棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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シャナ再放送嬉しいです!


偽善と真贋

ナザリックに宛がわれた自室の洗面所にて、セバスはせりあがる嘔吐感に悶え苦しんでいた。

至高の御方から賜った衣服を汚すわけにはいかないと、執事服を脱ぎ鍛えぬかれた上半身を晒している。だがその挙動はセバスからしても醜態としか言い様がなく、常に巌のごとく完成されたバトラーの気品はない。

 

「はっ………ぐぅ……おぇっ!」

 

口ひげが汚れるのも構わず、排水口に向けて胃の内容物を吐き出す。というのもここへ来る道中、仲間達が捕らえた人間を残忍な方法で嬲り殺していたのを見てしまい、それからというもの不快感が止まないのだ。

ナザリックの者達は自分のような一部の例外を除いて、皆が人間を嫌悪している。それは至高の御方にそうあれと命じられたからであり、それこそが御方より賜ったシモベ達のアイデンティティでもあるのだ。セバスも彼らの性質を理解しているし、ナザリックに仇なす輩であれば例え人間であっても倒す。

 

そのはずなのに………

 

 

(………気持ち悪い!)

 

 

特に不快な仕打ちをされたわけでもないのに、人間を侮蔑する仲間が。

明らかに自身に非があるのに、人間に逆恨みをする仲間が。

まるで花を詰むかのように、笑顔で人間をなぶる仲間が。

 

恐ろしくて仕方がない。

 

栄光あるナザリック。

確かにそう誇っていたはずのここは、こんなにも居心地が悪かっただろうか?

 

 

なぜ今さらになってこんな感情を抱くようになってしまったのか、思い当たる節はある。以前王都の路地裏で、暴漢に襲われそうになった女性と出会ってからだ。

 

彼女が自分に何かしたのか?

 

自分の種族は竜人とはいえ、アンデッドのように精神系魔法を完全に無効化できるというわけではない。なんらかの魔法か、スキルか、あるいはタレントか。いずれにしても彼女に会って確めなければ。

 

(………確めて、どうすると?)

 

戻してくれと頼むのか?

かつての、人間を蹂躙する仲間に笑顔を向ける、狂った従者に戻してくれと?

嫌だ、あんなおぞましい化け物に戻りたくない。

だがこんな精神状態では日常生活もままならない。

ここ最近のセバスはずっとこんな調子で葛藤している。

 

もはや吐き出せるものがなくなり胃液しか出ず、喉が焼けるように熱い。やっと嘔吐が収まったところで自身と洗面所の周囲一帯に≪清潔≫をかける。

身なりを整え、部屋を片付けたところでようやくセバスの精神は落ち着いてきた。一刻も早く王都に行かなければ、いるだけでこの様では当分はここに戻りたくない。部屋をあとにして逃げるように足早に廊下を進んでいく。

 

 

 

 

 

 

「なんなんでありんすの!?」

 

「こっちが言いたいんですけど?」

 

 

すると曲がり角の向こうから誰かの口論が聞こえてくる。セバスは思わず立ち止まり、気配を消して角の向こうから恐る恐るその先を覗き込む。

 

まず見えたのはユリとアウラ、そしてシャルティアの後ろ姿だ。彼女達の向かいにはペロロンチーノが連れてきたバードマン達のうちの三人が対面している。確かヒクイドリがカルバーナ、孔雀がジュノベル、烏骨鶏がラヴィラと言っていたか。

 

「どうしてお前達が、ペロロンチーノ様のご寵愛を受けているでありんすの!? あの方に何をした!?」

 

背中越しでも怒りの形相になっているとわかる彼女達の怒号を受けて、バードマン達は露骨に嫌そうな目で睨んでいる。

 

「なんでも何も、俺らあの方とそこそこ付き合い長いしな」

 

「というよりは、おたくらがウザいから必然的に僕達と行動を共にするしかないというか」

 

ペロロンチーノが旅先で出会ったというあのバードマン達は、どういうわけかナザリックの者達を毛嫌いしており、メイド達とも決して小さくはないいさかいを起こしているのはセバスも知っている。

だというのに、ペロロンチーノはナザリックの者達を遠ざけ彼らの肩を持とうとしているのだ。

これに対し当然と言うべきか、ペロロンチーノが自ら生み出したシモベであるシャルティアが、納得できないと彼らに嫉妬している。しかし彼らは階層守護者最強の彼女の怒りを真正面から受けてなお怖じけもせず、それどころか挑発している。

 

「撤回しなさいよ………!」

 

「撤回もなにも、事実でしょう?」

 

必死に怒りを抑えるアウラに対し、ラヴィラが冷たく切り捨てる。

 

「貴方達、鬱陶しいんですよ。口を開けば御方のため、ナザリックが最高、中身のない称賛ほど腹立つものはない。おまけに護衛だなんだと言って、プライベートにまで割り込んでくるんですから心休まる暇もない」

