棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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捏造まみれのニヌルタ様です。

コミカライズ版の描写を見ながらなんとか頭を捻りました;


天氷剣舞

遠隔視の鏡を見てアインズは目を細めた。

 

(ここで顕現するか……)

 

鏡の視界を占めるのは、黝色のブリザードが吹き荒れる陽炎の結界。ニーガ・ルールーを中心に広がったそれはまごうことなき封絶である。アインズの見立てではニーガの器の大きさから逆算するに、これだけの規模の封絶を張ることはできない。つまり彼は狭いトーチを捨てて自身の本性を顕現させたことになる。しかし遅かれ早かれ切り札を出すだろうとら思っていたが、正直ここまで粘るのは意外だった。

それほど今の人生を捨てるのを躊躇していたということかと、伝承でのみ聞いていた冷徹将軍の意外な一面に内心で驚く。

 

だがそれも一瞬の間だけで、アインズは眼窪から覗く炎を揺らして楽しそうに呟いた。

 

「では見せて貰おうか、かつての大戦で猛威を奮った『剣の舞踏』を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦場を突如吹き荒れる嵐に、戦っていたコキュートス達の動きが止まってしまう。

 

「なんだ!?」

 

状況を調べようと、翼持つ者達は一斉に飛び上がって一帯を見渡して目を見開く。

 

全てが黝色に染まる世界。

氷点下の嵐はコキュートスが守護していた第五階層にも引けをとらないほどに寒く、大自然どころか時間さえも凍りついていた。蜥蜴人達と一部の配下の動きが停止しているということは、この魔法は時間停止の類いだろうか。

 

「………」

 

それでも油断なく周囲に意識を集中させていたコキュートスはある事実に気づいた。先ほどまで確かにいたはずの彼の存在が欠落しており、一方でその存在を対価にするように別の何かが現れようとしている。

 

やがて黝色の雪を含んだ業風はある一点に集約し、巨大な一つの存在を形成していく。円形に圧縮されるつむじ風となったそれは球体の硝子壺だ。

くすんだ色合いの硝子内部を黝色の火の粉が雪のように舞う様は、さながら巨大なスノードームを彷彿とさせる一方で、壺の下半分には白い霜が張られた無数の武器が突き刺さる姿は、美しさと武骨さが不自然なほど両立している。

 

「え………?」

 

その異様を知覚したアルベドには見覚えがあった。そこに確かに存在しているはずなのに、明らかな場違い感の強い何か。これはこの世界の存在ではないが、かといって自分達のようなユグドラシルより移りきたプレイヤーともシモベとも違う。

 

「お前は………なんなの?」

 

涌き出る動揺を隠すように問いかければ、硝子壺を反響させて厳しく締まった声が答える。

 

「正直なところ、貴様らに名乗るのは甚だ不愉快極まりないことではある。だが、答えぬのも私の主義に反する」

 

ゆえにしかと覚えておけと、冷たく鋭い殺意と憤怒を溢れさせてそれは高らかに叫ぶ。

 

 

「我が名は“天凍の倶”ニヌルタ。礼儀も疑念も持たずこの地を踏み荒らす愚者どもめ、せいぜい己が蛮行を悔いながら逝け!!」

 

 

叫びを合図とするかのように内部の雪が凝固し合うと、それらは大粒の雹となり渦を巻きながら硝子壺から溢れ出る。次いで球体に刺さる無数の武器が離れ、ニヌルタの周囲を隊列を組んで浮遊し始めた。

見ようによっては黝色の吹雪を纏う鉄の帯が舞う光景は幻想的で……

 

「………綺麗」

 

未知の敵を相手にしているにも関わらず、アウラはポツリと呟いた。それほどまでに、とても美しかったのだ。

しかし美しい草花に鋭利なトゲがあるように、鮮やかな動物には毒と獰猛さがあるように、その力もただ美しいだけではない。剣の隊列は一斉に散開し、守護者達を初めとする敵に切っ先を向けて飛ぶ。機械的とまでいえるほど精密な武具の連携を前に守護者達は身を捻るか跳躍して回避するも、配下達の何体かは氷剣に貫かれてしまう。あるものは脳天を貫かれ、あるものは背後にいた味方を巻き込んで串刺され、またあるものはハリネズミのような様相となった。そして獲物を捕えた剣は血飛沫を糧にするように氷の枝を伸ばしていき、亡骸は黝色の氷の標本に包まれていく。

透明度が高く閉じ込められた中身がハッキリと見え、見る者によっては愚かな罪人を見せしめのように晒す処刑器具にも、醜い命を美しく生まれ変わらせる芸術品にも見えた。

 

