棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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前回の感想を見ていると、『四枚翼で金色の羽毛の黒髪バードマン』について言及している方がいなかったことにちょっと意外でした。


濃紺の英雄

墓地を仕切る鉄の門の前に集うは、冒険者組合の中でも選りすぐりの強者達ばかりだ。一見するといつもと変わらない不気味で静かな門の向こうを見据える彼らに、長年の冒険者としての勘が確かに告げる。

 

今、この門の向こうには()()がいると。

 

一同が各々の愛用武器を手に固唾をのんで身構える中、誰よりも門に近い位置に立つウルリクムミが踵を返して彼らに向き直り、号砲のように叫びかける。

 

「今この場に集った者の中にはあああ、いまだ状況を理解できていないものもいるだろうううう! ゆえに改めて現状確認とおおお、これから行う作戦を告げるううう!!」

 

現在、この墓地の奥にはアンデッドを大量召喚する魔法『不死の軍勢(アンデス・アーミー)』の発動を企てるズーラーノーンの一派が潜んでいる。彼らの目的は断定できないものの、かつて彼らの盟主が行ったという『儀式』の記録から察するに、アンデッドの大量発生に伴う『死の螺旋』を企てているというのが組合の予想だ。

彼らはなんらかの方法でその魔法を行使できるアイテムを入手し、ンフィーレアのタレントを使ってアイテムを発動させる目論見だったのだろうが、幸いなことに居合わせたウルリクムミ達のおかげでンフィーレアが浚われずにすんだ。しかし墓地に蔓延する負のオーラは、いまだ消える様子はない。

 

「おそらく誘拐が失敗した時の保険のためえええ、墓地の中にある程度の数のアンデッドを用意したと思われるううう。つまりこのままではアンデッドが大量に生まれえええ、遅かれ早かれ『死の螺旋』に至ることに変わりはないいいい」

 

事前に説明を受けていた者はギリッと奥歯を噛みしめて緊張し、今駆り出されて初めて事情を知った者は驚愕のあまり情けない悲鳴をあげてしまう。それぞれの反応を見渡すように首を左右に動かし、ウルリクムミはさらに続ける。

 

「だが恐れることはないいい! たとえ数は向こうが上でもおおお、所詮は生者を貪る欲求のみしかもたないいいい、知性もない烏合の衆でしかないいいい!!」

 

重厚な響きを持つその言葉は、僅かに震える冒険者達の緊張をほんの少しだけ緩めた。

 

「我らには知恵があるううう、力があるううう、そして共に勒を並べて戦う長年の戦友達がいるううう!! ならばこそおおお、それを今使わずしていつ使うかあああ!!」

 

ウルリクムミの堂々とした大演説は冒険者達の恐れを薄れさせ、その胸の奥底から熱い何かを灯してくれるような力強いものだ。

 

「我々の予想ではあああ、彼奴らは『儀式』の完成を優先するためにいいい、アンデッドどもに直接指揮を下すことはないはずだあああ!!」

 

いわば大量のアンデッドによる人海戦術。数の暴力で自分達を足止めさえできれば、『儀式』を完成させることが可能だと高を括っているはず。

 

「ならばあああ、その驕りを叩くまでだあああ!」

 

彼の作戦はこうだ。ウルリクムミが日頃アルラウネに使わせている、敵の注意を自分のみに引き付ける魔法を受けた状態で先頭に立ち、アンデッドの眼前に出る。そうすればアンデッド達は後方に控える冒険者達に眼もくれなくなるので、その隙に彼らが一体一体を確実に倒していくというものだ。

それを聞いて当然のことながら、冒険者達は驚愕しウルリクムミに反論する。無茶だ、そんなのは自殺行為だと、考え直すように説得するがウルリクムミは緩く首を振る。

 

「案ずるなあああ、俺の頑丈さは折り紙つきだあああ」

 

そう言ってウルリクムミが右手を高く掲げると、彼の足元から門の一番上にかけて薄桃色の階段が現れる。

再び冒険者達に背を向けるウルリクムミはその階段に足をかけ、ゆっくりとした足取りで上へと上っていく。見上げる冒険者達の目には、その姿がさながら玉座へと進む王の姿にも等しかった。

