棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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明けましておめでとうございます

ひとまず、久々の更新です


傀寄の装

翌日、エ・ランテルを発った二人はアルラウネの作った大きな花びらに乗って空を飛んでいた。歩いていくよりは飛んでいったほうが早いだろうと判断したがゆえだ。

 

「ソカル様の活動範囲までは、まだ先になるかと?」

 

「仮に連中がしかけて来るとするならばあああ、その外になるだろうううう」

 

ソカルの報告にあった『無貌の億粒』と交戦した地域まではまだ先だ。移動中に奇襲するならば、そこからさらに離れた場所になるだろう。

 

「しかし、ンフィーレア様には感謝しなければいけませんね?」

 

「全くだあああ」

 

 

旧き戦友の危機に助太刀を思い立ったウルリクムミは、来る戦いに備えてニヌルタに届けるための物資をまず集めた。ポーションは以前の墓地騒動の際に作られたものの余りを全て買い取り、バレアレ家から作り方も聞いてメモした。さらには骨董市や魔術組合で役に立ちそうなスクロールなども買えるだけ買い、可能な限りの準備は揃えた。

 

だがここで二人にある問題がぶつかることとなる。

冒険者組合は基本的に国同士の戦争には介入することは厳禁。今やアダマンタイト級冒険者となった自分達が組合のルールを破って勝手に依頼を受ければ、冒険者組合の名に泥を塗りかねない。日頃お世話になっている身としては、これ以上彼らに迷惑をかけるわけにはいかないとウルリクムミは思っていた。一体どう事情を説明すべきか悩んでいたところ、たまたま組合に顔を見せてきたンフィーレアがある依頼を出してきたのだ。

 

『以前の薬草、もし可能でしたらまた採取してくださいませんか? あ、もちろん期限は問いませんので』

 

渡りに船と呼ぶにはいささか出来すぎな依頼に、ウルリクムミはンフィーレアにどういうことなのかと聞く。彼は最初こそはぐらかすような態度だったが、二人が一歩も引かないのを見て観念するように理由を話し出した。

どうやらウルリクムミ達がポーションを大量に購入したりする姿を見て、『漆黒の剣』をはじめとする付き合いの長い何人かの冒険者達は、二人がこれからなんらかの戦いに赴くだろうことに薄々気づいてはいたらしい。だが義理堅い彼が組合に打ち明ける素振りを見せないのを見て、拠ん所ない事情が絡んでいるかもしれないと悟ったのだ。そこで彼らはンフィーレアと示しあわせて、二人が街から出るための口実を作ってくれたのだという。それを聞いた二人は驚くと同時にンフィーレア達へ感謝を述べ、そのご厚意に甘えることにした。こうして物資と出陣の口実を得られた二人は堂々とトブの大森林へと赴くに至れたわけである。

 

とはいえ、ウルリクムミにはいまだ一つ懸念があった。

前日にソカルから、敵の妨害を受ける可能性があることは伝えられてはいた。移動中に襲撃するのであればまだ対処のしようはあるが、もし連中がエ・ランテルを襲撃するという方法をとってきた場合、被害がより甚大になりかねない。

組合長をはじめ、信頼できる冒険者達にはアルラウネが作った遠話用の花を託したので、もしなんらかの異常事態が起こった場合は二人に連絡がいくようにはしておいた。それでも未だ心配は拭えない。

 

「………?」

 

とここで周辺を調べていたアルラウネの探知の自在式に反応が出はじめ、彼女は何かを感じとって前を見据える。そしてその先から微弱な気配が近づいてきているのに気づいた。

 

「前方から飛行物接近!?」

 

アルラウネの報告にウルリクムミもばっと前を見る。彼女がすぐさま遠見の自在法を起動させると、進行方向から三つの飛行物体の姿が見えてきた。

 

「やはり来たかあああ!」

 

ついに敵が現れたことを察し、ウルリクムミはすぐさま立ち上がってウベルリを構える。エ・ランテル襲撃が杞憂になったことには安堵するも、刺客がどれだけの戦力を有しているかがわからない以上、油断は出来ない。

彼らの進行方向から飛んできたのは、人間の成人三人が余裕で乗れそうなほど巨大な怪鳥が三羽。そのうちの一羽の背に乗るのは、袈裟を纏った白い羽毛のバードマンのような人外だった。

 

「やれ」

 

淡々とした口調でバードマンは鳥の背中をこづくと、三羽の巨鳥の嘴が開いて口腔が輝き、蜂蜜色の結晶の塊が数百個、一斉に放たれた。かなりの距離にも関わらず、結晶が凄まじいスピードで二人に迫ってくるのを見て、アルラウネはすかさず花びらを操作してそれを躱した。しかし巨鳥はなおも追撃を放ち続ける。

