棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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いまだ私の作品を楽しみにしてくださっている方がいらっしゃるようで嬉しいです(´;ω;`)


第一陣・結末

「…………んで、足止めはできたことはできたけど、現状維持のためにその場を離れられないと」

 

『平地のカナヘビ』の五感を通し、“無貌の億呟”はハスターからの報告を聞く。

 

「そうですよ………」

 

チラリと彼の背後に視線を移せば、巨大な蜂蜜色の卵が存在している。しかもそれはドーンドーンというけたたましい打撃音を響かせ、今にも何かが孵化しそうに震えている。大方ウルリクムミが脱出を試みるために卵を破壊しようとしているのだろうが、その度にハスターは袖から出した蜂蜜色の結晶を卵に投げつけ、卵の厚みと強度を増している。しかしそれも気休めにしかならないらしく、ハスターが常に卵を補強し続けなければ今にも彼らは飛び出して来ることだろう。

 

「いや~、でもあの“厳凱”相手によくそこまで出来たなお前」

 

「ほとんど運に左右されましたけどね」

 

彼の自慢の“燐子”ヒュアデス達はほとんどがかなりの損傷を負ったものの、どうにか一命は取り留めている。さすがにしばらくは戦線離脱しなければならないので、今はハスターの懐で小さなガラス細工になり眠っている。ウルリクムミとの実力差を考慮すれば、これだけの被害で済んだのは奇跡ともいえるだろう。

彼が『鋼の軍神』を相手に善戦できていたのは、一重に墓地での戦いを始めとする、彼らの基本的な強さ・技術力の事前情報があってのものだ。もし彼らと初対面で何の策もなしに挑んでいたら、一秒も持たなかったことだろう。

 

「そういえば、『とむらいの鐘』のアリバイはどうする? またエントマ達にアザトースの『声』聞かせとくか?」

 

エ・ランテルのルプスレギナを通して、『とむらいの鐘』がトブの森に向かう予定だというのはすでにアインズの耳にも入っている。片道二日の距離でいまだ到着していなければ、アインズがまた気を揉んで余計なことをするかもしれないと懸念するカナヘビに、ハスターは緩くフードを振って断る。

 

「いえ、あのあと二名を模した道具型燐子を作ってトブの森に送りましたので、そちらにアリバイ作りをさせておけば十分でしょう」

 

蜥蜴人の集落から離れた場所へ行き、適当に薬草採取を繰り返し行うだけの人形だ。少なくとも蜥蜴人との戦争中でもさして気に止められないだろう。

 

「ちなみにそちらの動きは?」

 

ハスターが自身の現状の報告を終えたところで、今度は“無貌の億粒”に現状を問う。

 

「ん~、概ね予想通りかな?」

 

 

ザンディアとカエルの『目』を通した両陣営の動きについて。

まず蜥蜴人達はすでに五部族同盟を結び、“鋭き尻尾”族の集落にてその戦力を終結しつつある。“小さき牙”族がコキュートス軍の大まかな戦力を調べ、それぞれの族長達が話し合いの末に序盤はバリケードを用いての籠城戦を検討。さらに族長のみの精鋭部隊を作ることを決定し、敵の指揮官を討つ隊と守備隊を引き付ける隊の二つに分けられた。

一方のコキュートスは蜥蜴人側の情報を集めようとする素振りは見せない。低位アンデッドに指揮官相当の存在を据える様子もなく、戦力不足からアインズに増援の進言をする素振りもなく、力押しで攻めるつもりなのが目に見える。このまま行けば、多少の犠牲は出るだろうが蜥蜴人側が勝利するのは間違いないだろう。

 

ここまではハスター達の予想通りだ。だが話し合いの最中、ニヌルタが一つだけ意外な提案をしだしたのだ。

 

 

 

 

『自身は戦士頭達とともに前線に赴き、切り込み隊長として直接指揮を下す。精鋭部隊には代わりに、族長補佐クルシュを据える』

 

 

 

 

 

「“天凍の俱”が前線の指揮を?」

 

「やっぱりお前もそこが気になる?」

 

かの大戦ではニヌルタは中央軍から戦場全体を観察し、それぞれの軍を指揮する立場にあったと聞いていた。なのに拠点に構えずわざわざ激戦地帯が多いであろう前線に出張るとはどういうつもりだろうか。

