元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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 第六話、箒sideです。




雲龍

 宿毛湾泊地の朝の食堂に、楽しげな声が響く。

 

 「美味しい……!やっぱりそうだった、美味しい物だったんだ……!多分じゃなくて、絶対!」

 「本当に美味しい~!あたし的にはものすごくオッケーです!」

 

 「ほらふみちゃん、ご飯が溢れてるよ。拭いてあげるからじっとしてて」

 「ふわぁ~、ありがと~松風ちゃん!ほんとご飯って美味しいね~、松風ちゃん」

 「そうだね、ふみちゃん。本当に、あの人が司令官になってくれて良かった……」

 「ほら、山風もご飯粒付いてるわよ?取ってあげる」

 「良い、から……自分で取れるし……海風姉も、食べよ?」

 「えぇ、もちろん!」

 

 「最高に嫌いじゃない……!」モグモグ

 「ふふっ、響さん嬉しそう……美味しいですね、瑞鳳さーー」

 「」プルプル

 「瑞鳳さん?」

 「……!」ダッ

 「す、凄い……凄い勢いで卵焼きだけ次々取り続けてる……!」

 「瑞鳳ちゃーん、独り占めはダメよぉ~?これは皆で食べる物なんだからね~?」

 「!?」ビクッ

 

 「何やってんのよ瑞鳳は……それにしても、これが食事か……存外悪くないわね」

 「あいつこんな旨いモンいつも食ってたのかよぉ!畜生、羨ましいぜ!」ガツガツ

 「ちょ、隼鷹あんた米粒散らさないでよ!汚いったらありゃしないわ!」

 「あ、悪い悪い。旨すぎてつい……」

 

 「どうだ皆、初めての食事は?気に入ってくれたか?」

 

 そこへ箒が盆に乗った食べ終わりの食器を持って現れた。そして食事の感想を艦娘達に聞く。

 

 「とても美味しかったわ、食事って凄いのね」

 「とても満足してます、本当にありがとうございます!」

 「こんな美味しい物を私達が頂けるなんて……嬉しいです」

 「昨日の私に蹴りをいれたい気分だわ~」

 「龍田だけ物騒だな……さて、見たところ何人かは食べ終わりそうだな。では響と龍田以外は注目」

 

 箒の命令に、名前を呼ばれた二人以外が注目する。

 

 「さーいしょーはグー、ジャーンケーン……ほい!」

 「え、ちょ、急に!?」

 「わわっ!?」

 「ちょ、それはズルいわよ!」

 「なんだい急に?」

 「ふえっ!?」

 「ひゃっ……!?」

 「な、何ですか!?」

 「ふみゃ!?」

 「朧、そういうの苦手です!」

 「ちょ、待って!」

 

 唐突に箒が始めたじゃんけんに、艦娘達は戸惑いながらも応じる。結果は箒がチョキを出したのに対し、グーが三日月、五十鈴、瑞鳳の三人、チョキが阿武隈、海風、山風、文月、パーが松風、朧、隼鷹となった。

 

 「私はチョキだ。パーを出したのは……松風、朧、隼鷹だな。ではその三人は残って私と共に皿洗いと片付けだ」

 「げっ!?」

 「その為のじゃんけんだったのかい!?」

 「提督、それはズルいです!」

 「黙らっしゃい。奇襲は戦いの常套手段だぞ、深海棲艦との戦いでもそんな文句を言うのか?」

 「む……!」

 「ぐ……」

 

 痛い所を突かれ、じゃんけんに負けた三人は黙り込む。一方じゃんけんに勝った、もしくはあいこになった娘は密かにガッツポーズしたり隣同士でこっそりハイタッチしている。

 

 「と言うか、何故響と龍田さんは外したんだい?」

 「あの二人は今朝の朝食作りと配膳を手伝ってくれたからな、今回は免除した」

 「いえい」ハイタッチ

 「いえ~い」ハイタッチ

 

 二人がハイタッチを交わすのを見て隼鷹が「ぐぬぬ、早起きしてたらあたしも……」なんてボソッと言っていたが、気にせず箒は話を続けた。

 

