棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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その昔、青い天使に命を救われた巨人は問いかけた。

『なぜ俺を助けたあああ?』

その問いに、青い天使は気まずそうに答えた。

『ただなんとなく、どうしてもお前を助けたかった。それだけではダメだろうか?』


漆黒の剣

その夜以来、『漆黒の剣』は率先して彼らに干渉するようになり始めた。

あの時の彼らは、自分達よりも強いはずなのに、ここじゃないどこかを眺めているようで、その姿が今にも消えてしまいそうな小さな火に見えて、特にニニャは姉を失った日のことを思い出してしまい、どうしても放っておけなかったのだ。

だから、少しでも彼らの心の火の燃料になってくれたらなと思い、一緒にいろんな冒険をしたり、いろんな依頼を受けたりした。依頼だけじゃなくて、エ・ランテルの街を散策して掘り出し物を探したり、たまに新しくできた店で食事をしたりと、とにかく二人の手を引いて一緒に駆け回った。

 

ある時に、そんな四人の行動を不思議に思ったのか、ウルリクムミがこう問いかけてきた。

 

『なぜお前達はあああ、俺達にここまでしてくれるううう?』

 

嫌悪からくる鬱陶しさではなく、純粋な疑問。それに対する四人の答えは、ただ一つだった。

 

『ただなんとなく、どうしても貴方達を助けたかった。それだけじゃダメでしょうか?』

 

ニニャがそう言った時、兜をしているはずのウルリクムミが驚いたように見えた。なぜかはわからなかった、そんな気がしたのだ。

その日を境に、彼らは四人に対して最初こそよそよそしかったが、少しずつ自分達に歩みよってきてくれた。ある時『正式に彼らの仲間になりたい』と気恥ずかしげに言われた時は、本当に嬉しかったのだ。

 

だが彼らの心が、小さな火から大きな炎になっていくに従って、自分達はドンドン彼らに追い付いていけなくなっていった。そして彼らは、自分達が彼らに追い付けていないときづけば、その場で立ち止まって自分達を待ってくれていた。

 

そうやって、彼らの足を引く自分達が悔しくて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

「お二人は、もっと強く、もっと高みへ行けるはずなんです。それを自分たちのせいで引き留めたくはないんです! だから!」

 

だからどうか、自分達に構わず、どこまでも駆け抜けていってください。そう切実な思いを全て伝え、四人は再び頭を下げる。

 

「………」

 

ウルリクムミはしばし無言であったが、やがて大きな手がペテルに伸ばされる。それを見てペテルは殴られるのを覚悟して歯を食い縛るが、

 

 

 

 

 

ぽんと、肩に手を置かれた

 

「え………?」

 

「すまなんだあああ、お前達にいいい、肩身の狭い思いをさせてしまっていたようだあああ」

 

申し訳なさそうに謝るウルリクムミに、四人は動揺を隠せない。

 

「そんな! ウルリクムミさんは怒っていいんですよ!?」

 

「なぜ?」

 

「俺たちが怒る道理こそおおお、全く見当たらぬううう」

 

むしろ自分たちは彼らに感謝しているのだ。主を守れず、全てを失い、脱け殻のようになってしまったこの心に、新しい火を灯してくれた彼らを、ウルリクムミは誇りに思っている。

 

「俺達の心にいいい、新しい薪をくべてくれたお前達にいいい、感謝こそすれえええ、どうして怨むことができようかあああ」

 

その言葉に、漆黒の剣達の目から涙が溢れる。彼らからすればとるに足りない雑魚同然の自分達にこう言ってくれるなど、泣くなというほうが無理だ。

 

「う、うううう………!」

 

右の袖で涙を拭うペテルにルクルットが肘でつつく。

 

「な、泣くんじゃねえよペテルっ……!」

 

しかしその声は嗚咽が混じっていて、彼も片手で顔を隠して泣き顔を隠そうとしている。

 

「ルクルットこそっ、泣いてるじゃないですかあ……!」

 

ニニャもローブの袖で顔を隠してはいるものの、その肩は震えている。

 

「うおおおお!!」

 

ダインに至っては号泣してしまった。

一部始終を見ていた人々の中には、もらい泣きしている者もいる。その姿を見て微笑むアインザックだったが、ゴホンと咳払いをして一同の視線を集める。

 

「ではウルリクムミくんとアルラウネくんは、『漆黒の剣』から脱退するということでいいのだな?」

 

『はい!!』

 

「そうか………そうなると独立する二人に新しいチーム名を考えるべきだな」

 

二人のチーム名。それを聞いてウルリクムミ達のみならずほかの冒険者達も腕を組んで考え始めた。

ウルリクムミのイメージ的に『濃紺』か『鋼鉄』が良さそうだが、彼の相方であるアルラウネのイメージは『薄桃色の花』だ。相反する二人を統一する名がなかなか思い浮かばない。

 

 

自身らを象徴する名…

そう考えて、ウルリクムミはふと考えこむ。少ししてから、彼はチラリとアルラウネを見た。

 

「………アルラウネえええ」

 

ただ名前を呼んだだけ。だがアルラウネはそれだけで、ウルリクムミの言いたいことを理解したらしい。

 

「………」

 

微笑んで頷く彼女を見て、ウルリクムミは安堵するように小さく息を吐き、椅子に立て掛けたウベルリを握る。

 

「ならば俺たちの名はあああ、この名しかあるまいいいい」

 

