パリピなウマ娘とパリピ(偽)トレーナー 作:勢い任せ
自分でも何故か分かりません。
声をかけられて顔を上げたパーマーの目の前にいたのは、ニコニコと自分を見つめる金髪の男だった。
パーマーの方に手を出して握手を促すような姿勢を取る男は、トレセン学園の中では有名な男だった。
ダイタクヘリオス。
主にマイルで活躍しているウマ娘で、先日はG1であるマイルチャンピオンシップでも1着を取った。
そんな一握りの才能を持つウマ娘の担当が目の前の男だった。
外部では初めて担当を持つトレーナーがG1を取るウマ娘に育てあげたことへの話題性で、少しの期間盛り上がっていたが、学園の内部で有名なのはそれではない。
バカコンビ。
それがヘリオスとそのトレーナーを表すときに使われる言葉だ。
いつもニコニコと笑いながら凄まじいテンションでよく分からない言葉を操るヘリオスと、それを映す鏡のようにピッタリと息を合わせるトレーナー。
いつ見ても仲良く無邪気に笑いながら話をする彼らをとてもトレーナーとウマ娘の関係だとは思うことは出来ず、そんな不名誉なあだ名で呼ばれている。
パーマーは彼らのことを時々遠くから伺っていた。
いつもバカ騒ぎを繰り返す彼らを敬遠する声もあるが、2人はそんな声も気にせずいつも楽しそうに笑っている。
お互いが通じあっているのだと分かるその光景がパーマーにとっては眩しく、そして羨ましいものであった。
そんなコンビの片割れが、今パーマーへと声をかけている。
気になっていた存在がいざ近くにくるとどう対応していいのか分からなくて、慣れっこになってしまった困ったような苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「あれ、聞こえなかった?今から俺と一緒にバイブスぶち上げに行こうって言ったんだけど」
「いや、バイブスとか言われてもよく分かんないし」
「お話ししませんかってこと!そこのナウイ…じゃなかった、ウマスタ映えしそうなカフェでちょっと話そうよ」
「…そうなら最初から分かりやすく言ってくれればいいのに…」
「いやぁーそれはマジでごめん!でももう抜けなくってさー。なんだかんだ評判良いしこのまま突っきっちゃえ的な?まぁそんな感じだから!」
思わず出てしまった嫌味にもどこ吹く風で、トレーナーはまだニコニコと笑顔を浮かべている。
「それで…これからお茶キメちゃわない?もしかしてこれからテンアゲでぶち上げな練習とか行っちゃう系?それなら一旦帰るけどさ」
「別にいいよ。あたしも丁度暇してたし、それに練習もあんまりやる気なくなっちゃったしね」
「え、そうなんだ。勿体ないなぁ〜、札幌記念の走りもヤバかったし、天春も途中までイケイケだったのに」
「あはは…見てくれてたんだ。覚えてくれてる人いると思わなかったなぁ〜」
嫌な所を見られていたな。パーマーはそんな風に思った。
無様に負けた天皇賞春に、よく分からないまま勝ってしまった札幌記念。
それは決してパーマーにとっていい思い出ではなく、それを褒められてもどんな顔をしていいのか分からない。
そんな複雑な感情の中に僅かに照れの気持ちが入ってしまったのは、今までこんな風に面と向かって褒められたことがなかったからであろうか。
とっくに期待されることは諦めていたはずなのに、いざ褒められると嬉しいと少し思ってしまう、そんな矛盾した感情がパーマーは嫌いだった。
「よし!じゃあ行こっか。勿論奢りだから好きなのじゃんじゃん頼んでいいからね」
そう言いながら笑う男は未だにパーマーへと手を伸ばしており、何となく掴まなければ悪いと思ったパーマーはその手を取った。
パーマーが立ち上げることを補助するように引っ張られた手は予想よりも大きくて、軽薄そうな見た目では想像できないゴツゴツとした手だった。
パーマーが立ち上がったことを確認した男は、手を離し誘導するように前を歩いていく。
ゆっくりとパーマーの歩幅に合わせるように歩きながら、時々すれ違う生徒に挨拶をしつつ目的地へと向かっていく。
