元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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 第八話、箒sideになります。




やっちゃったZE♪

 次の日。

 

 「~♪」

 「ふむ……」

 

 時刻は午後二時を回ったところ。執務室では箒と龍田が定藤元帥から送られてきた沢山の書類とにらめっこしていた。普段やり慣れているせいか、龍田は鼻歌混じりに書類を次々片付けていく。一方箒はまだ不慣れ故に、書類一枚一枚をじっくり読み返した上で押印をする。時間はかかるが、確実に内容を頭に入れる為には仕方のない事だろう。

 

 「よし、これは大丈夫だな。次はーーん?」

 

 そうやって書類を片付けていると、箒は次に手に取った書類に目を止めた。読んでみると、どうやら二週間後に大本営で各地の提督が一堂に会して会議が行われる、というものだった。

 

 「二週間後に大本営で会議か。何々、付き添いとして艦娘を二名連れて来る事……」

 「あら~、会議のお知らせね~。貴女は誰を連れて行くのかしら~?」

 

 いつの間にか龍田が箒の後ろに立ってその書類を覗き込んできていた。秘書艦用の机には、もう終わったであろう書類が山と積まれている。

 

 「ふむ……龍田、五十鈴、阿武隈、神通あたりを連れて行くのが順当か……む?まだ続きがあるな」

 

 書類の続きを読んでみると、こういう内容だった。

 

 

 

 『会議当日、各鎮守府の代表一名を選抜(これは付き添いの艦娘から選択)し、一対一のトーナメント形式単独演習を行う』

 

 

 

 「あら~……もうそんな時期なのね~……」

 「龍田、随分と憂鬱そうだな」

 

 龍田の反応の悪さに箒は何やら嫌な予感を覚えていた。

 

 「そうよ~……これ、単独演習を謳ってるけど、実際は四大鎮守府の実力を見せつけるだけの一方的なイジメみたいなものですし~……気が乗らないのよねぇ」

 「龍田はこれに出た事があるのか?」

 「えぇ、一回だけあるわよ~。その時は神通ちゃんに負けちゃったけど~」

 

 はぁ、とため息をつきながら龍田が言う。なるほど、龍田と神通はその時からの付き合いなのだろう。しかし龍田がこれほどに憂鬱そうにしているという事は、これは相当面倒な案件と見える。箒はそう考えて再びその書類に目を向けた。

 

 「今回は艦種別のトーナメントか。うちからは誰を出すかな……」

 「あら、選択肢は限られてるわよ?ほら、ここ」

 

 龍田が指差したところには、『着任一年未満の提督が務める鎮守府は、一番練度の高い駆逐艦を出場させる事』とあった。

 

 「む……龍田、確かうちの鎮守府で練度が一番な駆逐艦は……」

 「朧ちゃんと文月ちゃんよ~。二人とも練度は30ね~」

 「30か……低いな。他の艦娘の練度はどうなってる?」

 「軽巡は神通ちゃんが89でトップよ~。軽母は隼鷹ちゃんが48でトップ、後は軒並み25~40くらいかしらね」

 「なるほど。うちは艦娘達の練度上昇も急務になるな……よし、朧と文月は私が引き受けよう。他の艦娘は引き続き神通に頼んでみるか」

 「あら~、提督が直々に~?大丈夫かしら~?」

 

 からかうような口調にクスクス笑いの顔で龍田が聞く。

 

 「嘗めるなよ、私とて一介の武人だ。この数百年間、己の研鑽は一度足りとて怠った事はない。お前達とは年季が違うのだ」

 

 フンッと鼻を鳴らしながら箒はそう答えて立ち上がる。

 

 「さて、神通を探してこの事を伝えておかねばな。龍田、すまんが残りの書類は任せた」

 「行ってらっしゃ~い」

 

 箒は上着を羽織ると神通を探しに執務室を出ていった。彼女を見送った龍田は、箒が残した書類を片付けながら一人考え事をしていた。先程の箒の言葉に引っ掛かるものがあったのだ。

 

 (数百年間、ねぇ……本当に何者なのかしら、あの人は?)

