棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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新章、そして久々のアシズ様パート!

ついに彼女が現れます!


リユニオン~再会~
小都市に来た女


その日、ロイツに向けて一台の幌馬車が走っていた。年季の入ったごくごくありふれた馬車に乗っているのは、ほとんどが商人や農民ばかりであるが、通常こういった道は途中で厄介なモンスターが出ることが多いため、冒険者を護衛に雇うものだ。しかし現在その馬車に乗っている人間の中には冒険者はおらず、それどころか護身用の武器の類いも見当たらない。ハッキリ言って無防備としか思えない様だというのに、彼らも馬車も無傷である。

 

馬車が目的地であるロイツの城壁の前に止まると、人がぞろぞろと降りていく。

 

「ありがとうよ姉ちゃん」

 

「お嬢ちゃんのおかげでモンスターに襲われずにすんだ」

 

笑顔で振り返る彼らが感謝を述べるのは、最後に降りてきた修道女と思われる女性で、彼女はそれに優しく微笑み返す。

 

「いえいえ、困った時はお互いさまです」

 

というのも道中彼らが無傷だったのは彼女が魔法で結界を張ってくれていたのおかげで、長時間それを維持した技術と魔力の高さを考慮すれば修道女がかなり優秀な魔法詠唱者だと理解できる。

 

 

 

 

検問所で手続きをとる人々をよそに修道女はロイツを守る城壁を見上げる。

人々にはなんの変哲もない普通の壁にしか見えていなかったが、彼女の目には青い水晶の結界が重なるように小都市全体を覆っているのが見えていた。

 

間違いない、この青色を自分は知っている。

 

高鳴る心臓を押さえるように、少女は胸の前で両手を組んで小さく呟いた。

 

「………アシズ様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キース殿、これで全部だろうか?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

そろそろ真昼に差し掛かる頃、アシズは洗濯したシーツを療養所の庭に全て干し終わったところだった。

ここ最近は特に悪い夢を見ずに気持ちよく目を覚ませたので、アシズは心身ともにリラックスできており、シャナも精神的に落ち着いてきたのか半日は留守を任せても大丈夫になった。アシズとしてもこれは喜ばしい話である。

この都市に住んでからそこそこの日が経ったように思うが、素性を隠しているとはいえここまで人間に混じって過ごすのはアシズとしても珍しいことである。

このまま穏やかな日々を生きるのも、悪くないのかもしれない。シャナがシーツの隙間を縫うように駆け回る姿を眺めながら、アシズは口元に微笑を浮かべる。

 

だがここでふと違和感を覚えた。

 

「………?」

 

周囲を見渡しても違和感の正体はわからず、ならばと感覚を研ぎ澄ませてみれば結界の一部に孔が開いていることに気づく。

 

「!?」

 

自身が仕込んでおいた自在法を強引に破るのではなく、一部を弄って短時間だけ道を作る。

こんなことは自身と同等の自在師でもない限りは無理なはず。

 

(まさか例の悪魔達か……?)

 

アシズにしか感知できない非常事態に目を鋭くさせ、療養所に一度視線を向ける。ここにはかの悪魔達に虐げられていた人々が、いまだ心の傷を癒すべく安息を過ごしている。やっと彼らの心が癒えてきたところなのに、またあのような生き地獄を味わせるつもりならば許すわけにはいかない。

 

「……キース殿、少し出掛けてきていいだろうか?」

 

「え? それは構いませんけど」

 

表面上は平静を繕いながらキース医師に確認すれば、戸惑いながらも頷いてくれた。立ち止まったシャナが不安そうに見上げてくるので、彼女の前に片膝をついて目線を合わせて笑顔で返す。

 

「すぐに戻ってくる。良い子で待っててくれ」

 

「うん……」

 

それにシャナも僅かながら笑みで返すのを見届けてから、アシズはその場から駆け出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気配を辿ってきてみれば、どうやら侵入者は堂々と検問所から入ってきたらしく、念のため物陰から付近を覗いてみると見慣れない人々が都市に入ってくるのが見えた。身なりや積み荷の多さから考えるに行商人だろうか。少なくともアシズの視界に入る人々は全て人間に違いないだろうが、自在法あるいは魔法で気配を誤魔化している可能性もある。怪しい人物がいないか注意深く一人一人の顔を確認していたアシズだったが、

 

 

 

 

 

チラリと、人混みの中から見慣れた青色が見えた瞬間にヒュッと息が詰まり、金縛りにあったかのようにその場から動けなくなってしまった。

額から後頭部を一週する金環を頂く、修道女の装いをした青い少女。

 

(………なぜ!?)

 

その姿をハッキリと認識した瞬間、アシズの瞳孔が見開き身体がカタカタと震える。みまごうはずがない。彼女は……

 

 

 

「アシズさーん!」

 

だがそこへ大声で自身の名を呼ばれ、ビクリとアシズの肩がハネる。バッと振り返ってみれば手を振ってこちらに駆け寄ってくるノゼルの姿があった。

 

「こんなところにいたんすね! 今ちょうど療養所に向かっていたんですけど、なにしモゴ!?

