元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

53 / 54
かつてを知る者

 

 荒波の立つ海上を進む、ビスマルクを旗艦とした部隊。鎮守府を出撃後コマンダン・テスト率いる第二哨戒班と無事合流したビスマルク達は、ハイリアの命を受けて深海棲艦の侵攻情報の伝達及び迎撃の為船速一杯で急いでいた。

 

 「どう、敵は見つかった?」

 

 ビスマルクが後方から追い掛けてくるコマンダン・テストに聴くが、彼女は首を横に振る。

 

 「そう…引き続き索敵をお願い。これから索敵も難しくなるかもしれないから出来る限り急いで」

 

 そう伝えてビスマルクは空を見上げる。今朝あれだけ晴れていた空は、今やどんよりとした厚い雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうだ。雨で視界が悪くなる中を索敵するのは、どれだけ艦載機の扱いに慣れた空母や水母でも大変。敵が見つからない内に奇襲攻撃を仕掛けられでもすれば艦隊は一溜まりもない。ビスマルクの胸中は焦りで一杯だった。

 

 「ビスマルク姉さま、落ち着いて下さい。焦ってばかりじゃ何も好転しませんから」

 「あら、何を言っているのオイゲン?このビスマルクに焦りなんて微塵も」

 「顔に出てますよ?」

 

 言い終わるより早くプリンツにそう返され、思わず自身の顔をペタペタ触るビスマルク。そんな彼女を見てプリンツはクスクス笑う。

 

 「姉さまったら焦ってる時とか悩んでる時とか、いつも眉間にしわが寄ってるんですよ。今日は特にしわが寄ってますよ?」

 「なっ…」

 「姉さま、もしかして今まで気づいてなかったんですか?」

 

 キョトンとしながら聞いてくるプリンツにビスマルクはタジタジ。まわりの艦娘達からはクスクスと笑いが起こる。やがて恥ずかしさのあまり膨れっ面になってイジケてしまった。

 

 「フンッ…どーせ私は思考回路の分かりやすい憐れな女なのよ…フンだ!」

 「ビ、ビスマルク姉さまー!ごめんなさい、誂い過ぎました!今度ご飯奢りますから拗ねないで下さいー!」

 

 プリンツが必死になってビスマルクの機嫌を取りに行く。事が済んだら自棄食いする気満々なのかビスマルクは食堂のメニューのお高いものばかりプリンツに要求しており、その度にプリンツの表情は青くなる。「それ以上は駄目ですよ〜!」と言っても聞きゃしない。

 

 「ビスマルク、それまでにしておけ。今成すべきは深海棲艦の侵攻を他の鎮守府に一刻も早く伝達する事。自棄食いの話は後回しだ」

 

 同じ艦隊としてついて来ていたグラーフが釘を刺すと、ビスマルクは「分かったわよ」とようやく大人しくなった。プリンツの表情は疲れ切りどんよりしていたが、自業自得である。

 

 「ところでオイゲン。このまま進めば最初の鎮守府に着くのはいつ頃かしら?」

 「あ、はい。今のペースで行けばものの十数分で到着すると思います。ただ…」

 

 そう話すプリンツの表情は優れない。どういう事かと全員が疑問に思っていると、プリンツは意を決したように言葉を出した。

 

 「…その鎮守府なんですが、あの『暴君』が運営する鎮守府なんですよね」

 

 プリンツの言葉にたちまち他のメンバーも表情が渋くなる。

 

 「『ハイネス・エンペリー大将』か。懐かしい名だ…」

 「そうか、確かグラーフの元いた鎮守府だったわね」

 

 特にグラーフの顔色が悪い。

 

 ハイネス・エンペリー…彼は主にフランス以北からイギリス周辺を中心に艦隊を展開している提督であり、深海棲艦の出現直後から艦隊運営に携わっているベテラン提督である。当時まだ22歳という若さとは思えぬ程の名采配で数々の作戦を成功に導き、着任僅か数ヶ月という異例の早さで大将の地位に就いた、まさに最強の提督。

