棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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タイトルハムスケ回ですが、途中からトーチになります(存在感的な意味で)


森の賢王

ソカルから逃げるように立ち去った二人は、重苦しい空気の中来た道を戻っていく。

 

「………よろしかったのですか?」

 

先に言葉を発したのはアルラウネだった。ソカルに『壮挙』の顛末を教えなくてよかったのかと、おそるおそる問う彼女にウルリクムミはギチリと拳を握りしめる。

 

「今やつに告げるのはあああ、酷というものだあああ」

 

それはウルリクムミなりの優しさなのだろう。陰険悪辣と評判のソカルだが、彼のアシズに対する忠義はまごうことなき本物だ。ただでさえ見知らぬ地に転移して右も左もわからない彼が、その主の末路を知ってしまえば心がへし折れて自暴自棄になってしまうのは想像に難くない。

かつて、ペテル達と出会う前の自分達のように。

 

「鍵はあの少女かもしれぬううう」

 

自分達が漆黒の剣達と友誼を結べたように、あのネムという少女がソカルにとっての新たな拠り所になってくれることを、ウルリクムミは切に願った。

 

 

 

 

 

 

 

そして森から出た二人は、ほかの面々との合流ポイントに来た。しかし彼らは、森の入り口でなにやら騒いでいるように見えた。

 

「今戻ったぞおおお」

 

彼らに聞こえるように大声をあげれば、一同が二人の存在に気づく。

 

「あ、ウルリクムミさん! ちょうどいいところに!」

 

「?」

 

ニニャが嬉しそうに振り向き、ウルリクムミに駆け寄ってくる。

 

「モモンさんが『森の賢王』を服従させたんですよ!!」

 

「なにいいいい?」

 

エンリ達が度々言っていた、トブの大森林で最も恐れられる魔物。それにモモンが単身で挑み、激闘のすえに勝利し服従させたのだという。

ニニャに手を引かれてその『森の賢王』と思しき巨大な毛の塊のもとへ誘われる二人が、そこで目にしたものは………

 

「すごいですよね! こんな見るからに強大な魔獣を服従させるなんて、モモンさんは本当に凄いんですね!」

 

興奮冷めやらぬペテル達だったが、一方のウルリクムミは唖然とするように硬直し、アルラウネに至っては拍子抜けした呟きを漏らす。

 

「これが………森の賢王?」

 

「むううう……?」

 

一見するとふわふわモコモコの毛並み、大きくて丸いつぶらな眼、口から覗くげっ歯類特有の2本の歯。爪は鋭いし、尻尾も蛇のようにしなやかで固い鱗で覆われて長くはあったが………。

 

「某、殿の力に服従を誓った身でござる!」

 

どう見ても、馬より一回りぐらいの大きさにしただけの、かわいらしい丸鼠のような生き物にしか見えない。

そんな生き物を前に、やれ立派だのやれ叡智に溢れているなどと口々に褒め称える仲間達の姿に、二人はただただ困惑するのみだ。

 

(彼らの美的感覚では、あれをかわいいとは思わないのでしょうか?)

 

(わからぬううう。単にこの世界の人間の感性があああ、両界とは異なるだけかもしれぬううう)

 

念話の自在法で互いにコソコソ話をしあう二人だったが、そんな二人の言葉を代弁するものが現れた。

 

「あの………本当に皆さんこいつが強そうに見えます? かわいいとかじゃなくて?」

 

それは、大鼠を従えたモモン本人だ。

 

『え?』

 

しかし彼の言葉に返されたのは驚きの声で、ウルリクムミとアルラウネを除く一同が眼を丸くしてモモンを見る。

 

「え、いやモモンさん………それはセンス的な意味で言ってます?」

 

「ええ!?」

 

ルクルットがかなりオブラートに包んだ言い方をするも、モモンは信じられないというように驚く。気持ち的にはモモンに同意したいウルリクムミとアルラウネだったが、自分達まで仲間から奇異の目で見られそうな気がして二人はぐっと我慢する。

 

「な、ナーベはどう思う?」

 

「強さは別として、力を感じさせる瞳をしていますね」

 

挙げ句には相方にさえそう言われてしまい、ヘルムをかぶっているはずの彼の表情が困惑と驚愕を浮かべているが手に取るようにわかるようだ。

 

「ウルリクムミさん! 貴方はどうですか!?」

 

食いぎみに今度はウルリクムミに迫るモモンは、一人でも多く賛同者を得ようと必死だ。

 

「これはあああ………そのおおお……」

 

正直なところ、モモンの意見に同感だ。力そのものは確かに強いのだろうが、正直愛らしい見た目のせいで勇ましいだのといった感想は沸いてこない。なんだか今にも孤立しそうなモモンが可哀想に思えてきたので、ここは素直に賛同してあげようとするウルリクムミだったが、

 

(いや待てよおおお………?)

 

ここでふと、ウルリクムミは先ほどのソカルとのやり取りを思い出す。

この男、モモンはアンデッドであることをかくしている魔法詠唱者のモモンガのはず。先手大将のソカルの観点では、彼は紅世の王に匹敵する力の持ち主であり非常に戦い馴れていたという。それだけの強者がただの薬草採取の依頼に、彼から見て格下ともいえる自分達を同行させる必要性があっただろうか? 最悪の場合、足手まといにしかならないかもしれないというのに………。

そう疑問に思った瞬間、ウルリクムミの脳裏をある可能性が過った。

 

(まさかあああ………!?)

 

まさか彼は我々を見て、ソカルの同族ではないかと勘づいてしまったのでは?

そして森の賢王に対する感性を通して、我々の正体に鎌をかけているのでは?

