物間とともに雄英入試会場に赴き、筆記試験を受けたがまあなんてことはなかった。
苦戦した問題もいくつかなくはなかったが、それでも見直しをしてみた限りでは問題はないだろう。
「その分だと、物間も問題なさそうだな」
「まあね。むしろ筆記でつまづいているようじゃたかがしれてる、逆に今まで何をしていたんだと大声で笑ってやりたいくらいさ!」
「お、おう。そうだな……」
物間は周りがよく見えているくせに、こういうときはとにかくブレーキが効かない。
物間の無自覚な煽りに周囲の受験者達もムッとしていたが、
儂まで同類だと思われたら、今後の生活にまで影響が出かけねぇしな。
その後、指示されたホール適当な席に腰かけると物間も隣に座ってきた。
どうやら受験番号順だとかそういうことはなく、どこに座るかは自由らしい。
まあ、そんなことよりも気になるのが…………
「今日は俺のライヴにようこそー!! エヴィバディセイヘイ!!」
ボイスヒーロー『プレゼント·マイク』が入室早々、耳をつんざく程の声量に思わず顔をしかめる。
物間も同様だったようで、不快そうに顔を歪めていたが割りきったらしくすぐに平静を取り戻していた。
「こいつぁシヴィー!! 受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!! アーユーレディ!? YEAHHー!!」
一人として反応していないこの状況で、どんなメンタルしてんだアイツ?
これぐらいで意気消沈していたら、ヒーローとしてやっていけないぞっていうことかね。
単に面の皮が厚いだけかもしれないが。
何だかんだと言ってもそこはプロヒーロー、説明自体も分かりやく全容は理解できた。
模擬市街地にて10分という制限時間がもうけられ、仮想
1~3ポイントの敵が用意されており、唯一の0ポイントは言わばゲームの
他者の妨害はご法度。
この実技試験においてサポートアイテムの持ち込みは可能であることなど。
レクチャーも終了し、指定された演習会場に向かおうとすると物間が拳を差し出しながら声を掛けてきた。
「君のことだ、心配はいらないと思うけど頑張ってくれよ? くれぐれも落ちただなんて連絡だけは寄越さないでもらえると嬉しいな」
「相変わらず一言多いんだよ、お前は。言われなくても落ちるつもりは毛頭ねぇよ」
儂もその拳を合わせ、ニヤリと笑んでやる。
いつもの嫌味たらっしい笑みではなく、素の微笑みであることから純粋に儂を激励に来てくれたことはすぐに分かる。
本当に難儀な性格してやがるなコイツは。
物間は別会場だったようで、儂とは反対方向に歩を進める。
「ちょっくら一暴れしてやるかね!」
◆◆◆◆
中学でも愛用していたジャージに着替え、ウォーミングアップをしながら呼吸を整えていた。
準備は播但、“個性”にも問題はなし。
雄英のことだ、恐らくだが呑気にカウントをとってくれるほど優しくはないだろう。
なんの確証もない推測をたてていると、
『ハイスタートー!』
プレゼント·マイクの声が鳴り響き、唐突な開始宣言がなされた。
「そんなこったろうと思ったぜ!」
宣言と同時に走りだし、間が抜けたような表情をしている連中を置いてきぼりにして颯爽と奥の方に向かった。
この隙にポイントを稼いで一気に合格ラインまで持っていきたいところだが、さすがは雄英を受験する猛者たちと言ったところか儂が“個性”で出した刀で四体ほど蹴散らしたところで追いついてきた。
まあ、こっちは敵を倒しながらというハンデ付きだからな合格を狙っているならこの程度で追いつけなくては困るのはアイツらだろう。
「標的捕捉!!」
「おうりゃ!」
さりげなく肉薄してきた敵を切り払い、耳障りな音をたてながらその機能を停止する2p敵。
「標的捕捉!」
「おっ、来た来た。そんじゃ次の…………次……の」
「標的捕捉!」
「標的捕捉!」
「標的捕捉!」
「標的捕捉!」
「いや、幾らなんでも多すぎやしねぇか!?」
儂が2p敵を倒したことを皮切りに、わんさかと数えるのも億劫になるほどの数の敵が押し寄せてきやがった。
だがむしろ丁度いい、飛んで火に入る夏の虫ってやつだな。
「へっ、面白ぇ! 全員纏めてかかってきやがれ!!」
儂の合格ポイントになってもらうとするかね!
「武器の貯蔵は────十分だ!」
“個性”によって敵連中の頭上に幾多もの刀を出現させ、暴雨のように降り注ぐのはまさに数の暴力。
敵軍団を全てスクラップに変えた後、ざっとポイントを数えてみたが73pに到達していた。
巣から飛び出してきた蜂みたいにわんさかいやがって、まあそのお陰でポイントも稼げたンだけどな。
合格ラインがどれほどかは分からないが、それでも余裕は出来た。
「そろそろ他の連中の手伝いでもするかね…………」
残り時間は…………三分を切ったか。
3p敵にてこずっている受験者を見つけ援護に向かおうとしたところで、演習会場に大きな地鳴りが響いた。
頑強なビルすらあっさりとなぎ倒す巨体、まず間違いなく例のお邪魔虫とかいうやつだろう。
「だ、だめだ逃げろ!!」
「勝てるわけねぇよ!」
「助けてくれぇ!!」
おいおい、コイツら本当にヒーロー志望か?
恐怖に負けて逃げ惑う様はとてもヒーローを目指しているやつの姿とは思えないが、儂も中々に自分勝手な理由なのは分かっているからどうこういう権利はないがな。
そんな中、唯一その場に残るどころか立ち向かう女子がいた。
どこか見たことがあるブロンドのロングヘアー。
顔はよく見えなかったが、二本の角に乗って飛び行くソイツの姿を見た途端胸が大きくざわめくのを感じた。
その女子は果敢に0p敵に挑んでいるが、火力が足りないために決定打には至らない。
段違いの機動力で翻弄こそしているものの、それもいつまで持つか。
体力が切れてきたのか動きも徐々に鈍くなり、0p敵の攻撃は直撃こそしなかったが女子を角から落とすには充分だった。
「…………お、おい! くそっ!」
何をちんたら見ていやがったんだ儂は!
あのまま落下すれば例え死ななかったとしても、重症は免れない。
だが、儂が女子のもとまでたどり着くよりも地上に激突するほうが早い。
「くそぉおおおおおおおおおおおおお!!」
いくら叫んだところで結果は変わるはずもなく、そのまま女子は地上に叩きつけられて────
『なんだ、諦めンのか?
「なっ!」
謎の声が聞こえた瞬間、すべての時が止まったように動かなくなった。
『止まったようにじゃなくて、実際に止まってる。一時的にだけどな』
「何者だテメェは!」
『おいおい、随分なご挨拶じゃねぇか。気持ちは分からねぇでもないが』
儂の目の前に立っていたのは、紛れもなく儂だった。
ただその服装は大きく違っていて、白い羽織を右肩に掛けている。
紅色の射籠手と黒い袴が特徴的で、過去からタイムスリップしてきましたと言われても納得できる風貌だ。
『儂は千子村正。ただの刀鍛冶だよ』