棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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カジッちゃん編の前編です。


スケリトル・ドラゴン

最大の障害を乗り越え、ついに共同墓地の最奥へとたどり着いた冒険者達。アルラウネによると、印が最後に示していたのはこのあたりのはず。つまりはこの場所こそがズーラーノーン一派の本陣に違いない。

息を潜めてゆっくりと進むと、一同の視界に石でできた小さな建造物が見えてきた。その前では幾何学文様の刻まれた魔法陣の周りを囲み、聞き慣れない言葉の羅列の呪文を呟く数名の魔法詠唱者の姿もある。

 

ガシャリとあえて大きな音をたてるように一歩踏み出したウルリクムミに、魔法詠唱者の一人がバッとこちらを振り返る。

 

「カジット様、来ました!」

 

冒険者達の気配に気づいた部下と思しき一人が、禿げ上がった頭の男に声をかける。その人物はクレマンティーヌ共々ンフィーレアを誘拐しようとした男に間違いない。カジットと呼ばれた男はウルリクムミの姿を見て、ややたじろぐように後退りした。

 

「まさか……クレマンティーヌをも突破してくるとは!」

 

「先ほどもあいまみえたなあああ。ズーラーノーンの首魁よおおお」

 

どうやら儀式とやらはまだ完成していないようで、カジットの部下達は見るからに怯えている。なんとか間に合ったかと、張りつめていた肩を僅かに緩める冒険者達の気配を背中に感じながらも、ウルリクムミはまずどうしても知りたかったことをカジットに聞いた。

 

「一つ聞きたいいいい、『もう一人』はどこだあああ?」

 

「なに?」

 

「先ほどおおお、貴様らを救出したあああ、魔法詠唱者の仲間がまだいるはずだあああ。そやつはいないのかあああ?」

 

紅世の徒だとか自在師などの単語を知らない可能性もあったため、無難に魔法詠唱者という扱いにする。アルラウネに周辺の探知を任せてはいるものの、いまだにそれらしい存在は見当たらないと遠話で伝えられてはいた。ここまで不意打ちすらないとなると本陣で構えているのかと警戒していたウルリクムミだったが、彼の周囲には徒と思しき気配は感じない。隠蔽の自在法を使っている可能性も考慮し、不意打ちにいつでも反応できるように、ウルリクムミはバトルアックスを握る手に力を込める。

 

しかし一方のカジットは、その質問にニヤリと笑った。次いで口に出した答えは、ウルリクムミの予想を越えるものだった。

 

「ああ……あやつならば、儀式の贄となってもらったよ」

 

「………何いいい?」

 

徒が儀式の贄になった。それは一体どういうことなのだろうか。

そこからのカジットは聞いてもいないくせに、ウルリクムミ達に自分達の目的とどうやって『不死の軍勢(アンデス・アーミー)』を発動させられたのかを勝手に喋りはじめた。

組合の予想通り、彼らはカジットを死者の大魔法使い(エルダーリッチ)にするために『死の螺旋』を企てようとしていたこと。仲間の一人が運良く、それを可能にするアイテムを入手したこと。そのアイテムを発動させるために、ンフィーレアを拐おうとしたこと。それが失敗したために、彼らに協力していた『ズーラーノーンの盟主の友人』だという異形の魔法詠唱者が、アイテム発動のための生け贄になったということを。

 

仲間を道具のように扱い、非道の限りを尽くしておきながら誇らしげに高笑いするカジットの姿に、冒険者達は義憤の表情を浮かべて武器を構える。だがウルリクムミはカジットの言葉に疑問を抱いた。

 

紅世の徒は基本的に己の欲望に忠実な精神性を有している。そのためか自身の生存を最優先するために、自軍の旗色が悪いと見れば真っ先に逃走する傾向が強いのだ。

そんな輩が、大人しく他人が起こした儀式の生け贄になどなるだろうか?

自分達のように特定の主君に忠誠を誓った者、または『他者に尽くすことそのもの』が最大の欲望である者のような、例外でもない限りはありえないことだ。

 

となるとカジットが語る、『ズーラーノーンの盟主の友人』という言葉がひっかかる。徒は基本的に人間のことは麦の穂程度にしか思っていないが、なかには人間と友情・愛情を育む者もかなりいる。かくいう自分達も『漆黒の剣』やエ・ランテルの人々と三年の月日を経て親しくなったのだ。であれば件の徒は盟主と親しいか、盟主に忠誠を誓っているのかもしれない。

その盟主の悲願の為に我が身を捧げた………一応そう考えれば説明がつくが、ウルリクムミはまだ腑に落ちない。

 

憶測で考えても例の徒は優秀な自在師だ。

万が一の戦力差を考慮した場合、儀式の贄などに使うには非常に持ったいなさすぎる。現に今、彼らを阻む障害は一切なくなっているのだ。

しかしここでふと、ウルリクムミはある可能性を思い浮かべた。

 

(いやそもそもおおお、贄にされたのはあああ、本当に徒本人かあああ?)