「なんなのよ……これ!」

 

自分の可愛いペット達の何体かが倒されてしまった現実に、悪態をつきつつもアウラ達は回避に徹する。しかし剣に触れなければ大丈夫かと言われればそうでもないようで、降り注ぐ霜は身体の体温を奪い、呼吸するだけで体内温度が急激に下がっていく。

 

アルベド達もニーガ・ルールーの戦い方を事前に知っていたために冷気耐性アイテムをすでに装備しているが、既存の冷気耐性アイテムを装備してこれなのだ。冷気耐性など持っていないほかのシモベごときが耐えられるはずがなく、肺から芽吹いた氷結の血染華が胸を突き破って恐ろしくも艶やかに咲き誇る。

 

「このぉっ!!」

 

苛立たしげにアウラがレインアローを放ちニヌルタの頭上に降り注ぐも、ここで彼の周囲で滞空する剣が一斉に重なり合い、巨大な剣のスケイルメイルを形成してそれを弾く。

 

(なんてことだ………まるで隙がない!)

 

正に攻防一体。広範囲に及ぶ氷剣の舞踏を前に何とか打開策を絞りだそうとするデミウルゴスだったが、思考の僅かな隙を見つけたニヌルタが死角から剣を放つ。

脳天を一突き。さらにダメ押しとばかりに四方から胴体を切り刻み、最後にデミウルゴスの首が落とされた。

 

「まず一人………」

 

コキュートスから得られた情報から、ニヌルタはデミウルゴスが最も賢い敵であることを把握している。中途半端に強い敵よりも知略に長けた敵のほうが恐ろしいことを、彼はかつての経験からよく知っていた。

 

「アース・サージ! トワイライト・プラント!!」

 

もはや仲間の死に動揺する暇などない。ひとまず敵の目眩ましをしようとマーレが砂嵐で周囲を隠し、続けて魔法の木々で攻撃しようとする。

しかしこれがまずかった。繁る木々の何本かがどういうわけが術者であるマーレを襲い出したのだ。

 

「え!?」

 

全く想定になかった事態に回避が間に合わず、手足を拘束されたマーレの両手が剣で切り落とされる。必然的に杖と指輪を失う形になった彼の頭の先から股下までが縦に裂かれ、亡骸は氷の棺に包まれた。

 

「マーレ!?」

 

「ウォールズオブジェリコ!!」

 

さすがに弟の死に反応せざるを得なくなったアウラをスキルを発動してアルベドが守る。

さすがに彼女の防御力では剣を貫通させられないらしく、ニヌルタの剣が金属音を鳴らして弾かれた。不完全とはいえソカルの碑堅陣を凌いだだけのことはあると、顔があれば苛立たしげに舌打ちをしていたことだろう。

 

 

「………ぐっ!?」

 

 

しかしここでニヌルタの身体に突如、痺れと苦痛が重くのし掛かる。

 

『いまのうちに!』

 

甲高く叫ぶヴィクティムが自らを殺し、足止めのスキルを発動したのだ。コキュートスからヴィクティムの能力を聞いていたニヌルタは、広範囲に自在法を展開しつつもヴィクティムを守りながら戦っていた。しかしそれでも最後まで死なせずにいるのは難しかったようで、血混じりの雨がニヌルタに降り注ぎ剣の隊列を乱していく。

 

(随分と鈍っておられるようですな)

 

(黙れ!)

 

冗談混じりに嫌みを言うソカルを一蹴して一度操作する武具の量を調整するも、今度は地響きが轟いた。

 

「全てを砕きなさい、ガルガンチュア!!」

 




解説(捏造)

自在法『天氷剣舞』
ニヌルタの本質である『凍てつく天を伴う剣』の顕現。発動するとニヌルタを中心に黝色のブリザードが吹き荒れ、その風に乗って幾万にもおよぶ氷の武器が敵に向けて放たれる。剣から溢れる霜の結晶は敵の体温を奪い、長時間呼吸し続けると体内が凍りつく。ただしこちらはフレイムヘイズの『清めの炎』であれば十分に防ぐことは可能。
広範囲かつ強大な力に比例して高度な技術を必要とする自在法だが、大戦におけるニヌルタはアシズの護衛という立場上、常に彼のサポートを受けた状態で戦っていた。
その姿は『とむらいの鐘』の“徒”からは『大天使の神業を彩る美しき宝剣』と称えられる一方で、敵対するフレイムヘイズ達からは『冷酷な死をもたらす豪雪の魔剣』と恐れられていたという。

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