一夜明け、再び草原を進む一行はようやくカルネ村にたどり着いた。見るからにのどかな村に入ると、一人の少女が彼らを出迎える。
「ンフィーレア、久しぶり!」
「エンリ!」
エンリに呼ばれたンフィーレアは、目に見えて嬉しそうに馬車から降りた。
「今日は薬草を採りにきたの?」
「う、うん」
ンフィーレアが彼女を前に照れくさそうに赤面する姿に、一同はふと何かを察したようにニヤニヤしだした。
(ほほ~う? ンフィーレアくんもすみに置けないねえ)
(ルクルット、わかっているとは思いますけどエンリさんにご迷惑かけないでくださいよ)
(いやさすがにそんな野暮な真似はしねえよニニャ!)
(どうですかね……貴方の女癖の悪さは見境ないですから)
(ペテルまで!)
(日頃の行いというやつである)
小声で話し合う四人を眺めるアルラウネは微笑ましそうにしており、ウルリクムミはやれやれと肩を落とす。
とここでエンリが彼らの存在に気づいた。
「そっちの人達は冒険者さん?」
「うん、エンリも聞いたことくらいはあるんじゃないかな? 漆黒の剣の人達だよ」
紹介された途端にエンリは目を見開いて彼ら……というよりウルリクムミとアルラウネの二人を見た。
「漆黒の剣………? もしかしてウルリクムミ様とアルラウネ様!?」
パアッと輝くような笑顔を見せ、エンリは二人の前に駆け寄ってきた。
「むううう?」
「お噂はかねがね聞いています! 未来のアダマンタイト級冒険者と期待されているとか!」
愕然とするンフィーレアをよそに、キャー! 本物だわー! 握手してくださーい!! と頬を染めてはしゃぐエンリの姿に、アインズはふとリアルのギルメンの姿を重ねてしまう。
(確か、憧れの大御所声優さんとの共演が決まったのを報告してきたぶくぶく茶釜さんが、こんなリアクションしてたっけなあ……)
だが当の二人は初耳だといわんばかりに顔を見合わせている。
「そうなのですか?」
「俺はそんな話聞いていないがあああ」
「いやいや………二人とも自覚なさすぎですよ」
呆れるニニャを筆頭に、ほか三人もため息をつく。エンリはウルリクムミとアルラウネに嬉しそうに話しかけてから、後の四人の存在に気付き慌ててお辞儀する。
「あ………ニニャさんとペテルさんとルクルットさんとダインさんですよね? ようこそいらっしゃいませ」
「そんで俺らはおまけかよ~」
「まあ、実際そんな感じであるな」
「うちのチームは我々四人とお二人の実力差が違いすぎますしね」
エンリが慌てるが、ペテル達は気にしていないのか苦笑するだけだ。そして最後に、彼女はアインズ達に向き合う。
「そちらの方も漆黒の剣の方なんですか?」
もはや恒例のように、ペテルが二人を紹介した。
「彼らは最近冒険者になった方で、ンフィーレアさんに依頼されて護衛として同行してきたんです」
「私はモモン。彼女はナーベです」
ペテル達が昨日の二人の勇姿を語ってきかせ、エンリがまた目を輝かせている。和気あいあいと談笑する一同だが、ただ一人危機感を抱いている少年がいる。幼なじみに密かな思いを抱く、ンフィーレア少年だ。
彼は幼なじみのかつてないはしゃぎぶりに昨夜の懸念が脳裏を過る。もしエンリが、モモンさんやウルリクムミさんに惚れてしまったら……と。
「あ、あー! エンリ!」
「なあに?」
ンフィーレアは少しでも彼女の気を引くべく、わざとらしく大声を出す。とりあえずは世間話でもしておこうと、改めて村を見渡した。
「いや~、ここも全然変わらないね! おじさん達も元気にしているようで安心だよ!」
「………本当ね」
ところが対するエンリの返事は、含みのある低いトーンの声だ。ンフィーレアは思っていたのと違う反応に冷や汗を流し、彼女を見ると心なしかエンリの表情は暗いものになっているのに気づく。
「?」
次いで彼女の変化に気づいたのはアルラウネだ。エンリは胸の前で祈るように両手を握っているが、その手から肩にかけて僅かに震えている。明らかにただごとではない様子だ。
「何かあったのかあああ?」
ウルリクムミが問いかければ、エンリは慌てて笑顔を作る。
「えっと………立ち話もなんですから、うちに来てから話しませんか?」
そう言って自身の家を指差し、エンリは一行を案内する。彼女は無理に笑顔を浮かべてはいるが、その表情は依然として強ばっていた。