 

アシズの心中など知るよしもないノゼルは、いつも通りの明るい口調と声量で彼に話しかけるも、対するアシズは今の声で彼女に見つかることを恐れ、思わず乱暴にその口を塞いでしまった。

 

「も、ムググ!?(なんすか急に!?)」

 

「頼む! 少し黙っててくれ!!」

 

必死な形相を浮かべてノゼルの顔を片手で鷲掴むアシズ。いつも穏やかな雰囲気と笑みを絶やさない、慈悲深さを体現したような男の狼狽えぶりにノゼルはただただ困惑するばかりだ。

 

だがもう遅かった。

 

 

 

 

 

 

「アシズ………様……?」

 

「!?」

 

背後からかけられる覚えのある声に、アシズの心臓が大きく脈打つ。恐る恐る振り返ってみれば、そこには先ほどの青い少女が、両目を見開きアシズを見つめて立ち尽くしていた。

 

 

 

『棺の織手』ティス。彼の、最愛の女性が。

 

 

 

「っ………!」

 

 

 

アシズの呼吸が止まり、はくはくと唇が痙攣しブワリと冷や汗が吹き出す。

対するティスの目尻には涙が浮かび、泣き出しそうにしながらも彼女はそれ以上に嬉しそうに微笑む。ティスの記憶の中のアシズとは姿が全く違う………いや、そもそも彼女が存命の間は神器越しに会話していたので彼の本来の姿など知りえないはずなのだが、それでもティスは目の前のこの男が誰よりも愛した男であると確信できた。

 

「アシズ様!!」

 

歓喜に沸き立つ心を押さえながらも、ティスはアシズに手を伸ばす。

 

 

「ーーーーーー!!!!」

 

 

だがアシズはあろうことか、思わずその手を払ってしまうのだった。

 

 

 

「え………?」

 

愛する男からの全く予想だにしていなかった拒絶、その事実にティスの目が驚愕に見開かれる。それが合図になったかのように、アシズはその場から逃げるように走りだした。

 

「アシズさん!?」

 

「アシズ様!」

 

二人の制止の言葉を背後に聞きながら、人混みに紛れようと大通りに向けて全力で駆け出す。その様はまるで怪物から逃げる無力な人間のようで、アシズがこの小都市でそこそこ有名になっていたこともあって道行く人々は思わず振り返る。

 

早く、早く逃げなければ。

 

走っている最中にポケットから何かが落ちたような気がするが、構っていられなかった。

 

 

 

 

「………アシズさん、どうしちまったんだろ?」

 

日頃世話になっている男のただならぬ様子に、ノゼルはわけがわからないと小首を傾げる。しかし彼が不審な行動をした原因そのものはなんとなく察せられ、チラリと隣に視線を向けてアシズと同じ青い色の修道女を観察する。

ノゼルの予想が正しければ、この女性を見た瞬間に彼は明らかに動揺していた。つまり彼女はアシズと何かしらの縁のある人物なのだろうか?

 

「なあ、あんたアシズさんの知り合い?」

 

修道女………ティスはノゼルの問いかけにしかし答える余裕がなく、俯いて肩を震わせている。

 

一体どうしてアシズは逃げ出したのだろうか。

 

彼が自身の手を振り払う瞬間の眼差し、あの目が意味する感情を自分は知っている。“紅世の徒”、あるいは自分達フレイムヘイズを見た時の人間達と同じ目。

 

すなわち『恐怖』だ。

 

(どうして……)

 

最愛の男に恐れられるという事実にティスの胸が張り裂けそうになる。

自分は知らぬうちに何か粗相をやらかしてしまったのだろうか。だから彼に拒まれてしまったのだろうか。

 

(やっと………やっと会えたのに……!)

 

早く追いかけなければならないのに、両足が動いてくれない。希望から絶望に突き落とされ、ティスの目からは先ほどとは違う種類の涙が溢れ落ちる。

 

 

 

 

 

すると

 

 

 

 

リリリリリリリリ!!

 

 

 

「「!?」」

 

 

鈴を鳴らすような音が、その場に響いた。

驚く二人が慌てて音の出所を探せば、先ほどまでアシズが立っていた場所に何かが落ちていることに気づく。

それは手のひら大の四角い白い金属でできた物体で、振動しながら鈴の音を鳴らしていた。

ノゼルには得体の知れないマジックアイテムの類いにしか見えなかったが、フレイムヘイズのティスはそれがなんなのかを瞬時に理解した。

 

間違いない、宝具だ。

 

おそらくアシズが所持していたものだったのだろうが、逃げる直前に落ちてしまいその衝撃で起動したらしい。

 

もしかしたら、アシズに関する手がかりになるのではないだろうか?

そんな淡い期待を抱きつつ、恐る恐る拾いあげるティスが宝具の表面を指でなぞってみると、鈴の音が止んだ。

 

『おお“冥奥の環”、なんか用か?』

 

「え!?」

 

「っ………!」

 

すると今度はがらっぱちな老境にある男の声が宝具から出た。ノゼルは小さなアイテムから響く声にただ驚くが、ティスはそれとは違った部分に驚いている。

 

『あれ? お~い、聞こえてるか?』

 

返事がないことを不審に思った声の主、その特徴的な声質と言葉使いにティスは聞き覚えがあった。

 

「ガヴィダ様………? ガヴィダ様ですか!?」

 

生前幾度か親交のあった“紅世の王”の一人、“髄の楼閣”ガヴィダの声だ。

 

『!?』

 

ティスの声にガヴィダも相手が何者か気づいたらしい

 

『お前………『棺の織手』か!?』

 

『なぜお前が生きている!?』と続けようとして、自分とアシズがこの世界で生きている事実を思い出してガヴィダの言葉が詰まる。

 

『あ~………』

 

そしてアシズに渡したはずの宝具をティスが使っている状況から、向こうで何が起こっているのかを瞬時に察したらしい。

 

『…………取り敢えず、“冥奥の環”に代わってくれねえか?』

 

 

 




ようやく書きたかったやつ書けた!(前も似たようなこと言わなかったっけ?)

しかし思いの外アシズ様のPTSDを深くしてしまったなあ……;
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