棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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というわけでデミウルゴスにはかませ犬になっていただきます。


炎獄と青

羊の放牧に出た悪魔達が全滅した。

そんな報告を聞いたデミウルゴスは、少なからず驚きはしたものの努めて冷静に頭を回転させる。倒されていた悪魔達は総勢10体。レベルは50そこそこといったところだが、現地の人間からすれば脅威となるはず。つまり襲撃者もレベル50かそれ以上のレベルである可能性が高いのかもしれない。さらに詳しい状況を聞いたところ、目撃した影の悪魔によると襲撃者は青い炎を纏った六枚翼の天使で、見たことのないスキルで悪魔達を一掃したのだという。

 

(天使………六枚ということは威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)あたりでしょうか?)

 

天使は種族柄、悪魔に対する特効スキルを所持していることが多い。大方先の悪魔達を倒したのもそのスキルの力なのだろう。もっとも、威光の主天使であればレベル100の階層守護者であるデミウルゴスにとっては大した脅威にはなりえない。

 

「なんにせよ、せっかくアインズ様へ捧げるスクロール作成の目処が立ったところなのです。たかが野良天使ごときに素材を奪われるわけにはいきませんとも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして足早に現場へ赴けば、デミウルゴスの予想とはだいぶ違った光景が目に入った。威光の主天使だと思っていたその天使の姿は、ユグドラシルでは見たことのないものだったのだ。デミウルゴスが知る限り天使は総じて金属的な人形のような姿をしているはず。だが目の前の天使は逞しい男性の肉体を持つ鳥を模した仮面をつけた姿だ。支配の呪言が効かなかったところを見るに40レベル以上はあるようだが、デミウルゴスとしては警戒するよりも好奇心のほうが勝っていた。見れば天使の背後にいる羊達はデミウルゴスの姿に恐怖と絶望に青醒めた顔で震えている。影の悪魔が語った見たことのないスキルとやらの力など、珍しい個体の発見はナザリックの利益になりえる。

 

(これは興味深い。アインズ様への手土産として贈呈すれば、さぞお喜びになるかもしれませんね)

 

あるいはさらに強いスクロールの素材になるかもしれない、そう考えてデミウルゴスはほくそ笑む。対する天使、アシズは鋭い目付きで仮面越しに睨み、警戒しながら口を開く。

 

「貴様が先ほどの異形達の首魁か?」

 

「まあそんなところですね」

 

問う声には怒気が滲み出ており、アシズがデミウルゴスに対して怒りを向けているのが明白であった。

 

「なぜこの人間達にかような仕打ちをする? 彼らが何をしたというのだ」

 

「別に何かをしたというわけではありませんよ? ただその羊達が、素材としてちょうどよかったというだけです」

 

偉大なるアインズ・ウール・ゴウン様より賜った、スクロールを作成せよという役割。あらゆる種族の皮を剥いで試行錯誤を重ねた結果、人間の皮膚が最適であることがわかった。だから必要な数の素材を集める、至って『普通のこと』であるとデミウルゴスは語る。

対するアシズは鋭い歯をギリギリと鳴らし内から出る怒りを必死に止めている。それを見てデミウルゴスは内心でやや呆れる。

 

(セバスみたいな天使ですね……)

 

脳裏を過った最も気にくわない同僚の姿につい眉間にシワを寄せてしまうが、デミウルゴスは眼鏡をクイと直して笑みに戻す。

 

「まあそういうわけですから、その羊達をこちらに返していただけませんか?」

 

最も、返したところでこの天使も捕らえるつもりだ。これだけ稀少性の高い個体をおめおめと逃がすのはもったいない。穏やかな口調でニコニコと笑いかけるデミウルゴスだったが

 

「…………そうか」

 

アシズが低く静かな声でつぶやくと同時に、その場が爆発するように燃えた。

 

「!」

 

見れば二人を中心に周囲の草原が青い炎に包まれており、眼前のアシズからはさらに火力を分けるように炎が溢れている。

 

