棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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引き続き、『舞い上がる火の粉』をBGMにお楽しみください


ネサの鉄槌

同時刻、エ・ランテルの入り口付近はごった返していた。

万が一に備えて街の人々を遠くへ避難させようと、街中から馬車を集めに集めて馬に引かせている。食料物資運搬用、住民護送用に別れて二台ずつ門から走っていく。避難させる人間は主に女性と子供を優先させてはいるが、不安から泣きじゃくる子供を宥める親の姿がチラホラと見え、中には順番を無視して我先にと馬車に乗ろうとする中年男性などを鉄級の冒険者達が羽交い締めにしている。

 

「慌てないでください! 焦らずに避難してください!」

 

避難誘導担当班は、ペテルが指揮をとっている。今のところまだアンデッドが墓地から溢れているという情報はない。だからまだ避難にも幾分か余裕はある。墓地の指揮はウルリクムミがとっているらしいので心配はいらないだろうが、それでも冒険者達の空気は張りつめている。

 

「ペテル!」

 

「ルクルット………!」

 

そんなペテルに声をかける者がいた。

墓地への物資輸送担当班を指揮するルクルットだ。馬に乗る彼の後ろには、ンフィーレアとリィジーが馬車に乗って手綱を引いている姿がある。

 

「避難のほうはどうだ?」

 

馬から降りたルクルットが聞けば、ペテルは頷いて答える。

 

「まだ墓地からアンデッドが溢れていないおかげか、順調に進んでいます。そちらはどうですか?」

 

「たった今、完成したポーションを全部墓地に運んだところだ。アルラウネさんによると、戦況はこっちが優勢みたいだぜ」

 

「そうですか………」

 

笑みで返すルクルットの言葉にホッと胸を撫で下ろす。優勢であるならばズーラーノーンの制圧も可能かもしれないが、それでも油断はできない。今はこのチャンスを逃さずに、できるだけ遠くへ大勢の人々を避難させるべきだ。

 

「とはいえ、さすがにこれ以上バレアレさんとこの店でポーションを作成するのは危険そうでな。そろそろ二人にも避難させるべきだと思って連れてきたんだ」

 

ルクルットが後ろ手に指差せば、二人が乗る馬車の後方には大量の荷物が積まれている。中にはあの薬草が入った袋もあった。

 

「ポーション作成の道具一式は全て持ってきました。今後は避難先で作成して、ルクルットさん達に追加を運搬してもらうことになっています」

 

ンフィーレアが言うように、確かにそのほうが合理的だ。しかしそうなると最初の運搬時より墓地との距離が遠くなるだろう。

 

「ならこちらの避難がすみしだい、物資輸送は私達が交代します」

 

「そのほうがよさそうだな……」

 

墓地との行き来は体力を消耗する。よくよく見ればルクルットも呼吸が僅かに乱れて汗をかいていた。対するペテルは避難誘導のためにそこまで疲労していない。互いの状態を考慮したがゆえの交代だ。

 

「あの、ちなみに………モモンさんとナーベさんとの連絡は?」

 

「ダメだ。行き掛けにもう一度二人が泊まってる宿屋に行ってみたが、やっぱり留守だった」

 

その言葉にペテルの肩がやや落ちる。

オーガの群れを一蹴し、森の賢王さえも服従させた彼らならば十分な戦力となってくれただろう。二人がいてくれたら、もっと戦況が有利になりそうなのに……

 

(一体、どこへ行ってしまったんだろう?)

 

急用があると言っていたが、いまだ足取りも掴めないでいる。もしくはすでに墓地に向かっているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、あれを見ろ!」

 

その時、鉄級の斥候の一人が叫ぶ。彼は墓地の方角を指差しており、バッと振り向いたペテルとルクルットはそれを見た。

 

「な、なんだありゃあ!?」

 

「竜巻だ! 巨大な炎の竜巻だああああああ!!」

 

墓地の方角から見えたのは、濃紺色の炎を纏った竜巻だ。さながら天にまで届くのではないかと思われるほど巨大な竜巻はペテル達のいる馬車からでもはっきりと見える。それを見て、ペテルとルクルットが目を見開いた。

 

「あ、あれは………!」

 

「知っているんですか、ペテルさん!?」

 

銅級の戦士の問いに、ペテルが頷きつつ思い出すように語りはじめた。

 

 

 

 

 