 がしかし、陰で囁かれる彼の噂はそれほど良いものではなかった。曰く、

 

 「勝利の為に数多くの艦娘を酷使し、使い潰してきた」

 

 「味方を味方とも思わず、後方から砲雷撃させて前衛で戦う艦娘諸共深海棲艦を倒すなどした」

 

 「逆らう艦娘は容赦なく解体し、また逆らう提督は秘密裏に処分した」

 

 「まだ将校になる前に、自身の上司と艦隊運営で揉めた際に自身の意見を通す為にその上司を半殺しにした」

 

 など、とにかくマイナスな噂が絶えない。その噂に寄せられてついたのが『暴君』。ただハイリア達はまだハイネスと共に艦隊運営をした事がない為、噂の真偽は不明として多少距離を置いていた。

 

 「グラーフ。当時の貴女から見て、ハイネス大将はどうだったの?」

 

 ビスマルクが尋ねると、グラーフが重々しく口を開いた。

 

 「…少なくとも、噂とは大違いだった。私が在籍していた頃は、ハイネス大将は私を含めた全ての艦娘に分け隔てなく接し、また艦娘を大事にする方だった。中破大破すれば即撤退させ、身体顧みぬ行動あれば叱責し、皆が無事に帰ってくる事を良しとしていた」

 「ほぇぇ…聞いてた噂とは大違いですね」

 

 グラーフは頷くと、続きを話し始めた。

 

 「だが…それも長くは続けられなかった。たった一度の出撃であの方の心は砕け、暴走が始まった」

 「たった一度の出撃で…それってまさか?」

 「あぁ、皆も耳にした事はあるだろう?数年前の深海棲艦の大規模侵攻だ。あの激戦でハイネス大将は、当時所属していた鎮守府の艦娘のほとんどを失った。唯一生き残れたのが、後方支援にあたっていた私を含めた数人の艦娘だ」

 

 グラーフの暴露に皆が驚いてグラーフに目線が集中する。今まで知らなかった真実に皆唖然としている。

 

 「グラーフさん、貴女はあの激戦を経験していたのですか?」

 「ああ。まぁ後方支援が主だったから戦闘には参加していなかったが…はっきり言って酷かった。倒しても倒しても雪崩の如く沸いてくる深海棲艦の群れに、当時の私達は非常に苦戦させられた。最初こそ守れてはいたのだが…段々と侵攻範囲が拡大し、それに比例して被害も増えていった」

 

 グラーフは一旦言葉を切ってから続ける。

 

 「そしてあの日…海軍は最悪の命令を出した。それが艦娘の特攻だ。建造して間もない艦娘を次々出撃させて囮にし、襲ってきた深海棲艦を囮ごと吹き飛ばす…今で言う『捨て艦戦法』というやつだ」

 「ええっ!?捨て艦を当時の海軍が命令したんですか!?そんな話今まで一度も…」

 「まぁオイゲン達は知らないだろうな、当時まだ建造されていなかったから…が、当時はそれが合法的に認められていたんだ。実際問題、当時はそれで多くの深海棲艦を撃破していて、一刻も早く深海棲艦の侵攻を抑える為にはそれを実行するしかなかった程だ」

 「今も禁止こそされてないけど、捨て艦は余程の事がない限りしてはいけないと今は法で定まってる。けどそれでも、捨て艦を行う鎮守府は無くならない。難儀なものよ」

 

 ビスマルクの説明にグラーフは頷きながら続ける。

 

 「しかしそれも長くは続けられなかった。何せ大規模侵攻の影響で合間を縫っての遠征が出来ず、資源が枯渇を始めたからだ。お陰で新たに建造する事すらままならなくなり、戦線は後退を続け、段々と壊滅する鎮守府が増えていった…そしてハイネス大将は、遂に決断を迫られる事態になった」