階段の一番上へと上がりきったとき、しばしの間をあけたのちにウルリクムミは背を向けたまま冒険者達へ告げる。

 

「ここより先は死地であるううう。死を恐れえええ、臆する者はすぐさま立ち去るがいいいい。それでも戦う覚悟が貴様らにあるならばあああ、この階段を駆けえええ、共に来いいいい!」

 

いつもと同じ巨体のはずの、濃紺の鎧の戦士の後ろ姿。だがそれを見た者達には、その背後に巨大な鋼の巨人の姿を幻視したように思えた。

 

「………ケッ! 白金(後輩)のくせに、かっこつけやがってよ!」

 

最初に不敵に笑ったのは、一人のオリハルコンの剣士。

 

「テメエ一人に美味しいとこをとられてたまるかってんだ!」

 

メイスを担ぎ直し、呆ける冒険者を押し退けてミスリルの戦士が前に出る。

 

「ここで逃げたら、それこそ女房に一生笑われちまうだろうがよ!」

 

白金の射手が、階段の一段目に足をかけた。

 

それを皮切りに、その場にいた冒険者達がぞろぞろと階段を上っていく。ウルリクムミと同じ高さに立った彼らは改めて墓地の奥を眺め、『それら』を見た。

 

おびただしい数のアンデッドの群れ。

スケルトン、ゾンビ、人型はおろか獣型まで勢揃いときたものだ。その姿に再び手が震える白金の戦士だったが、隣から肩に力強く置かれた手にハッと我に帰る。

 

「背中は預けたぞおおお」

 

「…………!」

 

その言葉を聞き、戦士の心に燻っていた恐怖は今度こそ消え去った。

 

 

「では行くぞおおお!! 勝利は我らにありいいい!!」

 

『うおおおおおおおおおお!!!!』

 

バトルアックスを掲げ、戦友を鼓舞するように叫ぶウルリクムミが門の上から飛び降りた。ほかの冒険者達も雪崩れ込むようにその背中に続いていった。

 

 

鈍重そうな見た目とは裏腹に素早く先頭を走るウルリクムミは、その身を包む薄桃色の花びらのが輝くと同時に一同の視界から消えた。アルラウネの自在法で身体能力が大幅に向上された彼のスピードは、さながらイジャニーヤの動きに迫るほどだ。

ゆっくりと進軍するアンデッド達の眼前にて急ブレーキをかけると、バトルアックスを構えて高らかに咆哮する。

 

「来い亡者どもおおお!!!!」

 

その咆哮に反応するようにアンデッドの大軍が我先にとウルリクムミに群がる。両手両足にしがみつき、肩や横腹に噛みつくが、ウルリクムミは身動ぎ一つせずにそれらを受け止め、濃紺の鎧には傷一つつかない。

 

「むうううううう!!」

 

ウルリクムミが煩わしげに片手を横に薙ぐだけで、アンデッド達の身体はバラバラに砕け散る。次いで棒きれでも扱っているかのようにバトルアックスを振り回し、迫るゾンビを細切れにしてしまう。重戦士とは思えないほどのスピードと武器捌きで次々とアンデッドを切り裂いていくウルリクムミの姿を遠目に眺めながら、冒険者達は戦地にも関わらず唖然としている。

 

「す、すげえ………」

 

「あの数のアンデッドを、ああも容易くとは……」

 

「あいつ………本当に白金級の冒険者なのか?」

 

だがその間にも、後続のアンデッド達が再び大量に押し寄せる。それを見たウルリクムミは、上空に向けて高々に命じる。

 

「放てえええええええええ!!」

 

次の瞬間、上空からたくさんの火球や火矢が雨霰の如く降り注ぎ、進軍するアンデッド達を焼き付くす。

火球の出所を見ればそこにはニニャをはじめとする魔法詠唱者達と弓兵達が、巨大な花びらの上に乗って墓地の上空を浮遊している姿があった。

 

 

 

 

 

