Prologue:影は還る
Ⅰ:堕ちゆく空の王国 ― エドラス
浮島が堕ちる。
空の王国エドラスは、重力に引き裂かれようとしていた。
怒号、爆炎、崩壊。
俺は飛龍の背で、それを見下ろしている。
視界の端に、見慣れた紋章。
「……フェアリーテイル」
押されている。
間に合う。
「行け」
影が裂ける。
黒が噴き上がり、無数の騎士と兵が戦場へ降り立った。
▷ ルーシィ
「ハッピー、後ろ!」
槍が迫る。
鍵を握る手が震える。
魔力が足りない。
その瞬間、地面から黒い腕が伸びる。
兵士の足を掴み、引き倒す。
黒い騎士が喉元を一閃。
さらに二体、三体。
ルーシィの前に、盾のように影が並ぶ。
「……誰?」
答えはない。
だが守られている。
「今よ、ハッピー!」
影が開けた隙間を突破する。
▷ グレイ
「アイスメイク――!」
氷が砕ける。
数が多い。
囲まれる。
ズン、と地面が沈む。
影が立つ。
槍を折り、兵を裂き、陣形を崩す。
黒い騎士が、グレイの隣に並ぶ。
無言。
同じ方向を見る。
「……上等だ」
氷が走る。
影と氷が交差し、戦線が押し返される。
▷ エルザ
鎧が割れ、血が滲む。
だが剣は下ろさない。
囲まれた瞬間、背後の兵士が裂ける。
振り返る。
黒い騎士。
守るように立つ。
「……何者だ」
沈黙。
エルザは理解する。
「利用させてもらう」
再装。
反撃。
影が道を作り、エルザが切り開く。
▷ ドロマ・アニム
巨大兵器《ドロマ・アニム》。
ナツ、ガジル、ウェンディは限界だった。
『尽きたか。
このワシ――エドラス王の叡智の結晶に敵うと思うたか!!』
魔力砲が収束する。
ナツが立つ。
「……まだだ」
足が震えても、立つ。
ドロマ・アニムが吠える。
『貴様ァ!!何者だ!?
ワシを誰だと心得る!!!』
その瞬間。
鋼鉄の腕が、宙で断たれる。
黒い騎士。
静かに剣を構える。
『答えよ! ワシは王だ! 世界を統べる者ぞ!!!』
一拍の静寂。
【お前が誰であろうと関係ない】
低い声。
ドロマ・アニムが激昂する。
脚が振り下ろされる。
「離すかよクズ野郎!」
ガジルが固定する。
「天竜の……咆哮!」
回転する風。
ナツが炎を纏う。
黒い騎士が一歩退く。
道が開く。
「火竜の……劍角!!!!」
炎が貫く。
爆発。
巨体が崩れる。
ナツが振り返る。
「……あいつは?」
影は消えていた。
まるで最初からいなかったように。
Ⅱ:影の領域
闇。
無音の空間。
影の軍勢が整列する。
だが休む暇はない。
次のゲートが開く。
荒廃都市。
竜種級の怪物。
崩壊寸前の世界。
剣が折れ、血が流れ、影が増える。
強くなる。
だが――遠ざかる。
マグノリアの喧騒。
帰れる。
だが足りない。
守るなら、中途半端じゃ意味がない。
その時だけ、確かに思う。
あの場所を守るなら、世界ごと相手取れるだけの力が要る。
Ⅲ:帰還
ある夜。
ゲートが自然に開く。
座標はアースランド。
懐かしい匂い。
「……帰るか」
俺は踏み出す。
Ⅳ:還る影
夜。
小さな建物。
かつての栄光はない。
マカオが酒をあおり、
ワカバが煙を吐き、
ラキが黙り込む。
ロメオが扉を見ている。
ギィ……
扉が開く。
沈黙。
「……シュン、兄?」
ロメオの声。
マカオが立ち上がる。
「は……?」
俺は一歩、踏み込む。
「久しぶり」
ざわめき。
「死んだはずだろ……!」
ウォーレンが魔力を探る。
「……生きてる」
ロメオが駆け寄る。
「ほんとにシュン兄なんだよな!?」
頭を撫でる。
「本物だ」
ロメオの目が潤む。
マカオが顔を覆う。
「……バカ野郎……!」
ワカバが小さく笑う。
ラキが呟く。
「今度は消えないでよ」
俺は周囲を見る。
減った席。
重い空気。
何があったかは知らない。
だが分かる。
ここは傷ついた。
そして俺は戻ってきた。
影は足元で静かに揺れる。
今度は消えない。
この場所で戦う。
物語は、ここから動き出す。