棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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これにてニヌルタ編は終わりです。


それぞれの現状~ナザリック~

「そうか、逃げられたか」

 

アトリオの遠話による報告を聞き、アインズは玉座に背を預けてため息をつく。

すでにユグドラシルのシステムから逸脱し、完全なる一つの存在となったコキュートスは、自在法を覚えたてでまだ勝手がわからないだろう。ゆえに武人建御雷はその未熟さを補うべく、自在法の補助機能を備えた“燐子”を残したわけか。

『とむらいの鐘』とはまた違った種類の敵が出現したことに、アインズは仲間の仕事がさらに増えてしまうことに内心で謝罪する。

 

だが思考を切り替えるように青紫色の灯を瞬かせ、玉座から立ち上がった。

 

「さて………」

 

まず指輪で第六階層に転移し、デミウルゴス達の作業場である牧場に赴く。目指すのはその中の一つ、『焔両脚羊』と名付けられた人間が隔離されている天幕で、布をめくって中に入ると質素で小汚なかった家畜小屋はちゃんとした部屋に模様替えされていた。乾し草が撒かれていただけの床はシンプルながらも清潔感のあるカーペットが敷かれ、テーブルに椅子にベッドと最低限の家具が配置されている。裸一貫だった色白の身体も今はきれいな衣服に身を包み、おどおどと落ち着かない様子で椅子に座って震えている。思った通りデミウルゴスはモモンガの言葉を深読みし、羊を丁寧に扱っているようだ。

 

「いやあああああ!!」

 

しかし羊の少女はアインズの姿を視界に入れたとたん、恐怖に顔を歪めて叫ぶ。

 

「もうやめて! 許して!」

 

錯乱して泣きじゃくる姿はこれまでの仕打ちを考えれば当然の反応だが、アインズは淡々とした口調で答えた。

 

 

 

 

 

 

「ここには私と君しかいない。だからそんな下手な芝居をしなくて大丈夫だ、『傷の贈り手』ウィーラよ」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

すると少女はそれまでの発狂が嘘のように落ち着き、姿勢を正して椅子に座り直す。そして少女とは思えない老成した微笑みを浮かべてアインズを見つめる。

 

「私のことをご存知でしたか。見たところお若い“徒”の方とお見受けしましたが……」

 

上品な口調と物腰は一国の姫君を思わせる気品に溢れ、とても先ほどまでの弱々しい少女と同一人物とは思えない。

 

「君の武功はそれほど広く知れ渡っているということさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『棺の織手』を初めとする最古のフレイムヘイズが軌道に乗りだしてから、続けて生まれた第二世代と呼ばれるフレイムヘイズがいた。

“精命の乱雲”プリューシャのフレイムヘイズ、『傷の贈り手』ウィーラ。『偽装の駆り手』に続く古参のフレイムヘイズとして名高かった彼女はその中でも屈指の強さを持つとされていた。なにせあの『とむらいの鐘』と幾度も死闘を繰り広げてきた、歴戦の強者という話なのだ。

 

「噂ではかの大戦で死んだと聞いていたが、どうやってこの世界に来たのかね?」

 

「さあ? 私にもなにがなにやら」

 

探るように問うアインズにウィーラは困ったように小首を傾げる。

自身の命が潰えたと思ってしばらくして見知らぬ草原で目覚めたという彼女は、人里を探して彷徨っていたところをあの悪魔達に捕まったとのことだ。

いく当てもないしこの場所の情報も欲しかったので、か弱い人間を装っていたところ、彼らから少々刺激的な歓迎を受けたと語る。はぐらかしているのではなく本当にわからないらしい。

 

「ほう、あれを刺激的と述べるか」

 

「私の時代では日常茶飯事でしたからね」

 

クスクスと笑いながらあっけらかんと答えるウィーラにアインズは呆れる。さすがは古参のフレイムヘイズ、あの程度の拷問では心も折れないか。

 

「それで、君はこれからどうするつもりだ?」

 

「そのことなのですが、もうこちらで知れる情報もなさそうなので、そろそろおいとましようかと思いまして」

 

「それは困るな」

 

予想通りの返答にわざとらしく肩を竦める。だが『とむらいの鐘』の宿敵の一人を、力ずくで従えるなど不可能だろうともアインズは理解している。このまま戦ったところで間違いなく被害は出る、ゆえにアインズは別のアプローチにうって出ることにした。

 

「では一つ条件を出そう」

 

そしてウィーラの隣に歩み寄り、内緒話でもするかのように彼女の耳元で囁く。

 

 

「ーーーー」

 

 

その言葉の内容を理解したとたん、ウィーラは金縛りにでもあったかのように硬直する。

 

「……それは本当なのですか?」

 

口元にうっすらと笑みを浮かべているが、両目は瞳孔が開かれ瞬きをしない。もし偽りであれば容赦しない。そう言外に込めた気迫を前に、アインズはふふふと楽しそうに笑みを溢す。

 

「私の『目』を通して確認したのだ、間違いないさ」

 

「………わかりました」

 

静かに頷く彼女を見届けたアインズは天幕から出ていき、彼の足音が遠ざかるのを確認してからウィーラは狂ったように笑いだす。

 

「………あは、あはははは!」

 

そして椅子から立ち上がると勢いをつけてベッドにダイブした。

 

「ああ、貴方様もこちらにいらしたとは! やはり私達は死してなお、運命の糸で繋がっているのですね!」

 

枕を抱き締めてゴロゴロと転がる姿は恋する少女のように微笑ましく見える。実際そうなのだろう、うっとりと頬を赤く染める彼女は円熟した雰囲気が鳴りを潜め、見た目相応の少女のそれに変じている。

 

 

 

 

「早くお会いしたいですわ………イルヤンカ様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、伝言でシモベ達に「今後蜥蜴人の集落にも『とむらいの鐘』の二人にも一切手出しをするな」と厳命し、ようやくアインズは一息ついた。

 

「モモンガよ、お前は今どんな夢を見ているのだろうな」

 

玉座に腰を下ろし、自身の胸で輝く青紫色の宝玉を優しく撫でながら呟く。

嘲笑と慈しみが両立する眼差しで見下ろした先には、宝玉の中で胎児のように丸くなり眠るモモンガの姿があった。

 

「なに、安心したまえ。お前よりも『私』達のほうが、アレらを上手く使ってやるさ」

 

ではよい夢を。最後に小さく囁けば、モモンガの肩がわずかに動いたように見えるのだった。




捕捉

というわけで羊さんの正体は、オリキャラのフレイムヘイズさんでした。
結局デミがどう深読みしたのかをざっくり説明すると、

今まで悪魔から拷問受けて心身ともに絶望したところで、アインズ様が飴を与えることでアインズ様が慈悲深いお方だと刷り込ませる。

少しずつ洗脳して皮剥ぎに協力的にさせる。

というプランだったみたいです。




そして本物モモンガさんは現在青紫さんのアインズ玉(青紫)に閉じ込められて眠っております。
実は最初のプロットでは意識は覚醒していて、「クソがあ!!」させてから青紫さんに煽られまくるって感じだったのですが、もうちょっと熟成させたほうが旨味が増すかなと思って保留にしました。


蜥蜴人編はこれにて一区切りとなります。では、因果の交差路でまたお会いしましょう。
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