みんなそんなにサブちゃん好きなの?
周辺の調査とナザリックの維持費確保のために冒険者を始めることにした、モモンガ改めアインズとナーベラル。彼は現在ギルドのクエストボードを見ながら悩んでいた。
(………読めん)
異世界に来たから当然と言えば当然なのだが、書かれている文字の内容がわからないのだ。アルファベットともアラビア文字とも違う模様の羅列は全く理解不能で、中身が小卒の鈴木悟であることもありお手上げ状態だ。
(もういっそ、何枚か適当に選んで受付で聞いてみるか)
最悪、異国出身であることを口実に依頼書の内容を聞いてみればいいだろう。そう思い立ち、依頼書に手をかけようとしたら
「あ~、こんなところにいたんすね!」
急に背後から声がして、ナーベとともに思わず振り向いた。そこにいたのは金色の髪の軽薄そうな冒険者で、弓を担いでいるのを見る限りレンジャーと思われる。明らかに見覚えのない男のはずだが、彼はアインズ達にずいぶんと親しげに話しかけてくる。
「予定の時間を過ぎても来ないから心配したんですよ~………ってあれ?」
ヘラヘラした笑みを引っ込ませ、男はアインズの漆黒の鎧をジーッと見つめる。それはもう、文字通り頭の天辺から爪先までだ。
「なんなのです? モモンさー……んをジロジロと眺めて、この失礼なゴミムシが」
見かねたナーベラルが汚物でも見るような目線で暴言を吐き、慌ててアインズがその頭を軽く叩く。
「失礼した」
「あ、いや………俺のほうこそ悪かったよ。知り合いに似てたもんで、人違いしちまったみたいだ」
頬を掻いて申し訳なさそうにする男に、アインズはそうですかと頷く。
「ルクルット、何をしているんですか?」
そこへさらにかけられる声。見れば三人の冒険者が歩み寄ってきた。
「いや~、思いのほかそっくりな人を見つけちまったからさ、つい話しかけちまったんだよ」
「そっくり……?」
金髪の男、ルクルットの言葉を聞いて三人の視線がアインズに集まる。やっぱりじっくりと全身を眺め、なるほどと互いの顔を見合わせた。
「あの………貴方達は?」
「あ、これは失礼しました!」
初対面の相手に失礼な態度をとってしまったと、青年戦士が頭を下げて謝罪する。どうやら彼がこの一党のまとめ役のようだ。
「我々は冒険者チーム『漆黒の剣』といいます。新参の冒険者の方ですよね?」
「なるほど。私が皆さんのお仲間によく似ていたから、間違えて声をかけてしまったというわけですか」
「お恥ずかしい限りです」
ギルドのテーブルに座って自己紹介をしあった面々は、アインズを間違えたことに気恥ずかしそうにしている。とはいえこれだけいる冒険者の中、そんなに間違うものだろうかと疑問にもなる。
「だってさ、少なくともこのギルドで頭まで黒い鎧で隠してる冒険者なんて一人しかいないだろ?」
「確かに似てますね。黒っぽいフルプレートアーマーに、大きな武器も背負ってますし」
平凡そうな顔立ちの青年戦士、リーダーのペテルが頷く。
「背丈だって同じくらいじゃないでしょうかね?」
中性的な顔立ちの魔法詠唱者、ニニャが隣に聞く。
「アーマーのデザインはスマートではあるが、確かによく似ているであるな」
ヒゲの生えた大柄なドルイド、ダインが同意する。
「だろ~!? おまけに美人な相方までいるだなんて、うらやましい限りだよなあ」
「こっちを見るなフナムシ」
「くう~! なんて冷たい言葉のナイフ!」
胸を押さえて喜びに震えるルクルットを見てアインズはどうにも気になって仕方がなかった。ここまで似てる似てると言われるその冒険者とは、一体どんな人物なのだろうか。
「それで、その方は現在いらっしゃらないのですか?」
アインズの問いに、漆黒の剣はキョロキョロとギルドの周囲を見渡す。
「集合時間はすでに回っているんですけど、まだ姿が見えませんね………」
時間はしっかり守る人達なんですけど、とペテルが心配そうに呟き、何かあったのだろうかと一同の顔に心配の色が見てとれる。ちょっと様子を見ていこうと、ルクルットが立ち上がろうとした時だった。
「待たせたああああああ!!」
ギルドの扉がバンッと大きく開かれ、銅鑼を鳴らすような大声が屋内に響き渡った。その声に居合わせた冒険者達の肩がビクリと大きく跳ね、ナーベラルは思わず耳を塞いで綺麗な顔を苦悶に歪め、アインズの漆黒の鎧の内部で音が反響する。
(な、なん!?)