 

優れた自在師ともなれば、燐子作りに長けることもある。そしてそんな徒の中には、自身の身代わりとなる燐子を作り逃亡するという常套手段を用いる。つまり贄にされたのはアイテム使用のために急造した燐子で、本人はすでに逃亡している可能性がある。そう考えると辻褄はあう。

しかしそう思い至れば、新たな疑問が出てくる

 

(ならばなぜえええ、その徒は最初からあああ、その方法をとらなかったあああ?)

 

そんな優れた自在師であれば、わざわざンフィーレアを誘拐などしないで最初から贄用の燐子を作ればいいだけの話だ。そうすればズーラーノーンの目論見が冒険者組合に気づかれないまま、死の螺旋をよりスムーズに行えたはずだ。

沸き上がる疑問に何度も自問自答を繰り返すウルリクムミだったが、一向に答えは出てくれない。これが長年の戦友である牛骨の賢者であればわかったかもしれないが、ウルリクムミはあくまで戦闘指揮が本領なので腹芸はあまり得意なほうではない。

そんなウルリクムミが色々と思案しているのをよそに、オリハルコンの冒険者達が前に出てカジット達と話を進めている。

 

「おかげで『死の軍勢』を発動させることに成功したというのに……!」

 

カジットは忌々しいと言わんばかりに歯軋りし、ただでさえアンデッドみたいな顔つきの表情には憤怒を浮かべ、さながら怨霊のような形相で叫ぶ。

 

「貴様さえいなければ! さらなる負のエネルギーを集められたというのに!」

 

カジットに手にした杖を向けられ、ウルリクムミはようやく思考の海から浮上してきた。

 

(仕方がないいいい、徒について考えるのは後だあああ)

 

今は目先のことに集中すべきと、深呼吸する。

 

「もはやお前達は完全に包囲された。無駄な抵抗は止め、大人しく降伏するんだな」

 

眉間に皺を寄せてカジット達に向けて武器を構えるオリハルコンの戦士達。上空の魔法詠唱者達もいつでも魔法を放てる状態を保っており、これでは確かに逃げることは不可能だ。

しかしそんな絶対絶命の状態になってなお、カジットはニヤリと口元に笑みを浮かべていた。

 

「ククク………だが一足遅かったようだな、冒険者共!」

 

「何?」

 

その態度に一同はやや戸惑う。なぜこの男はこんな状態で笑っていられるのかと、いっそ気味が悪く思える。

そしてカジットは、杖とは逆の手に握られた丸い水晶玉を高く掲げた。

 

「十分な負のオーラが集まった、この至高の宝珠の力を見るがいい!」

 

(至高の宝珠だとおおお?)

 

一同の視線が、カジットが手にする宝珠に集まる。彼が持つそれは黒い鉄のような輝きを持つ無骨な珠で、研磨されていないせいか珠というよりは原石と呼ぶほうが近い。

 

「十分だ! 十分な負のエネルギーの吸収だ!」

 

そしてその宝珠からは先ほどまで墓地を覆っていたものとは比較にならないほどの禍々しい負のエネルギーが溢れている。

それを見た瞬間、ウルリクムミは自身の失態に気づいた。

 

(御大将、上に!?)

 

(!!)

 

遠話から響くアルラウネの叫びに、反射的にウルリクムミが叫ぶ。

 

「全員下がれえええ!!」

 

ただ事ではないほど必死な叫びが合図になったのか、冒険者達は慌てて後ろへ走っていく。

 

 

ドオオオオオオオオン!!!!

 

 

 

次の瞬間、彼らが立っていた場所に巨大な何かが落下してきた。

 

「あ、ああ…………!」

 

爬虫類のを模した頭部を持つ長い首、皮膜のついた大きな翼、臀部から伸びる長い尻尾、そしてその三メートルを越える巨体を支える四足の太い脚。その姿は、紛れもない『竜』そのものだった。一見すると真っ白な鱗を持っているように見えるが、その身体を構成しているのはあろうことか全て人間の骨だ。

墓地の最奥に降り立ったその怪物を見上げる冒険者達の顔が絶望に染まり、()()の名を叫んだ。

 

スケリトル・ドラゴン(骨の竜)だああああああああ!!!!」

 

どうやらカジットが先ほどまでしていた無意味ともいえる会話は、全てはこのモンスターを召喚する為の時間稼ぎだったのだろう。

 

(抜かったあああ! この俺があああ、こんな初歩的な策にかかるなどおおお!)

