モモンガ の 信者 が増えた !
これにてソカル編は終了です
自身を神と崇める陽光聖典から可能な限り情報を聞き出したモモンガは、この世界に関するユグドラシルとの違いを改めて理解した。どうやらこの世界では平均的な強さが極端なまでに低いようで、彼らのように第三位階魔法を使えるだけで強者扱いされるほどだという。
(一番強い魔法詠唱者でさえ第六位階までなんて、どんだけレベル低いんだよ………)
そして彼らが所属するスレイン法国だが、話によるとモモンガと同じくユグドラシルプレイヤーが関与しているらしい。六大神が一人、死の神スルシャーナ。特徴から察するにそのプレイヤーもオーバーロードだったのだろう。
「御身がお隠れになってからも、我らは人類守護のために日夜身を削って戦い続けてきました。そして今日この日、我らが生きているうちに降臨なされる瞬間に立ち会えるなどとは………もはや今日死ぬとしても悔いはありません!!」
先ほどから涙を流してモモンガを称えるニグン達は、どうやら彼を自身が信仰する神と勘違いしているようだ。おかげでモモンガが聞きたい情報を何の疑いもなくペラペラと喋ってくれるので都合がいい。
「あ~、うん。それでそなた達は、これからどうするつもりだ?」
話によると彼らはガゼフという王国で一番強い戦士を抹殺するためにこのトブの大森林に来ていたらしいのだが、作戦中にあのトレントの縄張りに入ってしまい襲われてしまった。このまま作戦を続行するかと思ったが、ニグンは真剣な面持ちで答えた。
「いえ、まずは本国に戻ってスルシャーナ様のご帰還を祝うべきと思います。ガゼフの抹殺などはいつでもできますが、神に関することであれば急がなくてはなりません」
「え、いや。それはちょっと………」
動揺して思わず素が出そうになったモモンガに沈静化が働く。
現在のスレイン法国にはプレイヤーはいないとのことだが、彼らの配下のNPCはまだ残っているらしい。もしも六大神というのが敵対していたギルドであった場合は、いろいろとややこしい事態になるに違いない。しかもモモンガは先ほど出陣しようとした時に何者かに監視されているのを察知し、対情報系魔法の攻性防壁を作動させてしまった。あれがスレイン法国側の工作だったとしたら、敵対行為をしてきたモモンガが法国で袋叩きにされかねない。慎重派のモモンガとしては避けたい事態だ。
「あ~、気持ちは大変嬉しく思う。だが私にはまだやらねばならぬことがあるゆえ、今すぐ帰還はできない」
「そんな!!」
「それと、法国には全てを話すのはやめてほしいのだ。私が帰還したことは内密にせよ」
モモンガとしてもこの集団から聞けることはもうないが、これだけ盲信してくれるのであれば法国へのスパイとして利用できるかもしれないと考えた。
とはいえあまり自分達の情報を晒すのも危険なので、ここは最後まで『スルシャーナ』で通すことにする。
「私に変わらぬ信仰を捧げてくれるそなたらを信頼してのことだ。どうか聞き届けてほしい」
「す、スルシャーナ様……!」
信仰する神が自分達ごときを信頼していると言ってくれたことに、ニグン達は歓喜の涙を流す。
「………承知いたしました。御方のことは我々の胸にのみしまうこととします」
「うむ、では私は行く。私のほうから連絡用のシモベをつけさせるが、もし何か変化があればそちらから伝えよう」
「は!」
「さすがはモモンガ様ですわ。あの人間達の信仰を逆手にとった懐柔、見事な手腕です」
「なに、大したことはしていないさ」
その後、ニグン達と別れてから二人は夜空の下を歩いていく。アルベドが内心で『夜空デート』を意識してニヤニヤしているのを知らず、モモンガは改めてソカルのことを考えていた。
この世界の強さの水準は確かに低い。だが先ほど倒したあのトレントは、ニグン達とは違った異質な何かがあった。
(なんだろうな………単純な強さ云々以前に、場違い感がすごいというか……)
まるでもともとの画像に、別の画像の一部を張り付けたような違和感。そこに存在するはずなのに、存在しないもの。
(………まあ死んじゃった以上、考えてもしょうがないか)
単にこの世界特有の生き物だったから、そう感じただけかもしれない。そう思い直してモモンガはナザリックに転移したのだった。
国王からの命を受け、周辺の調査をしていたガゼフ一行。最後にたどり着いたカルネ村はいまだ被害を受けていなかったらしく、村人達はみな何事もない様子で彼らを出迎えてくれた。
彼らに事情を説明した数時間後、周辺の森を調査しだしたガゼフ達はあるものを発見した。
「これは………!」
それは大量の、鎧を来た人間の死体だった。ある遺体は鋭利な五本の爪に切り裂かれ、ある遺体は大きな顎で頭ごと喰い千切られるという惨たらしい有り様だ。いずれも大型の獣に殺されたとみるのが妥当だろう。
だが遺体が着ている鎧は帝国兵士のものだ。おそらくここ最近の村の襲撃の実行犯に違いないが、問題はなぜ彼らが死んでいるのかだ。農民を徴収しているだけの王国兵と違い、帝国兵は末端に至るまでが鍛え抜かれた精鋭揃いばかりで、猛獣ごときに全滅するとは考えられない。一体彼らを殺したのは何者なのか。
こんな芸当ができるモンスターに、ガゼフは一つだけ心当たりがあった。
「『森の賢王』……」
トブの大森林に生息する強大なモンスター、『森の賢王』。
それならば帝国兵士である彼らが全滅したとしても不思議ではない。おそらく彼らは知らず知らずのうちに、森の賢王の領域に入り込み蹂躙されたのだろう。他者を蹂躙していた者が逆に他者から蹂躙されるなど、なんとも皮肉な話だ。
(………余計な気苦労がなくなったと、安堵すべきなのだろうか?)