かなりの頻度で声をかけられている所を見ると、1部では馬鹿にされているトレーナーだがなんだかんだ評判が良いというのも本当らしかった。
そんなこんなで、あまり人気ない所にこじんまりと作られたカフェに到着した。
「それで、話ってなに?」
席につき注文を終えた所で、パーマーはそう言った。
単刀直入に本題を切り出したのは、目の前の男といることに居心地の悪さを感じたからだ。
なにも考えていなさそうなのほほんとした笑顔は、今のパーマーには少しキツかった。
「まぁまぁ、そう焦らないで。とりま最初は〜えーと、ちょい待ってね、鞄の中漁るから」
トレーナーはそう言うとカバンの中を漁り出し、とあるものを取り出す。
「あった!ちょいこれ書いてくれない?」
「これってサイン色紙…?なに、私のサイン欲しいの?」
「そそ。気になる子には貰ってるのよ」
そう言ってパーマーの方へと色紙を差し出すトレーナー。
何を言われるのかと気にしていたパーマーからすれば、肩透かしをくらったような気持ちになってしまう。
色紙を見つめながら、どう対応すべきか考える。
別にサインを書くことに問題はないのだが、目の前の男のいいなりになるのは少し抵抗があった。
悩みなんて何もないとばかりに無邪気な笑顔が癪に障ったからだ。
「ダメ」
少しだけふざけた言い方をしながら断った。
それはこの男を困らせてみたい、そんな悪戯心半分と、自分のサインなんてもらってもしょうがないという自虐がもう半分。
「mjk…あ、これはマジかの意味ね」
パーマーが最初に分かりやすく喋ってくれと言ったからか、自らそんな説明をしながらへこむトレーナー。
それは頭を抱えるという表現がピッタリな様子で、パーマーが思ったよりもサインが欲しかったらしい。
「ふふ…そんなにへこむ?私のサインなんて貰ってもしょうがないと思うけど」
「いやぁ〜サイン貰えるのめっちゃ楽しみにしてたのよ…ねぇ、本当にダメ?わんちゃんもない?」
「別にそこまで嫌ってわけじゃないけど…」
「じゃあ頂戴よ。大事にするから!デコって部屋の1番目立つ所に置くから!あ、デコはデコレーションの意ね」
「デコくらいは流石に分かるって…あと人のサイン勝手にデコんな」
ケラケラと笑いながら話すトレーナーに流されて、パーマーの手にはいつの間にか色紙とペンが握らされていた。
そうなってしまっては断ることも億劫になってしまう。
もとより強い気持ちで断っていたわけでもないので、パーマーは渋々サインを書き始めた。
なんの捻りもない普通のサイン。
出来上がったサイン色紙を見ながらパーマーはそう評価する。
学園に入学してすぐにサインを作った記憶はあるのだが時間が経つにつれて忘れてしまっていた。
そんなサインをトレーナーへと手渡す。
「お、あざまる水産!…これはありがとうの意味ね。うーんなるほど〜」
パーマーへの感謝の言葉を述べた後、トレーナーは受け取ったサインを見ながら何やら唸っている。
「本人の目の前でよくそんなジロジロ見るね…」
パーマーは普通のサインを書いたつもりではあるが、値踏みされるように見られると流石に恥ずかしかった。
しかし、そんな思いから出たパーマーの抗議は届くことはなく、トレーナーはサインとの睨めっこをやめることをしない。
「うん、やっぱり惜しいな」
それが人のサインを見て言うことか、とパーマーは素直に思う。
「惜しいって…そりゃ面白みもない普通のサインだけどさ」
「サインのこともそうだけど、俺が言いたいのは君自身のことね」
「私のこと…?」
その物言いに普通のウマ娘であればイラッとしていただろう。
担当のトレーナーでもないのに、既にデビューして長いウマ娘に惜しいという言葉は普通使わない。
しかし、そんなことを言われてパーマーが感じたのは嬉しさだった。
惜しい…そんなことすらメジロ家では言われなかった。
惜しいというのは目をかけてくれているから生まれる言葉で、期待をしてくれていることの裏返しだとパーマーは思った。
だからこそ、トレーナーがどんな気持ちでその言葉を使ったのかが気になってしまい、疑問符を浮かべた。
「本当だったらもっと人気になれるのになぁって思ってね」