「どうやら貴様は、私にとって一番気にくわぬ人種のようだ」

 

口から溢れる炎を息吹きのようにゴウゴウと燃やすアシズに対し、デミウルゴスは周囲を見渡して即座にその高い叡知をフル回転させる。炎の規模はレベル60から70相当、ここから推測するに彼の強さは70レベルは下らないはず。レベルが100とはいえ、守護者の中では最弱相当のデミウルゴスが真っ向から挑むのは些か骨が折れるかもしれない。

ならば先手必勝、確実に勝てる策を取るのみ。

 

「ジュデッカの凍結!!」

 

叫ぶや否や、アシズの周りを凍てつく氷河が包み始める。思わず腕を交差して顔を庇うアシズだったが、氷は彼の炎ごと飲み込まんと広がっていく。

しかし

 

「ガアアアアアアアアア!!」

 

アシズが力強く吠えると同時に、青い炎がより大きく燃え盛り氷を溶かしていく。

 

「な!?」

 

驚いたのはデミウルゴスのほうだった。スキル『ジュデッカの凍結』はいわゆる時間停止系のスキルであり、対策も無しに受ければ身動きはおろか思考することさえできない。なのにこの天使は超高温の炎を全身から沸き上がらせることでそれを消し去ったのだ。

 

「………ニヌルタの自在法に似た力を使えるのか」

 

アシズの言葉の意味はデミウルゴスには理解できない。ただ一つだけわかったことがある。

 

(この天使………危険すぎる!)

 

未知のスキルを使用できる未知の天使。これは間違いなく、ナザリックの脅威となりうる。

デミウルゴスは眼前の敵を屠るべく、戦闘形態になり炎を纏う。

 

青い炎が焼き付くす草原で始まる死闘。最初に仕掛けたのはデミウルゴスだった。

 

「来たれ、三魔将」

 

彼の目前に浮かび上がる三つの魔方陣からは、大柄な鬼神の悪魔、有翼の青年の悪魔、カラス頭の女の悪魔が現れ出でる。デミウルゴス直属、憤怒の魔将(イビルロード・ラース)強欲の魔将(イビルロード・グリード)・嫉妬の魔将(イビルロード・エンヴィー)・の三魔将だ。

 

「その天使を蹂躙しなさい」

 

「「「は!!」」」

 

デミウルゴスの指示と同時に魔将達はアシズに向け同時に飛びかかる。対するアシズは動じることなく構え、素早く自在法を構築する。

 

「………断絶せよ、『清なる棺』」

 

魔将達の爪が届くよりも早く、アシズを守るように青い立方体型の結界が現れて彼らの攻撃が阻まれる。しかしそれに怯む魔将達ではなく、拳で殴るなり大鎌で切りつけるなり魔法を放つなりで結界を破壊しようとする。しかしどれだけ攻撃しても、青の結界は皹すら入らない。アシズが内部でおもむろに片手をつきだすと、今度は魔将達の頭部や胴体に小ぶりな立方体が出現する。するとその部分を起点とするように魔将達の肉体が賽の目状に断裂した。

おびただしい血を撒き散らす様は凄惨そのものであるものの、デミウルゴスは意に介さずアシズの攻撃パターンを逐一分析していく。

 

(なるほど、攻防一体型のスキルといったところですか)

 

身を守るも良し、敵を屠るも良し。魔将すらも瞬殺できるほどの威力を持った結界は、肉弾戦主体のデミウルゴスとは相性が悪いだろう。

 

(ならば距離をとるまで!)

