「むう………」
昼食を終えてから、シャナはガヴィダから貰った彫刻刀で熱心に木を彫っていた。なかなか思うような力加減が出来ず、深く削りすぎたり浅く削ってしまったりと、四苦八苦しながら削りカスをたくさん生み出してしまう。それでも真剣な表情で目の前の木材とにらめっこをしていくうちに、ただの木材は徐々に形を成していく。
「………できたあ!」
どれくらい時間がたったのかはわからないが、ようやく満足のいく形に完成したそれを見て、達成感からシャナの表情が明るくなる。
とそこへ、ちょうどタイミングを合わせるようにドアを開ける音がした。それを聞いて誰が帰ってきたのかを察し、シャナはすぐさま玄関へ向かいアシズを出迎えた。
「お父さん、おかえりなさい!」
「………ただいま」
いつも通りの優しい笑みを浮かべるアシズを見て、シャナはニコニコと笑顔で答える。
「あのねお父さん」
「?」
「はい!」
そして後ろ手に隠していたものを彼に差し出した。その手にあったのは、小さな木彫りの人形だ。
「………これは?」
「おじいちゃんに教えてもらったの!」
いかにも初心者が彫ったらしい不恰好な木彫りの天使像。だがそれはよくよく見ると、アシズの本来の姿を模したものである。
「………」
「お父さん?」
アシズはそれを見てしばし無言で固まっていたが、ふと片膝をついてしゃがみこみ、シャナを優しく抱きしめる。きょとんとするシャナからはアシズの顔は全く見えないので、彼が今どんな顔をしているのかはわからない。わからないが、今の彼が泣いているのだとシャナはなんとなく理解した。
そして彼女はいつも彼が自分にしてくれるように、アシズの頭をよしよしと優しく撫でたのであった。
ロイツを離れたヘジンマールは、その背にガヴィダを乗せて空を飛んでいた。
「ええ!? じゃああの御仁はガヴィダ様よりもお強いのですか!?」
「おうよ。やつがその気になれば、俺なんて一回殴られただけで死ぬだろうな」
ガヴィダの言葉にヘジンマールは驚愕を隠せない。
最初に姿を見た時からただ者ではないと思ってはいたが、アゼルリシア最強のドラゴンである自分達の父を打ち負かしたこの男を殺せるなど、あの人物は何者なのだろうか。
「しかしまあなんだ………なんとか立ち直るチャンスがあったみたいで安心したな」
ふふ、と小さく笑みを溢すガヴィダにヘジンマールは首を傾げる。
「チャンス………ですか?」
「なあに、こっちの話だ」
気にしなくていいと言うように、ガヴィダはヘジンマールの背中を軽く撫でた。
橋へ行く前にあの少女に呼び止められたガヴィダは、彼にプレゼントをしたいから彫刻のやり方を教えてほしいといってきた彼女を見て少なからず安堵していた。あれだけ純粋に慕ってくれる人間が傍らにいてくれるならば、アシズの精神にもいい影響が出ることだろう。
願わくば、これからの彼に『天下無敵の幸運』があらんことを祈りたい。
「………ん?」
とその時、ガヴィダはどこかから視線を感じて辺りを見渡した。だが見渡す限り広がるのは平原のみで、こちらを見る人間も亜人も見当たらない。そんな彼を見てヘジンマールが問う。
「いかがなさいましたか?」
「………いや、なんでもねえ」
ガヴィダは首を振り、俺も勘が鈍っただろうかと内心でごちる。
ヘジンマールはまだ何か言いたげだったが、結局それを口にすることはなく、飛行速度を上げてそのまま聖王国の領土を後にしていったのだった。
そんな一人と一匹の姿を、ロイツから離れた平原から青紫色のバフォルクが見つめていた。彼は視線を彼らに固定したまま誰かに向けて口を開く。
「………『アベリオンのバフォルク』から『ロイツのカマキリ』へ、内部はどうなっている?」
『今のところ、ターゲットには気づかれていない。こちらから結界の外を見ることはできないが、直接結界に触れさえしなければ問題はない』
バフォルクの脳内に響くのは、小さな存在の力を持つカマキリの声。それはアシズがガヴィダを内部に入れるさいの、結界の僅かな隙間から内部に侵入していたのだ。
「了解、引き続きターゲットの監視を頼む」
「………『アゼルリシアのクアゴア』から報告は受けていたが、まさか本当に『髄の楼閣』が生きていたとはなあ」
髄の楼閣ガヴィダ。
『星霊殿』や『天道宮』を始めとする多くの様々な宝具を生みだし続けた、古の紅世の王の一人にして、史上最高位の宝具職人。
『
「しかも『棺の織手』までいやがるとか………」
チラリと、青い結界に覆われたロイツを見てため息をつく。
棺の織手アシズ。
かつてオストローデという都市を、『都喰らい』という禁術で文字通り喰らった中世最強の自在師。そして大戦勃発の最大の元凶である『裏切り者の元英雄』。紅世の王としてもあまりに強大過ぎたがために、当時の『炎髪灼眼の討ち手』が神威召喚してやっとの思いで討滅できたという、紅世の歴史を遡っても規格外の怪物だ。
「あ~、難易度最悪なんてもんじゃねえだろこれ! クソゲーだクソゲー! つうか野生のワールドエネミーが呑気にイクメンしてんじゃねー!!」
バフォルクは苛立たしげに喚き散らし、頭を抱えてゴロゴロと地面を転がる。しばらくしてから地面にうつぶせになり、脱力してため息をつく。
「はあ………これも『クラッカー』の差し金なのか? 本っ当にうんざりするわぁ………野郎、見つけたら絶対にぶっ殺してやる………」
脱力しきった体勢とは裏腹に、バフォルクの目には明確なる殺意が灯り、爛々と光っていた。
その頃のアシズ様
キース医師「アシズさ~ん、ちょっと手を貸してほし……うわ!? なんでボロ泣き!?」Σ(゜ロ゜;)
アシズ「っ………」シャナを抱きしめたまま声を殺して泣いてる
シャナ「お父さん、いいこいいこ」( *・ω)/(;д; )