棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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原作と同じ箇所は省いていきます


初陣

遠隔視の鏡(ミラーオブビューイング)で周囲の様子を見ていたモモンガは、ある場面で鏡の映像を止めた。鎧を着た集団が、無数の植物の枝に襲われていたのだ。枝の先は鋭い爪や獣の顎の形に変質し、顎で腕を喰いちぎり爪でズタズタに切り裂くなど騎士達に猛威を奮っている。彼らが抵抗虚しく一人また一人と惨殺されていく様を、モモンガは至って冷静に観察していた。

 

(動く植物か。これはトレントの仕業だろうか?)

 

未知のモンスターに静観しようとしたモモンガだったが、隣に立つセバスが助けないのかと問いかける。モモンガとしては別に興味なかったし、メリットがあるとも思えない。だがセバスはそうもいかなかったようで、真っ直ぐな眼差しで主に諭していく。その姿に彼の創造主であるたっち・みーの面影を重ねたモモンガは、情報収集という建前で襲われている人間達を助けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

(用心のために現断(リアリティ・スラッシュ)を使ってみたけど、効いてるのか効いてないのかいまいちわからないな)

 

眼下の細切れにされた木々を観察しながら、モモンガは小首を傾げて考える。刃は全て当たったはずなのだが、切られた枝の下からは新しい木々が次々と生えてきていたからだ。

 

「モモンガ様。あのような雑草、御方が手を下すまでもありません。私におまかせを」

 

その植物を忌々しげに見るアルベドは、準備運動をするようにバルディッシュを振り回している。

 

「まあ待てアルベド、HPが表示されないということはレイドボスの可能性もある。ここは慎重に行動せよ」

 

「はっ」

 

全体飛行(マスフライ)を解いて地面に降り立つ二人を迎えるように、やや太い樹木からソカルの顔がまた浮かび上がる。

 

「まだ伏兵がいたか………!」

 

ソカルが声を発したことにモモンガは少しだけ驚く。

 

(知性があるのか?)

 

しかもソカルはこちらにも理解できる言語で会話している。ある程度強く知性を持つトレントという珍しい個体を前に、モモンガのコレクター魂が少しだけ揺れ動いた。

 

「アルベド、スキルを発動して私を守れ」

 

「はっ!」

 

とはいえ強さがわからない以上は捕獲など難しい。攻撃はアルベドに防がせ、ある程度ダメージを与えてみて様子を見てみることにする。

まず繰り出してきた枝の槍は、モモンガの前に立つアルベドに向かってくる。彼女はバルディッシュを振りかざして向かってくる枝を切り落としていくが、枝は思いのほか速く何本かは彼女の鎧に当たる。

しかし守護者最硬度を誇るアルベドにそんな攻撃が効くはずもなく、漆黒の鎧が枝を全て弾いた。

 

「む?」

 

ソカルはアルベドの固さに若干驚き、警戒してか枝を引っ込ませて様子を見る。対するモモンガもソカルの攻撃を観察して相手の戦力を考察した。

 

(アルベドにダメージが通らなかったということは、攻撃力はそこまで高くはないか。だが素早さは向こうのほうが上だな)

 

何せタンクのアルベドは守護者の中では二番目に遅いので、ソカルの攻撃を全て捌ききるのは難しいだろうが、向こうの攻撃がきかない以上はそこまで重要ではない、ここままアルベドに敵のヘイトを引き付けてもらえればモモンガが倒せるはず。

 

「攻撃は私が請け負う。アルベド、お前はそのまま防御に専念しろ。なるべくギリギリまで体力を削るぞ」

 

「かしこまりました」

 

言われるがまま、アルベドは防御に専念すべくスキルを発動しようとする。だが次の瞬間、アルベドの足元から石の根っこが生えてきた。

 

「!?」

 

「アルベド!?」

 

根っこはアルベドの周囲を取り巻くと、彼女の姿が見えなくなるくらい固く分厚く覆い始める。一瞬の間にアルベドは木の根でできた巨大なボールに閉じ込められてしまった。

 

「これで守り手はいなくなった………!」

 

