亀更新ですが、よろしくお願いいたします(*・ω・)ノ
悪夢と日常
滴り落ちる水の音に、アシズの瞼が開かれる。
目の前に広がるのは、広いのか狭いのかわからないほど、真っ黒な空間。
足元を見下ろせば、波紋を広げる水たまりが所々にあるのみだ。
アシズはその空間に立ち尽くすだけだが、ふと周囲を見渡すと、暗闇にポツリと灯る青い炎を見つけた。
(あれ、は………)
それは自身という存在を象徴する唯一無二の色。だがその炎は、
「ーーーーーーーー!」
それが
「っ………!」
近づいてみると、それは炎ではなく青い光を放つ一人の少女であった。自身の炎と同じ青い髪。額に金環を嵌め、茶色い修道服に身を包む彼女は、両手を組んで神に祈りを捧げている。一心に祈り続ける少女の横顔を見て、彼は震える声で彼女の名を呼ぶ。
「ティス………!」
名を呼ばれ、伏せていた瞼をゆっくりとあげ、アシズを向く彼女と視線が合わさる。
ドクンと、アシズの鼓動が高く鳴り響く。およそ千年ぶりに開かれた彼女の瞳は生前と寸分違わず美しく、アシズは泣きたい気持ちを必死に堪えながら彼女に手を伸ばす。アシズの手が、ティスの頬に触れる……
『いやああああああ!!来ないでえ!!』
寸前に、その手を他ならぬ彼女自身が払った。
「………?」
その言葉と行動を前に、アシズの頭が一瞬だけ真っ白になる。彼は今目の前で何が起こったのかを、理解することができなかった。否、理解することを拒んだ。ティスが自分の手を振り払い、全力で拒絶するという事態を。
「ティ、ティス………? 何を……」
しばし間を置いてから、彼女に話しかけるアシズだったが、その声は先ほどとは違った意味で震えている。
『なんでも何もねえだろうが』
「!?」
急に響いた声に、アシズはバッと振り返る。先ほどまでいなかったはずの黒い空間には、色とりどりの光を放つ者達が立っていた。
『お前、オストローデで何人食ったんだよ?』
淡い乳白色の、六本腕の鎧が、咎めるように指差す。
『それ以外にも、アンタは何人の人間を実験台にしたわけ?』
真珠色の、十二歳ほどの少年が、冷めた目で見る。
『全て、フレイムヘイズの使命はおろか、人の命を冒涜する蛮行です』
紅葉色の、筋骨隆々な男が、蔑んだ目で睨む。
『そんなアンタを見て、聖女ちゃんが喜ぶと思う?』
紅葉色の、九つの尾を持つ狐が嘲笑う。
『よく見てみなさいよ。自分の両手を』
指摘されて己の両手を広げれば、その両手は真っ赤な血で染まっていた。それも両手だけではなく、水飛沫で濡れていたはずの自身の身体まで血で汚れている。気がつけば足元の水溜まりも、全て血溜まりに変わっていた。
『お願いです………ティスお姉様を、これ以上悲しませないでください』
曙色の、十五歳ほどの少女が、涙を流して懇願する。
血で汚れた手で頭を抱え、アシズの身体がカタカタと震えだす。自分が今までしてきたことが、思い出したくもないのに脳内で再生されていく。
「違う………ティス………私はただ………!」
縋るようにティスに再び手を伸ばすが、彼女はその手から逃げるように後退りする。
『触らないで、この人殺し!!』
愛する者からの罵倒に、アシズの思考が再び止まる。怒り、悲しみ、失望………様々な不の感情を滲ませた目で、ティスはアシズを睨む。その視線を向けられ、アシズの足元がガラガラと崩れ落ちる感覚がする。
『貴方なんて………貴方なんて、大っ嫌いです!!』
「………さん………アシズさん!!」
「!!」
高度から墜落するような絶望のさなか、必死な呼び掛けによってアシズの意識が現実に引き戻された。目覚めて最初に視界に入ったのは、心配そうに彼の顔を覗き込むキース医師の姿だった。
「キース殿か………?」
ゆっくりと上体を起こすアシズに安堵の息をつくキース医師に、アシズはなぜ彼が自室にいるのかと疑問を抱く。それを察して話し出したキース医師曰く、そろそろ起床時間になるので起こそうと部屋に入ってきたところ、自分が魘されているのを見て慌てて揺すり起こしたらしい。
「大丈夫ですか? すごく魘されてましたけど………」
言われて自身の額に手をやれば、なるほど確かに悪夢のせいか大量の汗が吹き出ていた。
「あ、ああ………大丈夫だ。少し夢見が悪かったようだ」
キース医師に余計な心労をかけるわけにはいかないと、アシズは表面上だけでもなんとか笑顔を作る。キース医師はまだ心配そうな顔を浮かべているが、それ以上は踏み込んで来なかった。アシズはそれに安堵し、窓の外を身やる。
