暇つぶしでも読んでもらえたら幸いです。
●東雲探偵事務所。
ここは風都に存在する有名な探偵事務所である。
だが、名探偵と言われていた所長が亡くなり
現在では、残った探偵たちだけで事務所を運営していた。
「鈴矢くん、珈琲を淹れてちょうだい」
「…」
「鈴矢くん」
「はいはい、分かりましたよ!」
珈琲を淹れてとお願いした方は 東雲 霧子。
東雲探偵事務所の探偵で、長い髪が魅力的な美しいスーツの女性。
その所長に珈琲を淹れさせられているのは五十嵐 鈴矢。
東雲探偵事務所の探偵で、同じくスーツを着た男性。
「ったく、自分で淹れればいいだろう」
「文句言わないで頂戴」
「…はいはい」
不満そうにしながら鈴矢は珈琲を淹れる。
「ふふふ、相変わらず鈴矢は使われているね」
「うっせぇなノエル」
「そんなことを言うものではないよ鈴矢。
口が悪いと周りの人間に嫌われてしまうらしいからね」
「お前みたいに人を食ったような奴も気に入られねえから安心しろ」
「ならば僕たちは同じ嫌われ者じゃないか。仲良くしないとね ふふふ」
「…仲良くできねえんだから嫌われてるんだろ」
鈴矢の嫌われ者仲間を自称した少女はノエル。
鈴矢の相棒で、黒いドレスの様な服を着た少女。
因みに僕っ娘である。
「ほらよ 珈琲」
「ありがとう鈴矢くん」
霧子は鈴矢が淹れてくれた一口飲む。
「僕にも何か淹れてくれないかい?できればジュースがいいんだけど」
「それぐらい自分で淹れろ」
「僕には淹れてくれないのかい?」
ソファで寝転んでいたノエルは うるうるとした瞳で鈴矢を見る。
「…そんな目で見たって」
「…」
「おい、無駄だって…」
「…」
「あぁ!もう!分かったよ!淹れればいいんだろ!
林檎でもオレンジでも好きなだけ淹れてやる!」
うるうるとした瞳で見つめられた鈴矢は ノエルの押しに負けてジュースを淹れに行った。
なんというか…
「ちょろいわね 鈴矢くん」
「うるせぇよ!」
「甘いよねえ 僕の相棒は」
「好き放題言うんじゃねえ」
ちょろい鈴矢は 自分に対する評価が気に入らないながらも
ジュースは きちんとコップに注ぐ。
「いいじゃないか ちょろくて甘い鈴矢のことを僕は気に入っているよ」
「そんな俺も、それを気に入ってるお前のことも 俺自身は気に入ってねえよ」
ノエルの言葉に鈴矢はイライラした感じに答えた時
コンコン
突然、東雲探偵事務所の扉がノックされた。
「はい、どうぞ」
「すみません、ここが東雲探偵事務所ですか?」
霧子のどうぞという声で一人の女性が事務所に入ってくる。
女性は余り自信がなかったのか、ここが事務所なのか訪ねて来た。
「えぇ、そうよ。依頼かしら?」
「はい」
「話を聞くわ。そこに座ってください」
「はい、失礼します」
先程までノエルが寝転んでいたソファに座ってもらう。
ノエル自身は鈴矢が淹れてくれたジュースを美味しそうに飲んでいた。
●
「なるほどね」
依頼者は藤江 麗奈。
風都大学のデザイン学科に所属する学生。
先日遺品から身元が分かった岡本 加奈子の死の真相
それを突き止めてほしいという依頼である。
仕事内容としては犯人として疑わしい人物である
金島 敦という男を探すところから始めてほしいらしい。
「けど、藤江さん。その男が犯人だって可能性が高いなら
警察に任せてもよかったんじゃないか?」
確かに いくら警察といえど
死人が出る様な事件なら証言次第で捜査してくれるだろう。
それに鈴矢には信頼できる刑事も居り、もしも藤江さんの自信がないようなら
紹介するつもりでいた。
「はい、最初はそう思ったんですが気になることがあって…」
「気になること?」
麗奈の言葉に興味を持つノエル。
空になったジュースのコップを片付け麗奈の方へ近寄っていく。
「気になることというのは僕も気になるね。
何なのかな?警察より探偵を当てにする理由っていうのは」
「その…私の友達がストーカーに狙われてるからです」
「は?」
「え?」
「ストーカーね ―― 実に気になる」