『火球が使える魔法詠唱者達と弓兵はあああ、アルラウネが使う浮遊の術で上空から攻撃せよおおお』

 

 

 

 

一般的なアンデッドは空を飛ぶことはほとんどない。ならば地上よりも上空から狙撃すれば安全に援護できるはずと、ウルリクムミが進言した作戦は実に合理的だ。現に火球をまともに食らったであろう眼下のスケルトン達は次々と灰に還り、燃え残っているゾンビ達も苦悶の叫びを上げて地べたを転げ回っている。

 

(ウルリクムミさんが、こんな重要な役割に僕を選んでくれたんだ………なんとしてもやり遂げてみせる!)

 

決意を固め、ニニャは再びアンデッド達に火球を浴びせる。炎に焼かれて悶えるアンデッドを差し、ウルリクムミは再び冒険者達に叫ぶ。

 

「道は拓かれたあああ! 進めえええ! 戦友達よおおお!!」

 

 

「うおおおおおお!!」

 

「野郎ども! ウルリクムミに続けええええええ!!」

 

燃え残ったアンデッド達を切り払い、冒険者達は果敢にも進軍する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな冒険者達の姿を、門の向こうから憲兵達が眺めている。

 

「俺達は……夢でも見ているのか?」

 

一人は眼前に広がるさまに、とても現実感が湧かないでいる。まるで子供の頃に読んだおとぎ話のワンシーンを再現したかのような鮮烈な光景は、正に夢の中の出来事のようだ。

 

「いや、夢なんかなものか。俺達は今、『伝説』を目にしているんだ」

 

それをもう一人の憲兵が、口元に笑みを浮かべながら否定する。彼ら冒険者達の先陣を切り、幾多のアンデッドを屠る一人の濃紺の冒険者を見つめて彼は呟く。

 

「濃紺の戦士………いや、濃紺の英雄だ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前線で戦う人員に選ばれたのは、オリハルコン・ミスリル・白金・金の冒険者達。銀・鉄・銅級の戦士達は、もしもの場合に備えての街の住人の避難誘導担当と、ダイン達回復術師主流の後方支援担当、ルクルット率いる物資輸送担当に別けられた。

さらにウルリクムミは、ンフィーレアとリィジーにある重要な役割を頼んだ。

 

「ンフィーレア少年んんん、リィジー殿おおお、お前達にはポーションの製作を頼みたいいいい」

 

これから起こる戦いを思えば、回復ポーションは必要不可欠だ。そう判断したうえでの人選だが、ンフィーレアは不安そうにウルリクムミを見る

 

「それは構いませんけど……これだけの冒険者さん達全員に行き渡らせるとなると、作るのに時間がかかるかと……それに材料も……」

 

「材料ならばあるだろうううう」

 

「え?」

 

そう言ったウルリクムミが指差す先には、組合長室の片隅に置かれた袋があった。

 

「これは!」

 

それは先ほどトブの森で、ウルリクムミ達が採取した希少な薬草だ。

 

「それだけの品質の薬草が大量にあればあああ、多少雑に調合してもおおお、ある程度良質なポーションを量産できるはずだあああ」

 

それを聞いてンフィーレアはハッとする。確かにもとから効能の高い薬草ならば、魔法を使わないただの調合でもかなりの効果を期待できそうだ。

グッと上着の胸元を握り、ンフィーレアは口を引き結ぶ。正直なところ、この薬草をじっくりと調合して研究したいという、薬師としての欲求はある。だが今は街の命運をかけた戦い、そんな手前勝手なことをすべき場合ではないのだ。何よりもウルリクムミの期待に応えなくてはいけない。

決意を改め、ンフィーレアは力強く頷く。

 

「っ………やってみます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことを思い出しながら、ンフィーレアは薬研で薬草を擂り潰す。まずは普通に擂り潰したものを溶液にしてみて、どんな効果のポーションができるかを確認しなくてはならない。

液体をポーションにするには錬金術師のクラスを持っているンフィーレアとリィジーの力が必要だが、それ以外の雑用は物資輸送担当の人員達も手伝ってくれている。

 

