棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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明けましておめでとうございます!

新年一発目、今年もよろしくお願いいたします!


涙の雪

白い息吹きとともに身体から冷気を放つコキュートスは、デミウルゴスを睨みながら背後の蜥蜴人達に声をかける。

 

「無事カ?」

 

「お前、なぜ……」

 

仲間を裏切ったという事情は聞いてはいたものの、なぜ自分達を庇ったのか。声色から滲み出る疑問にコキュートスは愚問だと告げる。

 

「マダソノ者トノ約束ガ果タサレテイナイカラナ」

 

全てが終わったあとに全力で戦う。そのためにはニーガに死んでもらっては元も子もないのだ。

 

 

「コキュートスウウウウウウウウウ!」

 

 

その姿を見たデミウルゴスは怒りに顔を歪めコキュートスに飛びかかるも、彼は武器を構えてその鋭い爪を防ぐ。

 

「貴様ぁ! この期に及んで我々の邪魔をするつもりか!?」

 

御方に刃を向けるだけでも万死に値する愚行だというのに、ましてや敵の手助けをするなど忠義に厚い悪魔の逆鱗に触れるには十分すぎた。しかしコキュートスはそんな憤激を真正面から受けてなお啖呵を切る。

 

「コノ偉大ナル戦士ヲ、我ラノ身勝手ナ振ル舞イデ失ワセル訳ニハイカヌ!!」

 

デミウルゴスが咄嗟に距離をとった瞬間に周囲の森から甲高い口笛が鳴り響き、それを合図に森の至るところからモンスターが涌き出てきた。数も種類も先ほどの悪魔達の比ではない。

 

「アウラカ……」

 

いずれもアウラの配下のモンスター達で、彼女がいるならば恐らくマーレもどこかに潜んでいるだろう。階層守護者とはいえコキュートスからすればまさに多勢に無勢、だがそんなものは逃げる理由になどならない。

 

「サセルモノカアアアアアア!!」

 

最低限の装備を手にコキュートスは今、かつて同胞だった魔軍へと独り挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………寒、い)

 

真っ赤な血とともに身体から流れ出ていく熱が、どこか他人事のように感じられる。

 

現状頼みの綱だったソカルは、自在法を受ける寸でのところで本体から切り離しダメージを軽減したらしい。さすがに致命傷には至らないだろうが、少なくともこちらのソカルの身体もかなり損傷したと見える。

そしてこれによって戦場に配備できる『碑堅陣』が弱くなってしまっている、先ほど逃げたペロロンチーノを追えなかったのが何よりの証拠だ。

 

火傷の痛みに苛まれながらもニーガは頭を回転させる。現在のウルリクムミの場所から計算するに、コキュートスが足止めしたところでもう間に合わないのは確実だ。

 

(いずれにせよ、ここが限界か……)

 

まあトーチの身体でよく粘ったほうだろう、ならばあとは第三のプランに移行するしかない。

 

「………ソカル」

 

爆炎でだいぶ身体が焼かれたものの、声帯はそこまで潰れていないようでボソリとニーガは呟く。

 

「もう、行く」

 

たったそれだけで、古き悪友は全てを察してくれたらしく、根を一本だけ伸ばしてゼンベルを軽く叩いて転ばせる。

 

「うお!?」

 

ゼンベルが転んだことで背負われていたニーガは再び地面を這いつくばる。彼はその状態で残り僅かな魔力を絞りだすと、腰までの長さがある一本の氷柱を生み出し杖代わりにして立ち上がった。

 

「なにを、している」

 

ニーガのその行動を見て、ザリュースが青ざめる。

 

「なにをしている!? ニーガ・ルールー!! そんな状態でどう戦うつもりだ!?」

 

今の彼は片手片足がボロボロに崩れかけ、魔力も残り少なく誰がどう見ても戦える状態ではない。こんな身体で挑んでももはやただの犬死にである。

 

「もうやめて兄様! 早くここから」

 

逃げようと叫ぶ妹の言葉を遮るように、残った腕でクルシュを抱き締めるニーガについ呆気に取られてしまう。

 

「兄様……!?」

 

火傷を受けてまだ間もないはずなのに、鱗に触れる彼の体温はあり得ないほど冷たい。まるで氷のような、凍えそうな冷たさだ。

 

「………この姿になって、ようやく理解できたのだと思う」

 

「え?」

 

ニーガがどこか自嘲気味に笑う。

 