麗奈が言うには金島敦は気になった女性に手を出す変態で
加奈子の次に狙うのは大島 美紀という女性を予想しているらしい。
だが、金島敦を愛しているという牧志 真美子という女性も入って来て関係は三角関係。
麗奈はこれ以上死人が出てきてほしくないので
金島敦を捕まえて 美紀と真美子を落ち着かせてほしいらしいのだ。
「…話は分かった。けど、それも警察の仕事でこと足りるんじゃないのか?」
「実はこの依頼も本当の希望者は美紀で。
少し前からストーカーにあってたらしいですけど 警察はその時、何もしてくれなくて。
そんな警察には守られたくないって」
「なるほどね。 事件が起きてからじゃないと動かないのが警察の弱点だ」
「で、その美紀さんはどうしているの?」
「家に居ます。外に出たらストーカーの気配を感じる時があるから極力家に居たいと」
「引きこもりだね。仲良くやれそうだ」
「お前と一緒にすんな」
「いたっ」
会話に水を差したノエルの額を鈴矢が軽く叩く。
「それで、お願いできますか?。私としても美紀にも真美子にも一緒に、また平和に大学へ通いたいですし」
「分かりました。その依頼、お受けします。
鈴矢くん、まずは藤江さんを連れて大島美紀のところに聞き込みに行ってちょうだい。
私は牧志真美子の方へ行ってみる。ノエルさんは待機でお願い」
「了解」「はーい」
霧子の指示に返事をした鈴矢はお気に入りの帽子を被る。
「あの、お願いします」
麗奈が二人の住所が書いたメモを霧子に手渡す。
「分かりました。任せてください」
それを受け取り霧子と鈴矢は事務所の扉から出て行った。
●大島美紀のマンション。
麗奈が事情を話、鈴矢と麗奈は大島美紀のマンションに入れた。
大島美紀は1LDKの部屋で一人暮らしをしている。
「こちら、東雲探偵事務所の五十嵐さん。
こっちは私の友人でストーカーの被害者である大島美紀」
「よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
鈴矢と美紀は互いに礼をする。
「あの、今回はありがとうございます」
「いえいえ、依頼人の願いを叶えるのが仕事ですから。
それにストーキングなんてのは許される行為じゃない。必ず犯人を捕まえます。」
警察とは違い、自分の依頼をしっかりと聞いてくれそうな鈴矢の対応に安心した表情を見せる美紀。
「よかったね 美紀」
「うん、ありがとう麗奈」
「で、ストーカー。金島敦の行方などに心当たりはありませんか?」
「心当たりはないんですけど…ストーカーも見えるのは夜に影だけで。
けど、その気配を感じた時に周りが暑くなるんです。まだ二月なのに」
「気温変化…」
被害者である岡本加奈子は高熱で焼かれた死に方をしていたらしい。
美紀は、この状況にも何か共通するところがあるのではないかと考えたのだ。
●大島美紀のマンション前。
一通りの話を聞き終え、鈴矢と麗奈はマンションを出た。
『もしもし、私よ』
「大島美紀の話を聞いたが、確かに金島敦の犯行と思われる点がある。
大学でも 軽いセクハラを受けていたらしいしな 」
『こっちは そのセクハラする男性をえらく気に入ってる女性だったわ。
正直、疲れた。』
「あ、そういう人だったんだな…」
鈴矢は 性格がまともであった大島美紀の担当でよかったと安堵した。
「んじゃ、牧志真美子は大丈夫なのか?」
『えぇ。金島敦の所在は掴めてないし、手の出しようがないそうよ』
「所在が掴めたら手を出すのかよ…」
『少なくとも藤江さんや大島美紀に矛先が向かないだけ安心じゃないかしら』
「…確かにそうだな」
疲れたという霧子の話を聞き、牧志真美子がヤンデレ、メンヘラの類と察した鈴矢だったが
依頼人に手を出す気がないなら 霧子と同じく まだ安心という結論に至ったらしい。
『別の意味で危険な匂いはしたけどね…』
「え?」
『それはこっちで少し調べておくわ。』
「ん?あぁ。じゃあ、俺はこのままストーカーが隠れやすそうな場所をマンションの周辺で調べてみる。」
