貴族ども「我々が国を支配してやる!」
ランポッサ「胃が痛い…」
ザナック「クローム助けて!」(汗)
レイヴン「リーたんに会いたい……」(泣)
クローム(………帰りたい)虚無顔
互いの足を引っ張りあい何一つ話が纏まらない会議が終わり、クロームはようやく肩の荷が下りて大きく息を吐く。
貴族達とのやり取りはいろんな意味で疲れる。自分は基本領地にいるので彼らとの面識が少ないからまだマシなほうだが、立場上彼らと毎日顔を突き合わせなければならないランポッサ陛下がつくづく気の毒でならない。
「少し見ぬ間に、また痩せていらっしゃいましたね」
「ええ……」
ランポッサ王を案じるクライムに、クロームは静かに頷く。
「あんな優柔不断な王なんて助ける必要ないでしょう?」
「賢いあんたがそんなことに気づかないわけがないと思うが」
一方で周囲に誰もいないのを気配で察し、エドストレームとペシュリアンは小声で毒づく。
「………そう、ですね」
ランポッサ陛下は人間としては善良だが、一為政者としては優しすぎる。特に嫡子の中でも愚昧と評価されるバルブロ王子への対応は、ハッキリ言って甘い。クロームとしても彼らを退かせる策はいくらでも浮かぶが、不出来であろうと我が子を愛するその姿が、どうしても敬愛してやまない
道中で頭を下げるメイドがクライムを見て不愉快そうに顔を歪めたりもしたが、ペシュリアンがギロリと睨めば縮みあがる。所詮甘やかされた腐敗貴族育ちの小娘などこの程度だ。正直帰りたい気持ちが強いが、クロームの用事はまだ終わっていない。
しばらく宮殿の廊下を歩く四人は、とある部屋の前にたどり着き扉をノックする。
「どうぞ」
扉の向こうから鈴を転がすような女性の声が入室を許可する。
「失礼します」
クローム達が入室した先には二人の美女が優雅にお茶をしていた。
艶やかな黄金の髪と深みのあるブルーサファイアの瞳、絶世の美女と呼ぶに相応しいこの国の第一王女。ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。
もう一人は朱色のドレスで着飾った令嬢で、ラナーには劣るものの生命の輝きと形容する美しさを持つ。ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。
二人がクロームの姿を認識すると、ラキュースの目が驚愕に見開かれる。
「くくく、クローム公!?」
顔を真っ赤にしてガタンと椅子から立ち上がるラキュースに対し、ラナーは笑顔で出迎える。
「久しぶりね、クローム」
「お久しぶりです。ラナー様、ラキュース殿」
ラナーに促されたクロームが空いた席に座り、クライムが何気なく部屋に視線を移すと物陰に誰かがいた。
「!?」
驚いたのはクライムだけで、ほかの者達は動じなかった。
「ティナ、もっと普通に出てこれないわけ?」
エドストレームが呆れたようにため息をつく。
(ティナ………つまりこの方が)
王国のアダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』の一人で、双子のイジャニーヤの片割れ。同じ『蒼の薔薇』のラキュース、ガガーランやイビルアイとは何度か面識があったが、彼女と直接会うのは初めてだった。
「ガガーラン達は来てないの?」
「あいつらもいてくれたほうが、堅苦しくなくてすんだんだがな」
「鬼ボスの命令で仕事ができた」
エドストレームとペシュリアンはクロームの縁で何度か一緒に仕事をした仲であり、彼らも貴族ではないためか気兼ねなく話せる戦友である。
するとここでティナがジッとクライムの顔を凝視しだす。
「その……私の顔になにか?」
なにか粗相をしてしまっただろうか?