夜はすでに明け、鳥の囀りが窓から漏れていた。
アシズが朝食を済ませて庭に出ると、子供達が楽しそうに駆け回っているのが見えた。彼らは皆、キース医師の療養所に入院している患者達だ。
「あ、アシズ様だ~!」
鬼ごっこに興じていた子供達はアシズの姿を見つけると、輝くような笑顔でわらわらと集まってくる。
「皆、おはよう」
『おはようございま~す!』
アシズは笑みを浮かべ、元気に挨拶する子供達を順番に撫でていく。集まってきた子供達を全員撫で終わると、最後にシャナがアシズに抱きついてくる。
「お父さん!」
「おはようシャナ」
アシズはそれに動じることなく優しく肩に手を置き、微笑みながらシャナの頭を撫でる。どうやら彼女はアシズが療養所に住み込むようになってからは、彼を父親として慕うようになったらしい。
「ねえねえアシズ様、アレやってアレ!」
「ああ、わかった」
ローブを引っ張る子供達にせがまれ、アシズは嫌がるそぶりも見せず頷く。すると子供達は彼から少し距離をとり、その場に座り彼を注視する。アシズはやや間を置いてから、パンッと自身の胸の前で手を叩いた。すると彼の足元に青い火線の自在式が浮かび上がり、そこから小さな青い鳥が数羽ほど現れた。鳥は子供達の周囲を舞うように飛び回ると、形が崩れて青い炎になる。炎は再び形をとると今度は蝶々になり、蝶々になったかと思えば兎になって宙を跳ね回り、さらに様々な姿に変わっていく。青い炎は不思議なことに触れても全く熱くなく、幻想的なそれを見て子供達は眼を輝かせて歓声をあげる。
キース医師がその様子を窓から眺めて目を細めていると、表玄関から大きな声が響く。
「ちわ~っす。先生、今日の分のポーションを卸しにきました」
「は~い、ちょっと待ってて」
聞き慣れた声と口調に、誰が来たのか気付いたキース医師が出ると、ポーション売りのノゼルとツァレンが入ってきていた。ツァレンは背中に背負った鞄を下ろし、紐を緩めて中身を見せる。
「ご注文通りの、栄養失調の患者用のビタミンポーションと、精神安定用のメンタルポーション、あと睡眠ポーションです」
「ああ、いつもありがとう」
二人は療養所で使うポーションを売りに来る薬師で、キース医師は彼らのお得意先の一人だ。ポーション作りに必要な薬草採集のために森に入るためか、それなりに腕っぷしにも自身がある。
「急ぎの用事がないならゆっくりしていくといいよ。今果実水出すから」
「お、ありがとうございます!」
「いつもすみません……」
ノゼルが嬉しそうに、ツァレンが申し訳なさそうに返事をするも、キース医師は笑みを見せるだけだ。
客間に通されて冷たく冷やされた果実水で喉を潤す二人は、患者達に囲まれるアシズを窓から見つめる。
「………すっかり患者さん達からの人望を集めていますね」
数日前、魔法の馬車とギガントバジリスクの生首を引き連れて突然ロイツに現れたかの魔法詠唱者は、今や街で知らないものがいないほど有名になっている。
街の腕自慢や魔法詠唱者達がこぞって男に勝負を挑んでは返り討ちにあい、時に弟子入りを志願したりと彼の周りは慌ただしい。しかも端正な顔立ちのためか街の一部の女達からは恋慕を抱かれているのだが、当の本人はそんなことなど露知らずだ。
「よくあれだけの数のガキ共の相手できるよな、あの人」
俺なら速攻で根をあげるとぼやくノゼルに、ツァレンが呆れる。確かに子供達の相手をするアシズは嫌がるどころか疲労を感じさせない、きっと元来面倒見のいい人物ゆえの慣れなのだろうとキース医師はなんとなく察し、同意するように微笑んだ。
悪夢のシーンに出てきたキャラには一部オリキャラがいます。
ちなみにオリキャラのノゼルとツァレンのプロフィールです
ノゼル
怪力自慢の薬師
役職:ロイツのポーション売り
住居:小都市ロイツ
職業レベル
ファイター 3lv
アルケミスト 3lv
誕生日:下土月10日
趣味:昼寝
ツァレン
魔法も使える薬師
役職:ロイツのポーション売り
住居:小都市ロイツ
職業レベル
ウィザード 3lv
アルケミスト 3lv
誕生日中風月14日
趣味:骨董屋で魔法書探し
二人とも強さは冒険者で例えれば鉄級ぐらいのイメージです
現地人の職業レベルがほとんど『???』ばっかりなので参考にできない……(-_-;)