「人気…それってレースで結果残して初めて出るものでしょ?私はこれだけレースに出て重賞1回しか勝ってないのに出るわけないじゃん…」
「まぁ確かに結果を出すのがバイブス上げるには手取り早いけどさ。でもウマ娘を応援するのは強いからだけじゃ絶対ないよ。例えばウチのダイタクヘリオス…って知ってる?」
「知ってるよ」
「ヘリオスが人気なのは確かに強いからもあるけど、それ以上にあの子に魅力があるからなんだ。ほら、これ見てよ」
そう言いながらトレーナーが見せたのはヘリオスのレースの動画だった。
それは逃げウマ娘らしい気持ちのいい大逃げで、同じタイプのパーマーとしてはその実力がよく分かった。
「すごい走り…周りの子達も強い子ばっかりなのに最後まで逃げ切れるなんて」
「まぁ確かにそれもそうなんだけど、俺が言いたいのはこっちね」
トレーナーは見せたい所を強調するようにズームを使いヘリオスをアップにする。
見える所がヘリオスだけになってもさらにズームを続けて、画面にはヘリオスの顔がいっぱいに広がっている。
「ほら、すげぇ笑顔でしょ?息が切れて、足が重くて、プレッシャーにも晒されて、それでもヘリオスは笑顔なんだ。
レースが好きで、走ることが大好きで、そして何より観客が笑っていてくれることが大好きだからこそ走りながら笑うんだ。
そんな彼女だから俺は変われた。
今までの辛気臭い自分を捨て去って、大勢に馬鹿にされたっていいから彼女のためになりたい、そう思った。」
「そう…なんだ」
いつの間にかトレーナーの口調は真面目なものに変わっていて、それに伴い口調も熱くなっていくのをパーマーは感じた。
羨ましい。パーマーは目の間にいるトレーナーに熱く語られるヘリオスに対してそんなことを思う。
そんなに期待されたことが自らにあっただろうか。
メジロ家で生まれてから今までの人生、期待なんて言葉とは正反対の人生だった。
1人で走り、悩み、挫折した。
自身を抜き去っていくマックイーンを見て、才能の差というものを理解したつもりだった。
しかし、目の前で熱量を持って自らの担当するウマ娘を語っている男を見ると、羨ましいと思ってしまう。
自分には関係のないことの筈なのに。
「自分には関係ないって顔してるね」
「え?」
そんなパーマーの感情を分かっているかのように、トレーナーはそう言った。
「俺はね、ヘリオスと同じものを君に感じたんだ。…選抜レースで先頭を走る君は確かに笑ってた。
走ることが楽しくて、1番が気持ちよくて、みんなに見てもらえることが嬉しくて、そんな笑顔だった。
そんな君に俺はヘリオスとチームを組んで欲しいんだ。だから頼む、俺に君のトレーナーをさせて欲しい」
トレーナーは姿勢を正し、頭を下げる。
そんな様子に、パーマーは何が起こっているのか分からなくて混乱した。
今の自分の感情は嬉しいのか、はたまた悲しいのか。
今自分が笑っているのか、泣いているのか。
そんなことすら分からなくて、色々な感情がごちゃ混ぜになるが、それでも悪い気はしなかった。
確かにトレーナーはヘリオスのことを語る時と同じ熱量で、パーマーのことを勧誘している。それが分かったからだ。
この人なら自分が欲しかったものをくれる気がする、そんな直感がパーマーにはあって、だからこそパーマーの返答はすぐに決まった。
「…ありがとうトレーナー。急すぎて何がなんなのか分かんないし、自分がどんな感情なのかすら分からないけど、あなたが本気なんだってことは分かるよ。
私が今まで喉から手が出るほど欲しかった期待を、あなたはくれるんだと思う」
「……」
パーマーの言葉をトレーナーは頭を下げたまま無言で聞いていた。
話していると少しだけ冷静になったパーマーは、トレーナーが握る手が僅かに震えているのに気がつく。
それを見て僅かに笑みを浮かべる。
この人は本気なんだ。そんなことを再確認できたような気がして、だからこそパーマーもそれに本気で応えなければいけない。
「だからこそごめんなさい。私はあなたのチームには入れない」
ハッキリと、真っ直ぐに眼に力を込めて言った。
