棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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忍者「今さらだけどさあ、この修正内容って現地で過ごしてるプレイヤーからすればクソ仕様じゃね?」

ローブ「ちなみに修正をしていた時のサトゥラチーフは、『三徹どころか一週徹なんて、ギネス記録を見ても俺ぐらいしかやっていないだろうな~』と言って、アヒャヒャヒャと狂ったように笑っていました」

忍者「………次に向こうに戻る時は、サトゥラにいい酒と飯を届けてやってくれないか?」

ローブ「一番上質のを選んでくださるなら」


先触れ

ちょうど同じ頃、ネムはいつもの場所でソカルと戯れていた。

 

「………はい、できたよソカル!」

 

約束通り、ソカルへのプレゼントとして数色の糸で編んだ花の髪飾りを持ってきたネムは、ソカルの頭の枝に乗ってその先の細い部分に髪飾りを結ぶ。

枝の先でネムを下ろしてからソカルは髪飾りに触れる。彼女は綺麗な色の髪飾りを買ってくると言っていたが、その髪飾りは地味な色合いであった。

 

「ふん、私の趣味と全く不釣り合いなものを選びおって。こんなもので媚を売れると思うなよ」

 

「ごめんね。本当はもっと綺麗な色の髪飾りもたくさんあったんだけど、なんとなくソカルにはこれが一番似合いそうだと思ったの」

 

「何?」

 

訝しげにみるソカルに、ネムは満面の笑みで答える。

 

 

「この髪飾りね、ソカルのお友達の色と同じ糸で編んであるんだよ!」

 

言われて見れば確かに、髪飾りを構成する糸の色は濃紺、焦げ茶、鈍色、亜麻色、枯れ草色、黄色、黝色、虹色、黄土色。そして青だった。

 

ありし日の戦友達と主の炎の色を束ねた髪飾りに、ソカルはかつての日々が脳裏を過る。

 

「………」

 

 

だが次いで思い出すのは、いまだ壮挙の顛末を語ろうともしないウルリクムミの後ろ姿だった。戦友達が揃ったときに全てを話す、そう逃げるように言葉を濁した彼にソカルはギシリと歯を軋らせる。

 

(………私は認めんぞ、ウルリクムミ!)

 

最強の紅世の王である主が、フレイムヘイズ共に負けるはずがない。

嫌な可能性から気を紛らわせるべく、件のアウラ達の監視を行おうとするソカルだったが、

 

「………?」

 

ふと先ほどまで晴れ渡っていた遠くの空が、急に曇ってきたのが見えた。それも空全体ではなく、一部分のみがだ。ソカルは紅世の王としての直感力からなんとなく察する、これはただの自然現象ではない、人為的なものだ。そしてこれを成した者の素性も一つしか考えられない、あのダークエルフ達の仕業に違いない。

 

(動き出したか!)

 

確信したソカルはまず森の現状を確認しようとするが、ふいに自身の幹に何かが張り付く。

 

「ソカル………なんかこわい」

 

ネムはその黒い雲を見て、目尻に涙を浮かべて縮こまっていた。ソカルは怯える彼女の姿に苛立たしげに顔を歪ませてから、ネムの周りから根を伸ばす。

 

「目障りだ。私の視界から失せろ」

 

根っこで小さなドームを作るとネムを守るように覆い、ソカルの根に守られたことで安堵した彼女を見届け、ソカルは改めて森の『目』に繋げる。

 

 

 

黒い雲が覆っている場所を見れば、いくつかの原始的な家屋と二本足で歩く人型の蜥蜴のような生き物が密集している場所を見つけた。

 

(これは………確か蜥蜴人といったか?)