 

「しばし揺れますゆえ?」

 

「迎撃は任せろおおお!」

 

アルラウネは花びらに込められた自在式を一部改造して機動性を上げ、ウルリクムミは連続して放たれる結晶の内、避けきれなかったものをウベルリで全てはじき返していく。三羽の巨鳥は息の合った連携飛行で二人を追いかけるが、アルラウネはなおも巧みな操縦で振り切りウルリクムミがそれを守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを地上から眺める者が数名。

 

「とんでもねえ運転技術だなおい」

 

呆れたようにため息をつくのは、拳法家の装いをした、ヒクイドリのバードマン。

 

「なんとも美しい飛行、あれを打ち落とすのは無理そうだね」

 

気障ったらしく笑うのは、軽装の革鎧を纏った、緑色の孔雀のバードマン。

 

「なんであんなに動き回ってるのに、二人とも落ちないんだろ?」

 

きょとんと小首を傾げるのは、クレリックの装いをした、小柄なキーウィのバードマン。

 

「姿勢制御、引力、その他諸々の自在法をフル稼動しているな。『九垓天秤』の副官という肩書きは伊達じゃないってわけか」

 

じっくりと観察するのは、黒いローブを纏った魔法詠唱者染みた、白い鴉のバードマン。

 

 

 

凄絶なドッグファイトを繰り広げる両者を眺めつつ、バードマン達は彼らの行き先を確認する。そして遠話の自在法で巨鳥にのる烏骨鶏のバードマンに告げた。

 

「もうすぐで予定ポイントに入る。ターゲットが効果範囲に入ったらすぐに発動しろ」

 

『了解』

 

鶏がうなずくのを確認してから、一同はそれぞれポケットから蜂蜜色の丸い結晶体を取り出し、それを丸呑みしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方のウルリクムミはウベルリを振り回しつつ現状を観察する。怪鳥の放つ攻撃はさほどの破壊力ではなく、このまま避け続ければ脅威にはならないだろう。

まずこの場をどう切り抜けるか考えるウルリクムミだったが、

 

 

 

突然二人が乗る花びらが爆ぜた。

 

「!?」

 

「何事!?」

 

足場を失ったことで二人の身体は宙に投げ出され、そのまま落下していく。

 

「ぬあああああああ!!」

 

アルラウネはすぐさま飛行の自在法をやり直すが、

 

(………できない!?)

 

いつもならすぐ構築されるはずの自在式が全く安定しなかったのだ。かつての大戦で似たような経験のある彼女は、瞬時に何が起こったのか理解した。

 

(自在法阻害………なんたる失態を!?)

 

阻害の解除自体は難しくないが、そこからまた飛行の自在法を組み直すのはギリギリ間に合うかどうかわからない。人化を解こうとするがこちらも上手くいかず、このままでは頑丈なウルリクムミはともかく、自身の耐久力では地面に叩きつけられるだけで致命傷になりかねない。アルラウネはなんとか現状打破の方法を考える。

 

「アルラウネえええ!」

 

するとウルリクムミが彼女を呼んだ。大声につられて彼を見れば、ウルリクムミがヘルムを外している姿があった。

 

「!」

 

それを見てアルラウネは彼の考えを察し、阻害解除が終わったと同時に、飛行の自在法よりも簡単な自在式を素早く構築して自分自身にかける。

 

高度から落下したウルリクムミの巨体は、地響きを立てて地表に叩き落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったか?」

 

「それフラグになるからやめとけって」

 

片手を額に当てて遠く見るヒクイドリに、鴉が軽く肘で小突く。

落下の衝撃でもうもうと土煙をあげている地表には、まるで隕石でも落ちてきたのかと思えるほどのクレーターができていたのが彼らの場所からでも見受けられた。

 

『言わなくても………どの道やれてない』

 

すると一同の足元から別の声が響いた。

 

「やあポロナズ、おかえり」

 

ニコリと笑う孔雀の影から、黒ずくめのアサシンの装いをした、梟のバードマンが飛び出てきた。

 

「気配はまだある………やつらはまだ生きている」

 

梟の探知の自在法にはいまだ二人の気配が感じられるようで、一同はそれぞれの獲物を手に構えた。

 

「今のでちょっとはダメージが入ってればいいんだけど……」

 

そう心配するキーウィを否定するかのように、ガシャリと力強い足音を響かせ、土煙から濃紺の戦士が現れる。重厚なオーラを滲ませるその姿は、紛れもなく紅世の王そのもので、鎧にはへこみ一つ見受けられない。

