全てを捨てて、戦う女。
連装砲は、お前を殺す(デデン!)
艦載機は、お前を殺す(デデン!)
連装魚雷は、お前を殺す(デデン!)
悪魔の力、身に付けた。
我々は、大きなミスを犯した。
あの時敵艦隊の戦力を見誤ったのはこの今の現状へと繋がってしまった。
何としてでも奴を仕留めなければならない。
国の為に、国民の為に、家族の為に。
ここは横須賀鎮守府。
嘗ての戦艦レ級討伐作戦に参加した例の精鋭部隊の拠点である。
軍事基地ではあるがそこに軍隊らしき物々しい雰囲気は無く、所属する艦娘達は皆ごく普通な日常を過ごしていた。
その鎮守府の中心にある執務室。
艦娘を指揮する提督の仕事部屋兼仮眠室として使われる。
日中の今執務室にいるのは、ここの艦隊の総指揮を担っている提督とその補佐を勤めている艦娘、『大淀』だった。
「捜査本部から報告がありました。
そう言って大淀は彼にタブレット端末を手渡す。
「成程な……それで、そのレ級を回収したというのは何者なんだ?」
「監視カメラの映像から身元の特定は出来ました。 福嶋 享、32歳。 フリーターです。 しかし、深海棲艦やレ級との関係性は分かりません」
大淀の言葉を聞き、彼は唸る。
地上にまだ別の深海棲艦が潜んでいると考えていたが、協力者はなんと深海棲艦どころかただのそこら辺にいるフリーターの中年男。
一体レ級が何をもってしてこの人物の協力を得ることが出来たのだろうか。
「現在既に、
「万が一の場合には、俺達も駆り出されるんだろうな……」
タブレットに表示された彼の経歴や住民票を見ながら顔写真に目を移し、思わず顔を顰める。
赤く染められた髪に、短く生え揃った顎髭。
肌は日焼けのせいか僅かに褐色肌になっている。
「いかにも学生時代やんちゃやってましたって感じの顔だなぁ……」
「提督は学生時代はあまり目立っていませんでしたからね。 友達もいませんでしたし、羨む気持ちも分からなくは──」
「やめろ!」
この凄惨なる戦争の中でも、彼らのように一時の平和を享受する者達もいた。
そこには確かに、まだ日常があったのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「何かが来る」
真夜中、
深海棲艦の能力とやらだろうか。
俺を起こしたレ級は何やら警戒した素振りで窓の外を見ている。
その瞳に映っているのは、敵だ。
窓の外を確認すると、道路脇に複数台の装甲車が止まっている。
装甲車の後ろから出てきた何人もの重武装の兵士がアパートの階段を登っていく。
アパートは既に包囲されていた。
「おい、こりゃあヤバいんじゃねえのか……!?」
ドタドタと部屋の中にまで響いてくる足音を聴きながら俺は怯えた。
まさかレ級を狙って来たのか?
もしそうだとしたら俺はどうなる?
協力者として捕らえられ最悪の場合、外患誘致罪とかで即死刑になるのだろうか。
不安が募る中、窓から目を離したレ級は俺の方を見る。
「大丈夫、キョウハ私ガ守ルッテ言ッタデショ?」
瞬間、家の玄関が吹き飛ばされた。
外にはバッテリングラムを構えた兵士が立っていた。
その脇からゾロゾロと兵士が出てくる。
兵士達は俺に銃口を向け、引き金に指を掛けている。
他の兵士は土足で家に上がり込み、中を捜索しているようだ。
「跪け!!両手を上げて頭の後ろに置け!!」
言われた通りに跪き、両手を頭の後ろに置く。
気が付くと、レ級の姿が見えない。
一瞬逃げたのかと思ったが、直前のあの台詞を思い出すとそうではないような気がする。
「目標はいません!」
銃を構えていた兵士の1人が俺を床に押し付け、両手を結束バンドで拘束した。
「お前は深海棲艦と一緒にいたはずだ! 奴は何処にいる!?」
その凄まじい剣幕に気圧されながらも答える。
「しっ、知らねーよ!! さっきまで部屋にいたんだけど……」
そう答えると、兵士は肩の無線機を繋ぎ何やら話し始めた。
「アルファリーダーからブラボー、チャーリー、目標は逃走した模様───」
先程まで銃口を向けていた兵士達が突然、何かによって吹き飛ばされた。
天井を突き破って来たのは、レ級だった。
「キョウヲ傷ツケル奴ハ許サナイ……!!」
その表情は、狂気と憤怒に満ちていた。
殺意を纏った眼光が兵士達を捉える。
「コンタク──」
アルファリーダーと名乗った兵士が銃を構えようとしたが、レ級が首根っこを掴んでいた兵士の1人を彼に向かって投げ飛ばした。
彼は飛んでくる部下を避ける事が出来ずに、2人揃って窓から放り出された。
この部屋は3階なので落ちればタダでは済まないだろう。
体制を立て直した兵士が発砲しようとして、そのままレ級の尻尾に頭を食いちぎられた。
放り投げられた頭がボールのように床を転がる。
そこから立て続けに尻尾の連装砲を他の兵士に向けて撃ち、砲弾は防弾チョッキを貫くどころかプレート諸共人体を真っ二つに引き裂いた。
あれ程統制の取れていた兵士は瞬く間に殲滅され、残されたのは原型の無い肉塊と床や壁、天井でさえも真っ赤に染め上げた鮮血だった。
「ココカラ逃ゲル! 掴マッテテ!!」
拘束されたままの俺を担ぎ、レ級は窓から飛び出した。
去り際にレ級は尻尾から砲弾ではない何かを射出する。
レ級が地面に着地したと同時に、俺の部屋が爆散した。
「俺の家がぁ!!?」
「ゴメンネ!!」
レ級は俺を抱えたまま走り出す。
両足だけでなく尻尾も駆使して人間ができるとは思えないような跳躍力で家の屋根から屋根へ飛び移っていく。
吹き飛んだ家がいい攪乱になったのか、追手が来る気配は無い。
市街地だから下手に戦力を動かせないのだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
レ級が跳躍する度に感じる浮遊感と激しく揺れる景色に慣れてきた頃、俺達はいつの間にか海岸に着いていた。
俺を下ろしたレ級は海の向こうを何やら見つめている。
何かを探しているようにも見えた。
「どうした?」
「……同志ガ向コウニイル。 コッチニ呼ビカケテキテル」
その言葉を聞いて、俺は思い出した。
確か深海棲艦はテレパシー的なコミュニケーション方法で高い連携能力を維持していると聞いた事がある。
レ級にも勿論、それはある筈だ。
という事は彼女が言う同志とは、深海棲艦がこっちに来ているという事だ。
「おい大丈夫なのか? 人間の俺殺されない?」
「サッキ話ヲツケタ。 目的ハ私ダケミタイダッタケドキョウモ一緒ニ連レテッテイイミタイ!」
レ級は心底嬉しそうな表情ではしゃいでいる。
ここだけを見てればただの純新無垢な少女だ。
しかし、彼女はついさっき10人以上の大人の兵士を殺戮している。
「ヤッタネ! キョウ!」
水平線に黒い影がポツポツと、次第に近付いて来ていた。
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