 「それは…つまり」

 「…いよいよ、ハイネス大将も艦娘達の特攻という命令の決断を迫られた。元々艦娘を大事に育てていた方だ、特攻などという命令は聞ける筈もない。が…他の艦娘達はそうではなかった」

 

 グラーフは一旦一息つくと、続きを話し始める。

 

 「勝利の為なら…人々を守れるなら…この命など惜しくはなかった。勿論、当時の私もそうだった。ハイネス大将が止めるのも聴かず、皆が次々と深海棲艦目掛けて特攻した。そして数多の深海棲艦を道連れに、その命を散らしていった…」

 

 語るグラーフの目には涙が浮かんでいる。つられてプリンツやテストも涙を流し、ビスマルクは「もう聞きたくない」と言いたげな表情を帽子で隠している。

 

 「そしていよいよ私を含めた最後のメンバーの特攻の時…そのタイミングで、深海棲艦達は本土上陸を諦めて撤退した。運が良かったのか、はたまた悪かったのか…とにかく私を含めた数人は、結局特攻する間もなく生き残ってしまった。ハイネス大将の為にこの命を華々しく散らす覚悟でいたというのに…何も出来ぬまま生き残ってしまった」

 「『生き残ってしまった』だなんて、そんな事ーー」

 「事実そうなんだ。命を散らす覚悟でいたのに、その覚悟をぶつける目標も理由も失ってしまった。艦娘としての責務を果たす前に、戦いが終わった。戦場に立つ者として、これほどに情けない事があるだろうか」

 

 悔しげな表情で語るグラーフ。

 

 「それでその…ハイネス大将はその後は?」

 「あの激戦の後、ハイネス大将は生き残った私達を各地の鎮守府へ飛ばした。表向きは各地の鎮守府の復興の手助けを謳っていたが、恐らく…無様に生き残ってしまった私達に愛想を尽かしたのだろうな。現に私達の事を心配する素振りもなければ、私達を気にする手紙の一通もない。大将にすれば、私達は弱虫にも見えたのだろう」

 「そんな事…!」

 

 コマンダン・テストが反論しようとし、しかし言葉に詰まる。グラーフの悲壮な表情が目に入ってしまったが故に、返す言葉を失ってしまったのだ。グラーフは続ける。

 

 「風の噂で、ハイネス大将のその後は耳にした。私達を追い出した後建造で新たに艦隊を編成し直し、大将の鎮守府は持ち直しはした。が、一度壊れてしまった心は簡単には戻らない。あの日大事な艦娘達を失ってしまった悲しみや、それを止められなかった自身への怒りをぶつけるように、大将は狂ったように出撃を繰り返し、今の地位を確立した。そして現在に至る」

 

 話し終えたグラーフはハイネスの鎮守府がある方へ目を向ける。

 

 「彼の下を離れてもう何年になるだろうか…時間は進んだ。艦娘の数も増えた。提督の数も増えた。が、彼の心は今も修復されぬまま放置されている。出来る事なら、彼の心をかつての心優しき頃に戻せたら良いのだがな」

 

 そんな心の内を吐露しながら、グラーフは戻ってきた索敵機を着艦させる。ビスマルク達は黙り込んだままだ。気づいてグラーフが苦笑いを浮かべた。

 

 「…すまない、今語る事ではなかったな。敵の方に集中するとしよう」

 

 そう言って別の索敵機を発艦させる。コマンダン・テストもつられて索敵機を発艦。艦隊には重苦しい空気が流れる。と、グラーフの通信機がけたたましく鳴った。

 

 「はい、こちらグラーフ・ツェッペリン…ハ、ハイネス大将ですか!?」

 

 グラーフの驚く声に全員が釘付けになる。そして通信機から聴こえる聡明な男の声。

 