 

そう、あれは忘れもしない……まだ彼らが銅級だった頃のこと。銀級冒険者に同行して、カッツェ平野のヴァディス自由都市へ物資を届ける護衛の依頼を受けた日のことだった。

その日は霧もなく快晴で、アンデッドの気配は全くなく順調に進み、滞りなくヴァディスに到着できた。だから行きは余裕ですんだが、帰りがまずかった。

あんなに晴れていた霧が突然濃くなり、その時に運悪く上位アンデッドの群れに出くわしてしまったのだ。四方八方を亡者に取り囲まれた絶対絶命の中、ウルリクムミは叫んだ。

 

『死にたくなければあああ、所持している金物を捨てろおおお!!』

 

その言葉に、一瞬だけ一同の思考が停止した。現在一同が所持している金物といえば、剣や鎧などの武器や防具であり、それらは全て身を守るものだ。それをこの危機的状況で捨てろと言うのだ。何をとち狂ったことを言い出すんだこの人は、そう思ったペテル達をよそに、ウルリクムミは次いでアルラウネにも命じる。

 

『アルラウネえええ、自在法で彼らを守れえええ!! 俺が切り開いたらあああ、即座に道を作れえええ!!』

 

『御意に!?』

 

彼の意を汲んだアルラウネが薄桃色の花びらを大量に生み出すと、ペテル達を守るように覆われる。

それを見届けたウルリクムミは、手にしていた粗末な斧を投げ捨てて右手を天に突き上げた。次の瞬間、彼らの周囲に濃紺色の炎を混ぜたつむじ風が吹き荒れ始める。勢いを増す炎風は周囲のアンデッド達が所持している武器を巻き上げ、その場に散らばる金属類が、炎に巻き上げられるように上空へと飛んでいく。中には鎧ごと巻き込まれていくアンデッドも何十体か見受けられた。

圧倒的としか思えないその光景に我を忘れる一同だったが、ふとうなじにかかる痛みにハッとする。見れば自分の首にかかる冒険者プレート、手にした剣と盾、メイス、はては矢の先の矢尻に至るまでが竜巻に引っ張られていたのだ。

 

『どうかお捨てくださいませ!?』

 

アルラウネが必死で叫び、一同は慌てて身につけていた金属類を全て外した。鎧を纏ったアンデッドは今の竜巻だけで全ていなくなったが、まだ大量のスケルトンが湧いて出てくる。その中でウルリクムミは、エ・ランテルへ続く最短ルートへ向き直った。

 

『前方ううう、散れえええっ!!』

 

轟砲とともに振り下ろされた竜巻が、前方のアンデッドの頭上から雪崩落ちていく。たったそれだけ。その一撃のもと、爆炎を纏った巨大な鉄の怒涛が、眼前のアンデッド達を粉々に消し飛ばした。

 

炎が消えたあとには、何もなかった。竜巻が落とされた場所が不自然なまでに砕けている様を呆然と眺める一同だったが、その消し飛ばした部分から薄桃色の花が咲き、花畑の道となる。

 

『走れえええ!!』

 

その叫びに気圧されるように、御者は慌てて手綱を引っ張り馬車は花畑の上を走った。アンデッド達は花畑の中の自分達が認識できないのか、その周りをうろうろするだけで攻撃してこない。

そうして命からがら、一同はエ・ランテルに帰還したのだった。

 

 

 

後で聞いた話だが、あの力はウルリクムミだけが扱えるタレントのようなもので、強力なぶん繊細な制御ができないらしい。

その後、居合わせた面々を集めたウルリクムミは申し訳なさそうに、貴重な武器を壊してしまったお詫びとして自身の分の報酬を全てペテル達に分配しようとしたが、『命の恩人から金を貰うなんてとんでもない!』という一同の意見の一致で丁重に断った。

 

そしてこの知らせを聞いた冒険者組合も、彼にミスリル級の称号を与えようとしたが、ほかでもないウルリクムミがそれを断った。まだ銅級が板について間もない自分が、先達を差し置いてミスリルになってしまうと、周囲との軋轢をうみだしかねないからだという。

アインザックは最後まで食い下がったが、結局ウルリクムミのプレートは妥協として銅から銀になったのだった。

 

 

 

 

 

「そ、そんなすごいタレントなんですか!?」

 

「ああ………。だがそれから一月経った頃に、あるドワーフの依頼を受けて、その報酬としてタレントを制御できるアイテムを作ってもらったそうだが……」

 

ルクルットは険しい顔で、天を貫く濃紺の竜巻を見据える。

 

「ウルリクムミさんは、本気だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(な、なんだあれは!? 魔法なのか!?)