あまり嬉しい気持ちではないが、今はそう思っておいたほうがよさそうだとガゼフは目を伏せる。
「とにかく、陛下にこのことを報せねばならんな」
「は!」
今日は一日中走り回って部下達も疲れている。今夜カルネ村で英気を養ってから明朝王都に戻るべきだろう。遺体をくるんでからその場をあとにしようとしたガゼフだったが、
「………?」
ふと、何か気配を感じた。振り向いてみるがそこには何もなく、気配は消えてしまった。
「戦士長?」
「いや、なんでもない」
疲労がだいぶ来てしまったのかもしれないと思い直し、ガゼフは今度こそ馬を走らせた。
(これで後始末はすんだか)
『碑堅陣』の目を通してガゼフ達の動向を監視していたソカルは、彼らが森から出ていくのを見届けてようやく肩の荷を下ろす。
ソカルは偽装兵士達を殺すさいに生まれるであろう問題にまず頭を悩ませた。彼らをただ殺してしまうと、誰に殺されたかを調査することになり、王国からまた人が送り込まれてしまう。そうなると近い将来ソカルの存在が知られてしまい、あとあと面倒なことになってしまう可能性が高いのだ。
そこでソカルが着目したのが、カルネ村の周辺に生息しているという『森の賢王』というモンスターの噂だ。もとから存在するモンスターのせいということにしておけば、それ以上捜索しようとすることはなくなるはず。だからソカルは『碑堅陣』の枝の形を獣の牙や爪に変えてから彼らを殺すよう、細心の注意を払った。
そして目論見通り、ガゼフ達は兵士達を殺したのは『森の賢王』であると考えて森をあとにした。兵士の正体が法国の一団であるということには気づいてはいないので、王国と帝国の関係にいざこざが生じるかもしれないが、そちらは人間同士の問題ゆえソカルにとって知ったことではない。
(しかし今日は疲れた………慣れないことなどするものではないな)
久しぶりの強敵との戦い、もともとあまり得意なほうではない“燐子”作り。両界にいた頃であれば人間を喰らわなければいけないほどの消耗だったが、この世界に来てからは時間が経てば“存在の力”が回復するのだからありがたい。それに、労苦に見合った収穫は確かにあった。
モモンガとアルベド、おそらくこの世界に来てから初めて出会った強敵。近いうちにまたあいまみえることになるかもしれない二人に、今のうちに対抗する術を考えておくべきだろう。
(さて………村はどうだろうか?)
カルネ村の近くに配置した碑堅陣の視界を繋げてみると、ちょうどガゼフ一行が戻ってくるところだった。あたりはすでに暗くなっているため、彼らは今夜この村で一泊してから翌日王都に戻るつもりらしい。見届けたソカルが視界を切ろうとすると
「ほら、そろそろ寝なさい。明日は街へ出かけるんだからね」
「は~い!」
聞き慣れた声がして、思わずそちらを見てしまった。案の定視線の先にはベッドに乗っているネムの姿があり、彼女は窓を閉めようと身を乗り出している。ギイと古い家屋特有の音を響かせる窓を、すんでのところでほんの少しだけ隙間を作り、ネムはチラリと森を見る。
「おやすみなさい」
そう小さく呟くと、今度こそ窓を閉めた。
その挙動にソカルは一瞬だけ目を見開くも、次いであきれたようにため息をついた。
(まったく………誰に言っているのやら)
その意味に気づかないふりをしつつ。ソカルも意識を眠らせたのだった。
陰険悪辣の嫌なやつと言われるソカルでしたが、漫画版を見ると部下にはかなり慕われているんですよね。目下の相手には面倒見よかったのかな?
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