ウベルリの柄の先で地面を軽く叩き、ウルリクムミは一同に聞こえるように叫ぶ。

 

「『とむらいの鐘(トーテン・グロッケ)』えええ!! 我らは今この時よりいいい、この名を名乗るううう!!」

 

「トーテン・グロッケ……?」

 

「かつて我が主が興した軍の名だあああ」

 

その言葉に、彼と墓地で戦った冒険者達はハッとする。亡き主が興した軍をチームの名として選ぶ姿に、ウルリクムミの覚悟があった。

 

 

 

『新しき世に響き渡る、古き理を送る』

主がそう祈りを込めて名付けられた、尊き名。かの世界では、『蛮行を犯した暴徒の敗軍』として歴史に刻まれたことだろう。だが、せめてこの世界では、その偉大さを轟かせたい。役立たずの鉄屑である自分が名乗るのは、身に過ぎたことかもしれないが……。

それでもきっと、主と戦友達ならば許してくれるだろうと、ウルリクムミは思った。

 

「主よおおお、どうか見ててくだされえええ! 誉れ高きこの名をおおお、この世界にて轟かせてみせましょうううう!!」

 

ウベルリを高く掲げ、天に向かって叫ぶ。

 

 

 

『うおおおおおおお!!』

 

 

 

「『とむらいの鐘(トーテン・グロッケ)』万歳!!」

 

「新しい英雄の誕生だああああああ!!」

 

街の歴史に新たに刻まれた光景をその目に焼き付けた人々の歓声は、しばらく止むことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「アインズ様?」

 

遠隔視と声を聞く魔法を駆使して、その様を最後まで見届けたアインズは硬直する。ナーベラルが主君のただならぬ様子に心配そうにしているが、彼は答えない。

 

(………まさか俺)

 

やや時間を置いてから、アインズは自らの頭を抱えて軽くのけぞった。

 

(階級アップ最大のチャンスを、見逃してたあああああああああ!?)

 

どうやら夕べ、冒険者が全員駆り出されるほどの騒動があったようだ。話を聞くだけでもかなりの大事件だったらしく、参戦していれば間違いなく『冒険者モモン』の階級が一気に上がっていたはずだ。

 

「ナーベラル! どうしてこの騒ぎを報告しなかった!?」

 

アインズに怒鳴られて、ナーベラルはビクリと肩がはねて青ざめる。

 

「あ、アインズ様から…………『こちらから連絡を寄越すまで待機しろ』と命じられていたので、ウジムシの雑音に反応すべきではないと判断いたしまして……」

 

「…………」

 

アインズの剣幕に震える声を絞り出すナーベラルに、さらに怒りそうになったところでアインズの沈静化が働く。

 

(いや………これは半分は俺の責任だ……明け方までアシズへの対策のことで頭がいっぱいで、ナーベラルのことを忘れていた俺が悪い……でも)

 

それでも、思わずにはいられない。

 

(ナーベラルに、ちゃんと報連相を教えておくんだったああああああ!!)

 

頭を抱えてベッドに突っ伏すアインズに、ナーベラルは絶望的な表情になる。

 

「も、申し訳ありませんアインズ様! この失態は私の命で償います!!」

 

「だからしなくていい!」

 

剣を抜いて首をかっきろうとするナーベラルを慌ててとめるアインズに、再び沈静化が働く。

 

(いや、しかもちょっと待て!)

 

そして沈静化した脳裏をある可能性が過る。

 

(もしこのまま宿屋から出てきたら、俺達ほかの冒険者達に叩かれるんじゃ………)

 

ただでさえ目立つ姿なのに、宿屋から出た形跡がないのは明らかに不自然過ぎる。そもそも宿屋の主人に出てきていないのを記憶されているかもしれない。

 

 

 

『てめえ、この一大事にどこ行ってやがった!?』

 

『まさか組合の要請を無視して逃げたんじゃないだろうな!?』

 

 

 

そんなことにでもなったら、『冒険者モモン』の印象はだだ下がりだ。ないはずの冷や汗が流れた気がする。

 

 

 

(ヤバイヤバイヤバイヤバイ!! ひとまず、街から遠く離れたところまで転移しないと!!)

 

「ナーベラル、転移するぞ!」

 

「あ、アインズ様!?」

 

すぐさま上級転移を発動し、エ・ランテルから遠く離れた場所に出る。周囲に誰もいないのを確認し、アインズは改めて彼女と向き合う。

 

「いいかナーベラル、私達はあくまでタイミング悪く遠方に行っていたせいで騒動に参加できなかった。そういう体でいくからな?」

 

「かしこまりました」

 

やや緊張した面持ちで頷く彼女を見て、アインズははあとため息をつく。

 

(と、とにかく………街に戻るのは明日以降にしよう…)

 

目撃者がいそうな場合を考慮し、時間停止と記憶操作(コントロール・アムネジア)を駆使してあの宿の主人と宿泊している冒険者の記憶を少し弄らなければならないだろう

 

(ああああああクソがあ!! これもみんなアシズのせいだああああああ!!)




その頃のアシズ様

アシズ「ハクシュッ! クシュ!」

村人A「どうされました天使様!? お風邪でもひかれましたか!?」(゜ロ゜;

アシズ「あ、いや………今誰かに噂された気が……」

村人B「あ、ロイツが見えて来ましたよ!」(・∇・)つ
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