 

到った考えにヘルムの下で冷や汗をかきつつ、隣のアルラウネみ見る。彼女も同じことを考えたらしく、眉間に皺を寄せてモモンの挙動を注意深く観察している。

 

「…………」

 

お互いに顔を合わせた二人は、全く変わらないはずの表情でアイコンタクトをとる

 

「非常に強そうな獣に見えるかと?」

 

「うむううう、是非とも俺も一戦交えてみたかったものだあああ」

 

ひとまず無難に、仲間達と同じような感想を笑顔で並べ立てる。

 

対するモモンは、

 

(えええええええええ!?)

 

ほかの面々よりも確実に強いであろう二人にさえ賛同を得られず、完全に孤立してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近くの木に手をついて、どんよりとしたオーラを纏うモモンをよそにンフィーレアが言う。

 

「そういえば、ウルリクムミさんのほうはどうでした?」

 

彼らのほうは『森の賢王』の襲撃のせいで全く薬草を採取できないままここまで逃げてきたらしい。

 

「うむううう、取り敢えず得られるだけは得られたがあああ」

 

ウルリクムミが背負っていた袋を下ろし、紐を緩めて中身を見せると

 

「…………え?」

 

中身を見たンフィーレアの目が、今にも飛び出るんじゃないかと思えるほどに開かれた。

ンフィーレアはしばしその薬草の山を見て固まっていたが、数秒後その肩がこ刻みに震えだしていき、やがては肩から全身、しまいにはもの凄い勢いで震動し始めていった。

 

「う、ううううううウルリクムミさん!! ここここここの薬草をどこで!?」

 

震える手で袋の中身を指差すンフィーレアに、ウルリクムミは事前に考えていた言い訳を述べる。

 

「森の奥の巨大な倒木にいいい、たくさん生えていたのだあああ」

 

ソカルが現在寄生しているトーチに自生していた植物らしいので、あながち嘘は言っていないだろう。

 

「ンフィーレアさん、この薬草がどうかしたんですか?」

 

彼の今までにない反応に若干引き気味ながらも、不思議に思ったペテルが聞いてみると、ンフィーレアは早口にまくし立てるように喋りだした。

 

「この、この薬草は! あらゆる万病を癒すとされる超超希少な薬草で! 30年前にアダマンタイトのチーム一組とミスリルのチーム二組が合同で挑んでやっとの思いで採取できた薬草なんですよ!?」

 

『ええええええ!?』

 

ンフィーレアの言葉に、今度はペテル達が大絶叫を放つ。

 

「それをこんな大量になんて!! 本当にどうやって見つけたんですかウルリクムミさん!?」

 

「だから言っているだろうううう。倒木に自生していたとおおお」

 

ああしかしいいい、とここで思い出したように付け加える。

 

「その倒木ううう、どうにも不自然なものだったのだあああ」

 

「不自然……?」

 

ここからウルリクムミは、道中に考えた『アンダーカバー』を披露する。

 

彼が訪れた森の奥にあったその倒木は、いわゆる大きな枝の先にあたる部分だったのだが、木の幹に行くに従ってどんどん黒焦げになっていて、最終的にはボロボロの灰になっていたのだという。燃え残っていた枝の先には、木の灰が肥料になったのか薬草が山ほど咲いており、そこから取れるだけとったらしい。

 

「それって………」

 

その話にいち早く反応したのは、案の定モモンだった。

彼がこの世界に来て初めて戦って倒した植物モンスター、その残骸に違いないと確信する。

 

「あれほどの巨木が炭になるなど、随分大きな山火事でもあったのでしょうか?」

 

アルラウネも極力ボロを出さないように、言葉を選んでとぼける。

 

「エンリさんからは、そんな話は聞いていませんでしたけど………」

 

「帝国の兵士が火でもつけたんじゃないのか?」

 

「そんなことをしたら、『森の賢王』どころか森中の魔獣に袋叩きにされるである」

 

「じゃあどうして………」

 

各々が疑問に思う漆黒の剣をよそに、ウルリクムミはチラリとモモンを見る。彼は袋の中身の薬草をジッと見つめて考えごとをしているようだった。

 

(これでソカルが死んだことにいいい、信憑性がつけばいいのだがあああ)

 

かつての彼の戦友である、牛骨の賢者の言っていたことをウルリクムミは思い出す。

 

 

 

 

 

『他者を騙す時、一番効果的なのは「ほんの少しの真実を混ぜ混むこと」です』

 

 

 

 

 

モモンガは炎の魔法でソカルを倒したと知っているため、ウルリクムミの発言の一部が本当であると確信している。ここで無理に誤魔化すよりは、実際に起こったことを交えたほうがあとあと矛盾にならずにすむはず。

 

(いずれにしろおおお、やつが森に近づいた時は警戒すべきだあああ)

 

ひとまずはこれで様子見をするべきと判断するウルリクムミがふと周囲を見ると、ンフィーレアが頭を抱えてしゃがみこんでいた。

 

「いかがされましたか?」

 

アルラウネが同じようにしゃがんで優しく声をかけると、彼の口から大きなため息が出る。

 

「こんな希少な薬草を採取してもらえるなんて思ってなくて………うちの稼ぎ何十年分払えばいいんだろこれ……」

 

「依頼を受けたのはモモン殿なのだろうううう? ならばまずは彼に相談すべきではないのかあああ?」

 

「いやいやいや! だって見つけたのはウルリクムミさんですし!!」

 

 

 

 

「あの~、各々方。もしや某のこと忘れてござらんか~?」




モモンさーん、道具鑑定中。

モモン(この薬草………みんなかなり魔力高いやつばっかりだ………今ある赤いポーションの代用品とかになるかもしれない………。これがあのトレントに自生していたとしたら………あ~、やっぱりあの時生け捕りしとけばよかったあ!!)

モモンさーんに腹芸は無意味。
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