棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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アシズ様パートはまだしばらく先になります。


立ち塞がった壁

最強の傭兵、ブレイン・アングラウス。

かつての御前試合でガゼフ・ストロノーフと互角に渡り合い、後一歩のところで敗北した彼は、彼へのリベンジの為に剣を磨き続けていた。

生まれついてのタレントの力もあり、その力はアダマンタイト級に相当するほどに磨き上げられた。もはや彼を倒すことができる戦士など、王国最強のガゼフしかいないとされている。

そのはずだった。

 

「はっ………はあ……!」

 

盗賊の用心棒として雇われていたブレインは、現在一人の男と相対していた。幾重にも巻いたマフラー状の布で顔を隠し、硬い長髪と暗がりに溶け込むような黒マントが特徴的で、厚手の皮つなぎとプロテクターで覆われた肌が露出していない背の高い男だ。

大方盗賊を捕らえにきた冒険者の類いか何かだろうと思ったブレインは、不謹慎ながら好都合だと思った。今の自分が、ガゼフにどこまで近づけたのかを知るまたとない機会だと。

そして現在、戦況は圧倒的であった。

ブレインの劣勢という形で。

 

「…………なんで!」

 

現在進行形で起きている事態に、ブレインは錯乱寸前の理性を必死にとどめる。眼前の男が手にしているのはどこにでもありそうな安価なダガー。長剣を扱うブレインと戦うにはとても心もとない武器のはずなのだ。なのに男はブレインの太刀筋を正確に読み取り、眼にも止まらぬ早業で彼の剣技をいなしている。ブレインががむしゃらに剣を振っても、男の衣服にすら刃先が掠ることがない。

そして卓越した剣士であるブレインは、男が全く本気を出していないことにも気づいてしまった。男にとってブレインとの戦いは、さながら寄ってくる羽虫を叩き落とす『作業』でしかないのだろう。

 

その事実を前に、ブレインのアイデンティティに皹が入っていく。

剣筋がまったく見えない。

そもそも敵と認識されているかどうかすらわからない。

なんだこれは。なんだこれは。

なんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれは。

 

(なんなんだよ、こいつはあ!?)

 

俺の研鑽は一体なんだったんだ?

ただ棒きれを他人よりうまく振り回していただけで、いい気になっていただけではないのか?

否定的な思いとすがりたい思いで頭の中がぐしゃぐしゃになる。

 

そして、

 

 

 

 

 

ガキィン!!

 

 

 

ブレインの剣が、男のダガーで空高く弾き飛ばされた。ヒュンヒュンと回転しながら落下する剣の切っ先が地面に突き刺さった瞬間、ブレインの中の何かが粉々に砕けちった。

 

「うっ……………うああああああああああああああああああ!!」

 

もうダメだっだ。限界だった。断末魔にも等しい絶叫をあげて、男に背を向けてブレインは逃げ出す。できるだけ遠くへ、できるだけ男が視界から見えなくなるところまで。

だがそんな彼を、男が背後から押し倒す。

前のめりに倒れたブレインを馬乗りになるように地面に縫い付け、片腕を後ろ手に押さえつけて身動きが取れないようにされてしまう。

 

「ちくしょう! 放せ、放せよおおおおおおおおおお!!」

 

もうやめてくれ、これ以上俺を惨めにさせないでくれと、顔を涙でぐしゃぐしゃにし、空いた片手で地面を引っ掻き身をよじって暴れるブレインに返された言葉は、

 

「………すまなかった」

 

小さな、それでいて誠意のこもった謝罪だった。

 

「………は?」

 

男の言葉の意味がわからず、ブレインは暴れるのをやめて首を回して男を見る。

 

「お前が今、俺に対してどんな気持ちを抱いているのかはわかっている」

 

まるで影を人の形に固めたような輪郭は、およそ表情などわからない。

 

「恐怖、劣等感、圧倒的な強者を前にして己の限界に絶望している。そんなところだろう」

 

的確に指摘された己が感情に、ブレインの胸中が再び嵐のように荒れ狂う。

 

「っ………お前に何がわかるっていうんだよ!?」

 

「わかるさ。俺もそれを経験したからな」

 

「はあ!?」

 

嫌味のつもりなのかと睨みつけるブレインだが、男の目線は依然真っ直ぐだ。とても嘘をついているようには見えない。

 

「抗することなど不可能と分かる、圧倒的な力。あれを前にした者の、どうしようもない感覚を、俺は確かに感じた」

 

男はブレインを拘束する手を緩めて立ち上がる。

 

「だからこそというべきか、あれから見れば俺も、お前も、大して変わらぬ存在なのだと理解できた」

 

呟く男が夜空を見上げれば、満天の星が煌めいている。だがその視線は、ここではないどこかを見ているようだった。

 

「ゆえにお前には、()()()と同じ軛を踏ませるわけにはいかない」

 

ゆっくりと上半身を起こすブレインは、呆然と男の言葉に聞き入る。彼の言っている意味はブレインには理解できない。できないが、そこに込められた感情がなんなのなかはほんの少しだけ感じられた。

後悔、罪悪感、喪失感、そして………愛しさ。

ブレインは星空を眺める男の姿を、なぜか脳裏に刻まなければいけない気がした。

 

「強くなりたいならば一向に構わない。だが、俺の見えないところで勝手に死なれるのは寝覚めが悪い」

 

なぜ、この男は自分ごときにそれほど気を遣うのだろうか………当然の疑問のままに、ブレインは口から自然に出た問いを述べる。

 

「………一体、お前はなんなんだ?」

 

男は見上げていた顔をブレインに向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“壊刃”サブラク。小さき蝶を探す殺し屋だ」

 

黒い相貌から覗く茜色の眼光が、細められるように揺れた。




最初はとむらいの鐘メインで行こうかと思ってましたが、サブちゃん好きなので出しました。
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