棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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ここからは王都編………なんですがここからだいぶ原作と流れが変わっていくかと思います。


王都の裏道

夕暮れ時、今日の分の仕事を終わらせたばかりのセバスは気分が沈みきっていた。

影の悪魔による、『自分達がナザリックから離れている間に、コキュートスが裏切った』という報せを聞いたからだ。

 

それだけではない。

侵攻先の蜥蜴人の集落で強大な敵が現れ、返り討ちにあった末に一部の階層守護者も死亡してしまった。なによりも恐ろしいのは、その無様な結果にあの慈悲深いアインズが守護者達に激怒し、金貨の節約のためにデミウルゴス達を蘇生されていないとのことだ。

想像しただけでもゾッとする事態に、ナザリックを捨てたコキュートスに対する義憤と、アインズに見捨てられるかもしれない強迫観念にセバスの胸中は入り乱れている。

自分は決して主を裏切るわけにはいかない、もうあんな思いは二度とごめんだと、最後に見た銀色の背中を思い出してしまう。

 

“棺の織手”アシズ。

“壊刃”サブラク。

“天凍の俱”ニヌルタ。

そして『とむらいの鐘』の二人。

 

現状最も警戒すべき敵に関する情報収集のため、セバスは小さな噂話も取りこぼさないよう努める。

 

それにしてもなぜコキュートスは、ナザリックを裏切ったのだろうか?

至高の御方に仕える喜び、それ以外の幸せなどありえるはずがないというのに。

 

そうやって考えごとをしてしたのがいけなかったのだろうか、彼は前方の曲がり角から迫る気配を感じられなかった。

 

「きゃっ!?」

 

曲がり角で勢いよく出てきた誰かにぶつかる。見ればその人物は女性で、黄色い髪とシックなメイド服から考えるに、どこかの貴族の使用人だろうか。腕に抱えたバッグには食料品と思われるものが詰まっている。

 

「え、人!?」

 

なぜかセバスを見て驚愕しているメイドに、セバスは物腰丁寧に謝罪しようとしたが、

 

 

「やっと追い付いたぜ、このアマ!」

 

メイドの後ろから聞こえた野太い声に邪魔されてしまい、いかにもガラの悪そうな男二人がメイドの後から現れる。ぶつかった時の勢いから察するに、どうやら彼女はこの二人に追われていたらしい。

 

「さっさと金目のものを出しな!」

 

「なんなら身体で払ってもらってもいいんだぜ!?」

 

下卑た笑いを浮かべてナイフを向ける男達にメイドはグッと恐怖を堪えるように見据え、セバスは彼女を助けようとしてはたと我に返る。

ダメだ。ただでさえコキュートスの裏切りで今のナザリックはピリピリしているのに、これ以上面倒事に首を突っ込むわけには…

 

「お、おじさまだけでも逃げてください!」

 

しかしあろうことか彼女はセバスを背に隠して前に出る。彼女はどう見てもなんらかの武術を体得しているとも思えないし、魔法詠唱者のように魔力も高くなさそうだ。ハッキリ言って虚勢であると丸わかりだと言うのに、彼女は巻き込んでしまった責任から自分を守ろうとしている。

 

そんな僅かに震える彼女の背中が、

 

 

 

『誰かが困っていたら、助けるのは当たり前』

 

 

 

脳裏を過る、目映い銀色と重なった。

 

 

「………失礼」

 

「!」

 

 

意を決したセバスは右腕でメイドの肩を抱き寄せる。

 

「彼女に何を?」

 

まず威嚇のために僅かな気迫を滲ませれば、男達は一瞬だけたじろぐ。しかしそれも短い間だけしか持たないようで、自身らを奮い立たせるようにセバスに明確な敵意を向ける。

 

「んだよジジイ! 邪魔すんならてめえも死ねえ!!」

 

とはいえ怒号を上げて切りかかる男達の動きはセバスからすればあくびが出るほどに遅く、メイドを抱きしめる腕をそのままに片手だけでナイフを握る腕を払いのける。

後々面倒事に発展しないために、メイドに直接攻撃が当たらないように、尚且つ相手にケガをさせないよう努める。

 

それを何度か繰り返せば、男達は体力の限界がきたようで息切れし出す。

 

「ち、ちくしょう! 覚えてやがれ!」

 

