棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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ロイツの風景とかはわからないので捏造です。

※キャラの名前を一部変えました


小都市に来た男

「……きもちいい」

 

穏やかな昼下がり。ベンチに寝そべる青年、ノゼルは心地よい日だまりに微睡んでいた。ここ最近は亜人による騒ぎを全く聞かず、小都市ロイツは平和そのものだ。仕事の合間に惰眠を貪れる幸福を甘受し、その意識は夢の中に落ちていく……

 

「何をサボっているんだお前は!」

 

「ぐげえ!?」

 

寸前に怒号とともに鳩尾に肘打ちを受け、再び意識が現実に引き戻された。

 

「ちょ、おま……内臓潰れたらどうすんだよ…!」

 

胸を押さえて痛みに悶えるノゼルは、恨めしそうに犯人を睨んだ。

 

「そんなヤワな身体してるわけでもないだろうが」

 

対する彼の親友ツァレンは悪びれもせずジト目で返す。

すでに休憩時間は終わっており、午後からの店番が始まるのを告げようした矢先に爆睡しようとする彼に呆れてしまう。

 

「んだよいいじゃねえか~。せっかくの平和な時間を享受したいもんだろう?」

 

「仕事時間も平和だからこそできることだろうが」

 

いいから早く立てと足蹴すれば、ブツクサ文句を言いつつノゼルは立ち上がる。ここまではいつも通りのやり取りだったが、今日は少し違っていた。

 

「………ん?」

 

ふとノゼルが大通りに目をやると、なぜか人だかりができていた。ツァレンもそれに気づいたようで視線を向け、訝しげな顔になる。いつもはここに人が集まるほどの催し物などないはずだがどうしたことだろうか。なんとなく気になったノゼルはツァレンが止めるのも聞かず人混みに入っていく。人の間を押し退けて前に出た彼は、人々の視線の先にあった光景に目を見開いた。

大通りの真ん中を歩いていたのは、一台の馬車だった。しかしそれはただの馬車ではない。およそ二十人の人間が乗れるほど大きい車体は、煌めく青い水晶を四角形に切り出したかのように美しく、かなり高価な代物であることを見る者に感じさせる。その馬車を引くのも青い毛並みを持つ二頭の馬で、歩くたびに鬣が光に反射して煌めいている姿は美しさと気品を兼ね備えている。極めつけはその馬車の御者台に座り手綱を引く人物だ。全身を青色のローブに包んだその人物は、渋さと若々しさがほどよく合わさった彫りの深い顔立ちの男性で、三十代ほどの年齢ながらも青い髪も相まって見目麗しい。男がたまに視線を群衆に向けると、何人かの淑女が頬を染めて狼狽えているのが見てとれる。

 

『やだ、あの人こっちを見たわ!』

 

『バカ言うんじゃないわよ、私を見たのよ!』

 

そんな会話が聞こえるようで、ノゼルも思わず見とれてしまう。追い付いたツァレンも男の引く馬車を見て驚くも、隣にいた中年男性に問う。

 

「なあアンタ、あの方はどこの貴族様なんだ?」

 

青い男は衣服も乗る馬車も馬も全てが一級品だと理解できる。そんなものを持つことができる人間など、貴族ぐらいしかいないだろうとツァレンは当たりをつけた。ところが問われた男性は首を振って否定した。

 

「いやそれがさ、旅の魔法詠唱者(マジックキャスター)様なんだとよ」

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)?」

 

「なんでもここへ来る途中で、悪魔に捕まっていた村人を救出したって話さ」

 

門の前で一部始終を見ていた男によると、男は馬車いっぱいに乗っていた村人を連れてロイツに現れたのだという。村人達は丸裸に布を被っただけという有り様だったことから、憲兵達は彼が奴隷商人かと思って捕らえようとしたが、ほかでもない村人達が弁護してくれたのだ。彼らは数日前に悪魔に拐われて行方不明になっていた村人達で、男が悪魔達を倒し彼らを助けてくれたとのこと。村人の中に憲兵の一人の知り合いがいたことで信用してもらい、彼らは現在ロイツの病院に運ばれているらしい。

 