人間だったら頭が割れるんじゃないかと思う大音量に思わず音の発生源を見れば、ギルドの出入口から一人の大男が身を屈めて入ってくるのが見えた。身長はアインズと同じぐらいだが、両腕両足が彼よりも太ましく威圧感が尋常じゃない。全身を包むのは胸部に染料で白い双頭の鳥が描かれた、濃紺のフルプレートアーマー。頭部には三列のスリットがある同色のヘルムをかぶり、背中にはアルベドが持つバルディッシュよりも巨大なバトルアックスを背負っている。
(デカッ………!!)
何から何までが巨大で、とても人間とは思えない風貌に内心でドン引くアインズをよそに、大男はガシャンガシャンと鎧の音を響かせてゆっくりと歩を進める。
するとその後ろから、もう一人が入ってくる。重厚な雰囲気の大男とは対照的に、儚げな雰囲気を纏って後に続くのは線の細い美女だ。薔薇色のローブに切り揃えられた薄桃色のショートヘアー、彫刻のように整ったかんばせは両目を伏せてなおその美しさを際立たせ、さながら一輪の花のようだ。
「あ、ウルリクムミさん! アルラウネさん!」
そんな異質とも言える二人組に、あろうことかニニャが手を振って声をかけた。ほか三名も動じる様子なく笑顔を見せているところをみるに、どうやらあの二人が残りの仲間らしい。
「お怒りで?」
歩み寄る二人のうち、薄桃色の美女が申し訳なさそうに問いかける。
「全然平気っすよ~! むしろ美人を待たせるほうが申し訳ないっていうものっすよ!」
ルクルットが調子よく答えれば、隣のニニャがその横腹に肘鉄を食らわす。
「でもお二人が遅れるなんて珍しいですね。何かあったんですか?」
ペテルの問いに鎧の大男、ウルリクムミが腕を組んで肩を落とす仕草をする。
「実はあああ、ここへ来る道中にいいい、荷馬車が倒れるという事態になってしまったのだあああ。通りかかった身の上えええ、見て見ぬふりをするのも忍びなくううう、手を貸していたら遅くなってしまったあああ」
ウルリクムミが喋るたびに、鎧の反響のせいか語尾が伸びている。
「うむ、そういうことならば仕方がないであるな」
笑い混じりに話す彼らとは裏腹に、アインズはウルリクムにチラリと視線を移す。改めて間近で見ると、大男というよりは壁と形容したほうがいいほどの存在感だ。比較的大柄なダインが子供に見えてしまう。
「………そちらの両人は?」
ここでアインズとナーベラルの存在に気づいたアルラウネが口を開き、ペテルが手で指し示して紹介する。
「はい、こちらのお二人は今日ギルドに来たばかりの新参の冒険者さん達なんです」
「モモンです………」
「ナーベ………です」
紹介されて名乗るだ二人だったが、正直ウルリクムミの重圧に気圧されかかっている。対する二人は、アルラウネが淡々と、ウルリクムミが堂々と自身の名を告げた。
「“架綻の片”………アルラウネとお呼びくださいませ?」
「俺はあああ、“巌凱”ウルリクムミいいい。以後よろしく頼むううう」
ペテル達に紹介され、アインズ達はウルリクムミとアルラウネの経歴を聞くことになった。二人はもともと王国よりも遠方の土地から来た人間で、今から三年ほど前にこのエ・ランテルに訪れて冒険者になったとのことだ。成り立ての頃は冒険者の勝手がわからず困り果てていたらしく、同時期に冒険者になった漆黒の剣とパーティーを組んでからは一党の主力として活躍している。
ウルリクムミの職業は重戦士で、動きは鈍重ながらもオーガ数体を真っ二つにするほどの怪力とどんな攻撃にも耐えうる強靭な肉体を持っている。そんな見た目通りのパワー系戦士かと思えば、卓抜した戦術眼と統率力を持つ軍師の能力をあわせ持った武人だ。
対するアルラウネは第四位階に相当する多彩な魔法を駆使する魔法詠唱者で、ウルリクムミ達の補助に回ればこれ以上ないほど心強い存在だ。
そんな彼等の首にかかるプレートは「白金」、同じチームである漆黒の剣の四人が「銀」でありながら破格の階級だ。
「でも正直なところ、お二人は白金に収まるほどの強さじゃないと思うんですよね」
その気になればアダマンタイトにだってなれるはずと、ニニャは興奮するように話す。見れば漆黒の剣のみならず周囲の冒険者達もうんうんと頷いているので、相当な実力があるようだ。
とはいえこの世界の平均的な強さの水準はナザリックと比べるまでもないので、アインズとしては興味ない話だ。