 『久しぶりだな、グラーフ。ダメ元で通信してみたが、まさか大当たりするとは…神はしっかり見ておられるのだな』

 「お、お久しぶりです…そ、それよりも大将閣下、お伝えしなければならない事がーー」

 『みなまで言うな。分かっている…私の鎮守府に深海棲艦が侵攻しているのだろう?こちらも偵察機で敵艦隊を捉えた。既にこちらも艦隊を編成して順次出撃させた』

 「なんと…では既に敵艦隊と接敵をーー」

 

 グラーフがそこまで言ったところで、通信機の向こう側が何やら騒がしくなった。何やら複数の人間の声が聞こえてくる。グラーフ達が怪訝そうな表情で待っていると、

 

 『…フン、通信先はどこぞの鎮守府の艦娘か。助けでも呼ばせようとしたか?』

 

 聞き覚えのない声が聴こえ、一瞬で空気が張り詰める。心の焦りを抑え、グラーフは通信機の向こうにいる人物に問う。

 

 「貴様、何者だ?大将閣下の所の人材ではないようだが」

 『貴様等艦娘が知る必要はない。悪い事は言わん、問題なかったとして今すぐ引き返すが良い…この男の命が惜しければな。心配するな、お前達がこちらに来ないのならば、この男の命は保証してやる』

 

 そう言って通信は一方的に切られた。辺りをまた静寂が包む。

 

 「…ど、どうするの?」

 

 後方を注視していたレーベがおずおずと尋ねてくる。自分達の役目は深海棲艦の大軍の情報をハイネスの鎮守府へ伝え、それを救援する事。ひとまずハイネス本人がいち早く深海棲艦の侵攻を察知し対応していたので、あとは彼の率いる艦隊に合流し救援を行えばクリア。が、問題はハイネス本人の方だ。通信から察するに、ハイネスは鎮守府を制圧され捕虜となっている。本来なら助けに行くべきだが、それだとハイネスの命が危ない。

 

 「…どうする?このまま進めば、大将閣下のお命が危ない。かと言って、閣下を見捨ては出来ない。二つに一つ…進むか、戻るか」

 

 マックスも静かな口調で聞いてくる。ビスマルクとグラーフは互いに顔を見合わせ、どうしたものかと考え込む。と、頭上を聴き慣れない音が通った。全員が見上げると、遥か上空に深海棲艦が運用する索敵機が通り過ぎていった。

 

 「不味い、向こうに先に見つけられたわ!全員対空警戒!グラーフとテストは急ぎ発艦準備を!」

 

 ビスマルクの指示ににわかに艦隊が騒がしくなる。航空戦の準備の為、グラーフとテストは慌てて飛行甲板から索敵機を飛ばし、更にタイミングをずらして航空隊を飛ばし航空戦に備える。他の四人も敵の索敵機が飛んでいった方向を注視し、対空戦に備える。が、

 

 「…おかしいわね。何も来ないわ」

 

 発見されて五分経っても、敵の航空隊が来ない。まあ来ないのならそれはそれでラッキーなのだが、ビスマルク達はどうにも腑に落ちなかった。コマンダン・テストの報告によれば、彼女達が発見した敵艦隊は空母棲姫を旗艦に空母ヲ級等の航空戦必須な個体を中心とした所謂『空母機動部隊』。となれば自分達を見つけ次第航空戦に入る筈。だが航空隊はただの一機も来ない。これはどういう事か。

 

 「グラーフ、こちらの索敵機は敵艦隊を捉えた?」

 「あぁ、敵の索敵機を追い掛けた先に確かにいた。が…先の報告通り、こちらの索敵機を無視しているようだった。空母棲姫はおろか、空母ヲ級や軽母ヌ級ですら艦載機を出さない。なんとも不気味だ…」

