信じて送り出した階層守護者が敵の蜥蜴人にドハマリするなんて…(違)
「素晴らしいお考えです!蜥蜴人共をコキュートスが犯した敗北の罪ごと消し去るというのですね?」
アルベドは主君の名案に頬を染めて称賛し、守護者達もアインズの慈悲深い処置に感動していた。
………ただ一人を除いてだったが。
(………ハ?)
コキュートスは主の命令の意味を理解するのに数秒ほどかかった。もし彼に人間のような表情筋があれば、間が抜けたような顔をしていたことだろう。
(蜥蜴人ヲ………殲滅? アノ美シイ蜥蜴人ヲ、滅ボスダト?)
あれほどの剣を、
アインズを初めとする仲間達のさも当然のような発言に、コキュートスは困惑してしまった。
(イヤ、待テヨ………)
しかしふと考えてからコキュートスは気づく。
これは考えようによっては、チャンスではないだろうか?
誰の手も借りない。すなわち見方によっては誰にも邪魔されることなく、あの蜥蜴人と全力で戦えるということになるわけだ。念のため、コキュートスはアインズに確認をしてみる。
「アインズ様」
「なんだ?」
「本当ニ、アインズ様ハ手ヲ出サナイノデスネ?」
「無論だ。これはお前への罰なのだからな」
アインズからの言質を確かに聞き取り、コキュートスはならばと発言する。
「………デハヒトツ、オ約束クダサイマセンカ?」
「?」
ここに来ての進言に一同の視線が集まる中、コキュートスはハッキリと告げた。
「モシ仮ニ、私ガ蜥蜴人達ニ敗北シテ死亡シタ場合ハ………私ヲ蘇生シナイデイタダキタイノデス」
「………何?」
ザワッと、階層守護者達はおろかそのやり取りをそばで見ていたシモベ達にさえ動揺が走る。しかし当のコキュートスはそれを気に止めることなく、続けて言葉を発する。
「カツテデミウルゴスガ蘇生シタ時、彼ハ甦ル前ノ五日分ノ記憶ヲ失ッテイマシタ」
ここに来ていきなり過去の古傷を掘り返され、デミウルゴスはつい肩をはねさせてしまう。
「モシ仮ニ今スグ戦イ、私ガ死亡シテカラ蘇生サレタ場合ハ、此度ノ戦イノ記憶ヲ失ッテシマウト思ウノデス」
「いや、ちょっと待てコキュートス。なぜ負ける前提で考えているのだ?」
コキュートスの口振りは、まるで自身が死ぬことが確定しているようだった。慌てて質問するアインズに彼は真っ直ぐに見つめ返しながら述べる。
「此度ノ戦ニ現レタ、カノ魔法詠唱者ノ力ヲ見タウエデ、ソウ考エマシタ」
「魔法詠唱者?」
「失礼、アインズ様」
とここでアインズの疑問に答えるように、守護者達の背後から挙手する者が現れる。アトリオだ。
「実は先の戦いで、かなり特殊な力を持った蜥蜴人がいたのですが……」
アトリオ曰く、プレアデス級に匹敵する力を持つ蜥蜴人の魔法詠唱者が現れたと説明され、アインズは思わず杖を握る手に力を込める。
「なんだと………!?」
敗北前提の采配にしたとはいえ、プレアデス級に匹敵する強さを持つモンスターを倒されるなど信じられない。そして彼の脳裏を過ったのは、神人の可能性だ。できれば出現してほしくなかった強者の存在に、慎重なアインズはしばし考えてからコキュートスを向く。
「コキュートス、すまないが一度罰を取り消す。そこまで強い蜥蜴人がいるのならば、お前一人を行かせるわけにはいかない」
報告ではプレアデス級と推定されるが、もしかしたらまだ奥の手を隠している可能性もある。仮に敵の強さが100レベル級ならば、報復のためにナザリックに強襲する危険性が高いと判断し、ほとぼりが冷めるまで隠れるようにとアインズはシモベ達に命じる。アルベドを初めとする階層守護者達は主の意に頷くが、コキュートスだけは違っていた。
「ソウデスカ……」
アインズの言葉を聞いた彼は、やや落胆したように小さく呟く。だが次の瞬間、手にしていた刀を己の首筋に素早く当てた。
「!?」
「コキュートス、何をしている!?」