 

邪魔なんだよお前ら。

心底目障りだと言外に込める三人のバードマンにユリが反論する。

 

「そんなことはありません! 私達は至高の御方にそうあれと作られた存在、少なくともお隠れになる以前は間違いなく彼らに愛されていたと記憶しております!!」

 

それは忘れられない尊い日々だったと必死に語るユリに、セバスもありし日のたっち・みーと過ごした日々を思い出す。

しかしそれに対しカルバーナは冷えきった目線でユリを見つめ返してきた。

 

「………ユリ・アルファさん、だっけ? おたくみたいなのをなんて言うか知ってる?」

 

ハッと鼻で笑い、吐き捨てるように続けた。

 

 

「偽善者って言うんだよ」

 

 

偽善者、その言葉がなぜか今は関係ないはずのセバスの胸に突き刺さる。

 

「ぎ、ぎぜ……!?」

 

「意味ぐらいはわかるだろ?」

 

「私は善人を装ってなどいません!」

 

動揺するユリに畳み掛けるカルバーナ。

ユリは自分と同じく人間に友好的な数少ないシモベ、その彼女を偽善者と呼ぶのはさすがに暴言が過ぎるのではないだろうか。

 

「でもアインズ様に命じられたら、人間を殺すんだろ?」

 

「………御方の命とあらば」

 

しかし次いで述べられた問答に、セバスは頭を殴られたような衝撃を受ける。

 

 

………彼女は何を言っている?

 

 

 

「ほらな、やっぱり偽善者じゃねえの」

 

ブハッと爆笑するカルバーナにセバスは冷や汗が止まらなかった。罵倒されているのはユリ達のはずなのに、カルバーナの言葉は全てセバスに飛び火してくる。

彼らの言動はナザリックに対する冒涜、本来ならセバスも怒りを見せるべきなのになぜか罪悪感が沸き上がる。その通りだと、納得している自分がいることにセバス自身が驚いていた。

 

「今のアンタを見たら、さぞやまいこ様も後悔するだろうな。自分はなんて恐ろしい化け物を生み出してしまったのだろうって」

 

続けざまの挑発に激怒したのはユリではなくシャルティアだった。

 

「このっ………ムシケラがぁ!」

 

「虫じゃないですよ、一応鳥です」

 

ラヴィラの冗談なのかわからない返しに、身内を侮辱され続けたアウラはとうとう叫ぶ。

 

「アンタ達、どんだけ私達を侮辱するのよ!?もう許さない!」

 

 

 

 

「………侮辱?」

 

アウラの発言に、ジュノベルが底冷えする声色を漏らす。

 

「侮辱してんのはてめえらのほうだろうが!!」

 

突如激昂するカルバーナが口汚く罵り、シャルティアとアウラを指差す。

 

「お前らの存在そのものが、()()の尊厳を踏みにじっているんだよ!!」

 

バードマン達の怒りにセバスは困惑する。

()()とは、誰のことだ? なんとなくペロロンチーノとアインズのことを言っているのではない気がする。

 

「こんの………殺すぞてめえら!!」

 

「ああん? ヤんのか模造品どもが!!」

 

牙を剥き出してスポイトランスを構えるシャルティアに、カルバーナがゴキゴキと指を鳴らしてぶわりと羽根を逆立たせる。

このままではまずいと、一触即発の空気に慌てて仲裁しようとしたセバスだったが

 

 

 

「やめなさい」

 

 

 

その前にバードマン達の背後から制止の声がかけられた。

 

『!!』

 

一同が声のした方に視線を向けると、丁度渦中の人物が立っていたのだ。

 

「ペロロンチーノ様!」

 

縋るように叫ぶシャルティアだが、ペロロンチーノの視線は彼女ではなくバードマン達にのみ向けられている。

 

「貴方達、あまり噛みつくんじゃありませんよ」

 

『すみません……』

 

呆れたような声の主から苦言を受け、三人はばつが悪そうに項垂れる。

 

「まあでも………ウザいという指摘に関しては、肯定しますかね」

 

さらに冷たく呟く言葉にヒュッとシャルティア達の息がつまる。結局彼は娘と目を合わせることなく、バードマン達を連れてその場から立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

一方のセバスは、去り際にほんの一瞬だけ見えたペロロンチーノの眼差しに戦慄していた。

 

仮面ーーまるで、仮面だ。

本物の表情ではなく、感情を押し隠した、偽りの表情。

セバスの記憶の中のペロロンチーノは明るくフレンドリーな人物だったはず。あの御方は、あんなにも冷たい目をする方だっただろうか?

 

(………貴方は、誰なのですか?)

 

何が正しくて、何が間違いなのか。

もはやセバスにはわからなかった。

 

 

 

 




今まで機械的に命を奪っていた怪物が、突然人間性を獲得して今までの罪に怯えるのって素敵だよね!(^-^)
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