そうしなければ途中で折れてしまうような気がした。
「……理由を聞いてもいいかな?」
信じられない。穏やかに努めているトレーナーの声からそんな想いをパーマーは感じ取った。
「私ね、もう気づいちゃってるんだ。自分は期待をかけられる程の才能がないんだって、期待をかけられてもそれに応えられないんだって…それをもう知っちゃったから。
期待されないのも辛いけど、折角期待してくれた人に失望されるのは、きっともっと辛いよ」
「そんなことは絶対ない、俺が君に失望することなんてありえない。」
「はは…ありがとね。でもやっぱりダメだ。トレーナーはそんなことしないんだって思っても私怖いんだ。トレーナーの期待は、重すぎて私には背負いきれそうにないから」
「君は勘違いしてるよ。君は立派な「トレーナー」
更にフォローを入れてくれようとしていたトレーナーを制して、パーマーは発言する。
「私選抜レースの時、誰もいなくなったレース場でずっと待ってたよ。門限ギリギリまで、1人で座ってずっと待ってた。
…それでも誰も声をかけてくれなくて、思えばその時にすでに自分の才能の限界に気づいちゃってたんだよね」
「それは君が悪かったわけじゃない!あれには理由が…」
「もういいよトレーナー。とにかく、私は今まで通り1人で頑張るから」
これ以上トレーナーの言葉を聞いているのがつらくて、パーマーは立ち上がった。
そそくさと荷物を纏めて、スカートについた埃を手で払う。
パーマーをトレーナーへと背を向けて、歩き出す。
「じゃあねトレーナー。……できることなら、あなたとはもっと早く会いたかったよ」
そう言って去っていくパーマーは、一度も後ろを振り返ることはなかった。
その背中は何処か晴れやかで、そんな後ろ姿にトレーナーは声をかけれなかった。
☆
「……はぁ」
カフェに1人取り残されたトレーナーは、冷めてしまった紅茶を見ながら溜め息を吐いた。
カップの中に映るトレーナーはいつもの貼り付けた笑顔ではなく、学園に入った当初の見るものを威圧する顔だった。
「危なっ、笑顔じゃないといけないよなぁ〜。スマイルじゃないと参る…これ今度カイチョー様に教えてあげよ」
いつもの調子に戻るために強制的に元気を出させる。そのために出したダジャレの出来に、自画自賛する様に笑った。
「ふふっ、中々にいいセンスだね新人君」
そんなダジャレに釣られてか、この学園では聞き馴染みの深いそんな声が聞こえた。
トレーナーがその声が聞こえた方に振り向くと、やはりそこにいたのはこの学園の生徒会長であるシンボリルドルフ。
そしてもう1人、そんな彼女に付き従うように歩く厳格な女性がいた。
「おっ、カイチョー様がこんな所にいるなんてレアだなぁ。それにグルーヴも一緒なんてテンアゲだね!」
「貴様が私をグルーヴと呼ぶな!」
自らの名前に略されたことに怒ったのか、エアグルーヴはいつも吊り上げている目を更に上げて、問い詰めるように睨みつけながらトレーナーを叱る。
「まぁエアグルーヴ、今はそう怒らないであげてくれ。新人君は振られて落ち込んでいる所だからね」
「げっ…カイチョー様に見られてたのか。めちゃハズいじゃん、というかもしかしなくてもグルーヴにも見られてたよなぁ〜。うわぁー、顔あちぃ」
「ふん、貴様のその軽薄な言葉遣いがいけないのだ。最後のように初めから真面目に話していればいいものを」
見られていた。その事実に恥ずかしくなって顔を抑えるトレーナーに、追撃をする様にエアグルーヴのナイフのような言葉が刺さる。
それにトレーナーはうっ…と心臓を抑える仕草をする。
「大体さっさと本題を話さずサインなど貰いおって…真面目にしようとすれば出来るくせにわざとふざける所が私は好かんのだ」
「まぁ落ちつけエアグルーヴ。彼だってもう学園の殆どの人間には普通に話した方が受けが良いことくらい分かっているさ。
それでも話し方を変えないのはたった1人の担当のため…そう思うと中々可愛いと思わないかい?」
「えーと……それでカイチョー様は俺になんかようなの?」
