棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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前回のサブちゃんの心中

隊長「ぎゃあああああああ!! 化け物おおおおおお!!」(;□;)

サブラク(ああ………またやってしまったか……)(-_-;)


盗賊の塒にて

予定通り野盗達を返り討ちにしたソリュシャンは、彼らのリーダー格と思しき男から野盗の塒を聞き出すことに成功した。与えられた情報によると、彼らの仲間には王国最強の戦士ガゼフと同格の強さを持つと言われる、『ブレイン・アングラウス』という武技の使い手がいるらしい。

 

 

 

 

 

 

「ここが貴方達の塒かしら?」

 

「あ、ああそうだ! 教えたんだから、命だけは見逃してくれ!」

 

「ええ、わかったわ。『殺す』のは、やめてあげる」

 

必死で命乞いをする男に、ソリュシャンはニコリと美しい微笑みを見せる。それを見てホッとした表情になる男だったが、ソリュシャンがドレスの胸元を露出すると、そこから青い触手が伸びて男を捕らえた。

 

「ひ!? ぎゃあああああああ!!」

 

捕らわれた男は泣き叫びながら、ソリュシャンの胴体に吸い込まれていった。

 

「殺さずに、じっくりと、溶かしてあげるわあ」

 

嗜虐に歪んだ笑顔を浮かべるソリュシャンは、先に内部に取り込んだザック共々、男で遊ぶことにしたのだった。

 

衣服の胸元を正し、ソリュシャンは改めて遠目からアジトを見据える。

岩壁には僅かな隙間が掘ってあり、その前は木の柵で隠されている。入り口の周辺には落とし穴や鳴子が張り巡らされているが、ソリュシャンの目は誤魔化せない。罠感知と解除のスキルを鮮やかな手際で発動させつつ、悠々とソリュシャン達は塒に近づいていった。

 

「………?」

 

だが近づいてみて、ソリュシャンは塒の様子がおかしいことに気づいた。

入り口付近に、全身血塗れの見張り二人が倒れていたのだ。ガクガクと震えて呼吸しているのを見る限り、生きてはいるらしい。

 

「ソリュシャン様、これは……?」

 

「どうやら、別のお客様が来ているみたいですわね」

 

彼らを捕らえにきた冒険者達に先を越されたのだろうか?

襲撃者の職業を特定するべく、ソリュシャンはヴァンパイア・ブライド達に男達の装備を剥ぐよう頼む。これだけの血を流しているのであれば相当深い傷に違いないと思ったソリュシャンだったが、上半身をひん剥かれた男に刻まれた傷を見て目を見開く。

 

「これは…………?」

 

傷の状態を見るに、これは刀傷のようだ。しかし衣服を染める大量の血液に対し、受けた傷は思いの外浅かったのだ。おかしい、これだけの出血をしたのであれば、もっと深い傷でなければ不自然だ。眉間にシワを寄せて傷をジッと見つめるソリュシャンだったが、ふとあることに気づいた。

 

(この傷の状態…………回復している?)

 

かなり中途半端ではあったものの、傷は軽く治療されて治りかけている形跡があった。この男が信仰系魔法詠唱者とは思えないし、襲撃者がわざわざ治したとも考えにくい。悩むソリュシャンが周囲を見れば、見張りのそばに無げ砕かれたポーションの瓶が捨ててあったのを発見する。それを見てソリュシャンは合点がいった。

なるほど。襲撃者から致命傷を受けた盗賊が、持っていたポーションを飲んでギリギリの命を繋いだといったあたりだろうか。

 

(では襲撃者は剣士系職業の戦士かしら?)

 

もっと詳しく調べる必要があると判断し、ソリュシャンはヴァンパイア・ブライドの一人に周辺の調査を任せて塒の内部に入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血で汚れないようスカートをたくしあげて内部に入っていけば、中にも似たような状態の男達が倒れていた。全員かすかに呼吸してはいるので生きてはいるらしい。それだけならばある意味運が悪いと思ったソリュシャンだったが、彼らのそばに等間隔に投げ捨てられたポーションの瓶を見て不可解に思った。彼らが体験したであろう凄惨な暴力は、岩肌を削っただけの道を赤く染める血痕が物語っている。だが野盗達のそばには1本ずつ空のポーション瓶が捨ててあり、一命を取り留める程度に回復している。それも倒れている男達全員分、明らかに不自然だ。

 

(このポーション………まさか襲撃者がやったの?)

 

なぜそんな真似をしたのだろうか?