 「全員注目。食べ終わった食器は返却口に置いておいて欲しい。後で皿洗い担当が整理して洗うからな。ただしあまり散らかして置かないように、皿洗い担当が困る。で、皿洗い担当にならなかった者は一端それぞれの部屋に戻って指示あるまで待機。五十鈴と龍田は悪いが執務室で待機を頼む」

 「分かったわ」

 「は~い」

 「私からは以上。では各々、行動開始!」

 

 箒が手を叩いて話を締めると、艦娘達はバタバタと動き出す。食事の続きをする者、食器を片付けに行く者様々だ。それらを見届けながら、箒は余った料理を皿にまとめ始めた。

 

 「残った物は夜にでも出すか」

 

 すると軍服を誰かに引っ張られる感触があった。見ると文月が軍服の袖を小さな手で握りしめながら箒をジーっと見ていた。

 

 「文月?どうかしたのか?」

 「しれーかん……それ、あたしにちょうだい?」

 「ん?まだ食べ足りないのか?」

 

 箒がそう聞くと、文月は首を横に大きくブンブン振って答えた。

 

 「その……雲龍お姉ちゃんにも、食べさせてあげたくて……良い?」

 「雲龍?今ここにいた娘以外にもまだ艦娘がいたのか?」

 「うん。雲龍お姉ちゃんは、目が見えないの……それでずっと、お部屋に閉じ籠ってて……だから……」

 「そうか……分かった、一緒に料理を持っていってあげよう。美味しく食べてくれると良いな」

 「……!うん!」

 

 文月はニパッと笑顔で頷く。箒はそんな文月の頭を優しく撫で、「皿洗い終わるまで待っててくれないか?」と聞くと、文月は首を縦に大きく振って答えた。そしてさっき食事の時に自分が座っていた場所に座り、足をパタパタさせながら待ち始める。そんな姿が可愛らしくて、箒は思わず顔を綻ばせた。

 

 そして皿洗いの最中に三人にその話をしたところ、「それなら僕もついて行くよ」と松風も同行する事になった。そして隼鷹と朧に五十鈴と龍田へある伝言を任せると、箒は仲良しな二人を伴って雲龍がいるという資料室へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 この宿毛湾泊地はこのご時世では珍しい鉄筋コンクリートで作られた三階建てで、各階を繋ぐ階段は中央と東側にあり、最上階の三階に執務室や客室、更に提督用の私室がある。二階は艦娘用の私室が置かれているが、現在はその半分以上が空室となっている。一階は主に食堂や事務室(今は使用されていない)が占めており、箒達が向かっている資料室は一階西側の一番奥、中央階段からもかなり離れた場所にあった。

 

 「とうちゃ~く!」

 「ここが資料室か。ここに雲龍という艦娘がいるのだな?」

 「そう。雲龍さんはここに着任してからずっと、この資料室で大量の資料に囲まれて過ごしているらしいんだ」

 「詳しくは知らないのか?」

 「僕とふみちゃんがここに来たのは一年くらい前で、雲龍さんはそれ以前からここにいたんだ。雲龍さんを除くと、ここの一番の古株は龍田さんだし、彼女なら何か知ってるんじゃないかな?」

 「龍田か……後で聞いてみるか」

 

 この泊地を運営する為にも、最低限この泊地にいる艦娘達の事はある程度把握しておかなければなるまい。そう考えた箒は、追々龍田に話を聞く事を考え始めていた。

 

 「雲龍お姉ちゃ~ん!文月だよ~、入っていい?」

 

 そんな事を考えていると、文月は資料室のドアをノックして中にいるであろう雲龍に声を掛けていた。すると、

 

 「……良いわよ」

 

 微かだが、室内から声が返ってきた。誰かいるのは間違いないようだ。

 

 「お邪魔しま~す!」

 「失礼するよ」

 「失礼するぞ」

 

 文月を先頭に三人は資料室へと入っていく。すると、ドアを開けた途端に埃が舞い散ってきた。慌てて松風は持ってきた料理を体を張って埃から守る。

 

 「ケホッケホッ……随分埃だらけだな」

 