 

翼を羽ばたかせて高く飛び上がったデミウルゴスは、自身の翼を変異させる

 

「悪魔の諸相・触腕の翼!」

 

翼から放たれるのは無数の鋭い針のような触手。アシズも飛んでデミウルゴスを追いかけようとするが、ふとあることにきづきその場にとどまった。

 

「『清なる棺』!!」

 

再び自在法を構築して眼前の攻撃を防ぐ。なぜアシズはわざわざ飛行して回避という方法を使わなかったのか。

 

(そうでしょうねえ。今その人間達から離れるわけにはいきませんからねえ)

 

デミウルゴスはちょうどアシズの背後にいる人間達に向けて触手の弾丸を飛ばしていた。頭を抱えて震える人間達から離れられないアシズはその場にとどまり、デミウルゴスはまんまと彼の動きを封じることに成功する。

これでデミウルゴスは有利に遠距離から攻撃することができる。どんなスキルもいずれは魔力が切れるか時間切れで効力を失うもの。ゆえに後はこのままアシズが人間をかばい続けて力が尽きるのを待てばいい。

勝利を確信してほくそ笑むデミウルゴスだったが

 

ガン!!

 

「っ!?」

 

突如彼の後ろから、何か固くて平べったいものがぶつかった。慌てて振り向けばそこにあったのは、青いガラスの壁だった。

見間違えでなければそれはアシズが使う青い結界と同じもので、じわじわとデミウルゴスを押し出すように前へ前へと動いている。デミウルゴスは壁から遠ざかろうと飛行するが、またしても壁にぶつかった。

 

「これは……!?」

 

よくよく見れば文字通り四方から青い壁が現れ、それら四面がデミウルゴスに向けて迫ってきている。

 

(バカな! いつこんな大規模な魔法を!?)

 

ふと眼下を見たデミウルゴスは気づいた。結界は全て、アシズが最初に出した青い炎から伸びているのだ。

 

(最初の炎は………この巨大結界の発動を誤魔化すためだった!?)

 

結界はアシズと人間達をすり抜けるとデミウルゴスに向けて接近していく。大方このまま自身を結界に閉じ込めて殺す算段だろうが、それを甘んじて受け入れるデミウルゴスではない。

 

(癪ですがこれ以上の戦闘は危険ですね。ここは一度退いてアインズ様にご報告しなければ……!)

 

戦術的撤退の為に用意した転移のスクロールを開き、紫の穴が中空に出現してすぐさま入ろうとする。

だが、

 

「無駄だ」

 

なぜか入れなかった。穴は見えない壁が嵌め込まれたように固くなっており、デミウルゴスを拒んでいる。

 

「な!?」

 

「我が自在法、『清なる棺』は外との因果を断絶する閉鎖空間。貴様がいるそこはもはや別世界、転移の自在法ごときでは脱出すら叶わぬと知れ」

 

ここにきてデミウルゴスは己の考えが及ばなかったことを恥じた。アシズがジュデッカの凍結を無効化できる時点で魔法の異質さにきづくべきだったのだ。

壁が狭まれば狭まるほどにデミウルゴスの動ける範囲はなくなり、ついには身動きできなくなるほど小さくなった。

 

「お、お前は………一体何者だ!?」

 

もはや狭い小箱に詰め込まれた蛙のような有り様となってしまったデミウルゴスは、屈辱と憎悪の混じった目でアシズを睨み呪詛のごとき叫びで問う。

 

「棺の織手、アシズ」

 

そう答えたアシズが指を鳴らすと同時に、デミウルゴスを封じた結界が爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓の玉座の間。モモンとしての仕事を終えたばかりのアインズは、アルベドの報告を聞き危うく杖を落としそうになるところだった。

 

「デミウルゴスが………死んだだと!?」

 

すぐさま沈静化が働き醜態を晒すことはなかったものの、がらんどうの頭は一向に考えが纏まってはくれない。

 

「亡骸はすでに宝物殿に運んではおりますが………」

 

対するアルベドも平常心を装ってはいるが、指先を握る手に力が込もっている。彼女としても信じがたい事態なのだろう。

 

「………わかった、すぐさま蘇生を行う、案内してくれ」

 

「は!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナント………コレハ……!」

 

「ひ、ひどい……!」

 

宝物殿につけばそこにはすでに階層守護者達が集まっており、デミウルゴスの遺体が安置してあるだろう台座を覗き込んでいる。大柄なコキュートスなどに隠れていてアインズの立場から見えないが、マーレが涙目になっているのはうかがい知れた。