 

「『俺達』を警戒して迎え撃つ気か?」

 

「どうでしょうね………それだったら『先手大将』である“焚塵の関”のほうが得意分野だと思いますけど」

 

ハスターは実際に『先手大将』であるウルリクムミと戦ったからこそわかる。歴戦の将たる連中の強さと軍略は底知れない。ならば『とむらいの鐘』の中でも重要な指揮官の地位にあった『氷雪の大将軍』たるニヌルタが、そんな単純な配置にするとは思えない。

 

(とはいえ………変に深読みしすぎるのもかえって考えが複雑になりかねませんし、注意しなければいけませんね)

 

ふいに脳裏を過った赤いスーツ姿の悪魔に、ハスターは思わずため息をつく。

 

あとほかに変わったことがないかとカナヘビに問えば、彼は腕を組んで唸る。

 

「ん~、強いて言えば“天凍の俱”が族長連中を集めてコソコソと何かしてるくらいだな」

 

「………なんですって?」

 

それは聞き捨てならない情報だ。より詳しく説明してほしいとハスターは乞うも、カナヘビは首を振ってわからないと返す。ニヌルタは一つの家屋に族長達を招き入れると、家屋全体を自在法で覆ってしまい中の様子を覗き見れなくなってしまったのだと言う。事前にハスターから託されたジャミングの自在式で盗聴を試みたりもしたが、アルラウネが張った自在法よりも強いために何を話しているかすらわからなかった。

 

「なるほど………どうやら“天凍の俱”は自在師でもあったようですね」

 

しかも技量は間違いなくアルラウネより上だ。トーチに寄生して弱体化しているとはいえ、それだけでも戦術の幅はだいぶ広がるだろう。再び族長達と作戦会議をし直しているのは、どこかで監視している(我々)を警戒してのことだろうか? そうなると先の作戦会議の内容も嘘の可能性が高い。

 

 

 

「ま、俺らが考えてもどうしようもないしな。あとはなるようになれだ」

 

ケロッと思考を切り替えるように、カナヘビは仰向けになって大の字に寝転がる。そのなんとも無責任な言い種に、ハスターは顔があればジト目を向けていそうな視線を向ける。

 

「………貴方って、本っ当にいい加減ですよね」

 

「え~、だってしょうがないじゃん」

 

これから自分達が戦うのは、異世界で俺TUEEEEに酔いしれるエセ超人(プレイヤー)でも、ワールドアイテムを持つだけの雑種(神人)でも、面倒だが付け入る隙がある原住民(真なる竜王)でもない。かつて天罰神を相手に真っ向から戦いを挑んだ、正真正銘の強者達である。中途半端な手管で倒せるなんて欠片も想像がつかないのだから。

 

「それにぷにっとさんも言ってたじゃん。『相手の情報をとにかく収集し、奇襲でもって勝負を付ける。これが『誰でも楽々PK術』によるギルドの基本戦術である』って」

 

「…………貴方それを一度でも実践したことありましたっけ?」

 

「ぜ~んぜん無い! 一発で仕留めたほうが手っ取り早いし」

 

ケラケラと腹を抱えて笑うカナヘビに、ハスターはまるで額をピシャリと叩くような仕草で顔を袖で覆う。

 

「………ぷにっとさんが『頭おかしい』って言う気持ち、わかる気がします」

 

「そうか~?」

 

チョロチョロと地面を滑るように動き、カナヘビが近くの小さな穴に入って行く。

 

「んじゃ進展があったらまた連絡するな~」

 

「了解」

 

揺れる尻尾が穴に入るのを見届けてから、ハスターは脱力するように肩を落としてため息をつく。

 

(なんで『社長』は、こんな連中に入れ込んでいるのだろうか………?)

 

などど疑問に耽る間もなく再び鳴り響く破壊音に、補強と強化のための結晶を再び追加するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約束の日まで、あと四日。




その頃のニーガ兄様達。

ニーガ「期日までの四日間、クルシュを含めた族長一同にはこの『鍛練』をしてもらうぞ」

ザリュース「ニーガ、この『鍛練』にはどんな意味があるのだ?」

ニーガ「念のためだ」



家屋の外のカエル。

(………何やってんだあいつら?)
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