棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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それぞれの現状

その後、負傷者の手当てが一段落ついてから、ウルリクムミとアルラウネは族長の屋敷に招かれた。村の危機に救いの手を差しのべてくれた冒険者に、蜥蜴人達を代表してシャースーリューが深々と頭を下げる。

 

「まずは、我々の仲間を助けていただき感謝する」

 

「礼には及ばぬううう。たまたま通りがかった身の上だあああ」

 

ニーガ・ルールーはこの森から出たことがないので、『とむらいの鐘』の二人とは初対面ということになっている。あの時結界が張られていた間、停止していた者達は全て修復したしニヌルタ達のことを認識していないはずなので、偶然依頼で森に来たという口実で戦場に乱入したと、上手く話をまとめることができたのだった。

 

「族長! ニーガ殿が眼を覚ましました!!」

 

そこへ“緑の爪”の戦士頭が駆け込んできた。

 

「本当か!?」

 

ニーガのトーチが復元されてから、一応ウルリクムミ達は彼の身体に異常がないことを確認しているので特に驚きはない。しかし詳しい事情を知らないシャースーリュ達はそういうわけにいかず、彼は一度咳払いしてから立ち上がる。

 

「すまない、少し席を外す」

 

そう言って家屋から出ていく彼の後ろ姿から、仲間に対する義憤が滲み出ていたのは二人にも察せられ、尻尾に至っては先ほどからバシバシと床を叩いていた。

 

現在の彼がいい仲間に恵まれていることに安堵しつつ、二人は改めてニヌルタが眠りについたあとのことを思い出す。

 

(それにしても……あれは一体?)

 

ニヌルタの身体が雪となって散ったかと思えば、雪が小さく固まり彼らの目の前でトーチの姿に戻った。トーチは消えたら跡形もなくなるはずなのに、なぜ彼らは一度間違いなく消えたニーガ・ルールーのことを覚えているのだろうか。

 

そもそも根本的な話、一度死んだ自分達はなぜこの世界で甦ったのだろう?

 

件のコキュートスなる蟲から事情を聞こうともしたが、いつの間にか逃げられていたのか影も形も見えない。ナザリックの追撃を警戒しソカルに周辺の監視を続けさせてはいるものの、彼らも慎重になったのかトブの大森林から全軍を引き払っていた。

 

できればこのまま何事もなく終わってくれればいいが…。

 

そう祈るウルリクムミは、遠くで誰かが殴られる音を聞きながら夕焼け空を眺めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トブの大森林から離れた平原にて、コキュートスは息を切らして走る。しかしその行く手を青紫色の炎が遮り、やむなく彼は足に力を入れ急ブレーキをかけたのだった。

 

「………マダ来ルカ」

 

爆炎からチラホラと舞い散る火の粉が集まり束ね、複数の異形の群れとなり、それぞれがむき出しの敵意でコキュートスを包囲する。その中にはアトリオもいた。

 

「当然でしょう?至高の御方のご厚意をドブに投げ捨てた反逆者を、生かしておくわけにはいきません」

 

感情の読めない無機質な眼差しでウスバカゲロウは淡々と告げる。その至高の御方を怪しげな術で眠らせた癖に、いけしゃあしゃあとはこのことだとコキュートスは春雷を握る手に力を込める。

 

「今ダカラ気ヅケタ。私ノ配下ニオ前ノヨウナモノハ存在シナイ」

 

思い起こせばコキュートスの配下はおろか、ナザリックにこんな下僕はいなかったはずだ。

冷淡にも見えるし、激情家にも見えるし、傲慢にも見えるし、謙虚にも見えるし、狡猾にも見えるし、愚者にも見える。あやふやで印象を統一できない、砂塵のような異形達。

そう、よくよく考えてみればおかしな話だったのだ。なのに自分を含めたナザリックの面々は何の疑問もなく彼を受け入れていた。

しかし自分は、この男をどこかで見たことがある。いつだっただろうかと記憶を紐解いてみると、コキュートスの脳裏をある人物のシルエットが過る。

 