アルベドが彼らに声をかけると、全員がアインズの存在に気付き慌てて遺体から離れて一列に並んだ。

 

「っ………!」

 

隠されていたデミウルゴスの遺体を見たアインズに再び沈静化が働く。台座の上の遺体は手の平大の賽の目状に全身が切り裂かれ、かろうじて見える肌の色でしかデミウルゴスの面影を確認できないという酷い状態だった。

思わず杖を握る手に力を込めるアインズだったが、止まない沈静化は内側から溢れる激情を少しずつ押さえつけていく。

 

「………パンドラズアクター。金貨の準備は?」

 

「こちらに」

 

いつなら大袈裟な身振り手振りを交える彼も今ばかりは真面目に答え、台車に乗せられた大量の金貨を遺体のそばに運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っ、ここは?」

 

デミウルゴスの意識が戻ったのを確認し、ようやく一同は安堵の息を漏らした。デミウルゴスは最初こそ理解できない様子だったが、今自分がいる場所と自分の状態を見た瞬間、その高い知性は己が身に何が起こったのかを瞬時に理解した。

 

「あ、アインズ様! 私は………一体なぜ死んで!?」

 

「落ち着けデミウルゴス。今からそれを確認する」

 

デミウルゴスの肩に手を起き、アインズは混乱する彼を宥めた。後ろのアルベドに視線で合図をすると、アルベドは近くの影に声をかける。

 

影の悪魔(シャドウデーモン)、あの時お前が何を見たのかを説明しなさい」

 

影の形が角の生えた悪魔に代わる。デミウルゴスが非常時の為に自分の戦況を記憶させる為に召喚した影の悪魔だ。

彼によると放牧に行っていた悪魔達が襲撃されたという報せを受けたデミウルゴスが現場に赴き、その場にいた天使と思われる未知の異形種と交戦。ユグドラシルに存在しない魔法を使った天使に殺害されたのだという。

 

『天使はデミウルゴス様が飼育していた羊達を全て強奪し、現在はローブル聖王国の小都市ロイツに向かっております』

 

「………そうか」

 

影の悪魔の話を聞いて、一番青褪めた顔を浮かべたのはデミウルゴスだった。不覚を取って殺害され、ナザリックの貴重な金貨を消費しただけでもこの上ない失態だというのに、スクロールの材料である羊を敵に奪われてしまったのだ。頭を抱えて震えるデミウルゴスに、アインズは優しく語りかける。

 

「デミウルゴス、お前がそう気に病むことはない」

 

「で、ですがアインズ様! 私はなんということを……! この罪は万死を持ってしても償いきれません!!」

 

「よい、お前の全てを許そう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

自室に戻ったアインズは、ベッドに座りため息を溢す。あの後も泣き崩れるデミウルゴスを宥めたりなんだりしつつ、天使の動向の監視と対策会議をして切り上げられた。何人かはナザリック全軍を持って早急に天使を殺すべきだと主張していたが、ほかでもないアインズがそれを却下した。攻防一体、大規模かつ広範囲、果ては転移さえも阻害する青い結界。影の悪魔が語っただけでも天使の使う魔法は規格外だ。もしかしたらまだ奥の手を隠し持っているかもしれない強者相手に、無策で挑むのは危険すぎる。納得しきれない彼らを言いくるめたアインズだったが、その内心はやはり守護者達と同じだ。

 

「…………クソが!!」

 

支配者ロールというベールを脱ぎ捨て、口汚く叫び絶望のオーラを総身から溢れさせる。

 

「よくも……よくも俺の大事な配下を!! この報いはいつか必ず受けて貰うぞ………『棺の織手・アシズ』!!」

 

影の悪魔が述べた天使の名を、脳裏に刻み込むように唱えてアインズは誓った。必ずかの者に、死よりも重い罰を与えてやると………




Qアシズ様どうやって村人達運んでいるの?
A清なる棺を改良して即席の馬車を作りました。
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