棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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リスタート~再始動~
消える炎の先で


消える炎の先で

 

 

 

 

喪失する存在の力。薄らいでいく己の命。

 

(消える、私の……私達の、愛の証が)

 

己の全力などまるでそよ風のように異に返さない紅蓮の巨躯。青い炎は紅蓮の濁流に飲まれ、荘厳な肉体は火の粉となって消えていく。

 

(また………私は何も為せないのか? 何も守れず………失うのか?)

 

こんな自分を信じて付き従ってきた配下達の顔が、今際になって脳裏を過る。

 

(イルヤンカ………ウルリクムミ………ジャリ………モレク………フワワ………ニヌルタ………ソカル………チェルノボーグ………メリヒム……)

 

最後に思い浮かべたのは、愛する女の笑顔。

 

(ティス………)

 

成し遂げたかった、ただ一つの願い。もはや叶うことのない想い。

 

(すまない……皆、すまない………)

 

散っていった配下達の想いも果たせず、愛する者の願いも報われない。

ああ、なんて自分は愚かなのだろうか。

 

(願わく ば もう いちど かの じょ と )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『願いは満たされた。ならばこそ、祈りの成就の時はきたれり』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず感じたのは、風だった。サワサワと優しく頬を撫でるそよ風に、アシズの意識は浮上する。次いで感じたのは四肢の感覚。爪先から翼の先までの、慣れ親しんだ己の肉体。

 

(…………生きて、いる?)

 

自分は天罰神の一撃をまともに食らったはずではなかったのか。ゆっくりと目蓋を開ければ、目の前に広がるのは青い青い空だった。

 

(死に損なったのか………? 戦いは………兵達はどうなった!?)

 

慌ててガバリと上半身を起こしたアシズは、しかし目の前に広がる光景に唖然とする。

 

「…………は?」

 

自身と天罰神の破壊の痕跡はおろか、砕かれたブロッケン要塞の塔も、黒い森さえそこにはなく、ただただ広い草原があった。

 

「…………なんだ、ここは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青空を当てもなく飛びながら、アシズは戸惑いつつも思考する。眼下に広がるのは僅かな野道しかない草原のみで、自分達の本陣であるブロッケンの面影はどこにも見当たらない。

 

(一体配下達はどこへ行ってしまったのだ?)

 

自身の悲願である『壮挙』が潰えてしまった以上、軍は前線を捨て撤退したのだろう。問題は彼らが無事にフレイムヘイズの追っ手から逃れられたのかどうかだ。指揮はウルリクムミが行っていたから大事ないと信じたいが、いつも軍の殿を努めているアシズが不在の現状では不安が募る。

 

(私がこうして存命しているのも気がかりだが………)

 

己の両手を眺めるアシズは、目覚める直前の光景を改めて思い返す。天罰神・“天壌の劫火”アラストールの圧倒的な炎の一撃を確かにこの身に受けきったはず。あれは幻覚でもなんでもないと、記憶の中の苦痛と肉体が消滅する感覚が証明している。だが今のアシズの身体は無傷そのもので、攻撃を受けた痕跡を欠片も見受けられない。

 

(天罰神が手心を加えた………。いや、それこそありえない)

 

彼こそは紅世真性の神、世界法則の体現者にして審判の化身。己が使命に誰よりも忠実な彼は、世界を乱す者を決して生かしはしない。自身が愛する女を犠牲にしたほどの使命感に忠実な男が、再び世界を乱す危険性を持った徒を見過ごすはずがない。

 

(いずれにしても、まずは配下達の捜索を優先すべきだ)

 

悲願が潰えたことに対する感傷に浸りたい気持ちはやまやまだが、今は配下の安否を確認しなければならない。これだけの労苦と犠牲を費やしておきながら何も成せなかった戦いで、これ以上彼らが傷つくことなどあってはならない。

もし彼らと相対した時は弾劾されるかもしれない。期待させるだけさせておいて、戦友を犬死させたことを深く深く責められるだろう。それらは甘んじて受けねばなるまい。なんならいつものように彼らを逃がす為の殿として最後まで戦い、今度こそ散ろう。

 

(それが………私のせめてもの償いだ)

 

決意を新たに眼下を見渡すアシズだったが

 

 

 

 

「?」

 

ふと視界の端に何かが見えた。翼を羽ばたかせて急停止してからよく見れば、何やら複数の人型が走っている。

先頭を走るのは丸裸の人間が数人で、その人間を追いかけるように走るのはあろうことか異形の群れだった。

 

「あれは………“徒”か?」

 

普通に考えれば“紅世の徒”が人間を喰おうとしているのかと思われるが、彼らの挙動を見てアシズは違和感を覚えた。

通常の“徒”は人間を喰らう際に“存在の力”に変換してから喰う。だが人間を追いかける異形はどういうわけか足の遅い人間から順に、喰らわずに傷つけ惨殺している。喰っている異形もいなくはなかったが、それは物理的な補食でしかない。せっかくの“存在の力”を喰わずに人間を殺すなど、ハッキリ言って無駄以外の何ものでもない。しかも彼らはじわじわといたぶるように人間を傷つけ、泣き叫ぶ彼らの姿を嘲笑している。一般的な“紅世の徒”は人間を麦の穂と思うことはあっても、自発的に人間を虐げようとする者はそうそういない。まるで殺すことを心底楽しんでいると言わんばかりの所業に、ますますアシズはわけがわからなかった。

 

(だがちょうどいい、彼らにこの辺りのことを聞いてみよう)

 

意を決してアシズは再び翼を羽ばたかせ、彼らのもとへ降下していった。




今さらながら灼眼のシャナのアシズ様熱が再熱し始めてしまい、オバロの敵対ルートでやってみました。

更新亀並みですが、よろしくお願いします
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