 

 

 

 

 

 

 

 「三日月さん、反応が0.5秒遅いですよ!今のが深海棲艦との戦いだとすれば、貴女は確実に仕留められています!もっと気を引き締めて!」

 「は、はい!」

 「響さんは砲撃に気を取られ過ぎです!敵にせよ味方にせよ、攻撃手段は砲撃だけとは限りません、常に様々な可能性を頭に入れておくように!」

 「了解」

 

 鎮守府から少し離れた沖にある演習場に、神通の声が響く。現在神通は阿武隈率いる水雷船隊を一人で相手取っている。元々定藤元帥の下で育てられた神通は、この宿毛湾泊地の艦娘の中で最も練度が高く、戦闘技術もずば抜けている。箒は神通の実力に目を付け、宿毛湾の艦娘全員の練度底上げに力を貸してくれるよう頼んだ。定藤元帥よりこの鎮守府を任された神通は二つ返事で了承、自ら先頭に立って艦娘達を指導している。

 

 「いやー、元帥配下だったって聞いた時は本当かと疑ったけど、実際見たら凄いんだね、神通さん」

 「ですね。朧達六人を相手に息切れの一つもないなんて……凄いです。多分じゃなくて、絶対」

 「はひー、はひー……もうへとへと~」

 「そこの三人!無駄話をしていないでもっと積極的にかかってきなさい!私が見てないとでも!?」

 『は、はい!』

 

 遠目から彼女の動きを観察していた松風達を叱責しつつ、神通は阿武隈や三日月、響をまとめて相手していた。そこへ更に松風達も加わるが、神通は涼しい顔で六人を相手し、しかも一回の被弾もない。一方の六人は神通の圧倒的実力に対応すら出来ず、被弾ばかりが増えていく。流石は元帥配下、と言ったところか。

 

 「おーい、神通!ちょっと訓練中断して一旦集合してくれ!」

 「はい!皆さん、提督の元に集合!」

 

 そこへやって来た箒に呼ばれ、神通は一旦訓練を止めて全員を箒の前に整列させる。横一列に整然と並ぶさまを見て、箒はやや堅い印象を覚えた。

 

 「全員楽にしてくれ。ちょっと今後の訓練について話がある」

 「お話……ですか?」

 「あぁ。神通、すまんが朧と文月を私に預けてほしい」

 「朧さんと文月さんをですか?なぜ?」

 

 箒は先程龍田と話した大本営におけるトーナメントについて説明した。

 

 「なるほど、もうそんな時期になりましたか……ですが、提督が鍛えるというのは……」

 「不服か?」

 「いえ、そういう訳では……人間である貴女が艦娘を鍛えるというのは、無理があるのではと思い……」

 「ならば、試してみるか?私の実力を」

 

 箒はそう言うと、軽い跳躍で神通達の頭上を越え、演習場に広がる海面に着地した。そしてクラックから小太刀を取り出して左手に持ち、鞘から抜いて構えた。神通はあり得ない光景にまたポカンとし、一方の阿武隈達は一度見た事がある為か普通に「おー」と言葉を漏らしていた。

 

 「は……え……へ……?」

 (な、なんでですか?なんで提督が海面に……?馬鹿な、あり得ません!だって提督は人間、私達艦娘のように海面に立てる訳がないのに……)

 

 間抜けな声しか出せなくなり、そして思考の渦に沈んだ神通。まぁただの人間が海面に立つなんてあり得ないのだから当然だろう。

 

 『ただの人間なら』の話だが。

 

 残念ながら、箒は既に人間を卒業しているので、これには当てはまらないのだ。勿論神通達は知る由もない。

 

 「どうした?やらないのか?お前は私の実力を知りたいのだろう?」

 

 ポカンとしたままの神通に箒がそう声を掛けると、ようやく神通は思考の渦から引き戻された。心の動揺を隠しながら打刀を構える神通。その顔には冷や汗が流れていた。

 

 「阿武隈、審判頼む」

 「はい、任せて下さい!」

 

 阿武隈が二人の間に立ち審判を務める。他の五人はその様子をじっと見つめていた。

 

 「では行きますよぉ……よーい……始め!」

 

 阿武隈の合図と同時に神通が海面を強く踏み締めて箒に突撃、その勢いのまま居合斬りを仕掛けた。常人なろ視認すら出来ないスピードの居合斬り。防ぐのは不可能と誰もが思っていた。勿論神通本人ですらも。

 

 ガキンッ!

 

 ゴキッ!

 

 しかし演習場に響いたのは、神通の必殺とも言える居合斬りを、右手の小太刀の柄の部分で受け止めた音。

 

 そしてもう一つ、箒が小太刀の鞘で神通の脳天を殴打した音だった。

 

 「……ッ!?」

 

 脳天への強烈な痛みで一瞬意識が飛びそうになるも、神通は精神力でこれに耐え抜く。が、そんな彼女の腹部へ今度は強烈な蹴りが叩き込まれた。その威力は凄まじく、神通の体がくの字に折れ曲がって吹き飛び、大きな水飛沫を上げながら海面を滑り、演習場を飛び出し、そのまま港の近くに並べられた波消しブロックに激突してようやく止まった。激突による爆発のような水飛沫が消えると、神通は無惨に破壊された波消しブロックの上で目を回していた。

 

 「あ……しまった、加減を忘れていた」

 

