棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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少し前のアシズ様

アシズ(燐子『グリゴーリ』の配置はこれでいいか………。これで少しはあの子達が危険に晒されることがなくなるはず)

街人A「あれ? アンタもしかして、ギガントバジリスクをやっつけた魔法詠唱者か!?」

アシズ「ん?」

街人B「すげー! なあなあ、握手してくれよ!」

アシズ「あ、ああ………構わんが」

すっかりロイツの有名人になってしまったアシズ様でした。


それぞれの現状~ナザリック~

玉座の間に集めた守護者とプレアデス達とニグレドに、アインズはエ・ランテルで起きたことを全て話した。

 

「というわけで、『冒険者モモン』はしばらくはエ・ランテルへは戻らない」

 

用心のために宿の主人を初めとする宿泊者達の記憶を弄り、『モモンとナーベは遠方に住む知人の訃報を聞き、急いでエ・ランテルを出ていった』ということにしておいた。少し前に二人の行方を探していた冒険者達に怪しまれるかもしれないが、後になって思い出したということにすればギリギリ大丈夫なはず……。

いずれにせよ、エ・ランテルへ戻るのは『とむらいの鐘』のパレード騒ぎが落ち着いてからにするべきとアインズは判断した。

 

「そこでその間に、いくつか情報を整理してみようと思う」

 

『ハッ!!』

 

 

 

 

 

 

「まずは、ソリュシャンの報告にあった『サブラク』なる戦士についてだ」

 

伝言を通してセバスから聞かされた情報によると、アインズ達がエ・ランテルを離れてカルネ村に訪れていた同日、ソリュシャンは本来の標的であった野盗の捕縛を行おうとしていた。しかし彼女が塒にたどり着いた時には、彼らはすでに別の人間に蹂躙された後だったという。

 

「その後、ソリュシャンは犯人と思しき人物と接触した。その人物こそが『サブラク』だ」

 

ソリュシャン曰く、彼はマスターアサシンの職業を持つ自分の背後を容易にとり、さらには粗末な剣のみでレベル30のヴァンパイア・ブライド達を瞬殺してみせたという。

 

「この世界の情報を知るために懐柔した『陽光聖典』達曰く、レベル30は英雄の領域で、レベル40が逸脱者と呼ばれる。人類の最も高い水準の強者はだいたいその辺りまでだが、男のレベルはそれよりも遥かに強いと思われる」

 

何せレベル57のソリュシャンが、彼の戦いを目で追えなかったというのだ。下手をしたらデミウルゴスの配下である三魔将に匹敵すると彼女は語っている。

 

「しかもやつはソリュシャンが人間でないことを見抜いていた。さらに言えば彼女の体内に取り込まれていた人間の存在さえも。看破のスキルを持っているのか、はたまた魔法か。いずれにしても油断ならない相手には違いない」

 

ザワッと一同に動揺が走る。潜入や演技力に秀でたソリュシャンが異形種であることを見抜くなど、それこそ至高の御方でもない限りは不可能だと言うのに、男の看破能力の高さに驚愕せざるをえない。

 

「極めつけが、やつが使っていたスキルだ」

 

サブラクが炎を纏った剣でヴァンパイア・ブライドを切り裂いたところ、自動回復のスキルを持つはずの彼女達の傷が治ることなく広がっていたらしい。

 

「以上の点から推理すると、サブラクは『マスターアサシン』、『ソードマスター』、『カースドナイト』の職業を取得している可能性が高い」

 

そう考えるアインズに、アルベドが異議を唱える。

 

「しかしアインズ様、確か『カースドナイト』は強力である反面、低位のアイテムを持っただけで破壊してしまうというデメリットのある職業のはずでは……」

 

ソリュシャンの報告によると、サブラクが攻撃に使用していたのは粗末な剣だった。

アルベドが語るように、『カースドナイト』は上位のアイテムでなければ持つこそさえ難しいというのに、どうやって剣を破壊せずに攻撃ができたのだろうか。

 

「もしや………その『サブラク』というのはプレイヤーなのでしょうか?」

 

心配そうにするユリの言葉にアインズは緩く首を振る。

 

「いや、それならば『カースドナイト』のペナルティをしっかり持っているはずだ。そこで私は、陽光聖典の監視を行っている影の悪魔と連絡し、彼らに色々と聞いてみた」

 

あいにくニグン達はサブラクという名前の戦士に心当たりがないようだが、その代わりにアインズにとって興味深い情報を教えてくれた。

 

「どうやら彼らの本国、スレイン法国には『神人』と呼ばれる人種が存在するらしい」

 

「『神人』……ですか?」

 

アウラがキョトンと小首を傾げる。

 

「ニグン曰く、六大神の末裔であり、彼らの力を色濃く受け継いだ生まれながらの強者とのことだ」

 

彼らはプレイヤーの力を引き継いでいる上に、現地人の血を引いているためにタレントや武技を使うことができるという特異性を持っているらしい。

 

「デハソノ『サブラク』モ、『神人』デアル可能性ガアルト?」

 

「あくまで憶測に過ぎんがな。だが、やつが何らかのタレントで『カースドナイト』のデメリットを克服していると考えれば、一応の筋は通る」

 

なるほど、プレイヤーの強大な力と現地人のタレントや武技が合わされば、ユグドラシルのルールからある程度脱却することも不可能ではないだろう。

 

「ただ、六大神の末裔は法国が全て管理しているとのことだ。その中に『サブラク』という名の戦士はいないらしい」

 

「じ、じゃあその『サブラク』は、六大神の末裔じゃないんですか?」

 

「おそらくだが……やつは八欲王のほうの末裔ではないだろうか?」

 