「こんな希少な薬草を、こんな雑な調合で作るなど………!」

 

調合するンフィーレアの横で、リィジーが蒸留フラスコの火加減を調節しながらブツブツと文句を言っている。孫の恩人の頼みとはいえ、ポーション研究に生涯を捧げる彼女としては、この薬草を研究せずに使うことはやはり不本意なのだろう。

 

「文句言わないでよおばあちゃん、今は手を動かして」

 

「わかっとるわい」

 

コポコポと火をかけられたフラスコが沸騰し、枝管を通って液体がビーカーにポタリポタリと滴り落ちていく。液体がビーカーの半分まで溜まったところで空のビーカーに入れ換えたリィジーは、道具鑑定(アプレイザル・マジックアイテム)で液体の効果を調べ始める。ンフィーレアが擂り潰す作業を止めずにそれを横目で見ていると、リィジーの両目が見開かれて身体が震える。

 

「お、おお………!」

 

「おばあちゃん?」

 

リィジーのかつてない反応に居合わせた冒険者達が固唾を飲んで見守るが、ンフィーレアには家族としての長い付き合いから、それが悪い反応ではないことを悟った。

 

「完成したぞンフィーレア! 素晴らしい………魔法を使わない調合でこれほどの完成度とは!」

 

興奮気味に叫ぶリィジーに、冒険者達も沸き立つ。作業台に置かれた目映い緑の輝きを放つポーション。見ただけでも高位のポーションであるとわかるそれに、ンフィーレアも目を奪われる。

 

(すごい………この濃度でこれだけの力なら……!)

 

ふと、ンフィーレアの脳内である可能性が閃く。作業の手を止めた彼は、丁度ポーションを入れるための空き瓶を運んできたルクルットに声をかける。

 

「ルクルットさん! こちらの完成したポーションを、水で十倍に希釈してみてください!」

 

「何!?」

 

「ンフィーレア、お前さんなんていうことを言うんじゃ!?」

 

せっかくの高位ポーションを水で薄めるなどと、薬師にあるまじき発言にリィジーが抗議する。だがンフィーレアは真剣な面持ちで彼女に向き合う。

 

「考えがあるんだ。この印に合わせるように水を入れてみてください!」

 

「わ、わかった……」

 

ルクルットは戸惑いつつも、言われた通り分量を調節しながらビーカーに水を足していく。

水を足されたことで原液よりも色はだいぶ薄くなったが、いまだ淡い輝きをなくさないポーションに一同は驚く。

 

「すげえ……こんだけ薄まったのに、市販のポーションよりも高品質な状態を保ってやがる……!」

 

「これなら、少ない量でも大量生産できそうです!」

 

確かに、抽出した液をそのまま使うよりはこちらのほうが効率的だ。物資の目処がたったことにルクルットは笑い、ほかの冒険者達に指示する。

 

「よし! お前ら、近くの井戸水からありったけ水汲んでこい!」

 

「はい!」

 

彼らは店内に置いてあるバケツを片手に、急いで店の近くにある井戸に向かい出入口まで繋がるように二列に並ぶ。先頭に立つ一人が水を組み上げ、手にしたバケツに注いでいくと二番目がそれをもちあげて後ろに回し、バケツリレーの要領で次々と運んでいく。

ンフィーレアが擂り潰し、リィジーが原液を抽出させ、ルクルットがそれを希釈して、完成したそばから次々と空き瓶にポーションを注いでいく。ある程度ポーションが貯まると、力自慢の冒険者達が店の前に待機させてある馬車に、箱に詰められたポーションを次々と運んでいく。

 

 

「ポーションを入れる空き瓶が足りません!」

 

「なら酒場から空の酒樽をもらってこい! 液体が入れられるならなんでもいい! とにかく完成したやつから順に墓地へ届けるんだ!!」

 

ルクルットの指示を受け、急いで入れ物の代わりになりそうなものを探しにいく冒険者の後ろ姿を見送りつつ、ルクルットは逸る気持ちを抑えて希釈に専念する。

 

(なんとか持ちこたえてくれよ………ウルリクムミさん!)




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