そして家に招かれた一同は、エンリから聞かされた話に驚愕する。
「ええ、帝国の兵士が!?」
特にンフィーレアが信じられないといわんばかりにガタンと椅子から立ち上がる。
「うん、もしかしたらこの村も同じ目にあっていたんじゃないかって、ガゼフ様が………」
「そ、そうだったんだ……」
エンリは自分達の村に振りかかっていたかもしれない悲劇を想像したのか、自らの身体を抱き締めて震えている。それはンフィーレアも同じで、彼女の身に危害が及ばなかったことを心の底から神様に感謝する。
「だけどどうして、帝国の兵士達は全滅したんでしょうか?」
ここで疑問に思ったのはペテルだ。一部始終を見ていたアインズはあの、彼らがトレントモドキに惨殺されたのを知っているが、ほかのメンバーはそんなことを知るよしもない。エンリはほんの少しだけ緊張を緩めて笑顔を見せ、ガゼフから聞かされた話をする。
「それはきっと、『森の賢王』様が守ってくださったんだわ」
「そっか………エンリが無事で本当によかったよ。『森の賢王』に感謝しないといけないね」
(『森の賢王』………)
再び聞いたその言葉はアインズは思考を巡らす。アインズが倒したあのトレントこそが森の賢王だったのだろうか? だが昨日ペテル達から聞かされた森の賢王の特徴は、銀の毛並みを持つ四足歩行の魔獣のはず、植物モンスターのトレントとは一致しない。
(あるいは、この森にはまだ強いモンスターがいるということなんだろうか……?)
どうやらこの森の捜索をさらに広げる必要がありそうだと、アインズは内心で頷く。
「そういえば、ネムは元気?」
「ええ、最近は森でできたお友達と遊んでいるそうよ」
ようやく安堵してきたエンリと世間話に興じるンフィーレア。漆黒の剣もその姿を微笑ましく見つめている。ただ一人、ウルリクムミを除いてだが。
「…………」
彼は家に入ってから………というよりは村に入ってきた時から、じっと村の近くの森を見つめていた。まるでそこにいる『何か』を警戒しているようだ。
「ウルリクムミさん?」
それに気づいたニニャが声をかけると、ウルリクムミは今気がついたように彼女を見る。
「むううう、いやなんでもないいいい」
ガチャガチャとヘルムの音を鳴らしてゆるく首を振るも、彼は最後にまたチラリと森を見るのだった。
それから本題の薬草探しをすることになったアインズ達。ここからはウルリクムミの案で二手に別れて探すことになった。
「俺達は向こうを探すううう」
ウルリクムミが指差す先には鬱蒼と繁る木々のせいで薄暗い森が広がる。人間が入るには危険そうだが、そのぶん希少な薬草が見つかりそうだ。
「ほかのみなはモモン殿がいるならばあああ、俺達がいなくても大丈夫だろううう。だが万一の場合はあああ、速やかに撤退せよおおお」
「わかりました」
そしてウルリクムミはアルラウネを引き連れ、森の奥へと進んでいくのだった。
しばらくのあいだ無言で歩く二人だったが、だいぶ奥まで来ると足を止めた。アルラウネがキョロキョロと辺りを見ると、確認するようにウルリクムミに声をかける。
「………そろそろ展開しますか?」
「うむううう、頼んだあああ」
彼の了承を得ると同時に、二人の足元に薄桃色の自在式が浮かび上がる。するとアルラウネを中心にして、足元から薄桃色の小さな花がたくさん咲きはじめた。薄暗い森の中に急に咲き乱れた花畑は、淡い光を放ち辺りを照らす。
「さてえええ」
花畑が問題なく広がるのを確認したウルリクムミは、腕を組んで森の奥を見据える。
「これで我らの存在は誰にも知覚されぬううう。ゆえに安心して出てくるがいいいい」
そう誰かに向けて話しかけた瞬間、美しい花畑の中から今度は石でできた木が生えてきた。両手で囲えるほどの太さになった木は、幹に両目と口にあたる穴を浮かび上がらせて言葉を発する。
「………よもや貴殿らもこちらにいらっしゃいましたとは。巌凱ウルリクムミ、架綻の片アルラウネ」
甲高い声で不敵に笑うのは、守りに長けた先手大将。
「それはこちらのセリフだあああ、焚塵の関ソカルよおおお」
対するは鋼の身体を響かせる、攻めに長けた先手大将。
今ここに、神さえ予期しなかった因果が、再び交差したのだった。
ジュゲム「あれ!? これもしかして俺らの出番ない!?」
「そうだよ」