「大きくなりすぎ」
「は?」
「気にしなくていいわよクライム」
「むしろ気にしたら負けだ」
「?」
エドストレームとペシュリアンがティナの頭を鷲掴んで無理矢理伏せさせるのを見て、疑問符を浮かべながらも頷くクライムだった。
それからはクライムの鎧に関する話題になった。
彼の鎧はラナーがクロームに頼んで用意させたものだが、彼女としては自力で渡したかったらしい。しかし王女付きのメイド達がそのことを他の貴族に告げ口し、たかだか平民のために王家が謝礼金を出すなど恐れ多いと文句を言い出したのだ。なので仕方なく直接の主であるクロームが手配することになったのだが、いまだに納得できないラナーは膨れっ面で不満を言う。その姿は栗鼠のようで実にかわいらしい。
(こんなにも穏やかで温かい光景を見ていられるのも、全てクローム様のお陰だ)
あの日彼が手を差しのべてくれなかったら、こんな日々を送ることなどできなかっただろう。改めて主への感謝の念が込み上げ、クライムは思わず笑みを浮かべる。
「………」
そんなクライムを見て一瞬だけラナーの表情が固まったように見えたのを察し、クロームの指先が僅かに震える。
これも全て演技だというのだから恐ろしい。
美しく慈悲深い仮面の下は、人としての情が欠落した生まれついての異常者。そんな彼女だがなぜかクライムには御執心なのである。恋する異性ではなく、可愛い愛玩動物という認識でしかないが。
彼女の本性に勘づいているのはクロームのほかにはザナックとレイヴンのみで、ザナックはクライムの身を案じてくれていたが言い方が悪いせいで彼に誤解されている。
しかしその頭脳はまごうことなく優秀だ、ゆえにいかに彼女をザナックの味方につけるかが王国の将来にかかっている。そのためにもクライムの取り扱いには注意せねばならない。
「では本題に入りましょうか」
なんとか話題を反らそうと、クロームは軽く咳払いをする。
「実は『八本指』のことで、皆様の意見を聞きたいのです」
『八本指』、それは派閥関連以外でクロームが頭を悩ます存在。王国の裏社会を牛耳る強大な犯罪シンジケートで、あまりの巨大さにその全貌はいまだ謎に包まれている。
特に問題なのが王国に最も蔓延している違法薬物の原材料『黒粉』の栽培だ。
いくつかの栽培所は調べがついており、領主権を持つ貴族が共犯者であることは明白だが、王族などの査問や司法の手が入った場合を除いて封建貴族を有罪にすることは極めて難しい。村人に責任を押し付けて知らぬ存ぜぬを通されるのは目に見えている。
今回ラナーからとある栽培所を潰すように依頼されたのは『蒼の薔薇』だったのだが、本来冒険者組合を通さない依頼は規律違反である。
そこでクロームは自身の子飼いの暗殺者達を貸し、疑いのあった村三つに乗り込み、黒粉畑を焼き払わせた。その際に部下達がいくつかの書物を発見したとの報告が上がっていたのだ。
「おそらくは何らかの指令書だろうと思うのですが、何かわかるでしょうか?」
全員が一読してから、ラナーが換字式暗号と断定する。クロームとラキュースもその辺りは予想ができていたが、変換票が見つからず解読に四苦八苦していた。
しかしラナーはこれの解読は簡単だと述べ、用意しておいた紙にすらすらと解読文を書き記していく。
変換票無しで解読など、何万という単語を全て知っていなければ無理だと言うのに相変わらず驚愕の頭脳だ。もし彼が王女ではなく王子として生まれていたならば間違いなく王となっていただろう。
………かくいうクロームもやろうと思えば解読できるのだが、ラナーの
解読の結果どうやら指令書ではないようで、王都内の場所の名前が記されていた。もしかしたら麻薬関連の重要拠点があるのではとラキュースは睨むが、ラナーとクロームは否定する。
おそらく麻薬部門以外の他の部門の情報を故意に与えることで、自分達に対する興味を一時的にそらす狙いであろう。これは即行動かないと不味い。
そして残る懸念は『裏の娼館』である。