 

以前ピニスンが言っていた、トブの大森林に住む亜人の一種だったはず。

 

彼らは突然の異常事態に困惑したり、不安げにオロオロしており、子供や一部の成人は家屋に逃げ込み始めている。蜥蜴人の集落の頭上はさらに暗くなると、その暗雲からおぞましい化け物が下りてきた。黒い霧を固め、表面には醜悪な無数の顔が張り付いている姿のそれらは、輪唱するように喋りだす。

 

 

 

『聞け、我は偉大なる御方に支えし者。先触れとして来た』

 

『汝らに、死を宣告する』

 

『偉大なる御方は、汝らを滅ぼすべく軍を動かされた』

 

『されど、寛大なる御方は汝らに必死の、無駄な抵抗をさせるための猶予をお与えになられるとのこと』

 

『本日より数えて八日、その日この湖の蜥蜴人部族の中で、汝らを一番目の死の供物としよう』

 

『必死の抵抗をせよ。嘲笑を以て偉大なる御方がお喜びになられるように』

 

『ゆめ忘れるな、八日後をーーー』

 

 

化け物は言うだけ言うと、再び暗雲へと消え去っていった。

 

 

(………ほう、まずはあの湿地一帯の亜人共を蹂躙し、勢力を拡大するわけか)

 

亜人の生活圏に関してはどうでもいいが、あのダークエルフの差し金であれば話は別だ。ひとまずウルリクムミ達に連絡すべきだろうと、ソカルは遠話の自在式を起動させる。

 

(全く不運な連中だが、さてどうするつもりか………ん?)

 

一方的に虐げられるだろう蜥蜴人達をやや哀れみつつ、再び湿地一帯を見て回ると、太陽の真ん中に目玉が記された紋章の旗を掲げた集落を見つけた。

彼らも化け物の先触れに焦りと不安から取り乱しているが、その中で一人の蜥蜴人を見つける。

 

(………!?)

 

草簑で全身をすっぽり覆った蜥蜴人を傍らに立たせるその蜥蜴人は、両手を広げて他の蜥蜴人を宥めている様子を見るにあの集落の長と思われる。軽装な装束を纏い目深にフードを被っており、その顔は全く見えない。だが装束の合間から見えた黝色の鱗を見て、ソカルは二つの割れ目を見開いて驚愕する。

 

(あ、あれは………!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険者組合の模擬戦場では、ウルリクムミ主導による新参冒険者達の鍛練が終わったところだった。

 

「では今日の鍛練はあああ、ここまでだあああ」

 

『ありがとうございました!!』

 

新参冒険者達が一糸乱れぬ動きで頭を下げ、鍛練による疲労で肩を上下させながらも散り散りになり解散していく。

 

 

 

「いや~、ウルリクムミ君のおかげで新人達も喜んで稽古に明け暮れているよ」

 

「うむううう、若者が稽古に励む姿は良いものだあああ」

 

笑顔でウルリクムミの肩を叩くアインザックに彼も頷く。やはり現在の冒険者の憧れの的である『とむらいの鐘(トーテン・グロッケ)』直々の稽古に志願する者は多く、鍛練の内容こそ厳しくとも皆嬉しそうだ。

 

 

 

「それで組合長おおお、『例の件』はどうだあああ?」

 

ウルリクムミに『例の件』と聞かれ、アインザックは申し訳なさそうに頬を掻く。

 

「君が知りたいと言っていた、ダークエルフの住む地域についてだね? 生憎うちの組合では、現在のダークエルフの情勢に関する詳しい情報は入ってこなかったよ」

 

「そうかあああ……」

 

トブの大森林に現れたダークエルフの少女、『アウラ』率いる異形の軍勢に関する情報を得るべく、ウルリクムミ達は組合や依頼を受けた先などでダークエルフのことを聞いて回ってはいたが、成果は芳しくない。唯一判明していることといえば、南方の大森林の奥深くにある人跡未踏の地に移住しているという噂だけで、エルフの国のように人間と関わることはないそうだと語るアインザックに、ウルリクムミはやや落胆する。

 

普通のエルフの国の話であれば、法国と戦争をしているという話が有名だ。かつて彼らは人類の守護を担う『スレイン法国』と協力関係にあったらしいが、大昔になんらかの理由で両国は袂を分かち、にらみ合いをしているとのことだ。

