レ級に舐め回されて唾液でベチョベチョの指が乾いてきた頃、俺達は遂に彼女と出会った。
彼女の名は集積地棲姫。
盛り上がった白髪にヘッドホンと眼鏡が特徴的だ。
集積地棲姫はやはりこのルソン島一帯の物資を統括しているらしい。
地図を見せてもらって分かったことだが、ここはフィリピンの首都であるマニラだった。
道理で街の規模が大きかった訳だ、と俺は納得した。
あのコンテナハウスは俺の家として使う為にレ級とヲ級が2人で作ってくれたとの事だ。
感謝の言葉を掛けながら頭を撫でてやると、2人は気持ち良さそうに鳴く。
しかし、俺は何故折角マニラの大都市があるのにそこに住まわせてくれないのかと聞いた。
マニラは中小国の首都とはいえかなり大きな街だ。
人類より遥かに数の少ない深海棲艦では手に余るのではないかと考えたのだ。
俺の問に対して、集積地棲姫曰く。
「アノ街ニハ多クノ同志ガ独自ノテリトリーヲ築イテイル。 ダカラ既ニオ前ラノ取リ付ク島ハ無イゾ」
「テリトリー? 1人の深海棲艦が広い範囲を占有してるって事か?」
「正確ニハ艦隊ダ。 各艦隊ガ皆ソレゾレノ領地ヲ持ッテイル。 ドノ艦隊ニモ属サナイオ前ラガ住メナイノモ当然ダ」
「ソウダッタンダー」
レ級は船橋の冷蔵庫から勝手に取り出したジュースを飲んでいる。
取り敢えず俺は情報提供をしてくれた集積地棲姫に感謝の言葉を述べ、この後どうすればいいかを聞いた。
「好キニシロ。 私ハハナカラ人間ニ興味ナド無イ」
集積地棲姫はそう言うと立ち上がって俺達を一瞥すると再び薄暗い船橋の奥へと戻って行った。
「ソウダ人間、モシ困ッタコトガアレバ戦艦タ級トイウ奴ヲ尋ネルトイイ。 レ級ノ救出ニ来タ艦隊ノ旗艦ダ」
最後にそれだけ言い残して。
◇◆◇◆◇◆◇◆
コンテナ船から降りた先にある旧マニラへ向かった時、俺はその光景に呆然とした。
嘗て栄えていたはずの大都市の面影は無く、そこにあるのは砲撃と爆撃で崩れ落ちたビルや家屋の残骸と、乗り捨てられたまま朽ちた車などばかりが視界を埋めつくしていた。
「……こんな所に住むのは御免だな」
「ネー見テ見テ!!」
レ級が瓦礫の下から何か引っ張り出してきたので間近で確認してみると、それは誰のかも分からぬ白骨死体の腕だった。
「うぉっ!? なんてもん持ってきてんだお前! さっさと戻してこい!」
しかしどうやらレ級が興味を示しているのは腕そのものではないようだ。
薬指から外したそれを、レ級はまじまじと見つめる。
「結婚指輪がどうかしたのか?」
「ケッコンユビワッテ言ウンダ。 前ニ殺シテヤッタ
どうやら結婚の意味も知らないレ級は不思議そうにその指輪を数秒見つめるとやがて飽きたのか後ろに放り捨てた。
まぁ、ロクな教育すら受けていないレ級ならば致し方無いだろう。
一方でヲ級はその頃野良猫と戯れていた。
「ニャッニャッ」
「ヲッヲッ!」
「ニャー」
「ヲー」
◇◆◇◆◇◆◇◆
マニラ北西部の嘗て街だった場所。
栄華の残骸が横たえるこの場所は、深海棲艦の為の港湾施設と成り果てていた。
いわば鎮守府に近い施設であった。
その中の簡易テントの中で4人の深海棲艦がテーブルとそこに広げられた世界地図を取り囲んでいる。
一人は享とも会ったことのある例のグラドル深海棲艦、戦艦タ級。重巡リ級、軽巡棲鬼、駆逐水鬼。
「今週カラ哨戒艦隊ヲ増ヤス事ニナッタ」
「ナンダ、エラク急ナ話ダナ」
哨戒の増員の連絡をしたタ級に半ば野次を飛ばすように言い放ったのは椅子でふんぞり返ったリ級だった。
彼女はこの泊地でもそれなりの古参で他の海域でもそれなりの実戦経験を持つ、現場肌の強い叩き上げの深海棲艦である。
「近頃、我ガ潜水部隊ト偵察機ガ妙ナ兆候ヲ捉エタ」
そう言いながらタ級は地図の複数の部分を指し示す。
「台湾ノ『左営港』、パプアニューギニアノ『ポートモレスビー』、日本ノ『佐世保』、ソシテマダガスカルノ『トゥアマシナ』」
指し示した場所はどれも鎮守府が置かれている場所であり、東南アジア戦での主要な拠点でもある。
「ココガドウカシタノ?」
地図をまじまじと見つめながら駆逐水鬼は首を傾げた。
「コレラノ港ニテ我々ハ敵大部隊ノ移動ヲ感知シタ」
「ジャア、考エラレル事ハ一ツダネ」
腕を組みながら軽巡棲鬼が余裕のある表情でも答える。
「アア、近々敵ノ大規模ナ攻勢ガ始マルゾ」
深海棲艦×オリ主のSS流行らせコラ!