『了解よ。何か分かったら連絡頂戴。私は大学の方に行ってみる』
鈴矢は霧子との電話を切り、スタッグフォンをポケットにしまう。
「さて、ちょっと調べてみるか ――― 藤江さんはどうっ!? 」
鈴矢が話してる途中、マンションから凄い爆音が鳴り響いた。
マンションを見ると大島美紀が居る部屋から火災が発生している。
「美紀!」
「藤江さんはここに居てくれ」
鈴矢はマンションの方へ走りながらドライバーを腰にセットする。
「ノエル、出やがった」
『了解したよ』
ノエルを呼んだ後、胸ポケットから出したジョーカーメモリのスイッチを押す。
≪ジョーカー!≫
ジョーカーメモリから音声が鳴り響く
『「変身!」』
≪サイクロン!ジョーカー!≫
ガイアメモリの音声と共に鈴矢は仮面ライダーダブルに変身した。
「はっ!」
疾風の如く 空にジャンプにしたダブルは一気に三階の大島美紀の部屋までたどり着く。
「美紀さん!」
「あ?」
部屋の中に居た美紀はマグマ・ドーパントに首を締め上げられている。
「誰だ?」
美紀の身体はマグマ・ドーパントの炎によって既に治療などが間に合わない程に燃やされており、
既に女性の身体かさえも分からないほど原型を止めていなかった。
「…てめぇ」
まだ少し原型を止めていた美紀の顔もマグマ・ドーパントの炎で完全に燃え尽きてしまう。
「なんだよ お前?あ、もしかして噂の仮面ライダー?」
「あぁ、そうだ。よく覚えて置け。その名は、今から てめぇはブッ飛ばす戦士の名だ!」
「やれるもんならやってみろよ!」
マグマ・ドーパントに正面から突っ込んでいくダブル。
それに対してマグマ・ドーパントは身体から高熱を放出して迎え撃つ。
『落ち着いてくれ』
「おぁ!?」
「…え?」
廊下を走るダブルが 急にマグマ・ドーパントが居る部屋ではなく、
ダブルから見て左側面にあった脱衣所へ突っ込んでいったのだ。
マグマ・ドーパントも何が起こったのか分からない。
「何すんだノエル!」
『少し落ち着いてほしい。これ、半分は僕なんだからね?
君がやられると僕も痛いんだ。』
「あぁ?」
『相手はマグマ・ドーパント。その名通り高温のマグマを操る。
そんな相手に怒りのまま突っ込む君には恐怖を覚えるよ』
「…」
『よし、落ち着いてくれたようだね。確かに人が一人、君の目の前で死んだんだ。
気にするなというのは無理がある。
だけど、冷静に対応しないと被害を増やしてしまう可能性が上がるんだ』
「…分かったよ。んじゃ、いつも通りやるぞ 相棒」
『あぁ、それでこそ 僕の相棒だ』
倒れていたダブルは 頭に引っかかった美紀の衣服を取り、立ち上がる。
「待たせたなマグマ野郎…」
脱衣所から出て来たダブルはマグマ・ドーパントに左手の指を向ける。
「さぁ、お前の罪を数えろ!」
「てか、何 一人で話してたんだよ!」
「お前に説明する義理はねえ!」
マグマ・ドーパントから放たれた火球をスライディングで避け、一気に距離を詰める。
「何!?」
「おらぁ!」
ダブルの右足によるキックがマグマ・ドーパントの腹部に入る。
「ぐぁっ!」
マグマ・ドーパントは吹っ飛び、後方に存在した窓を割ってアスファルトに激突した。
「ふっ」
マンションから降りたダブルは難なく地面に着地する。
「炎には炎だ」
『了解』
ダブルはヒートメモリのスイッチを押した。
≪ヒート!≫
左手でドライバーからサイクロンメモリを抜き取り、右手に持ったヒートメモリを差し込む
≪ヒート! ジョーカー!≫
「お熱いの、かましてやるか!」
「くっそっ ぶっ!ぐっ!」
「これは! てめえに燃やされた! 岡本加奈子さんと! 美紀さんの! 分だ!」
「ぐがっ!」
ダブルの燃える右手と右足がマグマ・ドーパントに連続の打撃。
マグマ・ドーパントはダブルの猛攻に 言葉すら ちゃんと発言できない。
「わぁーっ!」
「うおっ!」
マグマ・ドーパントから放出された高熱で辺りは溶け出し、ダブルも吹っ飛ばされる。
「ちっ、厄介な能力だ」
「…消し炭にしてやるよ」
「キャー!」
「なっ!?」