 

背後に潜む未知の敵に意識を向け過ぎて、目先の小物への注意を疎かにし過ぎてしまった。かつて先手大将として名を馳せた自身のなんという不覚か。そんな彼らを嘲笑うが如く、カジットは高笑いする。

 

「ふはははははは! 魔法に絶対の耐性を持つスケリトル・ドラゴン、魔法詠唱者にとっては手も足も出ない強敵だろうよ!!」

 

ご丁寧に召喚したモンスターの説明までしてくれた。魔法に絶対の耐性を持つならば、魔法詠唱者達にとっては天敵といえる存在だ。

 

「魔法詠唱者達はあああ、全員退却せよおおお!!」

 

上空の魔法詠唱者達が答えるよりも早く、アルラウネが彼らを乗せた花びらを後方へと素早く運んでいった。

スケリトルドラゴンがそれを追いかけようと翼を羽ばたかせるが、駆け出したウルリクムミがスケリトル・ドラゴンの胴体に飛び付く。しがみつかれてバランスを崩したスケリトルドラゴンが再び地につくと、ウルリクムミはその身をよじ登って背中にまたがった。

 

「魔法が効かぬと言うならばあああ! 切り伏せるまでだあああ!!」

 

片手でバトルアックスを振り回し、遠心力を込めた一撃でスケリトルドラゴンの両翼を切り落とした。それを受けて竜の大顎からはギャアアアアと苦悶の叫びがあがる。

 

「なにい!?」

 

それを見てカジットが驚愕する。

スケリトルドラゴン一体の難度は甘く見積もっても48相当、ミスリルの冒険者チームが連携しなければ勝てないほどのモンスターだ。

戦士単体での討伐など、アダマンタイト級冒険者『青の薔薇』のガガーランでもない限り、そうそうできることではない。なのにこの白金級の大男は、たった一撃でスケリトルドラゴンの翼を切り落としてみせたのだ。

 

(こやつ、本当に白金級の冒険者か!? 力のみならばアダマンタイト級に匹敵するぞ!?)

 

動揺するズーラーノーン達とは対照的に、冒険者達はウルリクムミのその勇姿に再び希望が芽生える。

 

「あ、あのスケリトル・ドラゴンに一撃を……!」

 

「さっすがウルリクムミさんだ!」

 

なおも暴れるドラゴンの背中に馬乗りになるように張り付き、すかさずバトルアックスを振り回してウルリクムミが追撃する。

ドラゴンは苦痛の叫びをあげ、その身体はどんどん切り刻まれていく。

 

「き、貴様……!」

 

このままでは五年の月日をかけてようやく実を結ぼうとしていた計画が、全て水の泡になってしまう。歯を食い縛るカジットが死の宝珠を再び高く掲げた。

 

「させん、させんぞ! 負の光線(レイ・オブ・ネガティブ・エナジー) !!」

 

宝珠から溢れる漆黒のエネルギーがスケリトル・ドラゴンを包む。すると辺りに散らばっていた人骨がスケリトルドラゴンに集まりボロボロになっていた箇所を元どおりにする。

 

「そ、そんな!」

 

それを見てまたしても冒険者達が愕然とする。回復したスケリトルドラゴンが大きく身を震わせ、ウルリクムミを振り落とそうとする。

 

「ぬおおおおおお!!」

 

なおもしがみつくつウルリクムミだったが、ついにはスケリトルドラゴンの胴から両手が滑り、濃紺の巨体が宙を舞う。ドゴンッと大きな音を響かせ、砂ぼこりを巻き上げてウルリクムミの身体が地面に叩きつけられる。

 

「ウルリクムミさん!」

 

「大丈夫か!?」

 

慌てて彼が落ちた場所に駆け寄る冒険者達だったが、舞い上がる砂ぼこりを吹き飛ばすようにウルリクムミの上半身が勢いよく起き上がる。

 

「なんのこれしきいいい!!」

 

なんともないかのように力強く立ち上がる彼の姿を、冒険者達は安堵と心強さ、ズーラーノーン達は忌々しげな目で見つめる。

 

鎧強化(リーンフォースアーマー)盾壁(シールドウォール)死者の炎(アンデッドフレイム)!!」

 

カジットによる三つの強化魔法の重ねがけ。それを受けたスケリトルドラゴンは再びウルリクムミに前足を振りかぶる。迎え撃つウルリクムミが再びバトルアックスでその身体を切り裂こうとするが、スケリトルドラゴンの表皮が先ほどよりも固くなっている。