「同じ異国育ち同士いいい、わからないことがあれば相談してくれえええ。可能な範囲であれば力になろううう」
「ありがとうございます」
とはいえかなり顔の知れた冒険者と仲良くなって損はあるまい。今のうちに好意的に接しようと、アインズは差しのべられた手を握り返す。
「では早速なんですが、銅の冒険者として最初に受けるべき依頼はどんなのがよろしいでしょうか?」
そしてこれ幸いと、依頼に関する相談をした。自分達はそれなりに強いと自負しているので、できれば現在受けれる依頼の中で難易度の高い依頼を受けたいとアインズは説明する。
それに対して案を出したのはウルリクムミだ。
「ならばあああ、我々の仕事を手伝うといいい」
彼らはこれからモンスターを狩りに行くところで、その手伝いで報酬を得るという比較的簡単な仕事を提案した。狩ったモンスターの分、金も上乗せされるので腕に覚えのあるアインズなら都合がいいはず。
他の面々もウルリクムミに賛同しているので断る理由はなかった。
「なるほど………ではその依頼、お受けします」
「うむううう。何かあったら俺達がフォローするゆえええ、安心するといいい」
ガシャンと、ウルリクムミは自らの胸を叩く。その姿にアインズはかつてのギンメンである武人建御雷の姿を重ねた。
(そういえば………武人さんも俺がクランに入りたての頃、こう言ってくれたっけな)
思わぬところで見た仲間の面影に感傷に浸っていたアインズだったが、ナーベラルは不愉快そうに眉間にシワを寄せる。
「別にお前の世話になる必要などありません。モモンさー…んは誰よりも強いのですか「ナーベ」っ……申し訳ありません」
「ふむううう……」
すんでのところでアインズが叱れば、ナーベラルはシュンと縮こまる。彼女としてはアインズのほうが彼らよりも強いことを知っているので、見下されているようで面白くないのだろう。だがアインズはたまったものではない、これから一緒に仕事する相手に悪印象を持たれたら今後の冒険者としての活動に支障が出てしまいかねない。チラリとウルリクムミの顔色を伺うが、その顔はヘルム隠されていてどんな表情をしているかはわからない。ただ彼の雰囲気から察するに言動そのものには不快になったわけではなさそうだ。ウルリクムミは顎に手をやり少し考えるこむ仕草をすると、間を空けてからナーベラルに語り始めた。
「ナーベとやらあああ。そなたがモモン殿を信頼しているのはよく理解できたあああ。しかし戦いとはあああ、いついかなる時も想定を上回る事態になるものだあああ。あまり過信しすぎるとどこかで足元を掬われるのを覚えておくといいい」
それは歴戦の強者が語るアドバイスだ。ウルリクムミの言葉には確かな重みがあり、聞く者はつい真剣な面持ちになって彼を注視してしまう。
「俺の古き戦友もおおお、強大な力を持ちながらあああ、己が力に慢心して討ち死にしたあああ。余計なお世話かもしれぬがあああ、お前はいささか慢心している気位があるううう。それではいつの日か身を滅ぼすことになると思ええええ」
なんともありがたい言葉か。漆黒の剣のみならず、アインズでさえもうんうんと頷く。
「ですから余計なお世話です!」
だが言われた当のナーベラルだけは、煩わしいと言わんばかりに返す。とても先輩を敬う態度ではないその様に、アインズが慌てて彼女を叱る。
「おいナーベ!」
これ以上でしゃばるな! と続けようとした言葉は、しかし別の声に遮られてしまった。
「………年長者の忠告には、耳を貸すべきでは?」
発言したのは、伏せた目のまま顔をしかめるアルラウネだ。大方身内を悪く言われたことを不快に感じてしまったのだろう。だが当然それを聞いて素直に頷くナーベラルではない。
「年長者だからなんだというのです? モモンさー……んが強いのは事実なのですから、そんなムシケラの戯れ言など余計なえた世話以外の何者でもありません」
さらにこの期に及んでのムシケラ発言。さすがに漆黒の剣のメンバーも仲間を侮辱する発言にムッとした表情になり、アインズは今度こそナーベラルを止めようとするが、
「他者をムシケラ呼ばわりとは………随分下品な殿方に教育されたお嬢様でいらっしゃいますね?」
「…………は?」
明らかに挑発の混じったアルラウネの発言に、それまでストッパーに撤しようとしていたアインズの声のトーンが下がった。
(今、この女はなんて言った?)