 咳をしながら箒が室内を見回すと、室内は沢山の資料や戦術書が本棚に収められており、入りきらなかった物は本棚の周りにうず高く積まれている。しかしどれも埃を被っており、床や窓も汚れ放題で長らく掃除されていないのかよく分かった。

 

 そしてそんな環境である部屋の奥ーー唯一汚れがそれほどなく他と比べて綺麗な窓際に置かれた椅子に、惚れ惚れするほどに美しい三つ編みにされた銀髪に露出の多い雲をモチーフとしたような服装の艦娘が座っていた。

 

 「雲龍お姉ちゃん!文月が来たよ!」

 「僕も一緒さ」

 「そう……よく来たわね、文月、松風。それと……どなたかしら?もう一人いるのは分かるけど……」

 

 雲龍は文月と松風の来訪を歓迎しながらも、誰か分からぬ人物ーー箒に対してやや警戒心を見せていた。

 

 「新しいしれーかんも一緒だよ!」

 「今日から司令官が代わったんだ。雲龍さんにも紹介したくて連れて来たんだよ」

 「そう……新しい、提督……」

 

 雲龍は警戒心を消さぬまま、机を支えにしてゆっくり立ち上がると、箒がいるであろう方向に目を向けた。金色の眠たげな目は霞がかったようになっており、文月と松風が話していた通り目が見えない事を伺わせた。実際雲龍は、箒がいる方向から少しずれた方向に目を向けていた。

 

 「……航空母艦、雲龍です。よろしくお願いします」

 「初めまして、この宿毛湾泊地に着任した篠ノ之箒という、階級は少佐だ。よろしく頼む」

 

 箒はそっと雲龍の手を握り締めると、軽い握手を交わした。これにより雲龍は箒の場所を把握したのか、その方向へ目を向ける。

 

 「……申し訳ありません、目が見えていなくて……」

 「いや、良いんだ。盲目の事は文月から事前に聞いていたが……寧ろ私が配慮すべきだったな、すまない」

 「そんな、提督が謝らなくてもいいのに……」

 「お前が気にしてなくても、私は気にするんだ」

 「そう、ですか……それで、どのようなご用件でこんな場所に?挨拶をしに来た、というだけではなさそうですが……」

 「用があるのは文月と松風なんだ。松風」

 

 箒がそう言うと、松風は雲龍の脇にうず高く積まれた本の上に、少し冷めた朝食の盆を置いた。冷めたとは言え、まだ良い香りを漂わせるそれは、雲龍の目の色を変えるには充分だった。

 

 「あら?良い香り……何かしら?」

 「実はここの艦娘達の為に私が朝食を作ったのだがな。文月がお前にも食べさせてあげたいと言ってきてな」

 「……文月が?」

 「これ、すっごく美味しいんだよ!雲龍お姉ちゃんも食べて!」

 

 文月はニパッと笑顔を見せながら朝食を雲龍に差し出す。一方雲龍はいきなり食べ物を差し出されて少し狼狽えているようだった。

 

 「……良いの?私が、食べて」

 「残り物とは言え、ここの艦娘の為に私が作ったのは間違いないからな。雲龍さえ良ければ食べて感想を聞かせて欲しいのだが……」

 「そう……ありがとう、ございます。でも、私、目が見えないから……」

 「だぁいじょうぶ!文月が食べさせてあげる!」エッヘン

 

 文月がそう言ってスプーンでご飯を掬って雲龍に差し出す。雲龍が少し戸惑いながらも口を開けると、文月は文月はゆっくりとご飯を雲龍に食べさせてあげた。

 

 「……美味しい」

 「そうか、良かった」

 「じゃあ次はこれー!」

 

 今度はフォークに持ち替えて卵焼きを差し出した。差し出された卵焼きを、雲龍はゆっくりと食べる。

 

 「……うん。これも美味しいわ」

 「わぁい!雲龍お姉ちゃんが喜んでくれたよ、しれーかん、松風ちゃん!」

 「良かったね、ふみちゃん」

 「そうか……気に入ってくれて良かった」

 

 その後も雲龍は文月に色々な料理を少しずつ食べさせてもらっていたが、

 