さすがにこれ以上続けるのは体力的にも利益的にも無意味と判断したのか、捨て台詞を吐き捨てその場から逃げ出したのだった。

 

「大丈夫ですか?」

 

男達の足音が遠ざかるのを確認してから、メイドの肩から手を離す。

 

「あ、ありがとうございます」

 

メイドは頬を紅潮させ、たどたどしくも感謝を述べる。

詳しい事情を聞いてみると、買い出しの帰りにあの二人に因縁をかけられ、無我夢中でここまで逃げてきたらしい。

ふと左手を見れば攻撃をいなしていたせいか手袋が汚れていることにセバスは気づく。

 

「ああ、申し訳ありません!」

 

彼女が慌ててメイド服のポケットから黄色いハンカチを取り出し、セバスの手袋を拭くとたった一拭きで綺麗になった。生活魔法でも使ったのだろうか

 

「また先ほどの輩が現れないとも限りませんし、人通りが多い場所までご案内しましょう」

 

笑顔で胸に手を当て紳士的に対応するセバスに、メイドは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「すみません……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後メイドを表参道に案内したセバスは、彼女から何度もお礼を言われた。

 

「本当に、ありがとうございました」

 

「いいえ、どうかお気をつけて」

 

夕日に向けて歩いていくメイドの後ろ姿を見送り、彼女の姿が見えなくなったところでセバスはため息をつく。

いけない。余計なトラブルに巻き込まれる危険性が高いというのに、結局人助けをしてしまった。

なるべく傷害沙汰にならないよう努力したとはいえ

、もしデミウルゴスに見られたならば殺気を向けられていただろう。

 

 

これでは御方に失望されてしまうと、今一度セバスは気を引き締める。

 

ナザリックのためにも、より良い結果を出さなければ。

ナザリックのためにも、完璧に職務を遂行しなけれれば。

 

ナザリックのために。

ナザリックのために。

 

 

ナザリックの………ために……

 

 

(………え?)

 

しかしここでふと、自身の考えに疑問が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はなぜ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやく表参道に出たメイドは安堵の息を漏らす。夕方のためか人通りは少ないものの、堅気の人間がいれば緊張の糸が緩む。

そして落ち着いてから改めて先ほどの老人の戦い方と物腰を思い出す。紳士的な対応、並みの冒険者を凌ぐ体術、まるで物語の騎士様が現実に現れたかのようだった。

 

「素敵な方だったなあ」

 

老人という点を差し引いても理想的な男性像に、頬を僅かに染めてほうとため息をつく。

 

 

『気楽なものだな』

 

 

しかし、胸を高鳴らせるメイドの耳に呆れたような声が響く。メイドの周囲に人影はなく、声は足元からかけられていた。対するメイドはそれに動じることなく影を見下ろす。

 

『あの老人は強いぞ』

 

「やっぱりそうなのですか?」

 

薄々そんな気がしていたメイドの問いに影は答える。

 

『雑魚が相手では比較にならないが、相当な手練れだと見える』

 

メイドとて()()()()では腕の立つ者を何度か見てきたが、それらと比較してもなかなかの体捌きだ。

無駄のない動きで双方に怪我一つ与えずに、その場をやり過ごすだけでも間違いなく()()()。断言する影に彼女が言うのならばそうなのだろうとメイドは頷く。

 

しかしそれでも、

 

「また会いたいなあ……」

 

出来ることならまた一目お会いしたいと、我ながらはしたない欲求が胸をくすぐる。こんなことなら名前ぐらい聞いておけばよかったかと少しだけ後悔してしまう。

 

『というより貴様、なぜわざわざ裏通りに出た?』

 

「それは……貴女が出やすいようにしようかと思って…」

 

『ふん、つくづく人任せか』

 

「申し訳ありません…」

 

おそらく呆れた表情を浮かべているだろう影に罪悪感はあるが、実際自分に戦う力はない。自分の取り柄はせいぜい逃げ足と()()くらいだ。

 

『いいからとっとと帰るぞ、タンポポ』

 

「かしこまりました、チェル様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

例えるならば、綿毛が風に吹かれて飛び立っていくように。

ふわふわと『それ』は親から離れた。

 

 

 




一体メイドはなにものなんでしょうね
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