下品な殿方に教育されたお嬢様。お嬢様がナーベラルのことならば、教育した殿方というのは彼女の産みの親である弐式炎雷のことをさしているのだろう。
(弐式さんを………俺の仲間を、下品だと?)
その発言を聞いた瞬間、アインズの纏うオーラがドス黒くなる。そばでやり取りを見ていた、漆黒の剣とナーベラルが身震いするくらいに。
「それは………彼女の親を愚弄しているのですか?」
「いえ? ただ私が知る限り、初対面の御仁をムシケラと呼ぶ者は大抵が下品で粗野な輩ばかりだったもので?」
そのオーラを向けられているはずのアルラウネは、涼しげな顔で小首を傾げる。下品に次いで粗野などと付け足されたことで、アインズはガタンと椅子を倒して立ち上がる。
「なんだと、貴様ぁ……!!」
「事実でしょう? 礼儀作法のなっていない方を正すのは当然の行いでは?」
明らかに険悪なムードに、居合わせた面々が顔面蒼白になる。特に漆黒の剣のメンバーとナーベラルはおろおろと二人を交互に見合う。
まさに一触即発、この場で乱闘でも始まりかねない空気にほかの冒険者達は恐怖から身動きがとれなくなるが、
「渇ああああああああああああつ!!!!」
その空気を吹き飛ばすように、ウルリクムミの雄叫びが屋内に響きわたる。一同は耳を押さえて耐えるが、アインズは突然のことにしりもちをついてしまった。
「アルラウネえええ、これからともに仕事をこなす相手にいいい、無礼な態度を取るものではないいいい!!」
「ですが御大将!?」
「そなたの思いはしかと伝わったあああ。ゆえにこそおおお、このような些事で厄介事を起こすものではないいいい」
彼女はウルリクムミの言いたいことを理解したのか、申し訳なさそうにそこで口をつぐんだ。
「モモン殿おおお、我が副官が失礼したあああ」
「いえ……私のほうこそ、大人げなかったです」
差しのべられたウルリクムミの手を握り、立ち上がったアインズはばつが悪そうに項垂れる。沈静化も働いたことで冷静さを取り戻し、自身の醜態を恥じる。
「しかしいいい、連れの作法はしかとすべきであるぞおおお。此度のような事態があああ、今度は軽くすむとは限らぬぞおおお」
「全くもって、すみませんでした……」
ぐうの音も出ない正論。ナーベラルが横でまだ何か言っているが、構わずアインズは彼女の頭を鷲掴んで無理やり頭を下げさせる。
とりあえずここでの騒ぎはこれで収まったようだ。
「あの~………冒険者モモンさんはいらっしゃいますか?」
そこへ、おそるおそるといった様子で受付の女性が声をかけてきた。二人のピリピリした雰囲気に近寄れなかったが、ウルリクムミのおかげでようやく入ることができたらしい。
「ご指名の依頼があります。依頼主はンフィーリア・バレアレ様です」
その頃のトブの森
ソカル「ぶえっくしょん!!!!」