棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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前回のコキュートス

コキュ美「パパの下着と一緒に洗わないで!」

モモパパ「」


不可解な遭遇

アンデッド軍との戦いから一夜明け、蜥蜴人達は敵の増援が来るかもしれないと、交代で見張りをして警戒を怠らずにいた。ソカルが森中に監視の目を行き渡らせているものの油断はできない。

 

族長達も交代で部族の指揮と休息をとっており、特にニーガは五部族同盟の最高戦力であるため、極力魔力と体力を温存させておかなければならない。現在彼はゼンベルと仮眠をとっていた。

 

『ニヌルタ』

 

「?」

 

そんな中、眠りが浅くなる頃合いを見計らったようにソカルが遠話を繋げてきた。

 

「なんだ?」

 

寝起きで頭がぼんやりしつつ、ニーガは目を擦りながらゆっくりと上体を起こす。

 

『沼地に異変を感知しました!』

 

「……何!?」

 

だが次いで告げられたソカルの知らせに意識が覚醒した。予測はしていたが、敵の動きが思っていたより早すぎる。考えるより先に枕元に置いたフードを掴み素早く頭にかぶったニーガは、横で高いびきをかくゼンベルを揺する。

 

「ゼンベル、起きろ!」

 

「んあ?」

 

「敵襲だ!」

 

ゼンベルが目覚めるのを待つ時間も惜しいと、彼の首根っこを引っ張り家屋から出る。砦から出ればクルシュを初めとする仲間達も異変を察したらしく、居合わせた全員の視線は沼地に向けられていた。

 

「兄様!」

 

「クルシュ、状況は!?」

 

彼女が指差す方向を見れば、沼の真ん中の空間が陽炎のように歪んでいる。歪んだ場所から朱色の魔法陣が現れたのを見てニーガは眼を見開いた。

 

(あれは……!)

 

間違いない、あれは自在式だ。色は朱色でニーガとソカルの記憶にない色。青紫色、蜂蜜色、若竹色のほかにまだ未知の敵がいるのだろうか。

思考する彼らをよそに自在式から朱色の火柱が上がり始める。膨大な熱量を前に一同がそれぞれの獲物を手に構えた。

しばらくしてから炎が霧散して消えると、自在式があった場所に何かが倒れ伏している。

 

「………蟲のモンスターか?」

 

ザリュースが呟くように、その姿はライトブルーの甲殻に、背中から二本の氷柱のような突起を生やし、四本の腕を持った巨大な蟲の異形だった。

 

(あの異形は!)

 

(ソカル?)

 

(ニヌルタ、あやつです! あの蟲の異形がコキュートスなる敵将ですぞ!)

 

(!)

 

ではあれが、とニーガは鋭い視線を異形……コキュートスへと向ける。ソカルの報告によれば、彼は数名の部下達を引き連れ一度砦からいなくなったはず。自軍が全滅したために大将自ら出陣してきたのだろうか。

しかしよくよく観察していくと、ニーガは不可解な点に気付く。コキュートスはこちらを攻撃するどころか起き上がる素振りもなく、沼地にうつぶせたまま動かない。単身で乗り込んできたにしては様子がおかしい。

 

「少し様子を見てきてくれ」

 

「はい!」

 

シャースーリューも気になったようで、そばにいた戦士に指示すれば彼らは頷いて沼に足を踏み入れる。戦士達が恐る恐ると三歩分ほどの距離まで近づいた瞬間、ピクリとコキュートスの身体が動いたのを見て思わず後ずさる。

 

「ウ………ウウ……ッ」

 

僅かに声を漏らすもコキュートスの身体は再び脱力して動かなくなる。戦士の一人が手にしたこん棒で頭を軽く小突いてみるが目覚める様子はない。

 

「………気絶しているのか?」

 

戸惑いながら互いに顔をみやる戦士達だったが、ひとまず族長達に報告するために一度砦に戻った。

 

 

 

 

 

帰還した戦士達の報告を聞き、族長一同は首を傾げた。やはりおかしい、一体あの異形はなんのためにここへ来た?

どうして転移した矢先に気絶してしまったのだろうか。これでは敵陣に乗り込んできたというよりも、まるで命からがら逃げ出し力尽きたように見える。コキュートスの行動の意図はわからないが、まず彼をどうすべきかは決まった。

 

「シャースーリュー、ひとまずあれは捕虜にするぞ」

 

まずコキュートスの身柄を拘束し、可能であれば敵の情報を得たい。シャースーリュー達もその案に賛同した。ニーガはしゃがみこみ地面に軽く触れてから、遠話でソカルに命じる。

 

(ソカル、捕らえろ!)

 

(御意!)

 

コキュートスを中心に無数の枝が沼から生え、木の球体となって彼を閉じ込めた。捕虜にするにしても相手の力がどれほど強いかわからない以上、万が一覚醒して暴れだした場合の被害を考慮すると、村に連行するにはリスクが高すぎるとニーガは判断した。なのでこの場でソカルに拘束させる。

 

「お、おお………」

 

「お前、どんだけ手数あるんだよ………」

 

見るからに上位の木の魔法を見た一同が引くのを背中越しに感じるニーガに、不満そうにソカルが悪態をつく。

 

(なぜ私が貴様の魔法扱いされねばならんのだ!)

 

(仕方がないだろう)

 

ソカルとニーガが再会したのはザリュースが集落に来た日だったため、族長達を初め蜥蜴人の仲間は彼のことをいまだ知らない。とはいえ未知の敵と戦の真っ只中にある今の状況だと、ソカルのことを話せば色々とややこしくなりそうだったため、ソカルの自在法で繰り出される木はニーガの魔法ということにしている。

 

無事にコキュートスが閉じ込められたのを見届け、まず誰から見張りをするか相談しようとする族長達だったが、

 

 

「………ん?」

 

何気なく沼に視線を向けたザリュースは、根っこの檻のそばで何かが光ったのを見つけた。

 

「ザリュース?」

 

彼の反応に気づいたクルシュをよそに、光る物体に歩みよっていくザリュースは沼の底に手を伸ばして()()を掴んだ。拾い上げてみればそれは長い刀身の剣で、泥をかぶって汚れていたため沼の水で軽く洗い流す。泥の下から現れた目映い刀身は見事な業物だった。

さらによく周りを観察すれば、コキュートスを中心にするように様々な武具や衣服が沼地に散乱している。赤い鎧、刀剣、布の服等々、いずれもフロスト・ペインが霞むのではないかと思えるほど高位のアイテムばかりだ。

 

「なんだこれは?」

 

再び剣をじっくり見てみると、その刀身に見たことのない紋様が刻まれていたのにザリュースは気付いた。

 

 

 

 

『汝、天下無敵ノ幸運有レ』

 

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