 「ここに来るまでに戦闘してて消耗してるとかはどうかな?」

 「いや、それはない。索敵機が捉えた敵艦隊は、どう見ても無傷だった。だから航空戦を行えるだけの艦載機が無いとは思えん」

 「うーん…ほんと変ですねぇ、ビスマルク姉様」

 

 プリンツの考えもすぐに否定された。ビスマルクは暫し考え込んでいたが、何かを思い出したのか今度はコマンダン・テストに目を向ける。

 

 「テスト、大将閣下の艦隊の方は?」

 「そちらも発見致しました。ですがどうやらあちらも私達と同じ状況のようです。航空戦を警戒しているが、何も起きず困惑している状況、というところでしょうか」

 「更に鎮守府は正体不明のテロリストに制圧されている…進むも戻るも出来ない状況なのね」

 

 ビスマルクは報告を聞きまた考え込んだ。この先自分達がどう動けば良いのか…暫し悩んだ末、ビスマルクは一つの決定をした。

 

 「取り敢えず大将閣下の所の艦隊に合流するわ。幸い深海棲艦達からこちらへの攻撃は今の所無い。だから今のうちに閣下の艦隊と連合して深海棲艦とテロリスト双方に備えるのが妥当だと思うわ」

 

 その案に全員が頷く。となれば急ぎ合流しなければ。ビスマルク達は船速一杯で進みだした。

 

 

 

 

 幸いハイネスの艦隊は彼の鎮守府からそこまで遠くには出ておらず、またビスマルク達とも離れていない海上で動けずにいたので、合流を決定してから時間はそれほど経たぬ内に合流する事が出来た。

 

 「わざわざ遠くから救援に来てくれて感謝する…私は大将閣下直属の艦隊を率いるアークロイヤルだ」

 

 艦隊旗艦のアークロイヤルが進み出て頭を下げる。

 

 「ハイネス閣下の所のアークね。状況が状況だから率直に聞くけど、貴女達の鎮守府が今どういう状況なのか把握できてるかしら?」

 

 ビスマルクが直球で問うと、アークロイヤルは拳を強く握り締めながら言葉を発した。

 

 「ああ…閣下御本人から通信が来た。どうやら鎮守府はテロリストに制圧されたという。前に深海棲艦の大軍、後ろはテロリスト…進むも戻るも出来ずここで待機している状況だ」

 「そう…私達の方にも閣下から通信が届いたわ。貴女が今話したのと同じ内容よ」

 「そちらにも…?何故?」

 「うちのグラーフが、元々閣下の部下だったのよ。その繋がりで通信が来たみたい」

 

 それを聞きアークロイヤル達の目がグラーフに向く。

 

 「そうか、貴女が閣下の話していた…閣下から貴女の事は聴いていた。かつての大戦にて、閣下と共に命を賭けて戦った大事な仲間だと聞いている」

 

 それを聞いたグラーフは思わず目を背けた。何か思う事があったのだろう。先程グラーフの過去を聞いたビスマルク達は敢えてそれに触れる事を避けた。

 

 「思い出話は後にしましょう。それより今は、これからどう動くかを早急に決めないといけないわ」

 「待って!」

 

 ビスマルクの言をレーベが制した。

 

 「…ソナーに感あり。近いよ」

 

 その報告に艦隊全体の気が引き締まる。ソナーに感ーーそれは周辺に潜水艦が潜んでいる、という事。対応できるのは駆逐艦や軽巡洋艦といった対潜装備を搭載出来る艦や軽空母等に限られる。レーベにマックス、そしてハイネスの艦隊の駆逐艦と軽巡洋艦が即座に対潜警戒に移った。

 

 「レーベ、数は分かる!?」

 「ちょっと待って…ソナーに引っ掛かったのは、潜水艦一。それ以外は今の所引っ掛かってない」

 「ソナーの範囲を広げて!一体いるなら周りに三十体いると思いなさい!」

 「Gじゃないんだから…」

 

 ぼやきながらもソナーを確認するマックス。と、

 