「話を逸らすか…それもいいだろう。何、私はただ新人君を慰めにきただけさ。君は色々言われてはいるが優秀なトレーナーの1人には間違いないからね、こんな所で腐ってしまってはトレセン学園の損失になってしまう」
そう言い胸を張るルドルフは流石の貫禄だった。
彼女自身生徒会長という肩書きを持ってはいるが、その実はただの1生徒。
しかし、そんなことをカケラも感じさせない佇まいは、7冠という前人未到の領域にいるウマ娘だということをまざまざと感じさせられる。
そんなルドルフの貫禄に内心押されながらも、表面ではそれを見せないようにトレーナーは笑う。
「やだなぁ、こんな所で腐るわけないっしょ?ネバギブよネバギブ!…あれ?ネバギブは新しい方の言葉遣いでいいんだよな…?」
「ふふっ、また彼女と話してきたのかい新人君。君のそういう分かりやすい所は私は好きだよ。
…まぁ、それは置いておいて、結局君はどうする気なんだい?彼女のスカウトをまだ続けるかい?」
「もちのロン!何回もエンカしてアタックするよ。俺のバイブスはまだ全然伝えきれてないんだから」
自信満々に笑うトレーナーにルドルフはやれやれと頭を手で押さえながら横に振った。
腕の間から僅かに見えるルドルフの口元は、僅かに上がっていた。
しかし、そんなルドルフとは対照的にエアグルーヴは剣呑な雰囲気を保ったままだった。
「貴様、分かっているのか?メジロパーマーには既に担当がついている。この学園のトレーナーならば知っているだろうが、あのメジロ家のトレーナーだ。それが分からない貴様ではあるまい」
「…そりゃ知ってるよ。けどなんとかなるっしょ」
「貴様…!どこまでもふざけているな!それでなんとかならなかったから貴様も選抜レースで彼女に声をかけなかった、違うか!?」
「…そうだね」
「それが何故今なら大丈夫になる!?理由を話せ!話さないのならメジロパーマーのスカウトは私が許可しない!」
声を荒げるエアグルーヴ。
しかし、その声は何処か悲しげで怒っているというよりも叫んでいるようだった。
エアグルーヴは知っている。
生徒会というトレセン学園という組織の中心に近い人物だからこそ、この学園が様々な権力の荒波の中にあるということを。
ウマ娘に血統があるように、トレーナーにも血統がある。
パーマーがメジロ家で相手にされなかったように、今エアグルーブの目の前にいる男もトレセン学園の中では小さすぎる力しかないハエ同然の存在だ。
それを知っていて男を怒るエアグルーブは、口調では分かりづらいが心優しいウマ娘の1人だった。
そんな優しさが分かるからこそ、トレーナーは頭をかきながら困ったように笑った。
「バカコンビ、俺とヘリオスはそんな風に呼ばれてる」
「…それがどうした。今の話になんの関係がある?」
「俺はね、それは違うと思うのよ。コンビっていうのは対等なものじゃなきゃいけない。けど、トレーナーはあくまでもウマ娘を支えるためにあって、対等に競い合える存在じゃない。
…つまり、ウマ娘と対等な存在は同じウマ娘でしかありえないんだ。
ダイタクヘリオスはダイイチルビーというライバルを得て限界を超えた。
だからこそ、次はメジロパーマーという仲間が彼女、いや、お互いにとって絶対に必要なんだ」
「…本気なんだな?」
はぁ…と女帝と呼ばれる彼女らしからぬ溜め息を吐きながら、諦めたようにトレーナーを見つめた。
真っ直ぐと彼女を見つめる目を見てしまうと、エアグルーヴは何も言えなくなってしまう。
それは彼女のトレーナーが時々見せる目と同じで、そんな目をした男が自らの言う通りにならないことを彼女は知っていた。
「当たり前田のクラッカー」
「…おい」
「冗談だって…。まぁ見ててよ、いつか新聞が彼女達で一杯になる日が来るから」
そう言うとトレーナーは立ち上がった。
別れの挨拶をし、手を振りながら去っていくトレーナー。
そんな姿を、2人は違った表情で見つめていた。
1人は笑いながら。もう1人は、不機嫌そうな表情だった。
感想書いてくださった方本当にありがとうございます。
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