自身のように嗜虐趣味があったにしても、この世界におけるポーションの価値を考えると勿体なさすぎる気がする。

 

奥へ進む途中には人を閉じ込めるための檻もあったが、扉は開いていて中には誰もいない。檻から微かに残る匂いから女………それも性欲処理に使う捕虜を閉じ込めるためのもののようだが、肝心の捕虜は見当たらない。こちらも襲撃者が逃がしたというところか。扉を閉じるための南京錠は壊されている。だがただ破壊したのではなく、鋭利な刃物で切り裂かれたように滑らかな断面が見受けられる。ソリュシャンの当初の予想である、剣士職の線がさらに濃厚になってきた。

奥へと進めば、ソリュシャンはようやく終着点と思われる場所にたどり着いた。そこには数十人の屈強な男達が傷だらけで倒れており、辺りには木箱と木の板の破片が散らばっていた。おそらくはバリケードだったのだろうそれらは、何枚かは炎の魔法でも受けたのか黒く焦げている。

ふと奥を見ると、さらに布で仕切られた入り口がある。布をくぐって中に入るとそこは物置小屋だったらしく、箱とその中身が床一面に散乱し、三人の男が倒れている。さらに奥を見ると、外に繋がる大きな抜け道が開いているのをソリュシャンの探知のスキルが見破る。おそらく非常用の出口だったのだろうが、その抜け道にも二人の男が倒れている。追っ手から逃げようとしたが結局やられてしまったようだ。

 

ソリュシャンは襲撃者の手がかりがないかと、物置小屋に散らばるものを調べていく。野盗が溜め込んでいそうな通貨は無い。それだけならば襲撃者に強奪されたと解釈できただろうが、その他の状態が彼女に疑問を抱かせた。ポーション、と書かれた木箱がかなりの量あったが中身は全部空だ。しかもこの箱に付着していた液体の成分から察するに、先ほど砕かれた瓶に残っていたポーションと全く同じ成分と思われる。

 

(まさか………ここにあったポーションで野盗達の傷を治したの?)

 

だがなんのために?

半殺しにしておきながら、どうして彼らを治した?

 

 

さらにソリュシャンは、倒れている武器入れを見て疑問を抱いた。

 

(………妙ね。これだけの武器があるのに、刃物類がない)

 

弓矢、槍、殴打武器などが揃っているにも関わらず、剣やダガーなどの刀剣だけが見当たらないのだ。

思い返せば、ここへ来る途中でも倒れていた男達が手にしていた武器に剣はなかった。襲撃者が持ち逃げしたのだろうか?

だがなぜ刃物だけ? ほかにも高価そうな武器はたくさんあるにも関わらず。

 

考えこむソリュシャンだったが、ふと彼女の耳に小さな声が聞こえる

 

 

 

「っ…………ああっ………!」

 

 

振り向けば約一名、意識のある男がいる。男は地べたに伏せったままガタガタと身を震わせ、ブツブツと何かを呟いている。ソリュシャンがその男に歩み寄り、しゃがみこんで顔を覗き込めば、彼は焦点の合っていない目からとめどなく涙を流している。

 

ようやく話ができそうな人間を見つけ、ソリュシャンはその野盗に問いかける。

 

「ねえ、何があったの?」

 

「し、知らない………角の生えた女なんて知らない………朱鷺色の炎なんて知らないんだぁ………!」

 

対する男はソリュシャンの言葉が聞こえていないのか、うわ言のように同じ言葉を繰り返すだけだった。

 

(角の生えた女? 朱鷺色の炎?)

 

襲撃者が彼らにそう聞いてきたのだろうか?

 

ソリュシャンは一度腕を組み、ここまで集めた襲撃者の手がかりを整理してみる。

 

敵を切り刻む手口からみて、おそらくは斬撃系の技に秀でた剣士職。

敵を半殺しにしておきながら、わざわざポーションで傷を治す。

ほかの武器には目もくれず、剣だけを盗む。

そして誰かを探しているかのような素振り。

 

「わからない………行動に一貫性がないわ」

 

一体襲撃者はなにがしたかったのだろうか。これがナザリックでも知恵者と名高いデミウルゴスかアルベド、もしくは叡知に溢れたアインズであればわかったかもしれないが、ソリュシャンにそこまでの知性は持ち合わせていない。

 

 

悩む彼女のもとへ、周辺の偵察をしていたヴァンパイア・ブライドが現れた。

 

「ソリュシャン様」

 

「なんでしょうか?」

 

「向こうのほうに、人間を一人発見しました」

 

「………なんですって?」

 

ヴァンパイア・ブライドによると、彼は塒の入り口から離れた場所にいて、剣を持っているらしい。

 

「まあ」

 

その知らせを聞きソリュシャンは確信した。間違いない、その人間こそがここを蹂躙した襲撃者だ。しかもこれだけの手際なら、『当たり』に違いない。

男の目的はいまだ不明だが、アインズから受けた指令に比べれば些細な問題だ。ソリュシャンは至高の御方へ最高の献上品を贈れることを喜び、グニャリと歪んだ笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして塒から出て少し歩くと、ヴァンパイア・ブライドが言った通り、岩を背にしてしゃがみこむ一人の男を発見した。

 

体躯は細いものの、鋼鉄のように引き締まった肉体を持っていて、見るからに物理職に特化した戦士であるとわかる。適当に切られ染められた髪はボサボサに四方に伸びていて、顎には無精髭がカビのように生えていて不衛生な印象を与えるが、茶色く鋭い瞳をはじめ顔のパーツそのものは悪くない。

彼はコキュートスが装備しているのと似た形状の剣『刀』を抱えており、ぼんやりと夜空を眺めていた。

 

岩影から気配を消して様子を見ていたソリュシャンだったが、ふとあることに気づく。

 

(………盗んだ刀剣はどこ?)