六大神がいなくなったのちに、入れ替わるようにこの世界に転移してきてプレイヤー、『八欲王』。彼らが子を成したかどうかの記述はニグン達も知らないようだが、可能性はなくはないだろう。

 

「しかし、いくらプレイヤーの雑種と言えど、たかがレベル70相当の戦士一人、ナザリックの全戦力を持ってすれば蹂躙は雑作もないでありんしょう?」

 

ふふんと不敵に笑うシャルティアが言うように、レベル100の階層守護者が揃うナザリックの戦力ならば、十分すぎるほど勝機はある。しかしその驕りに待ったをかけるのは、他ならぬアインズだ。

 

「まあ待てシャルティアよ。()()()()()がある以上、相手を侮れば足元を掬われることもあるだろう」

 

その言葉に、先ほどから無言のデミウルゴスの肩がビクリとハネる。見るからに己の不甲斐なさに落ち込んでいる彼の姿に、アインズは心中で小さくため息をついた。

 

「だがソリュシャンのおかげで、やつの数少ない()()に関する情報を得られた」

 

そう言うとアインズはニグレドに顎で合図し、彼女に情報系魔法を発動させる。中空に現れた水晶の板には、ソリュシャンの記憶から転写した少女の映像が映る。

 

「どうやらやつは、この『メア』という名の亜人の娘を探しているらしい」

 

角の生えた金髪の少女。見た目だけならばサキュバスに見えないこともないが、サブラクは少女を『悪魔とは違う』と断言していた。つまりは亜人の一種と思われる。

 

いかに強者といえど、親しい人物を人質にとられれば安易にこちらに攻撃することはできないはず。

 

「ニグレドの魔法で調べたところ、やつは現在王国から南西に向けて移動しているとのことだ。当面はやつの同行を監視し、やつよりも先にその亜人を捕らえ、人質として利用するのだ」

 

『ハッ!!』

 

一同が頭を伏せ、力強く答える。

 

 

 

 

 

「それと、件の『アシズ』についてなのだが……」

 

その言葉に、一同の間に緊張が走る。階層守護者最弱といえど、100レベルのデミウルゴスを倒した唯一の存在。あの忌々しくも油断ならない強敵に関する情報を告げられるのかと、守護者達は身構える。

 

「………結局最後まで、ニグレドが持つ全ての情報系魔法では見つけることができなかった」

 

しかし次いで告げられた答えに、一同が僅かばかり落ち込んでしまう。ニグレドに至っては、己の無能さに今にも自害しそうなほどだった。

 

「だがやつが向かったと思われるロイツを調べたところ、驚くべきものを見つけた」

 

ニグレドが遠隔視を発動すると、鏡に映る映像を一同に見せる。

 

「これは………!?」

 

それを見て、一同は驚愕する。なんと小都市ロイツ全体が、青い立方体の結界に覆われていたのだ。

 

「おそらく、デミウルゴスを倒した魔法と同じものだろう」

 

しかも調べにいかせた影の悪魔達によると、この結界は影の悪魔が触れるだけで消し飛ばされてしまうほど強力だという。なのにロイツを行き来する人間達は、自由に素通りしているというのだ。

行き来した商人と思しき人間の記憶を調べたところ、どうやら彼らは結界の姿そのものを認識していないようだった。

 

「当面の目標は、この結界を破壊する方法を調べることだ」

 

『ハッ!』

 

 

 

 

「それとデミウルゴス。今後のスクロール作成のための『牧場』は、用心のために第六階層で行ってもらう」

 

「御方のお手を煩わせ、申し訳ありません……」

 

「よい、その失敗は次に生かせばいい」

 

見るからに自責の念に駆られるデミウルゴスにアインズは優しく労る。今回の件で、安易に外に拠点を作ると思わぬ強者に出くわしてしまう危険性を学んだ。不幸中の幸いと言うべきかアシズは羊を強奪こそしたものの、デミウルゴスが拠点にしていたテントには近づいていなかったようで、牧場のアイテムは全て無事であった。安全性と環境を踏まえて、森林地帯が多い第六階層で行ったほうが無難だと判断したがゆえの采配だ。

 

アインズはチラリと遠隔視に映る青い結界を見て、杖を握る手に力を込める。

 

(今回は俺の情報不足のせいで不覚をとってしまった………次からは慎重に情報を収集し、確実に倒す算段をとらないとな……)

 

決意を新たにした瞬間、眼窪から覗く赤い光が、鋭く輝いた。




解説

自在法『選定の小箱』
アシズが『清なる棺』を改良して編み出した自在法。術者であるアシズ自身と人間以外の種族の出入りを阻み、尚且つ無理に侵入しようとする相手を自動的に討滅する能力を持つ青い結界を展開する。人間には結界の姿を視認することすらできないのが特徴。
アシズは保護した人間を護送中はこの自在法を馬車の周りにのみ展開して追っ手の追跡や探知を阻んでいたが、ロイツに来てからは燐子『グリゴーリ』を都市の四方に配備し大規模な結界を展開・維持している。
原理としては『愛染他』の『揺りかごの園』と似ているが、『揺りかごの園』が宝具『オルゴール』の補助が必要だったのに対し、アシズは自在師としての自前の力のみでこれらを制御している。


燐子『グリゴーリ』
アシズがロイツに展開した『選定の小箱』を維持するために作成した典型的な道具タイプの燐子。見た目は青い水晶の刀身の片手剣。
本来燐子は製作者から存在の力を供給されないと三日と持たず消えてしまうが、この燐子は製作者であるアシズと不可視の糸で繋がっており、常に存在の力を供給され続けているために半永久的に結界を維持し続けることが可能。
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