誰が見ても今から自分の首を斬り落とす構えのコキュートスに、アインズは慌ててガタリと玉座から立ち上がる。
「アインズ様ガカノ者トノ戦イヲ許サレナイノデアレバ、私ハコノ場デ命ヲ断チマス」
凛とした声で告げたコキュートスの言葉に、アインズは沈静化が働いてどうにか冷静に戻ってから問いかける。
「かの者とは、例の蜥蜴人のことか? なぜそこまで固執するのだ?」
「ナゼ?」
アインズとしては純粋な疑問としての言葉だったが、対するコキュートスは信じられないとでもいうような眼差しを返してきた。
「強者ト戦イ、死力ヲ尽クスノハ、戦士トシテ当然ノ欲望デハ?」
表情などないはずの蟲人の顔はしかし、何を言っているのだという疑問を浮かべている。
「彼ラトノ記憶ヲ失ワズ、戦士トシテ全力ニ戦ッタ末ニ死ニタイノデス」
「コキュートス………貴方、この期に及んでアインズ様にどれだけ醜態を晒すつもりなの?」
答えたのはアインズではなく、玉座の側に佇むアルベドだった。表情こそ無を保ってはいるものの、その目からは隠しきれない怒りが滲み出ている。声からは憤怒の色が漏れ、ギンヌンガガプを今にも握り潰しそうなほど手に力を込めている。
「無様な敗北をした挙げ句、御方の命に反し私欲を優先する………それが階層守護者の任を託される者の姿なの!? 恥を知りなさい!!」
怒鳴られ、コキュートスは不愉快そうにアルベドを睨み返す。お前は
武人ならば強者と死力を尽くして戦うのが本望というもの。少なくともコキュートスにとって、生まれて初めて胸に灯ったこの欲望は、階層守護者の役割を優先するために捨てるべきものではないという確信があった。この熱き炎に比べれば今までの『ナザリックのシモベとしての幸せ』が、とたんに薄っぺらく思えてしまうような……
(………ン?)
ここでふと、コキュートスは自身の言葉に違和感を覚えた。
階層守護者?
ナザリックのシモベ?
御方に尽くすことが至上の幸福?
なぜ自分は今まで、
「ア………!?」
バッと周囲を見渡してから、コキュートスはさらに混乱しだす。
いや、
「コキュートス?」
突然挙動不審になる配下の姿にアインズが心配そうに声をかけるが、対するコキュートスはビクリと身体を震わせた。
(………コノ者ハ、
至高の四十一人が一人、モモンガ改めアインズ・ウール・ゴウン。ナザリックの頂点に君臨するオーバーロード。
至高の四十一人。自分を初めとするナザリックのシモベ達を一から生み出した、神のごとき尊き存在。
(オカシイ………オカシイダロウ!)
ナザリック?
至高の四十一人?
自分は
そもそも自分達を一から生み出したとはどういうことだ?
アンデッドのシャルティアやオートマトンのシズならばまだわかるが、自分の種族は蟲人である。雌雄の間から卵が生まれ、そこから成長していくはずである。だがここでコキュートスは気づいた、自分には幼少期に当たる記憶がまるでないことに。物心ついたときにはすでに自身の肉体は成熟しており、自分は武人建御雷に作られたと理解していた。しかし武人建御雷の種族は半魔巨人であり、蟲人などではない。ならばどうやって自身を生み出せたというのだ。
(ナゼダ………! ナゼ私ハ今マデ、コノ『違和感』ニ気付カナカッタ!?)
ナザリック地下大墳墓・階層守護者、なぜ自分はその役割をすんなりと受け入れていた?
なぜ自分の出生に、産みの親に、この場所に、忠義に、欠片も疑問を抱かなかった?
いや、そもそも………
(私ハ………『誰』ダ………!?)
『自分』は一体、何者なのだろうか。
例えば冷たい個体から、ぬるい液体へと完全に溶けきったように。
バシャリと、『それ』は姿を変えた。
なんかここ最近、ナザリック敵対ルートネタが増えてきましたね。その影響か私の作品のアクセス数も増えてきたように感じます。
これは乗るっきゃない!(゜∇゜)قグッ