 「あら…?この動きは…」

 

 ソナーを確認したマックスが何かに気づいた。

 

 「マックス、何かあった?」

 「…近付いて来てる。というかこれは、潜水艦が段々と浮上してきてる?」

 

 その妙な報告に全員が頭に?を浮かべていると、ザバッと音を立てて海上に何かが浮き上がってきた。

 

 「…見ツケタ」

 

 現れたそれに全員が警戒する。目の前に現れたのは、ガスマスク型のレギュレーターを装備した『潜水カ級』という種の潜水艦。ビスマルク達を見つけるや否や、レギュレーターを口から外しながらゆっくり近づいて来た。更に警戒が強まる。

 

 「…コノ艦隊ノ旗艦ハ誰?」

 

 最接近すると、カ級はそう聞いてきた。全員警戒を崩さない。

 

 「…私よ。このビスマルクがこの艦隊の旗艦」

 

 少しだけビスマルクが進み出て答える。カ級は彼女をジーッと見つめていたが、徐ろに懐を探り始めた。何をしているのかと皆が注視していると、カ級は何やら防水対策を施された薄っぺらい物を取り出すと、それをビスマルクに差し出した。

 

 「…これは?」

 「空母棲姫様カラノ文。皆デ読ンデ内容ヲ把握シテオイテ欲シイ、ト」

 

 見るからに怪しい手紙をビスマルクは裏表クルクル返したり太陽に透かして観察している。そうこうしている間にカ級はレギュレーターを口につけ直すと、

 

 「ソレジャ、確カニ渡シタカラ」

 

 そう言って再び海中に潜ってしまった。レーベがソナーを確認すると、カ級が遠ざかっていくのが確認出来た。

 

 「…何だったんだ?」

 「さ、さぁ…」

 

 皆が呆然とする中、ビスマルクはその手紙を早速開封し始めた。便箋から手紙を取り出し、そこに書かれた内容を黙読する。そして全て読み終えた途端、ビスマルクの表情は喜びに満ちたものになる。

 

 「えっと…ビスマルク姉様?」

 「…牙也ったら、こんな回りくどい事するなら最初から言いなさいよ、まったく!」

 

 文句を垂れながらもビスマルクの表情は明るい。彼女は手紙を握り潰すと、新たに指示を出す。

 

 「皆、聴きなさい!これより私達は閣下の艦隊と連合して、敵の迎撃に向かうわ!準備なさい!」

 「敵って…やっぱりあの深海棲艦達は敵なの?」

 

 レーベの問いにビスマルクは首を横に振る。

 

 「奴等はスルーで良いわ。それよりも優先しないといけない敵がいるの、そっちを倒しに行くのよ」

 「おいちょっと待て!」

 

 理由を話さずさっさと行動に移ろうとする彼女をアークロイヤルが制す。

 

 「貴様、どういうつもりだ!?深海棲艦を倒さずに、他の敵を倒しに行くだと!?お前は私達艦娘の役割を放棄するのか!?それに今は大将閣下のお命も危ないのだぞ!それはどうするつもりだ、まさか見捨てるなどというのではあるまいな!?」

 

 怒りのままに問うアークに、ビスマルクはさっき思わず握り潰してしまった手紙を丁寧に広げて渡す。

 

 「貴女達も読んでみなさい」

 

 そう言い他の艦娘達にも黙読を促す。そして皆がアークの周りに集まり手紙を読むと、全員唖然とした。そして目線がビスマルクに向けられる。

 

 「もう既に牙也が裏で手を回してたのよ。大将閣下の方も、私達が何かするまでもないわ。私達がすべき事はただ一つ…」

 

 ビスマルクは自分達が進んできた方向を指さしながら言う。

 

 「これから現れる難敵…『ソロモン』を倒す事!臨時連合艦隊、旗艦ビスマルク!抜錨するわ!」

 

 『鉄血』が今、動き出す。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。