 

「………やっぱりそう上手くはいかないか」

 

それを見て烏がうんざりするようにため息をつき、土煙が消え去るとヒクイドリはふとあることに気づく。

 

「あれ、『架綻の片』のやつどこ行った?」

 

彼の言葉にほかのバードマン達もウルリクムミを見ると、彼の周囲にアルラウネがいなかったのだ。

 

「え、まさか死んじゃった?」

 

頑丈な紅世の王であるウルリクムミとは違い、アルラウネは自在師であることを除けば普通の徒だ。耐久力もさほど高くない彼女では落下の衝撃に耐えられなかったのも致し方ないかもしれない。

 

「違う……」

 

だがそれを否定する梟の目が蜂蜜色に光る。

 

「『厳凱』のヘルムの下………微弱だけど気配がある」

 

射貫くような梟の視線が見つけたのは、ウルリクムミの頭部に飾られた花の髪飾り。屈強な大男がつけるにはいささか似合わないそれは、アルラウネの炎と同じ色に淡く光っている。どうやら彼女はとっさに自身の姿を変えて小さくし、ウルリクムミの頭部に隠れたらしい。

ウルリクムミの纏う鎧は彼の本質の一部、避難場所としてこれほど安全なものはあるまい。

 

「なるほど、真後ろにいるよりは確かにそっちのほうが確実に守れるわな」

 

感心するように頷くヒクイドリに対し、ウルリクムミは目の前の敵に鋭い視線を向け、アルラウネと心中で会話する。

 

(アルラウネえええ、こやつらはあああ………)

 

対するアルラウネは、ウルリクムミの予想を裏付けるように答える。

 

(徒ではありません………全て『燐子』かと?)

 

目の前にいる鳥人間もどき達は、紅世の徒の忠実な下僕である『燐子』だ。しかも互いに会話しているということは、かなり高度な意思総体を持っているらしい。

 

「よっす、はじめまして元先手大将殿。悪いけどこの先はしばらく通行止めだ」

 

「旅行に出掛けたいなら、ほかの地域をおすすめするよ?」

 

明らかに見下す素振りでヒクイドリと孔雀は挑発してくる。事前にソカルも愚痴を溢していたが、確かにずいぶんと舐めた口をきくものだとウルリクムミは呆れる。

当然ながら、それに安易に乗るような彼ではない。

 

「悪いがあああ、貴様らの相手をしている暇は

ないいいい!」

 

一蹴するようにウベルリの柄の先を地面に突き立てれば、彼の足元を中心に濃紺色の火線が走り、『時を止める自在法』が拡がる。ギガントバジリスクをはじめとするモンスター退治の際に、何度か実験と練習を繰り返したウルリクムミはすでにこの自在法をものにできている。

 

ゆえになんの問題もなく発動するはずだったが、

 

 

 

パリィン!!

 

 

 

「ぬううう!?」

 

濃紺色の陽炎が周囲を包む寸前、足元の自在式が砕けた。それにより陽炎のドームは霧散して消えてしまう。

 

 

「………困るんですよね。今『封絶(それ)』を使われると、足止めの意味が無くなるので」

 

次いで頭上からかけられた声にウルリクムミが空を見上げれば、先ほどまで自分達を追いかけてきた黒い顔の鶏のバードマンが、仲間達の後方に片膝をついて着地する。

そして彼のさらにあと、ふわりともう一体のバードマンが舞い降りてきた。長く黒い髪をたなびかせ、金色の羽毛に包まれた四枚翼の、黄色いローブを纏った猛禽類のバードマン。冷徹な眼差しを持つ容姿こそあの時とは違うが、翼から舞い散る炎の色は忘れるはずがない。

 

「貴様あああ、あの時の鷹かあああ!」

 

墓地で自分たちを振り切った、あの蜂蜜色の炎の徒だ。

 

「過日は挨拶もろくにできず、真に申し訳ありませんでした。改めて自己紹介といきましょう」

 

バードマンは胸に手を当て、うやうやしくお辞儀をする。

 

「私は傀寄の装ハスター、以後お見知りおきくださいませ。巌凱ウルリクムミ様、架綻の片アルラウネ様」

 




今回登場した燐子達をざっくり紹介。

ジュノベル
緑色の孔雀のバードマン

カルバーナ
ヒクイドリのバードマン

ペスカッティ
キーウィのバードマン

アービア
白い烏のバードマン

ポロナズ
梟のバードマン

ラヴィラ
烏骨鶏のバードマン
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