「一方的に奪われ、虐げられる者の思いが」

 

 

 

 

 

 

ずっと疑問に感じていた、なぜ確かに死んだはずの自分がこのような姿になったのか。しかし今わかった。

 

きっとこれは、罰だったのだ。

 

ようやく理解できた。かつて自分を殺そうとしてきた

フレイムヘイズ達が、自身にどれほどの憎しみを抱いていたのか。

悲哀、絶望、激怒、憎悪、殺意、執念。

なるほど、確かにこれは許せない。

 

「ほんの僅かだが、彼らに謝罪する気になれたよ」

 

ニーガの呟きから感じ取れるのは、後悔と罪悪感。

 

「なにを………言って……!?」

 

ふとクルシュは自身に触れるニーガの腕が濡れていることに気づき、一瞬沼の水にまみれているのかと思った。

 

いや違う、これは沼の水じゃない。

 

ポタリポタリと、指先から滴り落ちる冷たい雫。それは汗でも血でもない。雪の塊から溢れる、熱で溶けた氷水だ。

 

「に、ニーガ!? お前………腕が!!」

 

その姿を見て仲間達の息が詰まる。

ニーガの腕が………いや、身体が溶けだしている。

 

「ニーガ! 早く治療を!!」

 

敵の呪いかとクルシュとシャース ーリューが解呪の魔法をかけようとするが、彼は拒むようにクルシュの肩を押し、一歩だけ後ずさった。

 

「いい……もう、無意味だ」

 

滲み出る諦めの色。それは自らの生死を悟った感情そのものだ。

 

「ふざけるなあ!!」

 

その姿に怒声を飛ばしたのはシャースーリューだった。

 

「お前、この戦が終われば俺を兄者と呼ぶと誓っただろうが!! それを無碍にする気か!?」

 

ニーガは何も答えず、ただ静かに微笑む。

 

「おい待て! よせニーガ!!」

 

その笑みに言い様のない恐怖を感じ、ザリュースは彼の両肩を掴み必死に言葉を出す。

 

「お前がいなくなったら“朱の瞳”族はどうなる!? お前の妹は、クルシュはどうなる!?」

 

なんでもいい、とにかく彼を引き止めなければ。混乱しそうな頭で彼の未練となりそうなことをなんとか引っ張り出すも、

 

 

「……心配は、いらない」

 

穏やかな声で小さく呟き、

 

「代わりは、見つけた」

 

残った腕で首から下がる族長の証を外しザリュースの手に握らせた。

 

「“朱の瞳”族長、ニーガ・ルールーの名のもとに宣言する。今この時より“朱の瞳”の新たなる長を、ザリュース・シャシャに託す」

 

異論は一切認めぬ。

その意味を理解し背筋が凍りついたザリュースは慌てて証を手放そうとするが、拳が凍りついて開かなくなってしまった。

 

「案ずるな。どうせ、なにもかも忘れる」

 

すると残った腕がまず落ちた。

見ればその断面は内部から黝色の炎が溢れており、蜥蜴人の形をした空っぽの氷像の中に炎を詰めたかのような異質な存在は、まるでニーガ・ルールーという殻がひび割れ、そこから別の何かが生まれようとしているようだ。

 

あれだけ瀕死の身でなぜこんなに力が溢れる?

彼は何か取り返しのつかないものを削っているのではないのだろうか?

 

「よせ! ニーガ・ルールー!!」

 

「お前はもう、戦えないんだぞ!?」

 

脳裏を過る嫌な予感に仲間達が彼を羽交い締めにしようと駆け出すが、それを邪魔するように樹木がニーガとクルシュ達を分断する。力ずくでへし折ろうとするも固い樹木は一向に曲がらない。

隙間から泣き顔を覗かせる妹と、叫ぶ仲間達に向けて、

 

 

 

 

兄はかつてないほど、美しい笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

「さらばだ、仮初めの新たなる同胞達よ。さらばだ、仮初めの我が愛しき家族達よ。願わくば全てが終わったのちに、因果の交差路でまた会おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

ひび割れた身体が弾け散り、溢れ出た黝色の吹雪が、戦場を包みこんだ。




※顕現する瞬間にアルラウネが転送してくれた封絶の自在式を使いました。なのでこれ移行の被害はなく、ニヌルタの戦いは紅世勢と時間停止対策アイテム持ちのNPC以外は認識できません。
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