ダブルが立ち上がった瞬間、マグマ・ドーパントの後方から女性の悲鳴が聞こえた。
「藤江さん!」
「え、あっ、…」
「おっ、麗奈じゃん」
同じ学科の知り合いであるマグマ・ドーパントは麗奈の声を掛ける。
「…敦なの?」
「そうだよ。お前ともヤリたかったんだよな。なぁ、麗奈?お前 俺に抱かれる気ない?」
「…い、いや」
「…あっそ、ならお前も燃やすか」
「おい、やめろ!」
ダブルはマグマ・ドーパントを止める為に走りだすが
この距離ではマグマ・ドーパントの火球の方が早い。
――― 依頼人を守れ ―――
ダブルの、鈴矢の頭には かつて自身の師匠から言われた言葉が思い出された。
「悪いのは ――」
「いや…」
「―― 麗奈なんだよ」
怯える麗奈に対して無常に放たれる火球。
「藤江さーん!」
「なっ!?」
「…え?」
絶対的な場面で突如火球は謎の矢のようなものとぶつかり 麗奈に直撃する前に爆発した。
「どういう 『これはチャンスだ鈴矢』 あぁ!」
「うっおっ!」
ダブルはヒートの力でマグマ・ドーパントを掴み上げ、麗奈とは逆方向に投げ飛ばす。
マンションから少し離れた林には、謎の怪人が立っていたのだが、それはまた別のお話。
≪サイクロン! ジョーカー!≫
ドライバーのメモリを再度変え、ダブルは最初に変身していたサイクロンジョーカーに戻る。
『ここは一気に決めよう』
「あぁ、これで決まりだ」
ジョーカーメモリを右腰のスロットに差し込みボタンを押す。
≪ジョーカー! マキシマムドライブ!≫
その音声と共にダブルの身体はサイクロンの疾風により宙に浮かんでいく
「な、なんだ。何をする気だ!」
宙に浮かぶダブルを見て戸惑うマグマ・ドーパント。
『「ジョーカーエクストリーム!」』
ダブルはマグマ・ドーパントの方向へ急降下し、ダブルの身体が半分に割れた瞬間、
サイクロンジョーカーの必殺技であるジョーカーエクストリームが決まる。
「ぎゃあああああああああああああああああ」
両足のキックが命中したマグマ・ドーパントは後方に吹っ飛んだ後、悲鳴を上げて爆発した。
「うっ…」
爆発した後には目の下に隈が出来た敦と割れたマグマメモリが落ちている。
「…事件解決だな」
「…仮面ライダー」
離れていた麗奈が、爆破して敦に戻ったことを確認してダブルの方へ近づいていく。
「藤江さん…」
「…五十嵐さん、なんですか?」
聞き覚えのある声を聞き、半信半疑で 鈴矢の名を口にする麗奈。
「…はい」
「仮面ライダーだった、んですね」
麗奈は少し安心した表情で仮面ライダーを見た。
「あの、美紀は?」
「美紀さんは…俺が行ったときには、既に…」
「!…そんな、うああ…」
その場に泣き崩れる麗奈。
ダブルはそれをに対して何もすることが出来ない。
鈴矢自身も依頼人の友人にである、美紀を守れなかったことはショックで仕方なかったのだ。
―― 依頼人を守れ ――
かつてこの言葉を教えてくれた師匠にも 申し訳ない気持ちで居る鈴矢。
確かに麗奈は生きている。
だがそれは、マグマ・ドーパントの火球を相殺してくれた者のお蔭であり、ダブルだけでは救えなかった。
あの時、メモリを瞬時に差し替えてルナトリガーを使っていたところでギリギリ間に合ったとしても相殺した爆発で麗奈は死んでいた。
鈴矢は自身の不甲斐なさを悔やんだ。
「て、めぇ…」
ボロボロの敦が起き上がる。
「ゆるさねぇ…ぞ」
ダブルは変身を解除し、人間の姿に戻る。
「てめぇがやった罪は許されるものじゃねえ。
俺自身がてめえを殴り飛ばしたい気分だが、てめえを裁くのは警察だ。大人しくしてろ」
「そうだよ敦。お願いだから」
「だまれ、れなーっ!?」
「なっ!?」
突如、敦が立っていたアスファルトが割れ、敦の身体が恐竜の口に飲み込まれる。
『まだドーパントが居たのか』
「敦―っ!」
鈴矢が急いで駆け寄るが、既に恐竜の様なドーパントの姿はなかった。
「…くそーっ!」
鈴矢は怒りをアスファルトにぶつけるように地面を踏みつける。
「…五十嵐さん」