ラナー発案のもとに王国には奴隷禁止令が出されたものの、それ以前から奴隷売買の元締めを行っていた『八本指』の悪行を阻むには及ばない。
王都……あるいは王国最後の裏の娼館、悪辣極まりないその場所ではありとあらゆることが体験できるらしく、簡単には潰されない。
ティナ達の調べで奴隷売買の長『コッコドール』と関係のある貴族の名前が幾人か上がってきてはいるものの、真偽はまだ不確かなために行動に移すのは早計なのが現状だ。
ラキュースは権力を用いた手段での捜査は不可能だから、自分達が強行突破して暴くというのはどうかと提案する。
証拠さえ見つけられれば問題ないし、本当に奴隷売買の部門が娼館を運営しているのであれば、潰せれば大打撃になる。証拠の内容によっては取り込まれている貴族たちに対する強力な一撃になるはずだと彼女は述べた。
義憤に燃えるラキュースに対し、クロームは胸を痛める。
この薔薇の令嬢もなんと哀れだろうか。
まさか自分が親友と思っている目の前の女が人を人とも思わない化け物で、自分のことすら駒としか見ていないなんて。終いには役立たずと判断されればいつでも切り捨てられる始末、知らぬが仏とはよく言ったものである。
ラキュースは数少ない真っ当な貴族の一人であり、王都では一番信頼できる令嬢だ。『蒼の薔薇』のリーダーであり若くして幾つもの偉業を成し遂げ、アダマンタイトに上り詰めた女傑、クロームにとっても尊敬できる人物である。そんな彼女がラナーの損得次第で破滅するかもしれない姿を、どうにもほうっておけない。誰よりも強く優しい
「………でしたら、私の配下の者達に任せてみましょうか?」
そこでクロームはまだ王都に待機させている諜報専門の配下に探りをいれさせてみようと提案してみる。最初こそ『そこまで甘えるわけにはいかない』と反対するラキュースだったが、万一貴族派閥にバレた場合の言い訳もいくつか考えてあるから大丈夫だと言えば、申し訳なさそうに俯く。
「その………いつも面倒なことばっかり押し付けてごめんなさい」
「ラキュース殿が気に病む必要はありません」
せめて自分だけは、よき友人として彼女を助けてやりたい。そんな気持ちでニコリと微笑めば、なぜか彼女は顔を赤く染める。
王都のアダマンタイト級冒険者と貴族令嬢という二足のわらじの彼女は実に多忙だ。もしや体調が優れないのだろうかとクロームは心配になる。
「もったいない」
その光景を見て、ティナがなぜか不服そうに睨む。
「もっと小さかったらよかったのに」
まただ。
たまに彼女は自分や特定の男性を見る度に『もっと小さければ』と口にする。一体なにを言っているのだろう?
「ティナ!」
ラキュースが叱責するも、ティナは肩を竦めて紅茶を啜る。
「大丈夫、人の獲物を横取りするほどバカじゃない」
カップをソーサーに置くと、ラキュースの肩をポンと叩く。
「鬼ボスさあアタック、ティアも彼なら許す」
「なななな、なに言ってるのよ!?」
「?」
一体二人はなんの話をしているのだろうか?
なんとなく『八本指』関連の話題ではないと理解できたが、内容の意味がわからないクロームだった。
「………なんで普段賢いクセに、こういったことには鈍いのかしら?」
「おそらく若旦那の優れた頭脳の代償なんだろう」
そんなやり取りを壁際から見守る三人の内、肝心なところで鈍感な主をエドストレームとペシュリアンはどこか虚無な表情で眺める。
「お二人とも、なにか?」
ただ一人クライムだけは先輩二人の心中が理解できなかったらしく、不思議そうに問いかけた。
「いえ、なんでもないわ」
「気にするな」
意味ありげにそっぽを向く二人に、クライムはただただ首を傾げるのみだった。
なんとなく閃いたので、ラキュースとフラグを立たせておきます。
エド「まあその………同じ女として応援はしてあげるわ」
ペシュ「砂粒一つ分でも………可能性はあるとは思う」
ラキュ「せめて目を反らさずに言ってよお!!」(泣)