 「……ごめんなさい、もう食べられないわ」

 

 3分の1減ったところで、雲龍がストップを出した。少し苦しいのか、口元を抑えている。

 

 「お姉ちゃん、もう食べられないの?」

 「そうみたいね。もっと食べたいのに……」

 「ふむ……雲龍は少食なのかもしれないな。他の娘達はこの量で良いが、雲龍の分は少し考えないとな……」ブツブツ

 

 箒が思考の渦に入っている間に、雲龍は残ってしまった料理をそのまま置いておくよう松風に言った。お腹が落ち着いたらまた文月に食べさせてもらうのだと言う。文月もしばらくは雲龍と共にいると言うので、松風は箒を思考の渦から引き戻すと、文月を雲龍に預けて二人は資料室を出た。

 

 「それじゃあ僕は部屋に戻るよ」

 「あぁ。また指示を出すから、それまではゆっくりしててくれ」

 

 こうして箒は松風と別れ、執務室へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 「あら、お疲れ様。頼まれてた物、揃えておいたわよ」

 

 執務室に入ると、既に五十鈴と龍田は仕事を進めているようだった。執務机に山積みにされた沢山の書類を次々チェックし、判子を押し続けている。

 

 「え~と、これがこの泊地にいる艦娘の資料で、これが今の泊地の保有資材について纏めた書類よ~」

 「ありがとう、拝見する」

 

 事前に隼鷹と朧を通じて二人に頼んでいた二種類の書類を龍田から受け取り、箒はそれらに目を通す。

 

 

 

 宿毛湾泊地所属艦娘

 

 正規空母 雲龍(ただし戦闘不可)

 

 軽空母 隼鷹

 

     瑞鳳

 

     龍驤(現在修理の為大本営預り)

 

 軽巡洋艦 天龍(現在修理の為大本営預り)

 

      龍田

 

      多摩(現在修理の為大本営預り)

 

      五十鈴

 

      阿武隈

 

      酒匂(大湊警備府に出向中)

 

 駆逐艦 春風(現在修理の為大本営預り)

 

     松風

 

     文月

 

     三日月

 

     朧

 

     響

 

     初春(舞鶴鎮守府に出向中)

 

     初霜(舞鶴鎮守府に出向中)

 

     海風

 

     山風

 

     霰(佐世保鎮守府に出向中)

 

     浦風(呉鎮守府に出向中)  以上

 

 

 

 

 宿毛湾泊地保有資材

 

  燃料 30091

 

  弾薬 29275

 

  鋼材 29468

 

  ボーキサイト 14380    以上

 

 

 「……なるほどな」

 

 一通り読み終え、箒は一息つく。

 

 「修理組や出向組が多い事は響が話していた通りだな。しかし……それを抜きにしても保有資材が多すぎではないか?戦艦や重巡洋艦はいないし、空母は少ない。にも関わらずこれほど資材があるとは……?」

 「うちは大規模作戦の時に補給担当になる事が多いのよ。だから資材を多めに保持しておかないと、いざって時に大変なのよ」

 「これでも今は少ない方よ~、多い時はこれの3倍とか4倍、それ以上になったりするから~」

 「それは大変だ……つまりうちは常に遠征を回し続けて、資材が潤沢にある状態を維持しないといけないのか」

 「えぇ。しかもこの人数でね、厄介でしょ?」

 

 新人の、しかも右も左も分からぬ素人になんて無茶をさせるんだ……心の中で箒はぼやき、頭を抱えるしかなかった。そうこうしている間に、二人は溜まっていた書類を全て片付けてしまった。時間は既に昼前である。

 

 「はい、書類仕事はおしまい!さて、箒さん?お昼からは五十鈴達が貴女に、提督の何たるかをみっちり教えてあげるわ」

 「時間が限られてるから~、授業は詰め込み式よぉ~。貴女はついて来られるかしら~?」

 「……提督になった以上、避けては通れんのだろう?ならば……やるしかあるまい!」

 

 成り行きとは言え、提督となった身。ならは存分に手腕を振るえるようにならねばなるまい。箒は二人による地獄の授業に必死に打ち込み始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

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