 

ウルリクムミの頭上でゴウゴウと燃え盛る炎の竜巻に、カジットは身を震わせてスケリトル・ドラゴンの影に隠れる。

その力は、長きにわたって魔法詠唱者としての研鑽をしてきたカジットでさえ、見たことがないものだ。下手をしたら、かの大魔法詠唱者フールーダ・パラダインにすら届きかねない威力だ。

 

(だ、だが…………スケリトルドラゴンには魔法への絶対耐性がある!)

 

カジットは知らない。ウルリクムミが使うこの『力』は、この世界の人間が扱う『魔法』とは根本的に種類の異なる『力』だということを。

二体のスケリトルドラゴンが、ウルリクムミを今度こそ鏖殺しようと迫ってくる。それを見て、ウルリクムミは一度深く息を吸い込み、腹の底から叫んだ。

 

「骸の竜よおおお、散れえええ!!」

 

そして、濃紺の竜巻が前方に向けて振り下ろされた。冒険者達は爆炎と暴風に、思わず眼を閉じて身を伏せる。向かってくるスケリトル・ドラゴンは、その一瞬でバラバラに砕け散って塵と化した。

 

 

「ーーーーーーーーー!!!!」

 

カジットの声にならない叫びが出た。魔法に絶対耐性を持つ二体のスケリトル・ドラゴンが、たった一撃で消し炭となったのだから当然であろう。

 

炎風が消え去り、あたりが静寂に包まれる。おそるおそる冒険者達が身を起こしてみると、あれだけの威力と規模の力が振り下ろされたにも関わらず、周辺には瓦礫はおろか焦げ見さえ残っていなかったのだ。

武器を振り下ろした態勢から、ガシャンとバトルアックスを肩に担いでウルリクムミは呟く。

 

「さすがツイバヤヤ殿だあああ、良い宝具を産み出してくれたあああ」

 

 

 

 

 

「あ………ありっ……ありえない……!」

 

カジットの両足から力が抜け、ガクンとその場に尻餅をつく。五年の努力が一瞬で無に帰したとか、上位種のアンデッドがたった一撃で倒されたとか、もはやどこに関して驚愕すべきかわからない。

そんな彼に、ガシャンとウルリクムミが一歩を踏み出してきた。

 

「ひ、ひいいいいい!!」

 

ゆっくりとした足取りで、カジットに歩み寄るウルリクムミは重厚な姿も相まって、カジットの目にはさながら死神が歩いてくるような感覚なのだろう。

 

「く、来るな! 来るなこの化け物ぉ!!」

 

もはや立つことさえままならないのか、腰を抜かして必死に後ろへ下がっていく。

カジットのみならず彼の部下達もガタガタと足を震わせ、手にする杖を両手で握りしめて今にも崩れそうな身体を支えている。もはや、勝敗は決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーー『封絶』」

 

 

 

 

 

 

 

 




解説

宝具『ウベルリ』
ウルリクムミの圧倒的な強さに惚れ込んだツイバヤヤが、報酬として鍛えた斧が素体となった宝具。
見た目は人化した彼の爪先から肩までの長さと、胸部全体を隠せるほどの広さの刃の巨大な鋼鉄のバトルアックス。宝具としての能力は「所有者が扱う自在法を自在師顔負けの精度で制御すること」。
ウルリクムミの自在法『ネサの鉄槌』の最大の欠点ともいえる「味方をも巻き添えにしかねない扱いづらさ」を無くすために生み出されたこの宝具は、「任意の鉄塊のみを集め、任意の相手のみを破壊し、味方や周辺に被害を出さない」という精密制御を所有者が願うだけで自動的に行ってくれる。
ウルリクムミの「自身の力を制御できる宝具が欲しい」という願いと、ツイバヤヤの「この偉大なる戦士に相応しいアイテムを作りたい」という願いが重なった結果生まれた、まさに濃紺の英雄に相応しき宝具である。






………え? ちなみに何の依頼を受けてこの宝具を貰ったって?
それはオバマスプレイヤーのみぞ知るです(´∇`)
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