その姿に自分よりも麗奈は鈴矢が苦しんでいるのだと察していた。
●
「なるほどね。そんなことがあったの」
麗奈を自宅まで送り届け、東雲探偵事務所に戻った鈴矢。
「…」
椅子に座った鈴矢は無言で俯いている。
「おそらく犯人は 牧志真美子かもしれないね。金島敦を狙う理由があるのは現段階では彼女だ。
岡本加奈子の遺族などの可能性もあるが、霧子が手掛かりを掴んでいるようだしね」
座っていたテーブルから降り、ノエルが地面に着地する。
「えぇ、直接会って来た私には彼女の雰囲気は独特というのを感じて少し調べさせてもらったから。」
「じゃあ牧志真美子が一番怪しいということで間違いないだろう」
「では、それを確証に変えましょう。地球の本棚に入ってくれる?」
「了解したよ」
ノエルは机に置いていた何も書いていない本を持ち 眼を閉じる。
「知りたい項目は恐竜のドーパントの正体。キーワードは…」
ノエルが意識だけを飛ばしている場所は地球の本棚。
そこには地球が記憶する ありとあらゆる情報が存在している。
「キーワードは、牧志真美子、恐竜、 そして…捕食」
霧子に言われたキーワードで検索した結果。
地球の本棚の本はどんどん数を減らし、一冊の本だけがノエルの目の前に残る。
「…なるほど」
地球の本棚で本を閲覧したノエルは目を開く。
「牧志真美子は犯人で間違いない。
持っているメモリはティーレックス。それは彼女の性癖カニバリズム、
つまり食人症があるせいで体質が合うメモリだったんだろう」
「やはり、食人症だったのね」
「知ってたのか?」
「いえ、確証はなかったけど。あの人、私を見た瞬間 舌を出したのよ。
そして部屋も少し異臭がしたわ。最初は香水などを巻き過ぎたのかと思っていたけど。
少し調べたら彼女の周りで何人かの人物が失踪してる」
「なるほど。それならば被害者は金島敦 一人だけではないだろうね。きっと体質の合うメモリの効果で人肉を食べた後の後遺症などが軽減されているのだろう」
最低でも金島敦以外の人間を一人は喰っている。
その話は 一刻も早く牧志真美子を捕まえないといけないことなる。
ここに居る三人はそう考えていた。
「…だけど、なぜ 牧志真美子は大島美紀のマンションへ向かったのだろう」
「そんなの金島敦を喰う為に待ち伏せしてただけじゃないのか」
ノエルの疑問に鈴矢が答える。
確かに、次に狙われるのは大島美紀だということは友人であった牧志真美子も予想を立てていただろう。
「いやね、マグマ・ドーパントが犯行を犯していたのは夜だったのだろう?
大島美紀がストーカーの被害を受けていたのも夜だ。」
「…」
大島美紀がマグマ・ドーパントの被害にあったのは昼過ぎ。
確かに 今までの犯行を考えると早すぎる。
「…たまたまという可能性は?。もしかしたら昼間に金島敦が襲う可能性を見越して張り込んでいたのも知れないし」
「そうならば、どちらかがおかしいんだよ鈴矢」
「どちらかが?」
「確かに。金島敦が時間を気にしてなかったのなら、何故夜ばかりにストーキングをしていたのか。
それがたまたまなら 何故牧志真美子は、あのタイミングで向かったのか。
牧志真美子が本気なら朝からずっと張り込んでてもおかしくない」
「…」
霧子の話を聞いて考え込む鈴矢。
「そして…これは警察に依頼してお願いした情報なんだけど。岡本加奈子の死亡推定時刻は午後14時だった」
「っ!」
鈴矢は立ち上がり、壁に掛けてあった帽子を被り事務所を飛び出した。
「なるほど、ストーカー自体は別に居る可能性が高い」
「えぇ。じゃあ、私たちも行きましょうか」
二人も鈴矢の後を追うように事務所を出る。
「…無事でいてくれ、藤江さん」
藤江麗奈の身の安全を確認する為に鈴矢はハードボイルダーで走った。
●電気も点けていない真っ暗な部屋。
その部屋には異臭が漂っている。
ガグュッ、グギュグッ
何かを噛み千切るような音が部屋に響く。
「美味しい…」
グギュウ
「ぱくっ」
金島敦の目玉をスプーンで救い上げ、そのまま自分の口に運ぶ。
「美味しい。美味しいわ敦。