それを聞いてふとウルリクムミは、以前ソカルから聞いた戦士長ガゼフを抹殺しようとした法国の魔法詠唱者達を思い出す。人類の守護を掲げておきながら、その守護者として優秀な人材をわざわざ潰すなど本末転倒もいいところだ。

 

(宗教国家だのおおお、人類守護と宣ってもおおお、所詮は人間かあああ)

 

結局のところ、綺麗事だけで国の安定が保てるわけがない。かつてウルリクムミが生きていた世界の人間達も、そうやって互いの足を引っ張りあっていたのだから、この世界も似たようなものなのだろう。

 

 

 

 

 

「御大将?」

 

とそこへアルラウネが現れ、ウルリクムミに歩み寄ってくる。

 

「どうしたあああ?」

 

彼女は握っていた手を僅かに開くと、点滅する小さな花びらをウルリクムミにのみ見せる。それを見たウルリクムミの目が見開く。

 

「! ………すまぬううう、少し急用ができたあああ。俺はこれで失礼するううう」

 

「ああ。今日もご苦労様」

 

笑顔を見せるアインザックに軽く会釈すると、二人はその場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アダマンタイトに昇格したことで、エ・ランテルでも高級な宿屋に泊まることができるようになった二人は、急いで自分達の部屋に戻りソカルからの遠話を繋げる。

 

『おお、やっと繋がりましたか!』

 

テーブルの上に咲いた大輪の花から、やや焦った様子の甲高い声が響く。

 

「どうしたソカルううう、定時報告はまだのはずだぞおおお?」

 

ソカルには引き続き『アウラ』の監視を任せてはいるが、今はまだ報告する時間帯ではないはずだ。

 

「もしや、かのダークエルフに何か動きが?」

 

『そ、それもありますが……… より急を要する報告がありまして!』

 

いつになく慌てた様子の戦友に、ウルリクムミも真剣な面持ちで耳を傾ける。

 

「なんだあああ?」

 

 

 

 

『天凍の倶ニヌルタを発見しました!!』

 

 

 

 

「!?」

 

「ニヌルタ様を!?」

 

 

天凍の倶ニヌルタ。ソカルの口から告げられた懐かしき盟友の名に、ウルリクムミは思わずガタリと椅子から立ち上がる。

 

「本当にニヌルタだったのかあああ!?」

 

『間違いありません! あのいけすかない黝色は、まぎれもなく奴の色です!!』

 

そう断言するソカルは、かつて彼とは犬猿の中だったのだ。その彼が言うのならば確定だろう。

 

「ニヌルタ様は、今どちらに!?」

 

アルラウネも逸る気持ちのままに問う。

 

「つい最近見つけた、蜥蜴人という亜人の集落です! ただその………どうやら奴も、私と同じく『トーチ』に寄生しているようです」

 

どうやらソカルのようにトーチに寄生していたことで、気配がわかりにくくなっていたらしい。だがソカルが知った『もう一つの異変』がきっかけで発見できたという。

 

『実は例のダークエルフ共が、その蜥蜴人の集落に宣戦布告をしてきまして……』

 

「そうかあああ」

 

ソカルは蜥蜴人の集落で起こったことを、二人にこと細かに説明する。醜怪な姿をしたその先触れは、八日後にその集落に軍を差し向けると言っていたらしい。

 

「八日後、ですか?」

 

『うむ。連中も砦の建設で忙しいようで、虚言ではないかと』

 

碑堅陣を通して見れば、何十体の異形を引き連れて例のダークエルフ『アウラ』が森を切り開き、前線拠点と思しき砦を建てていたのを見たとソカルは語る。

 

「ふむううう」

 

