っていた。
「三つの哨戒班の情報をまとめると、どうやら西部から侵攻してきた深海棲艦が本隊のようですな。他の二つも数こそ少なかれど、よく鍛錬された者達が多いようです。ここで抑えなくては鎮守府が危ういですな…」
ブツブツ独り言を言いながら今後の動きを脳内で組み立てているエフィンム。しかし、エフィンムの脳内には何か引っ掛かるような情報があった。それは、
『私達実際に敵本隊と接敵したんですが…私達を発見しても見向きもしなかったんです。目と鼻の先くらい近くにいたのに…』
『あたし達を完全フル無視だぜ?索敵機も見向きもしない。なーんか不気味だったぜ。や、深海棲艦程不気味な奴はいないか』
深海棲艦の動きが妙な点だ。降伏を奨めるのなら、何かしら接触を図り話し合いの一つや二つ行う筈。互いに目と鼻の先まで接近していた事もあるのだから尚更それをやらないのはおかしい。
「これは一体…まさか深海棲艦達は、ソロモンの作戦に気づいている…?気づいた上で出撃した…?何故?それに何の利益があって…?」
疑問は尽きない。しかし考えてばかりでは何も進展しない。とにかく今は目の前の脅威を片付けるのが先決だ。そうエフィンムは決めてスイレンスプラッシャーのエンジンを吹かす。と、エフィンムの持つ通信機に通信が入った。一旦エフィンムは通信に出る。
「はい、こちらエフィンム。どなたですか?」
『こちら第二哨戒班のコマンダン・テストです!敵艦隊に動きがありました!』
「なんと…テスト様達は合流出来ましたか?」
『合流はなんとか出来ました。他の哨戒班も無事に合流出来たようです。それで改めて偵察機を飛ばしたのですが…』
コマンダン・テストは何やら怪訝そうな声色で話す。何かあったのだろうか。もし艦隊に何かあればそちらを優先せねば…そう考えながらエフィンムは通信の続きを聴く。が、その後届けられた報告は、エフィンムの予想の斜め上を行く物だった。
『北西、南西に展開していた敵艦隊が、他の鎮守府に狙いを定めたようで…今、進路を変えて進軍を始めたと偵察機より報告が…』
「他の鎮守府に…?」
訳が分からない。深海棲艦達の狙いは我々の筈。ならば何故他の鎮守府を…思考を巡らしながらエフィンムは通信を続ける。
「その報告、ハイリア様達には…」
『先にお伝えしました。すぐに他の鎮守府に伝えると…』
そこまで言った時、また別の通信が入ってきた。
『皆、聴こえてる!?』
焦ったような声色で通信をしてきたのはハイリアだ。
「いかがなさいましたか?」
『不味いわ…通信機器が軒並み使えない。他の鎮守府に通信が出来ないわ。多分鎮守府周辺のどっかに妨害電波飛ばしてる奴がいるわね』
『そんな…!それでは他の鎮守府が…!』
通信機器が潰されてしまったようだ。これでは他の鎮守府は深海棲艦に襲撃されるのを歓迎しているようなもの。海軍と敵対してしまっている状況とはいえ、流石にこの情報はすぐにでも報告しなければならない。
『背に腹は代えられないわ、第二哨戒班とその合流部隊は北部地区の鎮守府へ、第四哨戒班とその合流部隊は南部地区の鎮守府へ急行!この事をすぐに知らせに行って!』
『え!?で、ですが今私達は他の鎮守府どころか海軍とも敵対している状況ーー』
『そんな事今気にしてる場合じゃないのよ!』
通信機からハイリアの声が響く。
『私達の仕事は何!?私達はまず何をしないといけない!?考えなくても分かってるでしょう!?今この時、この瞬間にもフランスがーーいえ、国だけじゃない…ヨーロッパ全土の滅亡の危機に瀕しているのよ!今そんなくだらない事で啀み合ってる場合じゃないのよ!分かったらさっさと行く!』
言いたい事を言い尽くしたのか、ハイリアの通信は切れた。艦娘達は黙り込んでいたが、
『…行きましょう。情報を伝えに』
ビスマルクの一声に、どよめきが上がる。
『ビスマルク姉さま、本気ですか!?』
同じ部隊のプリンツオイゲンが尋ねると、ビスマルクは無言で頷いた。
『私達の使命は一つ。深海棲艦を始めとした脅威と戦い、国や世界を守る事。それはたとえ、味方内で敵対関係になってしまっても同じよ。それを放棄するなんて…必死になって国を守ろうとした前世の私達に顔向け出来ないわ!』
力強い演説に、艦娘全員の気が引き締まったように思えた。次いでビスマルクはエフィンムを呼ぶ。
『エフィンム。敵本隊の対処は貴方と第三哨戒班、それにそっちに合流した部隊に任せるわ。出来るわよね?』
ビスマルクの問い掛けに、エフィンムは力強く答えた。
「当然です。ここの防衛は神王様直々に私に命ぜられたミッション。必ずやご期待に応えてみせましょう」
『それが聴きたかったの…なら任せるわよ!艦隊、このビスマルクについて来なさい!』
第二哨戒班に合流したビスマルク側の通信はここで切れた。
『…全く、ビスマルクばかりにいい格好をさせられぬな。ここでたじろいでいては…ネルソンの名に傷が付くものよ。全軍、余について来い!旗艦ネルソン、出撃する!』
次いで第四哨戒班に合流したネルソン側の通信が切れる。次いで静寂…
「…こちらエフィンム。これより第三哨戒班に合流致します」
それだけ言ってエフィンムは通信を終える。剣を持った左手が更に強く握られる。
「…さぁ、始めましょう。命運を賭けた、超大戦を!」
エフィンムはエンジンを吹かし、スイレンスプラッシャーを発進させた。