あなたの内臓も目も最高よ。」
ギュゥゥウゥ
持っていたストローで敦の血を吸い上げる。
ジュギゥウウゥ
次は抜き取った目の穴に差し込みストローを吸い上げた。
「やっぱり敦の血は何処を吸っても美味しいわ。
最高よ敦。愛してる。愛してる」
敦の死骸を抱きしめる真美子。
「愛してる愛してる愛してる」
牧志真美子、彼女は狂っていた。
「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる」
愛する者を喰いたい。
そんな感情が昔からあった。
そんな感情が昔からあった。
真美子自身も人は違う感情だと認識していたが、それがおかしいとは思わない。
「愛してる ――― 敦」
一人目に食ったのは弟だった。
二人目は初めて付き合った彼氏。
その後も何人かの人間を捕食し、
今、自分の愛に振り向いてくれなかった者を喰っている。
彼女にとっては最高の喜びを感じる瞬間だった。
「それじゃあ、次の狩りに行ってくるわね 敦」
敦の死骸にキスをして真美子は立ち上がって 血をシャワーで流し落とす為に風呂場に向かう。
狂った愛情を持つ彼女だが、もっと狂ったものがあった。
それは…
「でも残念だったなぁ 加奈子も美紀も私が食べる予定だったのに。
本当に敦は欲しがりさんなんだから。
…あの恋敵達、最後まで敦に求められてた癖に本当に贅沢な奴ら」
恋敵、つまり愛する者以外でも喰うことしか考えていないところである。
「次は、麗奈…貴方の番だからね」
シャワーで敦の血を洗い流しながら、真美子は笑みを浮かべた。
●とある家
そこには一人の少女が住んでいる。
「…」
少女は余り口を開かない。
少女の家はそれなりに裕福な家庭なのだが、その分仕事が忙しく
両親は大体家には居ないので話すことがなかった。
少女には友達も居らず、いつも一人で居た。
「…」
少女は思っていた。
どうして自分は生きているのだろう。
両親は自分を愛してくれているかもしれない。
だけど私は ずっと一人だ。
一人で生活している。
学校でも 上手く話せない私には友達なんて出来ない。
じゃあ、私は何が楽しくて生きてるんだろう。
少女は自問をするが自答はしない。
少女は独り言も言わない。
少女は余り口を開かない。
開く必要がない。
誰も聞いていないからだ。
一人での会話など虚しいだけだからだ。
だけど本当は誰かと話したかった。
家族と日常の話をしたかった。
友達を作って会話をしたかった。
けれど、こんな自分では叶えられないと諦めていた。
少女は余り口を開かない。
けれど、例外がある。
流石の少女も、行き倒れの人間を見つけた時には声を掛けた。
「…大丈夫?」
少女が買い物から帰宅しようと自宅の周辺を歩いている時に発見したのだが、
まさか少女も行き倒れの人間を人生で見ることになるとは思っていなかった。
「……」
行き倒れている男性から反応は無い。
「…あの、?」
少女が察するに死んではいないと思う。
行き倒れてはいるが、それはあくまで行き倒れ、 死体が転がっている感じはしない。
「……」
「……」
少女は行き倒れた男の身体を持っていたネギで つっつく。
「…うっ」
ようやく反応があった。
少女は普段開かない口をもう一度開く
「…あの、大丈夫?」
「…うぅ」
男は少女の方を向いて言った
「…腹が、減った。」
腹が減っている。
男はここ数日何も口にしていなかったので
ついにこの場に倒れ込んでしまったらしい。
「……」
少女は男を無言で見つめる。
「……」
男は少女の方を向くのもしんどかったのか また顔を俯けてしまう。
「……家に、来る?」
「…お願いします」
少女の提案に男は乗らせてもらうことにした。
「……付いて、来れる?」
「…気合で、なんとか」
男は全力で立ち上がる。
「……付いて来て」
「…はい」
少女の後ろに男は付いていった。
これが、人と余り関わることがなかった少女の
運命の出会いだった。
1話目は前後編になります。
2話で事件解決となります。