ソカルの報告を全て聞き、ウルリクムミは腕を組んで考えこむ。ソカルがトーチに閉じ込められて弱体化していることを踏まえると、ニヌルタも弱体化している可能性が高い。敵軍の規模がどのくらいかもわからない現状では、もしニヌルタの状態が最悪であれば、自在法を扱うこともできないまま戦わなければならないかもしれない。

ならば、ウルリクムミがとるべき行動は一つだ。

 

「アルラウネえええ、我々もその集落に向かうぞおおお」

 

エ・ランテルからトブの大森林まではおよそ二日で辿り着ける。今から急げば充分間に合うはずだ。

 

「御意に?」

 

アルラウネも頷き、二人は早速支度をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりあちらさんも動き出すか」

 

『忍者』とローブは『町の片隅のネズミ』の目を通し、『とむらいの鐘(トーテン・グロッケ)』がナザリックの動きを知ったのを確認する。

 

「当然でしょう。かつての仲間が発見されたうえに、その人物がいるであろう場所に要警戒対象が宣戦布告をしてきたわけですから」

 

 

天凍の倶ニヌルタ。

『とむらいの鐘』最高幹部『九垓天秤』の一角にして、中核たる主力軍の統率と首領アシズの護衛を同時に務めた、冷静な指揮官たる中軍首将。先手大将のソカルと互角の強さを誇っていた強大なる紅世の王だったらしいが、最終的には小夜啼鳥(ナハティガル)争奪戦において、フレイムヘイズ『恋歌の謳い手』と『万術狐』の捨て身の自在法と、『炎髪灼眼の討ち手』の持ち前の悪運の強さに追い込まれて討滅されたはず。

 

 

 

「しっかしどうする? 上方修正したとはいえ、『巌凱』と『焚塵の関』と『天凍の俱』がパーティー組んだら、コキュートス達がフルボッコにされるぞ」

 

今回の上方修正は『プレイヤーの強化』をメインにしている。だが修正を大々的に担ったチーフ曰く、レベルアップアイテムの実装、課金アイテムをユグドラシル金貨で購入可能にする、NPCの基礎ステータスの強化などの大型修正はまだ時間がかかるそうだ。それでも九垓天秤を相手にするには、せめてこれだけはやっておかなくてはと必要最低限の修正をした結果、かなり中途半端な強化になってしまったらしい。

 

つまりNPC達の強さは、いまだ変わっていない。

 

うち『焚塵の関』と『天凍の倶』は、全盛期に比べて弱体化してはいるようだが、NPC達とは強さ以前に実戦経験の差が開きすぎている。こんな状態で弱体化すらしていない『巌凱』が加わろうものならば、コキュートスはなす術なく速攻で殺され、せっかく学習したことも全て忘れてしまうだろう。

 

「………致し方ありませんね」

 

暫く思案していたローブだったが、ふいに腰かけていた椅子から立ち上がる。

 

 

 

「私が『巌凱』を足止めします」

 

「え?」

 

 

その言葉に忍者はきょとんと首を傾げる。

 

「お前が? 『巌凱』を倒せるのか?」

 

「私なんかが倒せるわけないでしょう、あんなマップ兵器。あくまで足止めするだけですよ」

 

「ふ~ん………まあ確かに、お前の『自在法』なら足止めくらいはできそうかもな」

 

 

 

ローブは肩に止まる鷹の燐子に下に降りるようフードを動かして指示し、床に着地した燐子は主に向けて鋭い嘴を開く。ローブが袖から取り出した蜂蜜色の丸い結晶体を、燐子の嘴に咥えさせると燐子は結晶体をそのまま丸呑みする。すると鷹の燐子は蜂蜜色に燃え上がってから、四枚翼のバードマンの姿となった。ローブが自身の戦装束であるその燐子を()()()、バードマンの虚ろな眼差しに自我が宿り、翼を羽ばたかせて火の粉を舞い散らす。

 

「では僭越ながら………この『傀寄の装ハスター』。任務を開始いたします」

 




その時のニーガ


ニーガ(………今、とても不愉快な視線を感じた気が)

通じ合う犬猿の仲
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