「へ~、どうりでただ者じゃない雰囲気なわけだ」

 

合点がいったように再び男を見れば、彼は大通りの中で一番安い宿屋の前に馬車を停めた。馬車から降りて馬の手綱を外すと指をパチンと鳴らす。すると青い水晶の馬車がまるで霞のようにその場から消えていった。

 

『!!』

 

驚く民衆をよそに男は宿屋の扉をノックする。扉が開かれると中から宿屋の主人である無愛想な老人が顔を出した。

 

「なんだい?」

 

「三日ほど泊まりたいのだが、よろしいだろうか?」

 

「……金はあんのかい?」

 

老人はジロジロと男を疑い深く睨む。とても客を持て成す態度ではないが、男は意に介さない。

 

「すまない、今は金銭を持ち合わせていなくてな。物々交換でどうだろうか?」

 

「ケッ、湿気てんなあ……。安物しかなかったら馬小屋で寝てもらうぞ」

 

老人のぞんざいな態度に、男に好意的な気持ちを寄せていた女達が不愉快そうに顔を歪ませる。男は背負っていた皮袋を下ろして中から大きな塊を取り出した。

 

「…………!?」

 

「この辺りでは魔獣の皮や牙でもそれなりの値打ちがあるそうだが、これでなんとかならないだろうか?」

 

それはモンスターの生首だった。緑色の鱗に赤い角、鋭い牙を持つそれはまごうことなき……

 

「ぎ………ギギギギギギギギ……ギガントバジリスクぅ!!!?」

 

老人は眼前に出された凶悪なモンスターの生首に、目玉が飛び出るのではないかと思えるほど驚愕する。

 

「あ、アンタこいつをどこで……!?」

 

「道中に見かけたのでな、路銀の足しにならないかと思い一頭だけ倒したのだ。たださすがにかさ張るので、頭しか持ち出せなかったのが悔やまれるのだが……」

 

どこか残念そうに肩を落とす男に、周囲の人間達は唖然とするほかなかった。ギガントバジリスクといえば難度およそ80の恐ろしいモンスターだ。アダマンタイト級冒険者でも対策を練っていても倒せるかどうかの化け物を、この男は小遣い稼ぎ感覚で倒してしまったという。

 

「目玉は危ないそうだからくり貫いてある。だから大丈夫だとは思うのだが………どうだろうか?」

 

ちょっと心配そうに老人の顔色を伺う男に対し、老人は顔面蒼白になり震えている。そしてあろうことか、その場で土下座をしだした。

 

「ととととんでもございません! 貴方様のような高名な冒険者様をうちのオンボロ宿屋なんかに泊めたらバチが当たります! 泊まるなら隣の立派な宿屋にしてくださいませ!!」

 

土下座の姿勢から片手で指し示す先には、見るからに高そうな宿屋が存在する。

 

「え、いいのか?」

 

「是非ともそうしてくださいませえ!!」

 

「むう……そういうことならそうしよう。助言感謝する」

 

どこか釈然としない様子ながらも男は老人に感謝を述べ、ギガントバジリスクの生首を片手に二頭の馬を引き連れて隣の宿屋に向かう。隣でも似たようなやり取りがあったものの、男はようやく中に入ることができたのだった。

 

 

「………マジかよ」

 

それを最初から最後まで見ていたノゼルとツァレンは、目を点にして呆けている。

悪魔に拐われた村人を救い、ギガントバジリスクを倒したあの魔法詠唱者(マジックキャスター)は一体何者なのか。

男が入った宿屋の前は、しばらくのあいだ人だかりが散ることはなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふう」

 

ようやく宿屋の一室に落ち着けた青い男、アシズはベッドに腰かけて一息ついた。道中あの悪魔の追っ手を警戒して気を張り続けていたせいか、ずいぶん気疲れはしたものの無事街までたどり着いたことに安堵する。

 

(だが油断はできない。まずは状況を整理すべきだな)

 