 やり過ぎたと頭を抱える箒。一方観戦していた阿武隈達は、箒の圧倒的実力に思考停止したのか言葉を発する事なく呆然としていた。箒は慌てて神通の元へ駆け寄り、「大丈夫かー!?」と介抱している。そんな光景を見て、

 

 「……箒さんを敵に回さなくて本当に良かったね、僕達」

 

 松風がポツリと呟く。その呟きに他の五人も大きく頷いてそれを肯定した。

 

 「おいしっかりしろ、神通!神通ーーーーー!!」

 

 夕日が沈んでいく演習場に、箒の叫び声がこだまするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 「貴女馬鹿なの!?」

 

 その夜の執務室に五十鈴の怒号が響いた。現在箒は執務室の中央で正座させられ、遠征から戻って事の顛末を聞いた五十鈴に説教されていた。

 

 「元帥から託された大事な艦娘を演習で大破させたってどういう事よ!?しかも神通さんは二週間動けない!?何をしたらそんな大惨事になるのよ、馬鹿じゃないの!?元帥にどー説明するつもりよ!?」

 「返す言葉もない……久々に楽しめそうな相手だったから、気分が高揚して……攻撃を加減するのを忘れていたのだ……」

 「その結果がこれじゃないのよ!神通さんさっき修理ドックで目を覚ましたけど、トラウマにでもなったのか貴女の名前聞いただけで頭を抱えて、小動物みたいに隅っこでガタガタ震えてるのよ!?どーすんのよこれ!?」

 「うぅ……」

 

 箒はすっかり小さくなっており、鬼のような形相の五十鈴の前になす術もない。

 

 「五十鈴ちゃ~ん、もうそれくらいにしてあげたら~?本人も充分反省してるみたいだし~」

 「馬鹿ね、これでもまだ怒り足りないわよ!せっかくの貴重な戦力を一日でスクラップ寸前にまでしたのよ!?怒らない方がどうかしてるわよ!」

 「スクラップという表現はアウトな気が……」

 「あぁん!?」

 「イエナンデモナイデス」

 

 五十鈴の剣幕の前に更に萎縮する箒。龍田が宥めるが五十鈴の怒りは治まらない。

 

 「それでどーするつもりなのよ、明日からの訓練は!?神通さんいないとまともに訓練出来ないじゃない!」

 「えーと……一応は考えてあるのだが……」

 「へーぇ……じゃあ是非とも五十鈴達に教えて貰えるかしらぁ?」

 「私も興味あるわぁ、貴女の訓練プラン♪一体どんな訓練を考えているのかしら~?」

 

 二人の眼光の前に、箒は観念したのか自身が考えた訓練内容を二人に説明した。

 

 「あら~、なかなか良い訓練じゃない~♪」

 「本当にね……けど心配だわ、貴女みたいなバトルジャンキーが生まれそうで」

 「む……ならば会議までの二週間で、朧と文月の二人を戦力になるように私が立派に育ててみせようではないか」

 「へぇ……出来るの?」

 「神通が私のせいで動けない今、育成が出来るのは私くらいだ。やるしかあるまい」

 「そうねぇ……じゃあお願いしようかしら~」

 「私からも、お願いします……」

 

 その声に三人が振り向くと、身体中あちこちを包帯でグルグル巻きにされた神通がいた。松葉杖をついてヨロヨロと歩いてくる。

 

 「神通ちゃん、無理しちゃ駄目よ~?」

 「……今回の件で、私は自分の未熟さを思い知りました。そして気づきました……ここの艦娘達を強く育てられるのは、私ではなく……貴女です、提督」

 「神通……」

 「この怪我を糧に、私は一からやり直します。そしていずれまた手合わせ願います、提督」

 

 そう言って神通は頭を下げる。

 

 「……分かった。その時を私は楽しみに待とう。五十鈴」

 「はぁ……仕方ないわね。他の皆の育成は五十鈴と龍田でやるわ。二人の育成は任せたわよ。その代わり……結果次第ではただじゃおかないわよ?」

 「……肝に命じておく」

 

 五十鈴は箒にそう釘を刺すと、神通、龍田と共に執務室を出ていった。三人が出ていき一人だけになった箒は、フラフラと立ち上がり執務室のソファに倒れ込んだ。

 

 「さっきはあぁ約束したが、しまったなぁ……本当にバトルジャンキーを作ってしまいそうだ」

 

 そうポツリと呟き、箒は神通との手合わせを振り返る。

 

 「失念していたな、私は普通ではない事を。しかし……まさか通常の『二割』の攻撃でスクラップ寸前まで追い込んでしまうとは……これは力の加減が難しいぞ……」

 

 さらっととんでもない事を口走りながら、明日からの訓練に一抹の不安を覚える箒であった。

 

 

 

 

 

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