 

男が持っているのは刀一本のみで、それ以外の武器は見当たらない。塒にあった武器の数から計算すれば、盗まれた剣も相当な数になるはずなのに、男の周りにはそれらしい武器は見当たらない。

 

一応用心のため、ソリュシャンはヴァンパイア・ブライド達を森に下がらせてから、人間のふりをして男に接触してみることにした。

わざと足音を鳴らして男に歩み寄っていき、男にソリュシャンの存在に気づかせると彼は彼女に視線を向ける。

 

「………誰だ?」

 

いぶかしけに見上げる男に、ソリュシャンは努めて演技を続ける。

 

「人に名を聞くなら、自分から名乗りなさいよ」

 

あくまで『高慢な令嬢』の演技を欠かさないソリュシャンに、男は渋々と自身の名を名乗った。

 

「………ブレイン・アングラウスだ」

 

(ブレイン・アングラウス……?)

 

その名を聞き、ソリュシャンは内心で首を傾げる。確かその名は、野盗達の用心棒として聞いたはずだ。では例の襲撃者はこの男ではないのか?

 

「私は『ソーイ』よ」

 

ひとまずこの男から可能な限り情報を聞き出すべく、商人の令嬢『ソーイ』としての態度を崩さずに振る舞う。

 

「………嬢ちゃん。見たところ良家のお嬢様って感じの身なりだが、こんな夜更けに一人で何しているんだ?」

 

ある意味予想通りなブレインの当然の疑問に、ソリュシャンは事前に考えていたアンダーカバーを披露する。

 

「外が騒がしいと思って馬車から出てみたら、御者がいなくなってたのよ! 使用人は助けを呼ぶとか言っていなくなるし、まったくどいつもこいつも使えないわね!!」

 

我儘令嬢らしく、苛立たしげに地面を蹴る。これで『ソーイ』という人間がどういった人物なのかの印象付けはできたはず。

 

「…………ああ、なるほどな」

 

ところが対するブレインは、ソリュシャンのアンダーカバーを聞いてなぜか納得したように頷いた。

 

「嬢ちゃん、アンタ運がよかったな。その御者ってのは多分野盗の手引きだ」

 

「なんですって?」

 

本当は知っているが、ソリュシャンはここはあえて知らないふりをする。しかし今のブレインの言い方に彼女は少しばかり引っ掛かりを感じた。情報によればこの男も一応は野盗の仲間のはず、なのに獲物のソリュシャンに『運がよかった』などと労るような発言をするとはどういうことだろうか。

 

「多分アジトが襲撃されたって知らせを受けて戻ってきたはいいが、仲間達の惨状に腰を抜かして逃げたんだろうな。まあ『あいつ』に出くわさずにすんで、よかったかもな」

 

「………あいつ?」

 

「俺よりも遥かに強い剣士さ」

 

 

苦笑するブレインのその言葉にソリュシャンは驚く。どうやらついさっきまで、この辺りにこの男以上の強者がいたらしい。多分件の襲撃者の正体も、その人物に違いない。

一番欲しかった情報を入手できたことに、ソリュシャンは我儘令嬢の仮面の下でにやけるのを必死にとどめる。

武技の使い手のブレイン・アングラウスと、彼よりも強いという剣士。この男達を捕らえれば、間違いなくナザリックの利益になるだろう。

アインズへの最上級の手土産を献上できる喜びに沸き立つ胸を抑えつつ、ソリュシャンは後ろ手に隠した手で指を鳴らす準備をし、ヴァンパイア・ブライド達に捕縛の合図をしようとするが、

 

 

 

 

 

 

 

「誰だ貴様は?」

 




少し前のこと

サブラク「では貴様は、俺について来るつもりなのだな?」

ブレイン「ああ。お前の力の片鱗に、僅かでも手を伸ばしたいってのもあるが……お前ほどの強者がそこまで探し求める『蝶』っていうのが何者なのかを知りたい」

サブラク「本当に、呆れるほどアイツに似ているなお前は。………む?」

ブレイン「どうした?」

サブラク「この世界に来てから、一番大きな力を感じた。もしや高位の魔法の使い手か? ならば『当たり』かもしれないが……」

ブレイン「おい?」

サブラク「すまん、少しばかり用事ができた。すぐ戻るゆえ、しばし待っていろ」

ブレイン「あ、ちょっとま……! なんなんだよ一体……」


そして前回に至る
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