したり顔を幹に浮かべるソカルは今度はモモンガに向けて枝の突きを繰り出してくる。モモンガは咄嗟に飛行(フライ)を唱えてソカルの攻撃から逃れようとするも、枝はどこまでも伸びてモモンガを追いかけてくる。

一目見ただけでアルベドの能力と役割を見抜き、必要最低限の手段で彼女の無力化をなし得たこのトレントはかなり賢いようだ。モモンガは改めて警戒レベルをあげ、空中で躱しながらも冷静に戦況を把握する。アルベドは閉じ込められてしまったが、彼女の防御力を考えれば倒されることはないはず。現に木のボールをちらりと見れば、グラグラ揺れながら振動音が鳴る度に拘束する枝がさらに重ねて覆い被さる。アルベドが脱出するのも時間の問題だろうと判断し、モモンガは少しでもソカルの注意を引くべく次の一手を仕掛ける。

 

獄炎(ヘルフレイム)!」

 

指先に灯る黒い火が迫りくる枝に付着した瞬間、導火線のように全ての木々に燃え広がった。

 

「ああああああああ!?」

 

苦痛の悲鳴をあげるソカルを見て、どうやら第七位階でも十分効果はあるらしいことをモモンガは確信する。

そして

 

「小癪なあああああ!!」

 

反撃された怒りのままに、地鳴りを響かせて地中から一際大きな樹木が現れた。

 

(あれが本体か?)

 

それを見てモモンガは再び生命の精髄(ライフ・エッセンス)で確認すると、今度はちゃんとHPが表記されている。全体のうち三割が減っている数値から察するに、レベル70に相当すると思われる。そう思ったモモンガはソカルのHPをさらに削るべく中堅ぐらいの魔法を仕掛けた。

 

「ナパーム」

 

これでHPの半分ほどを削り、後は低めの魔法で残りダメージを微調整しようと思うモモンガだったが、ソカルを中心に上がる火柱が激しく燃え上がっていく。

 

「ぎゃあああああああああ!!」

 

「は?」

 

断末魔の叫びをあげると同時に一気に減りはじめるHP。ソカルを包む業火は赤から黄土色に変色していき、巨木は薪の如く黒く小さく萎み、数値が0になる頃にはその場から消えてしまったのだった。

 

「………え、今ので死んだの? マジで?」

 

そこまで強くしたつもりはないはずなんだが。なんだか腑に落ちないモモンガは念のために敵感知(センス・エネミー)で周囲を確認するが、やはり敵の反応はない。できれば瀕死にしてナザリックに回収するつもりだったのに、もったいないことをしてしまったと、コレクターとしての気持ちから内心で落ち込んでいると、アルベドを拘束していたボールも黄土色の火の粉となって消えていった。

 

「モモンガ様! ご無事ですか!?」

 

「ああアルベド、見ての通り敵は倒せた」

 

慌てて駆け寄るアルベドに優しく声をかけるモモンガだったが、彼女は安堵と同時に不覚を取った悔しさと自身の不甲斐なさに身を震わせる。

 

「御方の危機に肝心なところで役に立たないなど………私は守護者統括失格です! かくなるうえは、この命で償います!」

 

「よい、お前の全てを許そう」

 

手にするバルディッシュで自らの首を斬ろうとするアルベドを止めるように、モモンガは彼女の肩に手を置いた。

 

「さてと………」

 

そしてモモンガは、いまだしゃがみこんでいる陽光聖典に向き直った。

 

「はじめまして。最初に言っておくが、私は無償で君たちを助けたわけではない。見返りとして、このあたりの情報を教えてくれるかね?」

 

堂々とした、しかしなるべく威圧的にならない程度の態度で彼らと対話しようとするが、陽光聖典達はそれが合図になったかのように、モモンガに向けて突然しゃがみこんだ体勢のまま額を地べたに擦りつけた。

 

『救済の御手に、心よりの感謝を捧げます! 死の神スルシャーナ様!!』

 

 

 

「………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やれやれ、思いのほか厄介な相手だったな)

 