「弐式炎雷様……」

 

ボソリと呟いた瞬間、ピクリとアトリオの肩がはねた。その反応にやはりとコキュートスは既視感の正体に気づく。この者の存在の質は、武人建御雷(ザトガ)の親友だった弐式炎雷によく似ているのだ。

 

「………イヤ、違ウナ」

 

だが、()()()()()()()

 

「お前は弐式様であって弐式様ではない」

 

ザトガにとっての弐式炎雷はただ一人だけ、このアトリオ達は弐式炎雷と同じであるが全くの別人である。なんとなくではあったが、コキュートスにはそう確信が持てた。

 

「………はあ。余計なとこだけ親に似やがって」

 

対するアトリオは右手で顔を覆いため息をつき、ドスの効いた声で静かに呟く。そうするとあやふやだった彼の存在が、ほんの一瞬だけ固まったように見えた。

 

「いいからさっさと死ねよ」

 

目障りだと言わんばかりにコキュートスに切っ先を向ける彼に、コキュートスも春雷を構えて向き直る。

 

「生憎ダガ、マダ私ハ死ネン」

 

自分はまだまだ弱い。あの頂きまで這い上がり、今度こそ全力で戦ってみせる。ゆえにこんなところで死ぬなどもってのほかだ。

 

『主、私にお任せを』

 

すると春雷が淡く光り出して自在式を起動しだした。だがそれを許すアトリオではなく、彼は目にも止まらぬスピードでコキュートスの背後に回る。

 

狙うは首ーーー神速の一閃がコキュートスの頭を呆気なく落とした………かに見えた。

刀身が信じられないほど脆い手応えを感じたかと思えば、なんとコキュートスの身体が粉々になり、砕けた身体が無数の朱色の短剣に変わったのだ。

 

「なに!?」

 

身の危険を感じたアトリオはバックステップして持ち前の素早い身のこなしで短剣を躱すが、短剣は四方にばらまかれるように飛ぶので、さほど速くない『自分達』はそれを避けられず青紫色の砂塵となって崩れていく。

ここでアトリオは春雷の特性に気づいた。

 

「自在法演算………『ヒュアデス』達と同じか!」

 

限られた自在法を素早く構築できる“燐子”。

これが“皇宝の剣”の置き土産だったわけか。

 

 

たくさんの『自分達』が切り刻まれ、青紫色の炎が朱色に上書きされていくのを横目に見ながらアトリオは回避に徹する。最後の短剣を避けてから周囲を見やれば、辺りには誰もいなくなっていた。おそらくコキュートスは春雷の助力で遠くへ逃げのびたのだろう。

 

「………これで俺に勝ったつもりかよ? 建やん」

 

殺意を滲ませるアトリオだったが、そこへ連絡要因として付近に忍ばせていたカナヘビが待ったをかけられた。

 

「おい落ち着けアトリオ、()()()()()()()()()

 

「………」

 

その一声にアトリオは冷静さを取り戻したのか、何度か深呼吸してから朱色から目を逸らすように空を仰ぐ。

いけない。『私』はこうであってはならないのに。『私』は定まりを持たぬもの。姿も、気質も、力も、知性も、バラバラでなくてはならないのだ。

 

ゆえに一つの()に執着してはいけない。

ゆえに一つの()に固定してはならない。

 

そう、それが『私』達という存在なのだから。

 

 

 




春雷はもともと『防御系スキルの効果をダウンさせてダメージを与える』って効果のたっちさんキラーアイテムとして完成させる予定だったのですが、ユグドラシル引退前にもしコキュートスが自立したら『敵の自在法を解析する“燐子”』として生まれ変わるように改造されていました。

青紫さんは基本的にあらゆる攻撃を無効化できますが、ある特定の条件を満たすと攻撃が通るようになります。
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