 

「おおおおおお!!」

 

武器の重心をずらすことでスケリトルドラゴンを転ばせたが、てんで効いているようには見えない。これではもはや、ウルリクムミの腕力のみでは倒せないだろう。

 

酸の投げ槍(アシッドジャベリン)!」

 

それを好機と見るや、カジットはスケリトルドラゴンの影から槍の形状をした緑色の酸の塊を放った。ウルリクムミは避けなかったが、彼の鎧に付着した酸はシュウシュウと煙を放ちながらも、胸当てに描かれた双頭の鳥が溶けることはなかった。

 

(バカな! あの鎧、一体どんな鉱石を使っているのだ!?)

 

強靭な肉体、尋常ならざる身体能力、さらには歪みさえしない強固な武器と防具。どう考えても大男の冒険者としての階級は白金級などに収まりきるものではない。

 

「お、お主は一体何者だ!? 武技も使わず、どうやってその肉体能力を得ている!?」

 

動揺しながらも、カジットはウルリクムミに問う。対する彼は静かに、しかし堂々とした口調でそれに答えた。

 

「どうということはないいいい。かつて命を救われえええ、恩義に報いて身命を捧げると誓ったあああ、偉大なる主をお守りするべくううう、長きに渡る研鑽を重ねた結果だあああ」

 

それは三年間の冒険者としての活躍の中で、ウルリクムミが初めて語った過去の一端だ。命を救ってくれた偉大なる主、その人物を守るために鍛えたと語るウルリクムミの言葉の端々には、主への忠義と誇りが感じ取れる。

 

「もっともおおお、主亡き今となってはあああ、ただの役立たずのおおお、鉄屑となりはてたがなあああ」

 

だが次いで語る言葉からは、悲哀と後悔と喪失………そして不甲斐ない己自身への怒りが滲んでいた。それを聞いた冒険者達はウルリクムミとかつて彼が仕えた主の末路を悟り、胸を締め付けられるような思いを抱いた。

 

だがカジットはそれどころではなかった。今までの戦いから考えた結果、この大男の力は甘く見積もってもアダマンタイト級、ひいては英雄の領域に達していると見て間違いない。とてもではないがスケリトルドラゴン一体で殺しきれるとは思えない。

 

(止むをえぬ………!)

 

カジットは後ろの弟子達に目配せしてから、再びスケリトルドラゴンをウルリクムミにぶつける。ウルリクムミが何度もバトルアックスで前足を砕くも、その度にカジットが死の宝珠で回復してくる。

 

(少々のダメージではあああ、すぐに回復させられてしまうかあああ)

 

向こうの魔力が尽きれば逆転のチャンスはあるかもしれないが、どれだけの時間がかかるかわからない以上、このままではいたちごっこだ。ここは後ろの冒険者達を先に退却させ、自分一人で立ち回ったほうが無駄な犠牲を出さずにすむはず。そう判断し、ウルリクムミは仲間達に向けて叫ぶ。

 

「殿は俺が努めるゆええええ、お前達は退却せよおおお! こいつは我々が束になって勝てる相手ではないいいい!!」

 

「だ、だがそれだとアンタが!」

 

「俺のことは心配無用だあああ!!」

 

戸惑う彼らを突き放すように怒号を浴びせるウルリクムミに、冒険者達は後ろ髪を引かれる思いを抱きながらも彼の意を汲んだ。歯を食い縛り、目を強く伏せ、できる限りウルリクムミを見ないようにして、冒険者達は後方へ向けて走り出す。

だがその進路方向を、数人の人物が阻む。

 

「!?」

 

「このまま逃がすと思ったか!」

 

いつのまにか回り込んでいたのか、ズーラーノーンの魔法詠唱者達がいつでも魔法を放てる態勢をとり冒険者達を足止めする。それを確認したカジットは、勝利を確信したかのようにニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ここらで終わりにしようか」

 

ウルリクムミに向けてか、はたまた冒険者達全員に向けてか、小さく呟いたカジットは再び死の宝珠を高く掲げた。

 

「見よ! 死の宝珠の力を!!」

 

怪しい輝きを放ち、さらなる負のエネルギーが宝珠から溢れだす。するとその場一帯からも光が溢れ、地響きを立てて地中からもう一体のスケリトルドラゴンがわき出てきた。

 

「おいおい……嘘だろ!?」

 

「スケリトル・ドラゴンが、二体も!?」

 

その光景に冒険者達は目を見開いて愕然とする。一体でさえ脅威の化け物、それが二体に増えてしまったのだ。

 