モモンガの炎に焼かれて、あえなく燃え尽きたかと思われるていたソカルだったが、現在はその身体は最初と変わらず森の中にいた。

 

(『極光の射手』から受けた敗北が、このような形で役に立つとはな)

 

ソカルの自在法『碑堅陣』は、自分自身を中核にして周囲に強固な石の森を広げる防御陣だ。形成された石の木々は軍隊規模の敵の殲滅にもは勿論、味方の援護にも最適と攻防一体の強力な力で、ソカルはかつての大戦でもこの自在法と持ち前の優れた戦運びで自軍の勝利に貢献していた。そんなソカルだったが生涯で一度だけ敗北したことがあり、それが自身の死に直結してしまった。

『極光の射手』カール・ベルワルド。空中からの高速戦闘と高い攻撃力の狙撃を誇る彼の自在法に対し、ソカルの性格と自在法は相性が悪かった。ソカルは敬愛してやまない主を侮辱されたことで冷静さを失ってしまい、さらにはカールの部隊が劣勢になって油断したこともあり、不用意にも敵の眼前に本体を曝してしまい、そのまま討滅されてしまった。

 

しかし今回の戦いでは、その苦い経験を利用させてもらった。

まずソカルは自らの本体を眠らせて、意識の一部を小規模の『碑堅陣』に移した。そしてある程度敵の戦力を観察してから、地中に作って置いた『一際大きな“存在の力”持つ樹木型の“燐子”』を地中から晒したのだ。それを見てソカルの本体が現れたと思い込んだ敵が、攻撃を開始した瞬間に“燐子”を破壊。同じタイミングで『碑堅陣』を解除すれば、あたかもソカルはその場で倒されたかのように偽装できるというわけである。念のために本体の“存在の力”を可能な限り薄めて敵に感知されないように努めたが、どうやら気付かれずにすんだらしい。トーチに寄生していたのも功を奏したようだ。

改めて敵が追ってきて来ないのを確認すると、先ほどのモモンガとアルベドの戦力を分析する。

 

(観察した限り、あの女戦士のほうは大したことはない)

 

小手調べ用とはいえ、『碑堅陣』を防ぐほどの固さは確かに厄介だ。だが根の檻に閉じ込めたあとの彼女の戦い方を見て、ソカルはあることに気づいた。アルベドは口汚く罵りながら斧を乱暴に振り回して脱出を図っていたが、ソカルの目から見るとあまり頭のいい戦い方とは思えない。自分が同じ立場ならば、まず拘束するものの性質を見極めてからいくつかの攻撃パターンを試してみる。しかしアルベドは怒りに我を忘れて、バカの一つ覚えのように攻撃するだけでパターンを変えてはいなかった。力任せにやれば絶対に脱出できるはずと信じて疑わないその行動は、まるでそれしか戦い方を知らないようだ。

 

(同格以上との戦い方を想定していない………というよりは経験がないのか?)

 

ソカル自身も思い当たることがあるために、なんとなくそんな気がした。あの女は力が強いクセに………いや、あるいは強いからこそ弱者以外との戦闘経験が少ないのかもしれない。それならばまだ付け入る隙はありそうだ。

 

(問題は、あの骨の異形か)

 

アルベドと違い、モモンガは明らかに()()()()()()()。冷静な判断力、相手のだいたいの戦力を見極めて力を温存しつつ、適切な自在法を使い分ける分析力、さらにはあの強大な力。総合的な戦闘力だけならば“紅世の王”に匹敵する力を秘めているに違いない。

 

(まあ、アシズ様の足元にも及ばんだろうがな)

 

内心で偉大なる主を称える出汁にしつつ、ソカルは森を見渡した。

 

(さて、そろそろ()()()の片付けも済ませねばな)




その時のアルベド

アルベド「クソがああああああああ!! 雑草の分際で私を閉じ込めるたあいい度胸してんじゃねえかゴラア!!!! こんなところにいたらモモンガ様に私の活躍を見せられねえだろうがあ!! さっさとここから出せや!! 出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せええええええええええ!!!!」バルディッシュぶんまわしながら


ソカル(ええ………)(引)

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