ここへ来る途中で村人達からこの国、ひいてはこの世界に関する情報を聞いたアシズは自分の身に起きたことを改めて考察する。

まず今いるこの国はローブル聖王国という。アシズが知る限り欧州はおろかユーラシア大陸の歴史にもないはずの国だが、およそ二百年前に建国された歴史ある国家とのこと。

次にこの世界では『魔法』と呼ばれる自在法に似た力が一部の人間に使えるとのこと。

最後にこの世界では“紅世の徒”でない異形の生物が存在していること。

村人達もそこまで詳しくはないそうなので、まだこれだけで結論づけるのは早計かもしれないが、アシズはある可能性を思い浮かべる。

 

「ここは『この世』でも、ましてや“紅世”ですらない……?」

 

『この世』でも“紅世”でもない、『第三の世界』。ありえない、なんてことはないだろう。そもそも『この世』だって発見されるまで存在することすら考えられなかったのだ。ましてや“紅世”と『この世』の間にある『両界の狭間』は広い、まだ発見されていないだけで両界以外にも『歩いていけない隣』があったとしても不思議ではないだろう。

 

(まだ憶測でしかない。日を改めてから情報収集すべきだが、まずは休息だな)

 

成り行きで作った二頭の“燐子”は宿屋の馬小屋に預けたし、ひとまず英気を養うことにしよう。座った体勢からゴロリとベッドに寝転がると、アシズは目を伏せて眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ暗だった。

どこまでもどこまでも続く闇の中で、アシズは佇んでいた。

姿は人化した姿から本来の姿である六翼の天使の姿になっており、辺りを見渡す。

 

(行かなければ)

 

どこへ?

 

(わからない、だが私は行かなければいけないのだ)

 

なんのために?

 

自問自答を繰り返しながら歩を進めるアシズはしかし、突然足が動かなくなる。

 

『主』

 

足元を見れば、左足に牛骨の異形がしがみつく。

 

『どうして、貴方は負けたのですか? 』

 

右足には、獣の耳の黒い女が纏わりつく。

 

『どうして、彼が死んだのですか?』

 

右肩を、口が胴まで裂けた狼がかじりつく。

 

『なあ、なんでアンタだけ生きているんだ?』

 

左手を、氷の刀剣が突き刺す。

 

『私は、私達は、御身を信じていたのに』

 

六枚の翼を、石の根が絡めとる。

 

『我々は、何も得られなかった』

 

眼前に、鈍色の巨竜と鋼の巨人が現れる。

 

『御身は、我らを裏切ったのか?』

 

『我が戦友達の死はあああ、無意味だったのかあああ?』

 

背後から、奇怪な三つの言葉が罵倒する。

 

『俺は全てを失った!』『私は何も為せなかった!』『貴様のせいで!』

 

そして、頭上から虹色の光を纏った騎士が降り立つ。

 

『俺は貴公を許さない、絶対に』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーー!?」

 

アシズは意識の覚醒と同時に、ガバリとベッドから上体を起こす。荒い呼吸と汗で濡れた衣服の冷たさが現実を教える。

 

「………夢?」

 

かつて自分を慕ってくれた配下達の、悲哀と怒りの眼差しが脳裏にこびりついている。

 

「………そうだ。私は『負けた』のだったな」

 

アシズは思い出した、自分の悲願が潰えたことを。

今まで村人達の護送に気を配っていたせいか、そちらに思考を傾ける余裕がなかった。だが一人になったことで、喪失感がじわじわと胸を蝕み始める。

 

「なぜ………っ!」

 

なぜ自分だけ生き延びてしまったのだ。

なぜあのまま死なせてくれなかったのだ。

それともこれが、私への罰だとでもいうのか。

ああ確かに、これ以上の地獄はあるまいよ天罰神。配下達と同じ場所にも逝けず、愛する女との子ももはや作れない 。紅世に帰ることもできないし、帰れたとしても同胞達は自身を咎めるだけ。配下を無駄死にさせた挙げ句、生きるための原動力も仲間も帰る場所さえ失ってしまった今、なんのために生きればいい?

 

「ふっ………くう………!」

 

片手で顔を押さえ、アシズは声を殺して涙を流す。

 

(すまない………すまない……)

 

 

胸中で仲間への謝罪を繰り返し、彼は一人孤独に部屋で泣き続けるのだった。




人化アシズ様のイメージは、FGOのオデュッセウスみたいな感じです。
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