「もはや負のエネルギーは空だが……それでもおぬしらを殺して、そのままこの都市に死を撒き散らせば多少は元が取れるだろうよ!」

 

カジットのその言葉通り、死の宝珠の輝きは完全に失われておりもはや負のエネルギーとやらは底を尽きているらしい。しかしだからと言って、二体のスケリトルドラゴンの相手に善戦できるかどうかは別問題だ。

 

「降伏するなら、助けてやってもよいぞ?」

 

前方には怪物二体、後方には凄腕の魔法詠唱者達。冒険者達の退路は完全に断たれてしまっていた。

もはや絶体絶命としか言い様のない状況に、冒険者達は震えている。

 

 

 

 

 

………ただ一人を除いて

 

 

 

「…………先ほどおおお、負のエネルギーは空と言ったがあああ」

 

確認をとるかのように、ウルリクムミが静かに問いかける。

 

「つまりはあああ、その二体の竜があああ、貴様の切り札でいいのだなあああ?」

 

その言葉には、後方の冒険者達のような焦りも恐怖も感じない。それどころか見えないはずのヘルムの下が、笑ったようにカジットには見えたのだ。

バカな、クレマンティーヌでさえ苦戦する上位アンデッド二体を前にして、なぜこの男はいまだに余裕でいられる!?

 

「潰せえ!!」

 

自らの動揺を払拭するかのようにカジットが命じると、スケリトルドラゴンが二体同時に空を飛ぶ。そしてあろうことか、二体は上下に重なるように並ぶと、そのままウルリクムミの真上に向けて落下し始めた。

 

「ウルリクムミさん! 避けてください!!」

 

それにいち早く気づいたのは金級の槍使いだ。だがウルリクムミはその呼び掛けを無視するかのように、その場から動こうとしない。

 

『ウルリクムミいいいいいいいいい!!』

 

冒険者達の悲痛の叫びが重なった瞬間、落下スピードが上乗せされたスケリトルドラゴン二体分の重量が、濃紺の戦士の真上に落下した。

 

 

 

ドゴオオオオオオオオオオンッ!!

 

 

 

 

巨体の落下による轟音が鳴り響き、砂ぼこりを巻き上げてあたりの景色を見えなくする。その光景に冒険者達は言葉を失い、手から力が抜けて武器が地に落ち、膝から崩れおちるようにへたりこむ。何人かは最強の戦士の死に、静かに涙を流して絶望する。

 

「ふははははは! 思い知ったかあ!!」

 

対するカジットは目障りな戦士の死に高笑いする。スケリトルドラゴンの身体は人骨で構成されているためか、見た目の割りには重量は軽い。しかしいくら軽いといってもこの巨体が高度から、それも二体が重なって落下すれば人間などトマトの如く潰れる。ゆえにこれを受けて、生きていられる者などいるはずがない。

どんな凄惨な人肉のミンチになっただろうかと楽しみにするカジットに、結果を見せるように砂ぼこりが晴れていく。

そこで一同が目にしたものは………

 

 

 

「…………は?」

 

重なった二体の竜の腹を支えているのは、濃紺の片腕。胴体の下のウルリクムミは、潰れるどころか直立不動を保っていた。

 

「ぬああああああ!!」

 

そして投石でもするかのように、スケリトルドラゴンをカジット達に向けて投げ返したのだ。

思いもよらぬ反撃に、蜘蛛の子を散らすようにカジットを含めた魔法詠唱者達が四方八方に逃げる。高度から落下した時と同じ轟音を響かせて、カジット達の背後の建造物がスケリトルドラゴンの巨体に潰されて瓦礫の山になった。

 

「ば、ばかな!?」

 

「貴様らの『切り札』がわからずううう、ずっと出し惜しみしていたがあああ」

 

ガシャンと、片手で握っていたバトルアックスを両手で握り直す。

 

「これでようやくううう、この宝具『ウベルリ』の力をおおお、試せるというものだあああ!」

 

ウルリクムミがバトルアックスを天高く掲げると、刃から濃紺の炎が溢れて燃え盛る。すると彼の周りを勢いよく風が吹き荒れ始めた。風はウルリクムミを中心にして渦を巻き、バトルアックスの炎を巻き上げて天に昇る。その勢いはどんどん増し、ついには濃紺の炎の竜巻が刃の先に形成されていく。

 

「我が『ネサの鉄槌』にてえええ、砕け散るがいいいいい!!」




終盤は『舞い上がる火の粉』をBGMにしてお読みください。(オバロのBGMですが、ウルリクムミさんの戦いになんか似合いそうだったので)
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